3-3 競売会の話
リュウレン商会の長ユンハの提示してきた条件は
物事の白黒は競売会で争おうというもの。
ただし、負けたほうが勝ったほうにその落札した金額の
半値を支払うということだった。
競売会についてヴァロは何も知らない。
ヴァロはまず知っておく必要があると考えた。
ヴァロにはこのルーランをよく知る人間に一人心当たりがあった。
ヴァロはフィアを連れ立って昨日訪れた食堂に足を向ける。
この状況を知っておこうと考えたのだ。
ヴァロたちは支度中の看板が置かれ、しまっている店の扉を開ける。
「ごめんよ」
「まだ店は…ってあんたたちかい」
ロノアはちらりとヴァロたちを一瞥すると再び手を動かし始める。
下ごしらえだろうか野菜を包丁で切っていた。
「昨日はありがとうございました。少しお話できませんか?」
ロノアはヴァロたちを振り向かずに手を動かし続ける。
昼時まではまだ時間がある。
ヴァロはこのタイミングならば話を聞けると思ったのだ。
「…何かわけありって顔だね。いいよ。話し相手ぐらいにはなってやる
さ。
ただし、うちの従業員が来るまでだ」
「お願いします」
ヴァロは頭を下げて、二人はカウンターに座る。
すぐに特性のスープがヴァロたちの目の前に差し出されてくる。
「競売会のことはご存知ですか?」
「このルーランでそれを知らないものはいないよ」
「そのことなんですが…」
ヴァロはその女性に今日の朝、港で起きたことを一部始終語った。
「そりゃ、困ったことになったね。それに相手はあのリュウレン商会と
か…。
あんたのお兄さん自殺願望でもあるのかい?」
もっともな話だ。昨日見た札をつけた集団の纏う気配は尋常ではなかっ
た。
どう考えても堅気の人間ではあるまい。
そんなものたちを率いている商会と事を構えるなど正気の沙汰ではない
。
「参考までに聞きますけど、競売会の相場ってどのぐらいの値段がつく
ものなんですか?」
ヴァロの問いにロノアは少し考え込む。
「そうだね。ピンからキリまであるからね。一概にどれほどの金額にな
るかはわからない。
ひどいものとなれば、買い手がつかなかったものもある。ただ高価なも
のとなれば天井知らずだね」
「昨年はどうだったのですか?」
「参考になるかどうかは知らないけれど、
去年出されたので最も値がついたのは『荒竜の宝玉』だね。
このルーランでも有数の巨大商会エーベット商会が落札したとか。
人の頭ほどある真っ白な真珠みたいなのに、なんでも金貨五万枚の値が
ついたって話だよ」
「金貨五万枚!」
金貨五万枚と聞いてヴァロは驚く。
小国の国家予算に匹敵するほどの金額である。
そんなものを出すほどの商会の力はどれほどのものなのか。
ヴァロは思わず生唾を呑み込む。
「それに総督府にアピールするチャンスは年に一度の競売会しかないか
らねぇ。
自身の商会の絶好のアピール機会なのさ。
競売会が主だから売り手も買い手も目の色を変える。
もっとも競売会で熱くなるあまり、つぶれちまった商会もあるって話だ
けどさ。
このルーランでは犯罪はご法度だ。理由は昨日あのじいさんから聞いた
だろう。
…何せあの方が見ているからね」
ロノアはあの方と言ってぼかす。
それは丘の上に住んでいる一人の魔女のことを指している。
なるほどここの治安が他の都市と比べて極端に良いのは、
ユドゥンの存在が大きいというわけらしい。
「前の総督はルーランの外でいろいろとやっていたらしい
それが当時管理官をしていた今の総督のバブリスに摘発され、
それを取り巻く人間者どもまとめて財産はぎ取られて、ここルーランを
締め出されたって話だよ。
本当かどうかは知らないけれど、背後にはあの方が動いていたらしいっ
て噂があるね。
ここでは教会が説く女神なんてものよりも、あの方を信奉していた方が
ずっと御利益があるよ」
ぐつぐつと煮詰まる窯を、棒でかき回しながらロノアは語る。
不意に背後の出入り口の扉が開く音がする。
「おはようございます、おやその方たちは?」
若い女性が店に顔を出す。
「ちょっとした私の知り合いさ。早く着替えて掃除頼むね」
「はーい」
その女性はそう言って店の奥に小走りで入っていった。
「悪いがおしゃべりはここまでだ」
「ありがとうございました」
ヴァロはお礼に銅貨数枚をカウンターに置いて立ち上がる。
扉に手を触れるとロノアが声をかけてきた。
「これは忠告だ。ここにいる限り、ルールだけは守りなよ。でないと…
恐ろしい目にあうからね」
ロノアはそう言うと再び作業を再開して手を動かし始めた。
「ヴァロ…」
店を出るとヴァロはグリフ商会に足を向ける。
状況はとてつもなく悪い方向に向かっているように思えてならない。
「俺はもう一度兄貴と話してみる。フィアはどうする?」
今回の件にはフィアは関係ない。
出来ることならできるだけ巻き込みたくはなかった。
「私もヴァロについていく。できることがあるかどうかはわからないけ
れど、ケイオスさんにはいろいろをよくしてもらったから」
「すまないな、身内のごたごたに巻き込んでしまって」
「何言ってるの、ヴァロは私の身内でしょ」
フィアは笑って応える。
「ああ、そうだな」
フィアの笑顔に元気づけられ、ヴァロはケイオスの商会に足を向けた。
じっくりと。
ああ、早く極北の魔術王編書きたいなぁ。
完全に自己満足です。
ただ完結させないと気持ち悪いのでボチボチ書いていきます。




