プロローグ
聖歴420年、東の大陸の大帝ラカンが西の大陸をわが手に収めようと侵略を試みる。
教会はいち早くそれを察知し、大帝ラカンに対し魔王指定を行い、それに対応した。
かくてラカンははじめて人として十一番目の魔王に指定されたのである。
交易都市ルーラン沖に現れたのは海を埋め尽くすほどの船団。
対するは教会の同盟国である国々から集められた連合軍数十万。
教会は第八次魔王戦争の開戦を宣言しようとしていた。
東の大陸と西の大陸の本格的な全面戦争が始まる前日の夜にそれは起こった。
それはまさにこの世の地獄だった。
嵐は吹き荒れ、天には雷鳴が鳴り響き、
周囲の海域には逃亡を阻止するかのように竜巻が天高く巻き起こる。
敵も味方もその光景にただ茫然と見入っているだけだ。
海を埋め尽くすほどの大船団はもうすでに半数以上海の藻屑となっていた。
東の大陸一屈強であるという歴戦の勇士たちはその理不尽に悲鳴を上げながら、
ただただ死んでいくだけだった。
わけのわからない黒い蛇のようなものに、次々に破壊されているのをなすすべもなく
黙って見ていることしかできなかった。
百万の軍勢もその怪物の前には屈強な兵士も赤子と同然だったのだ。
嵐の最中、一人の黒い女性が空で高笑いを上げている。
甲高い笑い声が敵味方双方の兵士たちの耳に等しく響く。
この日、東の大陸最強とまで言われた軍隊は一人の怪物により壊滅させられる。
東の大陸の侵略は西の大陸に到達することなく幕を下すことになった。
公式の教会の文書によれば、船団は嵐によって全滅したことということになった。
東の大陸に生きて帰れた者は次々に語る。
西の大陸には邪神が住まうと。
以後、東の大陸から西の大陸への侵略は起きていない。