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味覚より食感と嗅覚

作者: 炉谷義露

 私は食物の好き嫌いが余り無い。食べられない物や好まない物が有ったと為ても、暫く経つと復た挑戦為て遣ろうと云う意思が湧いて起こる。好きでは無いけれども、嫌いで食べられないと云う状態は忍び難いのである。然う為て、見慣れぬ食材や料理が有ると食べたく思うし、自分で調理為たくも感じる。加えて、出された料理は殆ど何だか旨く覚える。高級であっても、低級であっても、手製であっても、何れも中々に旨い。味覚が鈍い許りの事かも知れないが、此れは此れで幸福であった。

 此の様な私であっても食べられない料理、引いては一種の食材が有る。其れはカスベであった。カスベは魚類である。

 私が童子であった頃、祖母が夕飯と為てカスベの煮付けを出して来た事を覚えて居る。当時は全く嫌いではなかったし、寧ろ食べ易くて好きであった。然し乍ら其のカスベは違った。外見は確りと煮られた良い色彩を照って居たのであるが、実際は幾らか饐えて居、其の中心は私に生食為て貰おうと潜んで居たのである。口腔へ含むと忽ち、悪い意味で蕩ける食感が舌部を撫で回し、カスベが生来から持つ(アンモニア)臭が遡って鼻腔を突いた。堪らず私は吐き出して祖母へ腐って居る、加熱が足りないと云う事を伝えたけれども、祖母には高級であるから残しては好けない、加熱は足りて居ると聞き入れて貰えなかった。祖母は食べたのであったか、食べなかったのであったかは覚えて居ない。私は遂いに食べなかったが、彼れ以来、カスベが食べられなく成った。序でにカスベの持つ骨格は殆ど軟骨であり、其の軟骨の食感も併せて嫌いに成った。

 現在に至って思い返して見れば、彼れはカスベの特徴であり、諸々の原因とは些か違ったのかも知れない。然し乍ら、其れであっても、私はカスベに挑戦為ようと云う精神が起きず、未だ嫌いであり、恐らくは永久に食べられないのである。何もカスベが食べられなくて困る生涯ではないであろう。

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