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5-3 その絵画の価値は

ケイオスが壇上に上がると会場中がざわめく。

その中に黄色い歓声も混じっているのは気のせいではあるまい。

「今回は商品をグリフ商会の商会長自らが紹介してくれるとか」

「はい、この価値は私にしか語れないものでして」

にこやかにケイオスは語る。

「なんでもグリフ商会は今、リューレン商会と競売品の価格を競っていると聞いていますが本当ですか?」

「はい」


「どうでしょう?自信のほどは?」

「正しく評価を頂ければ負けることはないと思っています」

にこやかに、そして不敵なまでにケイオスはその言葉を言い放った。

その不敵な一言に会場がざわめく。

「それではその商品がこちらです」


ケイオスが白い布を取ると、白い布の下からは一枚の絵画が現れる。


真っ赤な夕焼けを見ながら佇む一人の農夫のような女性が描かれている。


その絵画は会場中の見るモノすべての視線を釘付けにした。


ヴァロはその絵画を見て苦い顔を見せた。

「ヴァロ…あれ…」

ギルドの商館を何度も訪れていたフィアもそれに気づいたようだ。

その絵は確かフゲンガルデンのギルドの商館に飾ってあったものなのだ。

「…どういうつもりだ、兄貴?」


「エランテ画だぞ」

「おい、マジか」

会場中から聞こえてきたのは意外にも動揺の声だった。

「さて、話されている通り、この絵の技法は戦前に失われたというエランテ画を使っています」

ヴァロが後で聞いた話だが、エランテ画という手法は絵の技法であり、

その手法は現在この大陸で失われた手法といわれるものらしい。

第二次魔王戦争。その戦火により多くの人間が犠牲となった。

それは画家も例外ではない。その犠牲により多くのモノが失われたのだ。

それは人に限らず、物でもあり、また技法も例外ではない。

当時使われていた技法はそうして幻の技法と呼ばれるようになり、

その手法で描かれた絵画は現在大陸でも数点しか現存していないと言われている。

「次に私はこの赤を作る絵具に注目しました。

時を越えて色あせることない鮮やかな赤は

今では国交のない異邦の奥地でしか生えない。

オサナの実をすりつぶしたものを混ぜなくてはこの赤は出せません」

現在異邦との国交は中立である、魔術王管轄地を通してしか行われていない。

オサナの実の入手は難しく、市場に出回ることは希少である。

「それが本物であるという証拠はあるのか?」

「ここに来る前にとある機関に鑑定を依頼してあります。鑑定の結果をこちらに」

舞台のケイオスに一枚の紙が運ばれる。

「これはかの有名なコーレス美術学院の証明書です。

これによれば使われた木も使われた絵具も、私の言うことが間違いがないことが

示されております」

一つの証明書をケイオスはその場に差し示した。

その証明書に会場中がざわめいた。

「以上のことからこの絵画は、少なくとも第二次魔王戦争以前に描かれたモノだと私は考えます」

第二次魔王戦争というのは四百年前の大戦争である。

第二次魔王戦争以前の美術品はとてつもない値がつく。

それは第二次魔王戦争において、この大陸におけるほとんど人間が住める地域が戦火にまみれてしまったからだ。

そのためにそれ以前の美術品というものは希少であり、貴重であった。

現存するモノは聖都コーレスの地下深くに厳重に管理されているという。

「…馬鹿な。信じられない」

「ですから掘り出し物だと申し上げたのです。私もさすがにこれには驚きました。

それでは誰がこの絵画を描いたのでしょう?私には仮説があります」

ケイオスは一冊の古びた本を懐から取り出す。

「ここにサインがあります。この本にサインと同じものが描かれています」

そしてあるページをめくり皆にそれを見せる

「これは五百年前の天才画家ウォーレンのサインに酷似しているとだけ言っておきましょう。真偽のほどはあなた方のその目で確かめるとよろしいかと」

ケイオスは一礼してその場から降りる。

会場内がしんと静まり返る。


画家にとって絵具はその画家特製のものであり、その配合は秘密裏に行われることが多い。

戦前でも貴重な画材を揃えられるともなれば、それは画家自身が有名でなくてはならないし、その色を出すことは職人の業である。

絵画に出ているのは真紅と言えるぐらいの赤。

それはすでにその絵がウォーレンのものだと言っているようなものだ。


会場にいる者たちはざわめいた。

「そ、それでは競売をはじめましょうか。それでは百から」

司会者の声が震えていた。

「1000…1020…」

あまりの衝撃のためか、価格はそれほど上がらない。

警戒しているのだろう。無理もない、名もない商人がいきなり第二次魔王戦争以前の

絵画をいきなり出してきたのだ。

まだ動揺している声が会場のあちらこちらから上がっている。

真偽も定かではない上に、いきなり出てきた掘り出しモノに皆様子見といったところだ。

冷や汗をかいていたユンハだったが、自身の勝利を確信し始める。


次の瞬間、競売場から音が消えた。

漆黒のドレスを身につけた彼女はその絵のある壇上に足を踏み入れる。

周囲の目など全く気にもとめない。

彼女の目に映るモノは壇上にある一枚の絵それのみだ。

誰もそれを止められる者などいない。

その女性はこの都市の絶対者。だれも引き止められないのだ。

ユドゥンはしばらくその絵画に魅入ったように立ち尽くしていた。

「…ああ…やはり…まさにこの色はまさにあの時に見た赤です」

彼女はうっとりとして、視線を絵画から離さない。

「ユドゥン様、まだ競売会の途中ですので…」

司会している女性が困ったようにユドゥンに言いかける。

「商人、この絵画、あなたの言い値で買いましょう」

ユドゥンの一言に会場中に衝撃が走る。

「あの競売が…」

「一万?十万?それとも百万ですか?好きな額を言うといいでしょう」

彼女は絵画から視線を外すことなく言葉を続ける。

その競売会にいるだれもが息を飲む。

本日最高額の百倍の値段だ。すでに額の桁が違う。

それほどの金額を提示できる商会はこのルーラン広しといえど存在はすまい。

その額はコーレスにおける巨大商会二三買収できるだけではなく、大国の国家予算にも匹敵する。まさに神だけが許される傲慢さ。

会場の注目はケイオスの次の一言に集まる。

「気に入ったのでしたら、その絵画あなたにお譲りしましょう」

ケイオスの予想外の答えに、会場中がざわめいた。

ユドゥンの視線は一人の商人に向かう。

会場中の注目は二人に注がれる。

だれも一言も発することができない。

「フフフフフ…それはこの私に恩を売るということですか…これは面白い殿方ですね。

あなたのお名前は?」

ユドゥンは妖艶に微笑む。

ユドゥンはこの都市における絶対者。

それはそれの庇護下におかれるということを意味する。

「ケイオス・グリフ」

「…覚えておきましょう」

彼女はくるりと反転するとその場を後にする。


水を売ったように静まり返る。

ユドゥンが自身の席に着くのを確認してから司会者は声を上げた。

「さあ、そ、それでは競売会を続けましょう」

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