3.小っちゃくなった勇者様②
コンコン、と、ノックの音が聞こえたのはその時だった。
「いくらシンコンさんだからって遅すぎよ!」
って声が聞こえる。
フタバの声だ。
フタバって言うのはラルフお兄ちゃん(大)の内弟子で戦士系の女の子だ。
で、私の親友で小学校のクラスメイト。
でも、私とラルフお兄ちゃんが結婚することに決まってから機嫌が悪い。
要はコイガタキっていうやつだ。
無視するわけにもいかないし、小っちゃくなったラルフお兄ちゃん扉を開けさせるとなんかややこしい話になりそうだから、私が扉を開けた。
いや、もう十分ややこしい話になってるんだけど。
「フタバおはよう・・・(汗)」
まずはあいさつ。
平静を装うつもりだったけど・・・無理。
こういう時はだいたい、モロに顔に出ちゃうタイプなのよね、私は・・・。
不審に思ったのか、フタバは首を伸ばして私の後ろをのぞきこむ。
ラルフお兄ちゃん(小)もかくれるつもりすら全然ないらしく、私の後ろからひょこっと顔を出す。
「おはよ~!」
「こ、こ、子供!?もうできた??」
フタバったらパニクりすぎ。
「そんなわけないじゃん!」
・・・と言ってみたはいいんだけど、今の状況も普通に考えたら『そんなわけない』んだけどね。
「あのね、この子がラルフお兄ちゃんなんだ・・・」
私はさっき自分が言った言葉をそのまま返されないように、なるべくていねいに説明した。
ん~・・・でも、信じないよね普通・・・。
フタバは超疑った顔してるもん。
じと~って感じで見られてるし。
「あのね、常識で考えなさいよ。年上だから『お兄ちゃん』って呼んでたのよ。こんなチビスケがラルフお兄ちゃんのわけないじゃない!」
チビスケだなんてひどい・・・。
それについさっき『子供もうできた!?』って言った口で『常識』とか言っちゃうんだ・・・。
「とにかく、ホントなんだってば!ウソ言ってもしょうがないじゃん!」
あんまりツッコミどころをそのまま指摘しても仕方がない気がしたので私はそう言った。
「ふうん・・・だったら今日も朝の稽古をつけてもらおうかしら。まさか師匠が弟子より弱いなんてこと、ないわよね!?」
うーむ・・・今日のフタバ意地悪だなあ・・・1年生相手に大人げない。
・・・大人じゃないけど。
「いいよ。それじゃあけいこしよう!」
って感じでラルフお兄ちゃんは乗り気なんだけど・・・。
自信があって言ってるのかどうかは判断が付かない。
けど、1年生が『守護の腕輪』(取っても強力な魔法の防具)なしに模擬戦をやるのは危ないと思う。
それに・・・大変な事に気が付いて、私は即座に
「ダメ!!」
って声を上げた。
「なんでよ。本人もやるって言ってるじゃない!」
フタバもちょっと意地になってるのがわかる。
でも、もしも1年生のラルフお兄ちゃんがフタバの相手になるぐらい強かったとしても、やっぱりダメなのだ。
その理由は・・・。
「今ラルフお兄ちゃん服がないから!」
今着てる服は私が貸してあげた魔法使い用のローブでだからベルトの下はヒラヒラ。
そして下着をつけてない。
そんな状態で激しく動いたら、別の意味で大参事になっちゃうよ!
「服がないって、なんでよ!?」
そう言われると答えに困る・・・。
たら~っと冷や汗が出てくる。
「ごめんなさい。ぼくがおねしょしちゃったの」
ラルフお兄ちゃん(小)はためらいもなくそう言った。
「ふぅん・・・つまり、しょんべん小僧がラルフお兄ちゃんだってこと!?なおさら信じられないわ!!」
指さしてラルフお兄ちゃん(小)を責めるフタバ。
対してラルフお兄ちゃんの方も一歩も引かない感じで・・・あれって、私を守ってくれてるつもりなのかな。
なんか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
やっぱ、これはダメだ。
「ち・・・違うよ!」
私は大声を出した。
「何が違うのよ!」
なんかフタバの追及の仕方が意地悪だ。
だけど、言わなきゃ・・・。
「おねしょは、私がしたの。ラルフお兄ちゃんじゃないよ!」
すごく恥ずかしかったけど、事実は事実。
ラルフお兄ちゃん(小)のせいにしといちゃいけない。
「・・・ってことは、あたしが失恋して涙で枕を濡らしてた夜に、あんたはおねしょでお布団を濡らしてたってわけね!?よっぽどいい夢を見てうれションでもしちゃったのかしら!?」
そこまで言うなんてひどい・・・ほぼその通りだから何も言い返せないけど、でもフタバにだって人に言えない恥ずかしい過去があるじゃん!
それを言ったら収集がつかなくなりそうだから言わないけど。
「ちがうもん、ぼくだもん!」
ラルフお兄ちゃん(小)は繰り返し言った。
「もういいから、やっぱりウソはダメ!」
「そんなの、どっちだっていいわよっ」
と、フタバは不機嫌そうに怒鳴った。
そして、
「とにかく、2人してあたしをだまそうとしてるのはわかったから!あと、夕方稽古するからチビスケはちゃんと準備しときなさいよ!」
言うことだけ言うと、フタバは勢いよくバンと扉を閉めて行ってしまった。
「なによフタバったら・・・」
言っては見たけど、私はフタバのことを本気で怒る気にはなれなかった。
一瞬、フタバが泣いているのが見えたからだ。
私はラルフお兄ちゃんのお嫁さんになったけど、一緒に暮らすのは今がはじめて。
だけどフタバは内弟子だから、何年もラルフお兄ちゃんと一緒に暮らしているのだ。
いくらちっちゃくなったからってホントは見間違えるはずなんてないのだ。
私にその気がなくてもフタバは仲間外れになったというか、疎外感みたいなものを感じていたのかもしれない。
かといって私が謝るのもちょっと違う気がするし・・・。
あ、別に意地になって謝るのが嫌とかじゃないんだよ。
むしろ謝っていい方にいくなら何度でも謝りたいぐらい。
だけど、どう謝ったらいいか・・・。
というか、本来謝るような問題じゃないから、多分正しい謝り方なんてないのだ。
う~ん、難しいね。
それから私たちは、宿屋のおじさんにおねしょのことを謝って・・・。
ちょっとクスッと笑われたのは気になったけど、次からは注意するように言われたぐらいで特に怒られることもなかった。
2度目はホントのホントに恥ずかしいからちゃんと気をつけないとだけど。
で、今日は平日だからフタバは小学校に行ったんだけど、私は(シンコンサンなので)お休み。
結婚式だった昨日を入れて3日間だから明日までだ。
さて、お休み、といってもあんまりのんびりしていられるわけじゃない。
まず差し当たって、ラルフお兄ちゃん(小)に合う服を買いに行かないと!
いろいろ悩みはあるけど、ショッピングはやっぱり楽しい。
お化けマダラグモの糸を織り込んだぬののふく、みたいなのが売ってて強度は皮よろい以上!ってことだったんだけど、お値段の方もそれなりに高い。
おっきい時のラルフお兄ちゃんは勇者様だからそれに見合ったものすごい装備をつけていたんだろうけど、多分今は高級装備をつけるよりも身の丈に合った装備の方が良いような気がする。
でも、私には一つだけこだわりがある。
それは、『ラルフお兄ちゃんの装備はカッコ良くなくちゃダメ!』ってことだ。
自分の装備は地味な魔法使いのローブばっかりなんだけどね。
普段はエンジ色でたまにピンクのを着るぐらい。
でも、それとこれとは別!
私がお嫁さんとして、ラルフお兄ちゃん(小)をカッコ良くコーディネートしちゃうもんね!
(だけど、男の子の下着は自分で選んでね!)
そんな感じで買い物が終わるころには、沈んでた気持ちもだいぶ落ち着いて来ていた。
それからラルフお兄ちゃん(小)に簡単な風の魔法を教えてあげたりとか・・・。
だって、ラルフお兄ちゃん(大)と違ってこれから立派な勇者様にならないといけないんだから、たくさんお勉強もしないとね!
けど、ちょっと引っかかるところもあった。
それは・・・
あれ?立派な勇者様に育てるのってお嫁さんの仕事だったっけ??




