ディーン「幸せな国」
作:石川 翠様 http://mypage.syosetu.com/730658/
絵:田中桔梗
石川 翠様より二次創作を頂きました。
ここは幸せな国。
優しい王さまが治める平和な国。
涙を流すひとも、腹を立てるひともいません。
怒鳴り声も聞こえず、柔らかな歌声に満ちています。他の国がどれほど争いと飢えにあふれていても、この国だけはみんな笑顔で暮らしているのです。
王さまの隣には、とても美しいお妃さまがいます。いつも微笑みを浮かべたお妃さまは、一級品のお人形のよう。もちろんお妃さまは泣いたりなんてしないのです。
「ディーンさま……愛しております……」
王さまの国には、たくさんのひとが住んでいます。毎日真面目に働き、お腹いっぱいご飯を食べて、きれいな歌を歌います。時間ぴったりに動く働き者たちは、ぜんまい仕掛けの時計やオルゴールにも似ています。
「ようこそアトラスへ、ここは幸せの国」
王さまのお城には、たくさんの兵隊さんもいます。きっちり並んで剣を掲げて、おもちゃの兵隊さんたちみたい。チェスの駒と同じように、王さまとお妃さまを守ってくれます。
きらきらと輝く街の灯り。絵本のような街並みを、王さまは寂しそうな顔で眺めていました。なぜならそれが王さまのお仕事だからです。王さまの隣には、王さまの親友が立っています。ずっとずっと昔から、王さまのことを支えてくれた、大切なお友達です。
「ディーン様なら素晴らしい国王となります。私はずっとそう信じております」
お友達がそう言うたびに、王さまは悲しそうな顔をします。だって王さまの国は、もうないのです。アトラスという新しい作り物の国のために、王さまはシロルディアという国を捨ててしまいました。みんな悪魔の贄になってしまったのです。
「ああ、悲痛の感情か。とても心地良い……」
親友と同じ顔と同じ声。
王さまの隣で悪魔が笑います。大事なものはもうすっかり壊れてしまいました。
一体どうしてこんな風になってしまったのでしょう。
寂しい王さまは、ただ幸せになりたかっただけなのに。
大切なふるさとを、立派な国にしたかっただけなのに。
ここは仮初めの国。
愚かな王さまが治める人形の国。
涙を流すひとも、腹を立てるひともいません。
怒鳴り声もきこえず、柔らかな歌声に満ちています。他の国がどれほど争いと飢えにあふれていても、この国だけはみんな笑顔で暮らしているのです。
かわいそうな泣けない王様が、たったひとり、手に入らなかった愛を夢みたままで。




