5-2 宝剣
「ヴァロ、そろそろリュウレン商会の番」
プログラムを見ながら、フィアは背後にいるヴァロに告げる。
「…そうか」
ヴァロは場違いな場所にいるなと思った。
目の前の舞台では自身の年間収入の何百倍というとんでもない額が飛び交っている。
ヴァロはまるで別世界にいるような感想をもった。
現在最高額は金貨7611枚という金貨を叩き出した黄金のブレスレットだ
まだ進行は半分ぐらいしか進んでいないというのに、
去年の最高額に匹敵するほどのものが出た。
この会場の熱気はとどまることをしらない。
一際大きな歓声が湧きあがる。
「続いては出品番号17番のリュウレン商会ユンハ様からの出品物です」
リュウレン商会の品の宝剣が壇上にあった。
その黄金色に輝く鞘にはたくさんの宝石が、これでもかと言わんばかりに取り付けられている。これほどの逸品はそうそうお目にかかれまい。
会場のざわめきを煽るように司会者が続ける。
「これは東の大陸にて、さる王家がその王位の継承者のみに与えてきたという宝剣とのことです」
この細部にわたる細工には宝石が組み込まれていて、
その煌めきは一目で、それが上等なものだとわかるほどのまばゆい輝きを放つ。
男がその宝剣を手にして刀身をみせる。
まばゆい銀色の刀身の光が会場中を照らした。
「証拠となるのはこの王家の紋章。
この製法は東の国独自のものであり、どれほど時が経とうと変わることはありません。まさに東の大陸の職人が作り上げた至高の逸品。
これほどの逸品はそうそう出回ることなどないと断言できましょう」
司会者が熱を帯びる。
ユンハが立ち上がり周囲に向けて手を振り頭を下げる。
「それでは500から」
「1005」
「2010…2100…」
「3000出ました」
会場中がざわめいている。
こうなればもう青天井である。
会場の熱気、雰囲気におされその額はどこまでも膨れ上がっていく。
「5600…6100」
ヴァロは蒼白な面持ちでそれを見ていた。
提示されている額の半分といえばグリフ商会では出すこともできまい。
下手をすれば奴隷船ゆきである。
兄がそうなるのを想像し、ヴァロは気が気ではない。
いくらなんでもこれではもう勝ち目がない。
そんな心配とは裏腹に目の前の競売品は天井知らずに上がっていった。
「…10755…他に居ませんか?」
ハンマーを叩く乾いた音が会場中に響き渡る。
ヴァロにはそれが死刑判決のようにも聞こえた。
「それでは宝剣は本日最高額、金貨10755枚でプーペット商会が落札しました」
会場中から盛大な拍手が沸き起こる。
その光景にヴァロは眩暈を覚えた。
その金額は今日の最高額はおろか、昨年の最高金を超えている。
ユドゥンの存在もあるのだろうか、会場の熱気は最高潮に達している。
ヴァロは眩暈を覚えた。
こんな馬鹿げた金額に兄貴はどうやって勝つというのか。
「ユンハ様、おめでとうございます」
周囲から握手を求められ、ユンハはそれに応じる。
「ユンハ殿の勝利ですな」
「これでは競っているグリフ商会のケイオス殿もこの額を越えられますまい」
彼の周りには称賛の声があふれかえっていた。
「まだグリフ商会の出し物があります。勝ったと言うにはいささか早いかと」
口ではそういうものの、この時ユンハは勝利を確信していた。
たとえどんなものを出そうがこの額は容易に打ち破れまい。
あの気取った男のほえ面を想像し、内心ほくそ笑む。
表情が緩むのを抑えながら、ユンハは自身の席に着く。
「続きましては出品番号22番グリフ商会のケイオス様からの出品物です」
司会者の声が上がる。
「さあ始めるとするか。私の舞台を」
そう言ってケイオスは襟首を整えると壇上に向かった。
そして、競売会始まって以来の出来事が起きるのである。




