義経、北行
土方歳三は、弁慶の巧みに使う薙刀を見ていた。
まだ個人の闘いの時代である。
刀だけが武士の魂といった発想はない。
自分の体格と感性でそれぞれに武器を選んだ。
その時代に土方は来ている。
鬼に金棒という言葉がある。
金棒とは、金砕棒という武器である。
鉄の棒、もしくは鉄板を貼った棒で、鎧兜の上から殴る。
ただ引っ叩くだけの武器である。
しかし、ことわざになるぐらい、この金棒は戦場で一般的だった。
そんな戦場である。
弁慶は打ちかかってくる敵どもを、薙刀の遠心力で薙ぎ払っている。
超怪力の上に遠心力の利用で、決して疲れない。
相手も一人ひとり掛かってくる。
丁寧に名乗りを上げてから掛かってくる者も多い。
敵は二万に近い。
対する義経主従は、もう二人きりになっている。
しかし、それでも、
しばらく弁慶の独壇場になりそうだった。
さて、源義経である。
鞍馬流という剣術を義経は学んでいる。
繰り返しになるが、この時代に剣術は特に主流ではない。
義経の体格と感性が剣を選んだのである。
もしかすると劣等感だったのかもしれない。
逆に言えば、先見の明ありということである。
土方歳三は尊敬せざるを得ない。
敵が弁慶に、ついに矢を射掛け始めた。
源氏台頭の頃、実は武器の主役は弓であった。
弁慶も耐え続けることは難しい。
土方は、義経に声をかけた。
「さあ、どうぞ、こちらへ」
「そなたは、天からの者か」
「はい」
土方は深々と頭を下げた。
この義経を、土地勘のある蝦夷地へと案内したかったのである。
土方は、義経の前に立つと導くように歩き出した。
実は、
蝦夷地こそ、
土方にとっての夢であったのだ。
怪力の象徴は、弁慶のはず。
でも、近頃、それを聞かないのが寂しい。
「なにわの弁慶」は、亀田兄弟次男だった、
それでは、何か寂しい。