第41話⑨~届かない魂~
――ゲームワールド上空に無数の戦闘機、そしてその地上には敗北者の後始末……
桐山剣、大森穂香の『AMAZING』は無惨な結末で幕を降ろし、戦闘機のロープに伝い穂香が上がっていった。
「――先程はお見事なお手前で、流石学生ながらにパニッシャープレイヤーの資格を持ち名を轟かせているだけの事はありますわ、穂香さん」
「いえ、それほどでは……」
立海遊戯戦団専用戦闘機、その機内で侍女の桜とゲームを終えた穂香とで談話していた。
「今『ブルーウェーブシー』も半ばに差し掛かります。これを抜ければ我が城『バスター・キャッスル』、ここまで来れば邪魔者も……」
と完全に余裕を見せている桜、ところがそうは問屋が卸さなかった。
『緊急連絡! 戦闘機後方にてプレイヤーの追尾を確認、南西80度の方向!!』
他に操縦している戦闘機からの報告を無線で受け取った桜。
「意外としぶといですわね……」
思うように行動が進まない状況に苛立ちを見せる桜、そして追加の報告が入った。
『プレイヤー詳細確認しました! 池谷倭刀です!』
「倭刀…………!」
穂香の表情に更に陰りが増す。
戦闘機の群れを必死で追い回すモーター型ホバージェットを乗りこなす倭刀の姿がしかと確認された。ちなみにゲームの世界なので15歳で免許とか気にする必要は無いのだ。
そして穂香のプレイギアから着信音が鳴り、通話に出た。
「――倭刀……?」
『姉ちゃん! そこにいるんだろ!? 話があるからそのジェット止めろ、早く!!』
受信から取るように、かなり切羽詰まった様子の倭刀の声が穂香に伝わった。彼女の説得から戦闘機は一端動きを止め、穂香と桜は下のホバージェットまで降りた。
「どうして倭刀が……」
「WGCが緊急通報でエリア内を放送してた。『数台の戦闘機内にG-パーツ強奪プレイヤーの確認あり』って、デケェ音出して派手に動きすぎてたからピンと来たぜ」
だが桜が腰元のナイフを抜き出し、倭刀を威嚇する。
「何の用かしら平民狩人、邪魔する気ならここで始末でも……」
「やめて下さい。用があるのは私だけです」
「…………失礼」
穂香の宥めで警戒を解した桜は再びそのナイフを腰元に収めた。
一端桜は上に上がり、エンジンを止めたホバージェットで二人きりで話すことに。
「…………あ、あの……倭刀……」
何とも言えない空気の中で穂香は何を話すべきか、整理できていない。
「ひでぇよ姉ちゃん、何の連絡も無しに勝手に居なくなりやがって」
「それは……」
「俺を巻き込みたくなかった、てか? だろうな、そしたら絶対止めるやろな俺は。それどころか恐れ多くもG-パーツなんてヤバイ遺産持ち出しちゃって。やることぁ大体察するわ」
「……だったらお願い、私を『バスター・キャッスル』まで行かせて頂戴。何もしないで……」
「どうせなら思いきって俺も姉ちゃんと立海んとこで協力しようかってちょっと考えた。――――でも無理や、無理に決まってらぁ!! G-パーツ奪って共謀企もうたって、やって良いことと悪いことくらい分かるやろ!?」
「大丈夫よ。私は負けない、目的を果たすまでは誰にだって…………」
「その無謀な強がりが余計に不味いんだよ……! プレイヤー相手の問題とちゃう、G-パーツの強奪はゲームワールドに関わる大きな罪や! いずれWGCの連中だけじゃなく世界全体で動いて姉ちゃんを徹底的に裁く。そんなことなったら……
――姉ちゃん、死ぬかもしれねぇんだぞ……ッッ!!」
ゲームワールドの大いなる遺産、G-パーツはこの世界の維持にも関わる強力な力を持つ。
それを奪い何かに利用しようものならA級犯罪として裁きに掛かれ、最悪の場合かつてブラックヘロンのボスに下された死刑以上の消滅刑にかけられる。
それに等しいことをやってしまった穂香に倭刀は必死で止めようとした。
「いくら立海遊戯戦団と手ぇ組んだところで姉ちゃんに保証があるとは限らねぇ! ……あの虐待親父に利用されて捨てられるのが落ちだ。んな分かっていながらそこまでする義理があんのか!? 親子だからか!!? そんなんでいちいち縛られんなよッッ!!!!」
(あの、そろそろ戦闘機の燃料が……)
(お黙りッ! 立海の掟1995条、『場の空気は神の前でも破るべからず』よ、我慢なさい!!)
立海のメイド達は分かってらっしゃる。てか立海遊戯戦団の掟は1995条もあるんか。
「倭刀……貴方の気持ちも分かるわ。でも親子であること、それと亡くなった家族の遺志の為にも私はやらなければいけない。子が親を守るのは当然でしょう?」
「――!」
「大丈夫だから……そのために立海遊戯戦団と協定を組んだのよ。彼らとの契約は決して無駄にはしない、誇り高き戦士団よ」
穂香の意思はどう叩いても崩すことはなかった。ついに倭刀の方から抵抗する意思が折れはじめる。
「………………俺じゃ、もう姉ちゃんを止められねぇのか……どうしようもないってのか、なぁ?」
「……1つだけ、倭刀にお願いしても良い?」
「あ……?」
「桐山剣って人に伝えて欲しいの。『私は貴方に酷いことをしてしまった。これを期に私の事は忘れて欲しい』……って」
当の本人の前で言えず、倭刀に伝言を頼む穂香。それは過剰なまでの優しさから垣間見える卑怯な心だった。
「…………分かった。伝えとく」
「ごめんなさい……」
「……何なんだよさっきから、姉ちゃんは俺の前でもペコペコ謝ってばっかで! 頭下げれば事が収まるなら警察も神もいらねぇよ――!!」
「……謝ってばかりでもいい、私は自分の意思で泥を被ってG-パーツを奪った。魂の遺伝子の赴くままに……本当よ。だから、ここを明け渡して……お願い……」
「………………………………」
話が長引くほど、二人の気持ちは辛くなるばかり。ついに倭刀は観念し穂香に道を譲った。
「―――俺は絶対姉ちゃんを助ける。どんな事があっても……絶対に、な」
「ありがとう……さよなら、倭刀」
「『またね』くらい言えよ………………」
二人すれ違い、穂香は上空の戦闘機に乗り込み、そして倭刀はただ一人海辺のホバージェットと共に取り残された。
「――――総員、出撃」
桜の号令、戦闘機達の爆音たなびく発進音を残して去っていく立海遊戯戦団の群れ。
そして倭刀は途方に暮れる…………
◇◇◇
――ブルーウェーブシーの海辺の戻った倭刀、ただ一人暮れゆく夕陽を見つめて黄昏ながら今もなお穂香の事を考えていた。
(考えろ俺、どうすりゃいい? 意地でも姉ちゃんは助けたい、俺の唯一の大切な人なんだ。……でも俺一人で立海遊戯戦団を相手するのは無理、穂香をも敵に回す。他のプレイヤーと組もうにも、俺にはそのダチはいない。今さら地域の奴らに頼み込むなんざ……)
自分が回したツケ、孤独、強がりな意地が邪魔して、考えるほど自分を追い詰める倭刀。
(ったく冗談キツいぜ……いつも一人でやって来れてるって意気がってた挙げ句にこれかよ。困ったときにいつも姉ちゃんに頼ってた俺に何が出来るよ……? 何も出来ねえ、何も考えられねえ、自立もクソもねぇ。ただのクソガキ以下だぜ……!)
段々と倭刀の喉元が苦しくなり、目先も熱く潤んできている。
「……頼む、誰か……助けてくれ、俺を助けてくれよ!!
誰でも良いんだ!!プレイヤーなら誰でも、槍一郎先輩でも……!!!」
その時、倭刀の脳裏に浮かんだ一人のプレイヤーの面影が。
それを念じながら、倭刀はうずくまり咽び泣いた。
「――――剣さん…………ッッッッ!!!!!!」
敗れ果てた一人のプレイヤーと、何も出来ずに立ち塞ぐ一人のプレイヤー。彼らの残影を背につつ、G-パーツと縛られたプレイヤーは無情に『バスター・キャッスル』へと向かっていった……
闘い破れた剣、穂香の残した【ブルーバード】を片手にリベンジに燃える!
その時、立海遊戯戦団からのビッグゲームが発令された!!
そして倭刀は…………!?
次回、第42話!!
大事な友を守る為に……シャッフル・オールスターズ、全員集結せよ!!!




