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ショートショート

透明人間家族(ショートショート20)

作者: keikato
掲載日:2016/10/04

 自分の両手をながめながら、博士は満足そうにふむふむとうなずいた。

 その手はすでに半透明である。

 長年の研究が実って、ついに念願の薬が完成したのだ。

 薬の効果はおよそ十分ほどで切れた。

――これで人間らしい生活ができるぞ。

 あとはいかに薬の有効時間を延ばすかだが、それについても博士は自信があった。

 と、そのとき。

「おじいちゃん、ごはんだよー」

 ドアの外であどけない呼び声がした。

 声の主は博士の孫である。

「ああ、すぐに行く」

 博士は返事をして、完成したばかりの薬をポケットに入れた。


 家族だんらん、いつものように食卓をかこんでの夕食が始まる。

「ついに薬が完成したぞ」

 家族のみんなに見えるよう、博士は食卓の上に薬が入ったビンを置いた。

「おめでとう、あなた。長い間、ほんとにごくろうでしたね」

 妻がねぎらいの言葉をかけてくれる。

「お父さん、やったじゃないか」

「おめでとうございます」

 息子夫婦は祝福した。

「うちのおじいちゃんって、すごいな。世界中の仲間がよろこぶよ」

 孫はじまん気に博士の功績をたたえた。

「さっそく、これからためしてみるぞ」

 博士は四つのグラスに薬を注いだ。

「今回は残念ながら、ボウヤはおあずけだ。まだ試薬品の段階だからな」

 博士は薬のかわりとして、孫にはジュースをついでやった。

 カンパーイ!

 家族全員でお祝いの乾杯をした。


 薬を飲んで三分後。

 博士の姿は半透明となり、それから徐々にはっきりとしてきた。

 博士ばかりではない。妻、息子、息子の嫁も同じように姿が見えてきた。

「あなたって、こんなにステキだったのね」

 妻は感慨深げだ。

「おまえだって……。想像していたより、ずっときれいだよ」

 博士は妻の手をにぎった。

「オレって、こんなに太ってたんだな。それにくらべたら、君はなんてスマートなんだ」

 息子はじっと嫁を見ている。

「見えるようになったんだから、これからはお化粧をしなきゃね」

 嫁はうれし恥ずかしそうだ。

 そうしたなか、孫のくやしそうな声がする。

「ボクも薬を飲みたいな」

 その声に気づいた嫁が、

「あらボウヤって、こんなにかわいらしかったのね」

 ボウヤにかけより抱きしめた。

 このとき。

――うん?

 博士はハテと首をかしげた。

「ボウヤ、おじいちゃんが見えるかい?」

「ううん、だれも見えないよ」

 孫が大きく首を振る。

「今回は、どうやら失敗のようだ」

「あなた、どうしてです? こうして見えてるじゃありませんか」

 妻が首をかしげる。

「ボウヤに見えないということはだな、薬を飲まなければ、我々の姿は見えないのだよ」

 博士は失敗について説明した。

「オレたちが見えるようになっただけ。そういうことなの?」

 息子が確かめるように聞く。

「そうなのだよ。体そのものは、見えるようになってはいないんだ」

「せっかくオシャレをしても、仲間のみんなには見てもらえないんですね」

 嫁はがっかりしている。

「ああ、残念だがな」

 十分たち、薬の効果が切れてきた。

 家族の姿が徐々に薄れてゆき、ついにはもとのように透明になってしまった。

 食卓が静かになる。

「すまん。みんなをがっかりさせて」

「いいえ、とても幸せな時間でしたわ。ひとときでも家族の姿を見られたんですもの」

 妻がなぐさめるように言う。

「そうだな。おまえやボウヤの顔が見られたしな」

 透明にもどった家族に、博士はしみじみと言ったのだった。


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