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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
59/62

31 Side Yui 03話

 唯へ


 唯は元気?

 唯は今いくつ?

 唯はどうしてこの手紙を読むことができたの?

 唯は翠葉ちゃんに出逢えたのかな?


 私ね、病院で友達ができたの。

 久しぶりに友達ができて、唯にも会ってもらいたかったな。

 翠葉ちゃんってきれいな名前の女の子なんだけど、とても目がきれいで優しい子だった。

 もし、唯が翠葉ちゃんに出逢えたなら、この手紙を読んでもらえるかな。

 それとも、オルゴールまではたどりつかないかな。

 どっちにしても、確率的に高い話じゃないよね。

 だから、私は素直な気持ちでこの手紙が書ける。


 ……驚かれてしまうかもしれないけれど、私の告白を聞いてください。


 私、唯のことが好きです。

 とても好きです。

 きっと、これが私の初恋で、最後の恋なのだと思います。

 初めて好きになった人が血のつながった兄で、やり場のない気持ちに何度泣いたか……。

 だって、従兄妹なら結婚できるけど、兄妹ではできないから。

 気づいたとき、とてもショックでした。


 私がこの気持ちに気づいたのは、三年ほど前です。

 想いのやり場がなくて、自分の感情をコントロールすることもできなくなり、パパやママ、唯にも散々当り散らしました。

 ごめんなさい……。

 そうしたら唯はお見舞いに来てくれなくなった。

 唯に会えないことで"好き"という気持ちはもっと大きく膨れたよ。


 でも、唯は本当は来てくれていたよね?

 私、寝たふりをしていたけれど、本当は起きていたの。

 唯がそっとしてくれるキスが嬉しかった。

 目を開けて好きと打ち明けてしまいたかった。

 でも、そうしたら、今度こそ唯が来てくれなくなってしまう気がして、目を開けることはできなかった。


 唯は私を好きでいてくれたのかな……。

 勘違いでもそう思うことができたから、私は幸せでした。

 唯を好きになって良かった。


 それから、ごめんなさい……。

 パパとママは私が連れていきます。

 きっと私がいなくなったあとも、パパとママはずっと私に拘り続けて唯を見ることはないと思う。

 唯は唯を見てくれる人を得るべきだと思います。

 パパとママにはたぶんできない。

 だから、パパとママは私が連れていきます。

 最初から最後まで、パパとママを独占して本当にごめんなさい。


 唯には幸せになってもらいたい。

 唯にたくさんの愛情を注いでくれる人に出逢ってほしい。


 私の願いは唯が幸せになることです。

 唯が世界で一番幸せになることです。

 唯にはその資格があるから。


 唯、私はいつでも側にいるし、唯を見てるよ。


 最後に……。

 唯を唯ちゃんと呼んだときの嫌そうな顔がとても好きでした。


 芹香より  2006/03/14


 唯にたくさんの幸せを――。

 金木犀、ハナミズキ、チューリップ、ストック、セージ

 クローバー、ワスレナグサ、紫苑、都忘れ、カモミール



 ちょっと待ってくれ――なんだよ、この手紙……。

 俺がこっそり見舞いに行っていたのも、そのたびにキスをしていたことも、全部知っていた……?

 それ以前に――。

「俺を好きって、なんだよ……」

 最後に書かれていた日付けは、事故の約二週間前のものだった。

 こんな手紙書くくらいなら俺に言えよっ。そしたら、両親の車なんかに乗せやしなかったのに。俺が――俺が最後のその瞬間まで側についていたのにっ。

 どうにもやりきれない思いに立ち上がり部屋を出た。

 ゲストルームを、というよりはマンションを出るつもりで廊下に出ると、廊下で資料整理をしている人がいた。

 こっちは見ずに、

「翠葉を置いていくのか?」

 それに答えられずにいると、

「翠葉を起こさずに部屋から出てこれたことは褒めてやる。でも、目が覚めたときに唯がいなかったら、翠葉は泣くだろうな……」

 あんちゃんは相変わらず資料を整理しながら言葉を続ける。

「俺、最初に言ったよな? 翠葉を泣かすなって」

 そこまで言って、ようやく俺に視線を向けた。

 立っているのは俺で、俺のほうが高い位置にいるにも関わらず、下から見上げてくる視線はひどく威圧的なものだった。

「……オルゴール、開けたんだな」

 あんちゃんの視線が俺の右手に移っていた。

 俺の右手には読んだばかりの手紙が握りしめられており、力任せに握りしめているだけに、どこか破れているかもしれない。

「今はさ、何か話したいんじゃないのか?」

 ……話したい? まさか……。こんな話、できるわけがない――。

 目の前にいるこの人は確かにシスコンだ。重度のシスコンだし、本人もそれを認めている。

 でも、俺のそれとこの人のそれは意味合いが異なる。

 こんな話、二十二年間生きてきて誰にもしたことがない。秋斗さんや蔵元さんにだって話していない。

 話せるような人間は存在しなかった。それをつい最近知り合ったばかりのこの人に話す……?

 笑わせるな――無理に決まってる。こんな話、人が聞いてどう思うかなんて、そんなの自分がよく知っている。

 俺は、異常なんだ――。

 自然と全身に力が入る。

 座って俺を見ていた人が立ち上がった。別に威圧するという感じではなく、ただ立ち上がった。

「別にさ、俺は知りたくて訊くんじゃない。そこまで人のことを根掘り葉掘り訊くのは得意じゃない。翠葉と好きな女に関しては別だけど」

「……人に話せることとそうでないことってありますよね」

 荒ぶる感情を抑えつけながら言葉にする。

「それなら紙に書き出したらどうだ? 思考整理には役立つ方法で有名だけど」

 あくまでも普通に話しかけてくる。一提案として……。

「なんにせよ、こんな状態の唯をここから出すわけにはいかないし、何よりも翠葉を泣かせたくないんだよね。俺の事情で申し訳ないんだけど、これ以上翠葉に気持ち的な不安要素を作りたくないんだ。それは不整脈に直結するから」

「っ――」

「俺はずるいよ? 唯がこんなことを言われて動揺しないわけがないこともわかってる。それでも俺は翠葉を優先させるし、同時に唯を危険に晒すようなマネはできない」

 ……俺はどうしたらいい?

「迷ってるなら翠葉のいる部屋に戻ってくれないか? あいつ、熟睡できる率が意外と低いんだ。下手すると、音じゃなくて部屋の温度や湿度が変わるだけでも起きる。人ひとりが部屋からいなくなるだけで熱量の関係上室温が変わるって知ってるか?」

 またわけのわからないことを言いだした。まるで一般常識を訊くかのように口にする。決して見下してるとかそういう感じではなくて……。

「知ってます……」

「なら戻ってくれるとありがたいんだけど」

 ただこの廊下を突っ切って玄関を出てしまえばいいだけなのに、それができない。できないどころか、身体は来た廊下を戻り始めていた。

 後ろから、「ありがとう」と声がかけられた。そして、「飲み物を持ってすぐに行くから」と言われた。


 リィの寝るその部屋に戻ると、足元にしかかかっていなかったはずの羽毛布団が手繰り寄せられたあとがあった。

 どうやら廊下で座り込んでいた人の言っていたことは嘘ではないらしい。

 俺がひとりいなくなっただけで多少涼しくなった部屋に寒さを感じたようだ。

 もう少し時間が経っていたら、肌寒さに目を覚ましたのだろうか……。

 ……あれ? 俺、かなり冷静になったんじゃない?

 そんなことを考えているとあんちゃんがカップふたつを手に戻ってきた。

 飲み物を用意している間に俺が出て行くなんてことを考えていなかった顔。

 この兄妹ってふたり揃って絶対に無防備で人を信用しすぎだと思う。

 いつか痛い目みるんじゃないの? いや、それともこれこそがこの兄妹の武器なのかな。

 ここまで信用されていると、逆に裏切る側の良心の呵責ってものが悩ましくなる。

「ね、あんちゃん……ここで話すつもりじゃないよね?」

「ここで聞くつもりだけど……。別に話さなくてもいいし。さっき言ったけど、紙に書けば?」

 今にも適当な紙と筆記用具を出そうと動きだしかねない。

「リィ、起きるんじゃない?」

「あぁ、部屋の設定温度一度だけ落として」

 人ひとりでマイナス一度ね……。

 マイペースすぎるあんちゃんに苦笑がもれる。

 あらかじめ出してあった引き出しベッドにあんちゃんが座り、サイドテーブルにカップを置いた。

 たぶん中身はアイスコーヒー。

「悪いけどインスタントだから」

 時々インスタントコーヒーが恋しくなる俺には全然問題もなく……。

 あんちゃんの行動を見ていると、放り出されたリィの右手に軽く自分の手を重ねた。

「それ、何?」

「起きないためのおまじない?」

 真顔で言うから救えない。

 でも、手が重なったらリィの表情が変わった。

 安心……? どこかリラックスした感じの顔つき。

 あんちゃんの言った言葉は強ち嘘じゃないのかもしれない。

 この人、どこまでリィの生態に詳しいんだろう……。いつかリィ取扱説明書とか作らせてみたい。

 で、秋斗さんに高額で売りさばくっ!

 ……俺、すごい普通。いたってまとも。

 錯乱状態でもなければ興奮状態にもなくて、身体中の力が程よく抜けててリラックスしている状態。

 あぁ、ニュートラルってこういう感じをいうのかもしれない。

 気を逸らそうとする努力もせず、かといってリラックスしようと心がけているわけでもなく、さっきまで抱いていたどうにもならない感情は今どのあたりにあるんだろう。

 力が抜けたからか、右手に握りしめていたはずの紙が足元に落ちた。

 それを拾おうと腰を屈めたとき、あんちゃんと同じ目線になって言われた。

「俺はカウンセラーじゃないし友人ってわけでもない。上司でもなければ部下でもない。架空だけど唯の兄だよ。普通のそこら辺にいるひとりの人間。だから、もし唯が何かを話したとして、俺は解決策を見出してはやれないし、俺個人の主観でしか答えられない。だから聞き出すつもりは毛頭ない」

 きっぱりと言いきり、後ろで横になるリィに目をやった。

 ……この人になら話せるかもしれない。

 そう思った瞬間だった。

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