月夜に笑う兎6
―展望台―
明美の提案でこの街を一望できる展望台に来ていた。
夕日に照らされ、オレンジ色に光る街を二人と一匹は眺めていた。
「綺麗ですね」
ワタルが正直な感想を述べる。
「そうでしょ。ここが街一番の名所だよ」
「それはそうとどうしてここに?」
突然連れてこられたワタルは当然の疑問を口にする。
「私は悩みがあるといつもここに来るの。それにここだと話やすいでしょ」
「やっぱりペボから聴いたんですね。僕の過去話を聴いても面白くないですよ」
「悩みって人に聴いてもらうことで解決することもあるよ」
ワタルは少しだけ間を空けてから口を開いた。
「グリムと戦う事も後悔はありません。でも別れ際に何も言えなかった事だけは後悔しています」
「言えなかった事?」
「両親や友人達に忘れられる前に一言だけでも話たかったんですよ」
悲しそうな顔をするワタルに、明美は展望台に来た時に買った物を渡す。
「これは?」
「この展望台で売っているお守り。限定品だよ」
「どうしてこれを?」
「そのお守り私も持っているんだけど、願い事を書いて持ち歩くと願いが叶うんだって」
「それはすごいですね」
お守りを渡され、キョトンとしているワタルに明美は
「言えなかった言葉をここに書いておけばいつか言えるかもしれないよ」
「そうですね。話をしたら少しは楽になった気がします」
そう言ったワタルの横顔は少しだけ微笑んでいた。
空を見れば夕方から夜に風景が変わる。
「そろそろ帰りましょうか」
二人、展望台から降りる為にエレベーターに向かおうとするが突然耳鳴りのようなものが聞こえてくる。
「どうやら帰宅するのはまだ早いみたいですね」
それと同時に空間も変わり灰色の世界に誘われる。