第4話④~ゲームに轟く銃声~
ゲームワールド・オンライン、シューティング流星群――【シューティング・スターロード】!!
そこは近未来の科学技術が結集したメカと、未知の生命体が混在するスペースワールド。チャレンジャーの行く手を阻むのは、襲い来るインベーダーと巨大な隕石、そして無数に漂うメカの残骸のみ!
(これまでのバザールやデュエルフィールドとは全然違う。ネオンが躍るレトロフューチャーな光景……不思議な場所!)
みのりがその幻想的な光景に目を奪われている間も、事態は刻一刻と進んでいた。
関東随一の強者であり、幾多のタイトルを制覇したトッププレイヤーの証『遊戯貴族』を冠する男、立海銃司。彼に真っ向から食ってかかった桐山剣にとって、未知の世界への感動よりも、目の前の決闘こそがすべてだった。
「……で、何のゲームで決着をつけるんだ?」
剣が鋭い視線で銃司を射抜く。
「多少古風だが、貴様には【ラピッドファイア・スター】をやってもらおう」
(ラピッドファイア・スター!? それって、昨日剣くんの家で私が遊んだゲームだわ!)
なんという因果か。みのりが暇つぶしにプレイしたレトロゲームを、最新のリアリティを誇るゲームワールドで再現することになろうとは。
★★★
PLAY GAME No.4
【ラピッドファイア・スター】
・ジャンル:シューティングゲーム
・プレイヤーレベル:26
【概要・ルール】
宇宙空間を舞台にした縦スクロールシューティング。戦闘機のコクピットに乗り込み、コントローラーの「連射力」がスコアを左右する。
敵キャラクターは約20種類。幾何学的な軌道、超高速の飛行、苛烈な弾幕など、難易度は極めて高い。
『パワーチップ』を取得することで、攻撃を3方向、5方向、さらにはバリア装着へと強化可能。
また、フィールド各所の『ラピッドコア』を連射で破壊すれば、連続ボーナスが発生するスコアアタック要素も備えている。
★★★
「今回はステージ1のみのスコアアタックだ。ボスを撃墜した時点のスコアで競う。当然、ミスした時点で即終了だ」
「分かった」「では、まずは貴様から行け」
先攻は剣。彼は黙々とコクピットへ潜り込んだ。内部は大型のシートと数個のボタン、飛行用レバーのみという、実用性を突き詰めたタイトな構造だ。
(気取ってやがれ。あんな傲慢リッチ野郎に、負けてたまるか!)
起動スイッチを入れた瞬間、視界が爆発した。バーチャルな大宇宙が、コクピットの風防越しに全方位へと広がる。
『READY?』
カウントダウンが響く。剣の指がレバーに食い込む。
『GAME START!!』
16ビットのテクノBGMが空間を支配する。開始から6秒、沈黙を破って敵の飛行編隊が急襲してきた。
「こちとら腹立っとんねん、ぶっ放したるわ!!」
敵機を捉えた瞬間、剣は親指に体重を乗せるようにボタンへ添え、腕全体を激しく震わせた。
――【痙攣連射】。
筋肉を意図的に硬直させ、その微細な振動をボタンに伝える高等技術。肉体への負担は大きいが、機械的な連射速度を叩き出す。
(ザコ機は深追いしない。狙うのは『ラピッドコア』の連続撃破ボーナスだ。倍率を維持すれば、一気に引き離せる!)
剣のプレイは的確だった。敵の弾幕を最小限の動きで回避し、パワーチップを確実に回収。ラピッドコアを次々と粉砕し、着実にスコアを積み上げていく。
そして、ゲーム説明には記されていない「隠し要素」が姿を現した。 コクピットの目前に白い霧が立ち込め、巨大な『幽霊船』が姿を現す!
剣の表情がポーカーフェイスから一変、必死の形相でボタンを叩きつけるが……。
「――っ、クソッ! 失敗だ!!」
(え、失敗!? 今のがもう一つのボーナスなの?)
みのりは、以前に矛玄から教わった攻略アプリ『G-バイブル』を素早く起動した。
★【ファントムシップ】
各ステージに現れる中型戦艦。別名『幽霊船』。
出現から実体化するまでの約1秒間に15発以上の弾を撃ち込むことで、100,000点の特大ボーナスが発生する。
(1秒に15発!? 剣くんが焦ったのは、このシビアな判定のせいだったんだ!)
千載一遇のチャンスを逃した剣。その後、実体化したファントムシップを通常撃破し、1面ボスも沈めたものの、スコアは『159,510点』に留まった。
(クリアはしたけど、さっきのミスでリズムが崩れてた。いつもの剣くんらしい、キレのある動きじゃなかった……)
みのりの不安は的中していた。焦燥と動揺が、彼のプレイから精細さを奪っていたのだ。
「思い通りのプレイができなかったようだな。このゲームの肝が『連射』であることを忘れたか?」
コクピットを降りた剣に、銃司が冷酷な笑みを向ける。
「……っ! 何が言いたい!」
「すぐに分かる。そこで指をくわえて見ていろ」
後攻、立海銃司。彼は優雅な動作でコクピットに収まった。
『READY? GAME START!!』
銃司のプレイは、開始直後から異質だった。
押し寄せる敵機を前にしても、その表情は氷のように冷徹。だが、ひとたび指が動けば、戦況は一変した。
響き渡るのは、電子音の濁流。
剣の痙攣連射を遥かに凌駕する、ガトリング砲のごとき超速の連射音!
(なんて連射だ……。しかも自機をほとんど動かさず、最小限の軸合わせだけで全弾を急所に叩き込んでる。ラピッドコアの出現位置も、すべて予読済みか!?)
中間地点、撃破ミスはゼロ。全弾命中の精度により、スコアはすでに剣の記録を脅かしている。
そして、運命の『ファントムシップ』が現れた。
白い霧が、静かにコクピットを包む。次の瞬間――。
―――ドォォォォォォォォン!!!!!
44マグナムの咆哮にも似た、凄まじい打鍵音が響き渡った。 画面に躍る「BONUS 100,000」の文字。
1秒15発の壁を、彼はわずか0.5秒で、暴力的なまでの連射速度で粉砕したのだ。
「な……何や、今のは!?!?!!??」
剣の顔が絶望に染まる。
その時点で、勝負は決していた。銃司はその後も完璧な軌道で敵を殲滅し、1面のパーフェクトスコアを叩き出した。
最終得点、300,000点。
ダブルスコアに近い圧倒的な差を見せつけ、銃司は静かにコクピットを降りた。
「これで分かったか? 自惚れプレイヤーが」
――完敗だった。あまりの力の差に、剣は撃ち抜かれた標的のように立ち尽くすことしかできない。言葉を返す余力すら残っていなかった。
「シューティングゲームは、ゲームが終わるまで全神経を集中せねば制する事は出来ない。その為には何事にも冷静に対処する精神力が一番重要だ。高得点を取ることに集中しすぎて、心を乱すことなど自殺行為に値する」
敗者の剣にはもう何も返せない。ただ悔しそうに唇を噛むだけだった。
「よく覚えておけ。ゲームとは魂を研ぎ澄まして戦うものだ。貴様のなまくら刀のような精神で、俺の弾丸を凌ごうなど片腹痛い。
最強を夢見るなど滑稽千万。身の程を知り、二度と俺の前に現れるな」
「………………クソォォォォッッッ!」
剣は吐き捨てるように叫ぶと、屈辱に耐えかねたように現実世界への出口――ログアウトゲートへと駆け出した。
「逃げるのか、負け犬が! ハハハハハハハハハハ!!」
「剣くん!!!」
みのりも剣の後を追い、悔恨の感情を残しつつゲームワールドから離脱するのだった……




