月夜に笑う兎5
夜になり、すっかり辺りは暗くなっていた。
先ほどから寝ようとベットの上で横になってはいるがなかなか寝付けなかった。
夜風にあたろうとベランダの扉を開けると見知った少年と魔法使いのような恰好をした猫がいた。
「な、な、何でこんな所にいるのよ?」
「この辺り泊まる場所もないですし、流石に野宿するのもあれなんでここなら大丈夫かと」
「全然大丈夫じゃないわよ。駅の周辺なら泊まる所位幾らでもあるでしょ」
「それも考えたのですがここからだと遠いので止めました」
「遠いと言っても三十分もあればいけるじゃない」
「それだけ遠いともしもの時助けが間に合いませんよ」
「助けるってもう終わったんじゃ」
「それがまだ終わってなかったみたいです。まだ痣は消えてませんよね?」
「それは……そうだけど」
「あなたを狙っていたのは別のグリムだったようです」
「どうしろって言うの?またあんな化け物が現れたら私……」
グリムに襲われたことを思い出し、恐怖で身を縮こまらせる明美に少年は優しく言う。
「その時が来ても安心して下さい。僕が守りますから」
屈託のない笑顔で言い放つ少年に少し胸がときめいた気がしたのだが
「でも肌寒いのでシーツか何か貸して頂けると――――」
気のせいだったようだ。
手近にあったシーツを顔面に投げつける。
「どうしたんですか?」
「知らないわよ。おやすみ」
その言葉と共に勢いよく窓が閉められた。
「やれやれだニャ」
状況をいまいち呑み込めていないワタルにペボは溜息をついていた。
「とりあえず、今日はもう休むニャ」
この日の夜は静かに過ぎて行った。