ギルのバレンタイン(2017/02/14)
◇
エリー王女はセイン王子の部屋へ行ったため、アランとアルバートはギルの部屋を訪れていた。
「うわ、ギルの部屋、俺らの部屋より立派じゃね?」
「そ、そうですかね……。でも、確かに立派な部屋を用意して頂いてなんだか悪い気がしてます」
アルバートは部屋の中を物色し、アランはソファーに腰を下ろした。来客室のように家具も細やかな装飾が施され、ソファーはふかふかだった。
「ギルはセインに可愛がられてるもんな」
「やっぱりそうですかね……? 側近待遇なのかなとも思いましたが……」
アルバートが冷やかすように笑うと、ギルは嬉しそうに頬を赤らめる。
「まー、俺はそう思ってるけどな。んで、今日はアリスちゃんからチョコ貰ったわけ?」
物色が終わったアルバートはどかっとソファーに座り、ニヤニヤとギルを見る。
「な、何言ってるんですか? 貰えるわけないですよっ! ああっ!」
更に顔を真っ赤にするギルは、二人に紅茶を差し出す際にカチャカチャとカップを揺らし、紅茶を受け皿に溢した。
「なに? あんだけ一緒に行動しておいてなぁ~~~んにも進展がないわけ? かぁーー! 男ならもっとバシっといけよ!」
「自分に気がないのが分かってたらいけないですよ」
「なんだよ。それを振り向かせるんだろーが。ああいう自分でなんでも出来るような女は、母性本能をくすぐりゃーいいんだよ。……ってか、十分できてっと思うけどな……」
後半部分は頭をひねりながら自分だけに聞こえるように呟いた。こいつが鈍感っていうオチじゃねーよな……。と、目の前にいるアランとギルを見たら思わず大きな溜息が出た。
「言うのは簡単ですけど……。ね、アランさん」
「……俺らはお前みたいに本能で動けないんだよ」
「ははは~、やることやってるアランには言われたかねーな~」
「そうなんですか?」
「いや……」
純粋そうな瞳で見つめるギルにアランは何も答えられず、アルバートに助けてほしいというような視線を送る。
「じゃあよ、ギルからチョコあげりゃーいいじゃん」
「え? ダメですよ。無理です、無理。それってもう告白しているのと同じ――――」
そこにドアを叩く音が部屋に響き、ぴたりと声を止める。
「ギルいる~? 私~」
その声に三人は顔を見合わせた。
(なに? アリスじゃん。チョコ持ってきてくれたんじゃねーの?)
(そんなわけないじゃないですか。とりあえず出ますけど、変なこと言わないで下さいね)
小声でそう話すとギルはドアまで駆け寄る。アルバートにそう言われると若干期待してしまう自分がいて、気持ちを落ち着かせるために一呼吸置いた。
「やあ、アリス。どうしたの?」
「うん。チョコ持ってきたから一緒に食べようかと思って」
「え?」
アリスは大きな紙袋を掲げて見せて笑ってる。驚いているギルをよそに、アリスは部屋の中を覗き込む。
「あ、二人ここにいたんだね。ちょうど良かったぁ~。入るね~」
二人に手を振りながらずかずかとアリスが入って行き、アルバートの隣に座る。
「なになに~。ギルにチョコ渡しに来たん?」
肘でアリスをつつきながらニヤニヤ聞くと、アリスもにこにこしている。
「そうそう、二人のところにも行ったんだけどね、ここにいてくれて良かった。はい、これ。おすそわけ」
テーブルの上に次々と沢山のプレゼントを置いていく。それはここにいる人数よりも数倍はあった。
「何か……多くね?」
「そうなの。毎年いっぱい貰うのよ。生菓子はすぐ食べなきゃいけないから一応厳選して持ってきたの。ね、食べるの手伝って」
「……にしても、四人で食べるにしては多すぎるな」
プレゼントの山を見て、アランが眉間にしわを寄せる。
「アリスちゃん、そろそろ本命の彼女を作るべきだな……」
「そうね~。でも、可愛い子が多くて悩んじゃうのよね~……って、何でよ!」
「じゃ、誰もあげる相手はいないわけ? ま、ここにいるっちゅーことは、いねーんだろうけど」
「うるさいわね。どーせいないわよ! ってか、そういうのをセクハラって言うんだからね!」
二人のやりとりを見ていたギルは、渡す相手がいないと分かると胸のうちで喜んだ。
「でも、俺達が食べてもいいの? アリスに食べてもらいたいんじゃない?」
「一人じゃ、ぜーったいに食べきれないからお願いします! 捨てるよりいいでしょ? このとおり!」
ギルがそう尋ねると、アリスは頭を下げ両手を頭の上で合わせる。
「しゃーねーな。じゃ、この辺を貰っていくわ。俺らはまだやることあっから、部屋で食うわ」
「そう? ありがとう! 宜しくね~」
アルバートはアランに目配せをして半分持って部屋を出ていった。二人きりになったギルは急に緊張し始め、アリスのお茶も用意することにした。
「今、お茶を用意するよ」
「ありがと。さて、どれから食べようかな~」
アリスはいたっていつも通りだ。やはり男として見られていないのだろう。それでも、一緒に過ごせるだけでギルは幸せだった。お茶を差し出し、向かい側に座る。
嬉しそうにチョコレートケーキを頬張る姿が可愛い。
いつかお裾分けじゃなく、アリスから貰える日が来たら良いなと思って見つめていると視線が交わる。
「ん? これ食べたかった? いいよ。はい、あーん」
「ええっ!」
驚いてるギルにアリスはにこにこと笑っている。冗談で言っているわけではないらしい。ドキドキしながらと、差し出されたケーキをぱくっと頬張る。
「甘い……」
アリスから貰ったチョコは思っていた以上に甘かった――――。
―――恋するプリンセス ~ギルとアリスのバレンタイン~ 完