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剣豪魂  作者: 富野夷
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気合だ!気合だ!

時空をひたすら彷徨い続けている宮本武蔵。

過去へ過去へ、

さらにその過去へと、

遡り続けての修行であった。

武蔵の修行だけに遡行の奥行きも半端ない。

義経の天狗との稽古の見取り。

タケミカヅチから秘太刀「鹿島の太刀」を習い受ける国摩真人にも接した。

さらに神代の屈刀や鉾を試してもみた。

人以前の猿人が、骨を宇宙に向かって振り上げる構えを見たりもした。

ついには中生代白亜紀にまで辿り着いていた。


武蔵は、そこで素晴らしい気合の声を聞いた。

気合も武蔵の重要とするところであった。

未だかつて気合にあっても、自らを超える者と立ち会ったことはない。

しかし、今、轟くほどの気合である。

武蔵に勝るとも劣らない。


ティラノサウルスであった。

二頭のティラノサウルスが向かい合い、

互いに気を発して威嚇、今や、闘い合わんとしているのであった。

武蔵は、これほどの気合が存在したものかと感心している。


もう一歩で咬み合わんとするところまで接近。

剣術であれば一足一刀の間合、そこで最後の気合の咆哮である。

地が揺れる。そう言って過言ではない。

刀を振り下ろす如く、互いに咆哮を浴びせつける。

ついに、一方がその首を縮めた。

力の拮抗が綻んだ。

一方が踏み入って、一方は後じさり。

後退しながらも渾身の咆哮を試みるが、既に気合の差は明らかである。


一方はついに首を曲げ背を見せた。

彼等は同種の決闘に於いては、無駄には血を流さないと見えた。

それは人に比べて紳士的であるとも思える。

咬み合う以前の気合の差に於いて、その力量の全てを量りあったのである。

敗者は逃走して行く。

勝者は天に向かって最後の咆哮。


この時、武蔵は一つの誘惑に駆られた。

その勝者ティラノサウルスとの気合勝負である。

武蔵は進み出た。

相手を凝視、かつ構える。

だが、

しかしである。

勝者ティラノサウルスの視界は武蔵を見逃したのである。

気合を入れんとする武蔵を素通りしたのである。


武蔵、呆然。

去り行く勝者の背を見送らねばならなかったのである。

そして、その場に立ち尽くした。

気合も停止。


立ち尽くす武蔵。

その魂も停止。

が、やがて、

その魂が動き出す時が戻る。


あの地上最強の生き物も結局、滅びた。

そして、雲上の無辺際を終の棲家としたのであろう。

だが、その楽園も今は剣豪者に取って代わられたのである。

最強も、結局は時代の推移に過ぎないのかもしれなかった。

武蔵は、その肩から最強の重荷が下りていくのを自覚したのである。


 新撰組の剣術は相撲に似ていた。まず立合いに、ぶちかますのである。これは技と言うより気合で、ぶちかまして相手の体勢を崩し、後は一気に攻撃を仕掛けるのだという。

 勝負の決め手は相手に臆せず、気合で入っていく、そこにあるのだった。

 その稽古の余りの凄まじさを見た他流が驚いて、皮肉交じりに「力任せの喧嘩殺法」と呼んだということだ。

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