5篇「デート・オア・アライヴ 前編」
※ ※ ※ ※ ※
なんと、初デートは、王都ダリア。
楽しみだ。
俺は、芋ジャージしか持ってないので、メイドさんに頼んで服を貸して貰う事にした。
ゴネルという膝丈のチュニックを腰紐で絞め、ブレーというズボンのようなものを履き、ホーズというサイハイブーツのようなものをそれぞれの足につけ、腰からの下げ紐でガーターのように括り付ける。
胸元にはラフという襞襟とゴージェットという首から鎖骨辺り迄覆う鎧状の飾りを付ける。
白いタイツを中に履き、プーレーヌというつま先が先細りした長い靴を合わせる。
そして、股間には、コッドピースという股袋がついている。
なんと、この股袋には、お菓子や貨幣などを入れるのが専ららしい。
取り敢えず、着方を教わり、纏って、姿見の前に立つ。
……。
――ダサッ!
くっそダサい。
猛烈にダサイ!
ダサさの大安売り。
そもそも、訳が分からない。
芋ジャージの方が遙かにマシ、と云う途轍もなくダサい恰好。
デイドリだからと云う以前に、もう時代感覚や価値観、美的センスが根本的に違う、そんな感じ。
仕方ないので、芋ジャージのまま、ファムとの待ち合わせ場所、中庭の泉に足を運ぶ。
「お早うございます、カイトさん」
「…お、おはよう」
「えっと、ファム。俺、この服しか持ってなくてさ、ごめん」
「いえ、とても似合ってますよ」
芋ジャージが似合ってる、ってのも有難味が全然ないな。
ただ、優しいな~、ファムは。
気遣いが、神懸かってる。
ファムから一振りの剣を渡される。
護身用、との事。
ダン爺――ダングレン爺の事だが、基礎体力作りと筋トレばっかで剣なんか握った事もないんだが、お守り代わりに差しておくことにする。
――それにしても。
「馬がいる、って事はアレなのかな?…馬に乗って行く、って事ですよね~?」
「ええ。王都は近いんですけど、それでも徒歩だと1日掛かってしまいますから、馬でしたら半日も掛かりませんよ」
「…俺、馬って乗った事ないんだよね」
「でしたら、わたしの馬に相乗りしてください」
「…相乗り」
「乗馬の仕方は、改めて今度、訓練しましょうね」
「あっ、はい」
馬種は、“黄金の馬”と呼ばれるアハルテケ種。
馬というとサラブレッドしか知らないが、それより若干小柄、かな。
金属光沢のある毛色でスラッとして美しい馬体。
にも関わらず、乾燥や十分な食糧や水のない過酷な環境下に強い品種。
鞍は着けてあるが、鐙は見当たらない。
どうやら、蹄鉄も履いていない。
ファムは軽やかに飛び乗るが、足をかける鐙もない状態で自分の目線程もある馬の背中に乗るのは至難の業。
ジタバタしてる俺をファムが引っ張り上げてくれ、漸くファムの後ろに乗れた。
目線が高い。
高所恐怖症の俺にとっては、十分な恐怖、そんな目線。
ただ、これはすぐ慣れた。
寧ろ、鐙がないってのが何とも不安定でむず痒い。
足がプランプランしている状態、且つ、自分がハンドルを握ってない、馬なので手綱なんだが、要はコントロール出来ない状態の不安定さって、妙な恐怖感を覚える。
チャリの後ろ、バイクの後ろに乗った時と同じ印象。
体が上下前後に揺さぶられる分、更におっかない。
何よりケツが痛い。
子供の時、旅行先で乗馬経験あるものの、全く違う。
なんか、デート向きじゃないぞ、馬は。
パカラッパカラッ、みたいな軽快な音もしない。
なんというか、ドスッドスッ、みたいな音。
常歩という歩法。
所謂、馬が普通に歩く感じ。
思った程、速くない。
ママチャリをトロトロ漕ぐ程度の速度。
馬で出掛ける、或いは、旅する時は、この歩法がポピュラーらしい。
馬と聞くと、走ってる、駈けているイメージが強いんだが、あれは短距離に限られ、急ぐ時か伝令か風を楽しむ時か、後は戦か追っ手を撒く時くらいらしい。
――戦とか追っ手、って…
サラッと怖い事を云うよな、ファムは。
にしても――
いい匂い。
ファムのプラチナブロンドが頬に触り、これまた気持ちいい。
――ハクシュン!
おっと、失礼。
髪に鼻を擽られ、思わず、くしゃみ。
後ろからファムに抱きつき密着するのは、ヤラしい気持ちからじゃなく、落馬しない為。
そう、ごく自然と紳士的に言い訳できる!
どう?
これって、凄くね?
乗馬できなくて、良かったぜ。
こんな素敵体験、なかなか出来ないぞ。
さっき、デート向きじゃない、って思ったが、ここは素直に訂正。
馬デート、サイコー!
全世界の男性諸君に、馬デートの良さを提唱したい、ね。
お馬さん、ありがとう。
――さて。
伯爵の邸宅から西に向けて出発。
舗装されていない畦道、山道の類を進む。
何度か小休止。
俺がケツを痛がるんで、少し休憩を、というファムの配慮。
勿論、馬への配慮でもあるらしい。
それにしても、美しい風景。
美しい大自然の様を見て心洗われる。
見ていて飽きない。
結構、長時間経っていると思うんだが、見知らぬ土地ってのはやはり新鮮なんで、飽きないもんだな。
ロード・オブ・ザ・リングみたいな風景。
もう少し、木々が多く、森の中といった感じだが、恐らく、過ごしやすい気候なんだろう。
日本と同じか、もう少し高緯度。
湿度も高くないし、そんな雰囲気。
そう考えると、冬は寒いんだろうな。
漸く、前方に町が見えてきた。
なかなかに荘厳。
城壁に囲まれ、中央部が段々高台になる、そんな勇壮な様。
伯爵邸近くの町、名はファイデムと云うらしいが、俺が最初に現れたその町とはスケールがまるで違う。
デイドリ用の時計で確認すると、朝7時くらいに出て今が11時。
4時間の道程だが、休憩を除くと正味3時間から3時間半ってところ。
恐らく、伯爵邸から20km前後って距離だろう。
確かに、徒歩だったら1日掛かりになっちまう距離。
これでも近いって云うんだから、なかなかデイドリの住人の距離感は当てにならない。
逆算すると3時くらいには帰路につかないと、日が暮れちまう。
往復8時間で4時間の滞在。
――うーむ…
このデートは、道程も楽しまないと、マズイぞ。
来る途中は、見慣れない風景と馬での初旅みたいな感じで、すっかり小旅行気分になってたが、これはファムとのデートのはずだろ。
いかんいかん。
もっとデートらしく振る舞わんと。
――王都ダリア
ダリアの町の周囲には、堀がぐるりと巡らされている。
巨大な跳ね橋が堀に架けられ、多くの人々が往来している。
城塞都市宛らの作りには訳がある。
元々、このダリアという町は、町そのもので国だったららしい。
要は、都市国家。
今、目にしてるダリアの町並みは、旧ダリアの上に作られた比較的新しい町。
何百年も前、まだ、ダリアが都市国家だった時は、共和制が敷かれていた。
魔術師による共和制、って云うんだから、なかなか心擽られる。
大昔、レグヌムからやってきた魔術師達が作った町、というか国らしく、その旧都市街が地下に眠っているらしい。
レグヌムってのは、西にあるでっかい国、或いは、地域の事らしいが、今よく知られている魔術ってのは、そのレグヌムからやってきたものらしい。
現在のダリア、つまり、王制になったのは大王の登場によって。
大王は、未開地を大きく切り開き、その栄誉によって非魔術師階級でありながら、ダリアの貴族に取り立てられ、政治家になった。
ドラゴン共の裏切りによって大地が焼かれた後、大王はダリアを復興し、大王になった。
まあ、なんと云うか、お伽噺みたいな伝承の類。
ちなみに、大王の去った後、王位は何百年もずっと空位らしい。
何の為の王制なのか、イミフ。
代わりに、女王が選ばれ、ダリアを統治している。
女王は、魔術師である事が大前提で、その選出には特別な選定者がいるようなので、実質、共和制のままだ。
よく分からんシステム。
デイドリの歴史やら風習やら価値観やら、そもそも全く分からんので、なんとも云えない。
言葉もロクに喋れないんだから、そりゃ、そうだ。
ちなみに、ダリアの旧都市街、つまり、地下都市には、お宝がたくさん眠っているらしく、一攫千金を目論む“冒険者”と呼ばれる流亡の輩が各地からやって来ているらしい。
冒険者って、ゲームではポピュラーだし、至って普通な感覚で受け入れられるんだが、当事者、要はちょっとその世界で暮らしてみると、実に胡散臭い。
実際、この冒険者連中というのは、治安悪化の原因らしく、ダリアでも監督対象として厳しく管理されているらしい。
にも関わらず、問題が堪えないとの事なので、ま、俺の中では、犯罪者予備軍、という区分けで考える事にした。
――そんなことより。
ファムとのデート、町の散策を楽しむ。
乗ってきた馬は、厩舎が用意されているので、ここに預ける。
町中でも乗馬は許可されているんだが、何せ俺が後ろに乗っかってファムにへばり付く様が小っ恥ずかしいんで、徒歩での散策にした。
王城や政府機関のある中心部に向け高台となるので、坂道ばかりかと思いきや、兎に角スケールがデカイんで、勾配は殆ど気にならない。
ファイデムの町や伯爵邸敷地内にあった村とは、住人の装いが違う。
こう、垢抜けている感じ。
勿論、ダサいんだが。
まあ、芋ジャージで王都を闊歩するっつ~俺も、大分ダサいんだが。
周りから浮いちゃってるから、結構、通りすがり、俺をチラ見する人達がいる。
もっとも、このダサイ感覚は、ま~、ナイトメア感覚って事で仕方ないとして、見比べてみるとやはり、王都といわれるだけあって、洗練されているといった印象。
レンガで舗装された道並みは歩きやすく、家々も綺麗だ。
笑顔とお喋りが絶えず、忙しなく活発な様子、フレンドリーな感じに活気、と実に明るい印象。
――なんだが…
後で思い知る事になるんだが、これは表道を歩いていたから。
裏道や城壁外周部には、ドヤ街やスラム街が広がっていて、不潔で悍ましい。
奴隷もおり、人身売買も普通に行われているし、マフィアのような非合法組織もある。
また、棄民と呼ばれる城塞外で暮らす者も大勢いる。
町に着く前にこれらを見なかったのは、街道沿いには住んではいけないというお触れがあるらしい。
ファンタジーな世界だっちゅ~のに、やたらとヘビー。
メルヘン要素皆無な社会の闇が、結構、ガチで怖い。
今思えば、ファイデムの町でファムに声を掛けられて助かった。
もし、ファムではなく、官吏とか衛士とか、その手の行政機関の連中、もしくは、非業組織に取っ捕まってたら、今頃、どうなっていた事か。
まさかのラッキーさに救われた。
ありがとう、ファム!
――昼食。
早めの昼食。
帰りの時間を考慮するに、昼食は早めにとっておいた方が確かにいい。
よく分かってるな~、ファムは。
王都といわれるだけあって、外食できる店が沢山ある。
丁度、ランチタイムが始まった時間帯でもあり、どこもかしこも賑わっている。
俺達は、オープンカフェのようなお洒落な店に立ち寄り、ここで食事を取る事にした。
デイドリの食事は、どれも薄味で味気ない。
でも、悪くない。
意外と普通に喰える。
ただ、水は気をつけないといけない。
確実に、下痢になる。
大体の料理と云えば、野菜も肉も焼くか似る、全部そんな感じ。
主食は、ボソボソのパンに似たもの、或いは、豆を煮たもの。
生で食べる事は、まず有り得ない。
ファム曰く、生で食べるのは、エルフくらいだと。
しかも、エルフは菜食主義者らしい。
正確には、主義者、ではなく、肉や魚は生来、苦手らしい。
苦手、というのも正確じゃない。
要は、種族的な問題らしい。
食べられない事はないが、食べる必要がない、のだとか。
もっと云うと、水だけでも、極端な話、水蒸気を吸ってるだけでも生きていける、と。
もう、霞だけで生きて行けるとか、仙人レベル。
そんな特異な彼女にも関わらず、人間用の食事を普通に作れる、つまり、飯マズじゃないのは、人間好きな性格で修練の賜物だとか。
食事を楽しむ、というエルフには存在しない概念を研究し、それをナチュラルに理解し、必要とする人間が好きなんだとか。
聞けば聞く程、ファムは天使っすな~。
「カイトさん。わたし、この後、女王祭場に顔を出さなければならないの」
「女王祭場?」
あら、唐突――
「はい。それで、そこは男子禁制なので、迎賓館で待っていて欲しいんです」
「え?迎賓館?」
「話はついているので、まず、そこ迄ご案内しますね」
「あっ、はい」
あれ?
食事を早く済ませたのは、デート時間を長くって訳じゃないの?
ま、寄る処あるなら仕方ないよな。
うんうん――
食事を終え、ファムはテーブルに銀貨を置く。
デイドリでは、貨幣制度が確立されている。
その全ては、硬貨。
金、銀、銅と分かり易く、この辺に違和感はない。
貨幣の代わりに、貴金属そのものや宝石なんかでも代用出来るらしいが、あまり洗練された振る舞いではないらしく、取引ではあまりすべきではない、と教えられた。
都市中央部に歩いて行き、迎賓館を目指す。
迎賓館と云っても、ここで云う迎賓館は、要人や来賓向けの豪華なものではなく、謂わば、旅行者向けの待合施設のようなものらしい。
王都だけあって、各地からやってくる旅行者や行商人が多く、また、大王崇拝という宗教のようなものが存在し、その聖地巡礼で訪れる者、加えて、冒険者のような一攫千金目当ての者等、所謂、余所者が多いので、用意されているらしい。
都市上層階に設置された迎賓館に向かうようなので、比較的治安もよく、管理も行き届いているらしいので、この当たりは安心だ。
迎賓館に到着――
「これ、渡しておきます。お金入れておきましたので、何か欲しいものがあったら、これ使ってください」
蟇口を手渡される。
これが実に興味深い。
布じゃなく、葉っぱ、何かの葉っぱで織られている。
しかも、エメラルド色の半透明。
見た事のない代物。
宝石みたいな見た目なのに、葉っぱと分かる手触り。
なんか、凄いぞ、コレ!
こういうのを見ると、ファンタジックだな~、と関心する。
中には、銀貨と銅貨が詰まっている。
そう云えば、俺、お金って持ってなかったな。
デイドリに来てから全く買い物とかしなかったし、しようとも思わなかったもんだから、気にしてなかった。
「それじゃ、すぐ戻ってくるから、待っててくださいね」
屈託のない笑顔で手を振るファム。
カワイイ!
何度も何度も振り返って手を振る姿、萌える!
釣られて俺もずっと手を振り続ける。
うん、実にイイ感じ。
これって、完全にカップルじゃね?
コレ、もう付き合ってる、って云ってもいいよね?
妄想乙――
いや、いいんだよ!
俺の中では、デイドリでの出来事も現実なんだから、もうこれはリアルと云っても過言じゃない。
リアルよりリアル。
寧ろ、夢の中こそ、リアル!
いや~、いいなー。
なんと云うか、この待つ感じ、焦らされている感じもなかなか乙なもの。
――迎賓館。
迎賓館って聞くとちょっと仰々しい感じだが、意外となかなか過ごしやすい。
道の駅の中に喫茶店と図書館、バー、簡易宿がある、そんな感じ。
有り体に云って、でっかい土産屋、だ。
十分、時間を潰せる施設。
こりゃ、便利。
だが、今の俺にはキツイ。
と云うのも、文字が読めない。
つまり、読書は出来ない。
本来、こんな時の為にスマホを持ってきているんだが、デイドリで長く過ごしちまったんで敢えなく電池切れ。
ファムに蟇口を渡されてはいるもの、昼食をとったばかりで腹も減ってないから使うつもりがない。
学生なんで酒が飲める訳じゃないし。
仕方ないので、お土産コーナーを巡る。
最初は物珍しいものばかりだったので、興味津々で見て回ったものの、特に欲しいものがある訳ではない。
そもそも、殆ど意味が分からないものばかり。
――退屈。
蟇口の紐を指に掛け、くるくると回す。
手持ち無沙汰。
充電切れのスマホが、ここ迄無能だとは、気付かなかった。
――ん?
迎賓館の出入口。
扉は開かれっ放しなんだが、その外から女の子がこっちを手招いている。
ぱっと見、小学生高学年、って処だ。
まあ、ここは待ち合わせに使われる場所なんだから、手招く相手は別の誰かだろう。
俺は、目線を反らし、蟇口をくるくる。
「お兄さん、お兄さん!」
「――?」
――あれ?
俺に向かって云ってんの?
明らかに、俺の方、向いてんだけど。
「お兄さん、こっち来て!」
なんだろ?
席を立って、扉の方へ。
「なに?どうしたのかな?」
「ちょっと手伝って欲しいの」
外を指差す少女。
出入口から覗くと、道を挟んだ先に家屋の屋根に木梯子がかけられている。
「屋根の上に靴乗っかっちゃって、取って欲しいの。高い処、怖くて」
――靴?
なんで靴が屋根の上に…まったく。
あれかな?
靴飛ばし。
天気占い、の。
こっちでもあるのかな?
まぁ、子供ならではの遊びだし、しょうがないわな。
「いいよ、取ってあげるよ」
本当は、高所恐怖症だからイヤなんだけど、やたらと暇してたし、いい暇つぶしになる。
それに、いい事をすると、清々しい、だろ?
ファムとのデートで気分もいいし、オーケーよ、オーケー。
外に出て、梯子に手をかける。
「梯子、押さえておいてね」
「うん、分かったー!」
梯子って、昇るのはいいんだよ。
ほら、昇る時ってのは、上を見るもんだから、高所恐怖症でもあんま怖くない。
問題は、降りる時なんだよ。
降りる時って、慎重に足下見るもんだから、自然と目線が下になるだろ?
そうするとホラ、下が見えちゃうんだよ下が。
コレが怖い!
東京タワーでもスカイツリーでも、下さえ見えなければ全然怖くない。
ところが、下が見えるようになってるガラス床の部分。
アレはダメ。
下が見えるともう、吸い込まれそうになって、急に怖くなる。
ま、降りる時、気をつけよう。
――アレ?
見当たらない。
ドコにあんだよ、靴?
「おーい、靴、見当たらないぞ~!どの辺りに飛ばしたんだ~?」
――え!?
階下にいないぞ、あの子。
少し離れた処で、何かを指先でくるくると回してる。
エメラルドに反射する袋。
――あっ!!?
「バイバーイ、お兄さ~ん!」――逃げ去る。
やられた!
サイフを掏られた。
チクショー!
なんだよ、このクソイベントは!
人の良心を逆手にとるとか、最悪のイベントじゃねーか。
金とか惜しい訳じゃない。
ファムから手渡された大事な蟇口を奪われた、ってのが無性に腹が立つ。
ぜって~、掴まえてやるぞ、あのガキ!
俺は、女子供には、容赦しねぇ~んだぜーッ!
「おいィッ!コラッ、待てぇぇぇーー!!!」