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7-1 真の敵

この交易都市ルーランを去る挨拶をするために、

ヴァロとフィアはユドゥンの屋敷を訪れていた。

初め来た時のようにフィアは怯えてはいない。

慣れたのか、それから目をそむけているのかは知らないが。

「フィアちゃん、どうでした?祭りは?」

部屋に入るとユドゥンは来た時と同じように長椅子に寝そべりながら、にこやかにフィアに尋ねる。

部屋の中央のテーブルの上にはネズミの姿をしたものが貼り付けにされていた。

二人の視線はそれに釘付けになる。

「そのネズミは一体…」

ネズミが彼女の眼前の机に置かれている。

全身を無数の針で突き刺されており、見るからに痛々しい。

「すぐにわかります」

彼女は視線をフィアからネズミに移した。

「今から簡単な質問をさせてもらいます。あなたのお名前は?」

ユドゥンはそのネズミに問いかける。

当然だ。ネズミを尋問しても意味はない。

「そう、残念ね」

そう言って彼女が手を上げると下から突き上げるように、

黒い刃がネズミの躰をゆっくりと引き裂いていく。

「ぎゃ」

あまりに凄惨な光景にフィアは目をそむける。

「それは一体…」

ヴァロは信じられないものを目にする。

再び視線をネズミに向けると無傷の鼠がそこにはいた。

さっきまであった傷が消えている。

まるで夢でも見ているかのようだ。

「さあ、あなたのお名前は?」

ユドゥンは再び優しく語りかけるようにそのねずみに問いかける。

「…ケイラ・ニール」

ネズミから聞こえてきたのは女性の声だ。

いきなりネズミから出てきた人の声にヴァロとフィアは顔を見合わせる。

「この者は私の結界中で不届きをしようとした輩です。

聞けばリュウレン商会を操って、グリフ商会をつぶそうとしていたとか。

あなたたちに妹を二人も殺されたのが動機らしいですよ」

彼女は謳うようにそう告げた。

ヴァロはその言葉に思考が停止するのを感じた。


何処を潰そうとしてたって?


それを理解するとヴァロの体の芯が熱くなってくる。

狙いは兄貴ではなく初めから自分たちだったのだ。

そう考えるといろいろと見えてくるものもあった。

フィアはヴァロを右手で制する。

ここでは動くなということだろう。

「わかっている」

ヴァロは小声でささやき、唇を噛みしめる。

ユドゥンの前で騒ぎを起こすわけにはいかない。

ヴァロから放たれる殺気にそのネズミはびくんと反応をしめした。


「ユドゥンさん、妹とは?」

フィアはユドゥンとの話を続ける。

「『真夜中の道化』にいたそうよ」

その一言に二人は状況を把握する。

『真夜中の道化』残党が残っていたのだ。

ネズミに入っているモノはその一味だろう。

「それでは次の質問です。あなたはどこから来ましたか?」

にこやかにまるで慈しむかのように彼女はそのネズミに語りかける。

「…」

ネズミの頭上に黒い棒のようなモノが現れ、そのネズミの足をすりつぶす。

「あああああ」

女性の悲鳴がそのネズミから聞こえてくる。

「あなたはどこから来ましたか?」

「…トラード…」

そのネズミの声には力が宿っていない。

その時点でフィアは表情を曇らせる。

「ねえ、あなたは悪くはありません。

悪いのはこんなところに来るのを見過ごしたあなたの主人ですよ

楽になりたいでしょう?吐いて楽になりましょうよ?」

ユドゥンはまるで聖母のような慈愛に満ちた笑顔でそのネズミを見つめる。

ネズミは怯えるように身を縮こまらせる。

「では最後の質問です。あなたの背後にいる者はだれですか?」

そのモノは応えない。

黒い棘で動けないネズミの頭上からに酸のようなものが垂れ、

そのモノの目を焼いた。

「あああああ」

想像もできないほどの激痛がそのモノを襲う。

「カ、カランティ…」

予想していた答えだが、二人はその答えを突きつけられ生唾を呑み込んだ。

カランティと言えば天空都市トラードの聖堂回境師。

それが背後から糸を引いていたのだ。

「だそうですよ。フィアちゃん」

ユドゥンはフィアを見て笑って見せた。

「意外とこのネズミもったほうですよ。さっきのでもう103回は殺しています。

普通の人間だったら20回かからずに発狂します。

ああでも勘違いしないでくださいね。私は人間を殺しはしません。

異端扱いされるのは面倒ですもの」

ヴァロは生唾を呑み込む。

そう言う人間を何人この女性は手にかけてきたのだろう。

死ぬこともできない。そんな拷問があることにヴァロは心底寒気を覚えた。

ルーランの人たちが、この女性を恐れるのもわかった気がした。

「試しにあなたも100回ぐらい殺してみますか?

間接的とはいえ、あなたも喧嘩を売られたのでしょう?」

ネズミがびくんと痙攣し、身を縮める。

心底怯えているのが伝わってくる。

フィアは首を横に振った。

「フフフ…嘘ですよ。そこまでしたら精神がいっちゃいそうですしね。

もっとこのネズミには楽しませてもらわないといけません」

ユドゥンはかがんで、ネズミの顔をなめる。

ネズミは小さく縮こまる。

「それではまた後でね、ネズミさん」

そうささやくとネズミの躰が溶けて消える。

ネズミの姿が視界から消えるとカランティは座りなおして、二人に向き合った。

「では聖堂回境師カランティを討つための内緒話をしましょうか」

もっとやばい拷問されてたけど、ここではこれだけ。

グロくなっちゃうしねぇ。

ユドゥンさんはいろいろとドン引きさせてくれる方です。


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