短編 「秘密基地」
子供の頃あそこで遊んだことがある。
いつからか訪れなくなったその神社は広大な森の入り口にあった。
確か横に小さな抜け道があってその先には御神体とは別の不思議な祠があったんだっけ、昔は友達と秘密基地にして遊んだんだ。次の日もその道を通った、黒く塗り剥げている鳥居に呼ばれた気がするからだ。入ってみると何者かの気配を感じたが誰も居ない、しかし抜け道は健在であり何か足跡のようなものも見える。またあの場所に行ってみたくなり成長した自分の体とは不釣り合いなその抜け道に入ってみた、木葉が体に触れて少しくすぐったい。
「こんなに遠かったっけ…?」
そんな独り言を言ってしまうほど延々と道が続く。道を間違えたのかそこはもう自分が知る場所では無かった、辿り着いた先には何やら木造の土台に工具のような物が置いてある。
「これは…」
そう呟いた時、入り口の方からガサゴソと草を掻き分けるような音が聞こえてきた。
「おじさん何してるの?」
後ろを振り向くと一人の少年が立っていた。
「お、おじさん…?あのな俺はまだ20代だぞ…!」
違う、俺はそんなことを言いたいんじゃない。
「ふーん、まあいーや」
少年はそう言うとそそくさと工具箱から少し錆び付いた金槌と買ったばかりなのか小綺麗な釘を取り出した。
「それは…?」
「買った、金槌はここで拾った」
「じゃあ何を作ってるんだ?」
そんなこと聞かなくても大体察しは付くのだが…。
「秘密基地」
少年はそう答えた、秘密基地…懐かしい響きだ。
それに少年の使っている金槌にも見覚えがあった。
「少年、ちょっとその金槌を見せてくれ」
「なんで?」
「いいから」
そう言うと少年は金槌を手渡してきた。柄の部分を念入りに凝視すると名前が彫ってあった。『国山博信』俺の名だった。数十年の時を経てこの場所は引き継がれていく、そこにはかつて遊んだ証がある。
次の世代にもさらに未来にも…