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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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04~07 Side Akito 03話

 自分の家に入ると、途端に力が抜けた。

 迎えに出てきた蔵元が慌てる。

「大丈夫ですかっ!?」

「あー……大丈夫なようなだめなような……。ちょっと立ち直るのに時間がかかりそう」

「……それは体調でしょうか、心中でしょうか」

 蔵元はこんなときですら、的を射た質問を返してくる。

「両方、かな。でも、こっちの方が若干厄介」

 俺は自分の胸を指す。

「何かあったんですか?」

 片腕を引かれて立ち上がると、そのまま支えられてリビングのソファへ連れていかれた。

「昨夜の出来事以外にもまだあったんだ」

「……翠葉お嬢様ですか?」

「そう……キスマーク、相当ストレスになったっぽい」

 両膝に肘をつき、両手で顔を覆う。

「いったい何が……?」

「お風呂で――ボディタオルでかなり擦ったらしい。キスマークが消えるくらいの内出血だったって。そのうえ、寝てる間に無意識に掻き毟って出血――結構ひどい擦過傷だって」

「まさか――」

 蔵元も息を呑む。

 でも、冗談でもなんでもないんだよね……。

 美波さんが歯切れ悪く切り出したくらいだし。

「両思いなんて浮かれてたけどさ、全然俺の片思いだよ。……痛感ってこういうこと言うんだろうな」

 でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。時計はすでに六時前を指しているのだから。

「とりあえず、必要なものをまとめてくるわ」

「資料でわかりそうなものは私も手伝いますので、秋斗様は先に身の回りのものをピックアップしてください」

「助かる……」

 蔵元に手伝ってもらい、なんとか必要なものはすべてまとめることができた。

 病室に全部運んでおけば問題はないだろう。

「エアコンは切りましたしガスの元栓も締めました。明日には唯がここに来るのでとくに問題はないでしょう」

 蔵元のその言葉に頷き部屋を出た。


 エレベーターから降りると、先ほどと変わらず崎本さんがいて、葵もいた。

「出張でいらっしゃいますか?」

 崎本さんに声をかけられ、

「えぇ、しばらくは帰ってこられないので、代わりに若槻という部下が俺の部屋を使います。明日には挨拶に寄こしますからお願いします」

「かしこまりました。お身体にお気をつけていってらっしゃいませ」

 ふたり揃って腰を折る。

 待たせていたタクシーに乗り込み、俺たちは病院へと戻った。

 先ほどと変わらず裏口につけてもらい、院内に入ってすぐに車椅子に乗せられた。

 病室に戻ると、中には楓と伯父の涼さんがいた。

「仕事のしすぎなんじゃないか?」

 涼さんが呆れた顔で声をかけてくる。

「はは……お世話になります」

「典型的な胃潰瘍だ。明日には手術を行う。一週間から二週間は抗生物質の連続投与と輸血。それから一ヶ月くらいは胃酸を抑制する薬を飲むことになるだろう。あとは造血剤もだな。くれぐれも慢性化させないように」

 淡々と言われ苦笑が漏れる。

「吐血するほどだったにも関わらず、兆候はなかったのか?」

「とくには……。今朝起きたときから少しおかしかったくらいで吐血するまでなんとも思ってませんでした」

「……父さん、裏情報追加。この秋斗が恋わずらいで一晩で胃潰瘍になった」

 楓ええええ……。

「ほぉ……それは興味深い。ま、潰瘍なんて一晩もあれば十分に作れる。が、存外治療期間は長い。通院はさぼらないように。その前に手術だが、くれぐれも病院を抜け出したりしないように」

 にこりと笑って釘を刺された。

「はいはい、この部屋なら仕事もできますしね」

「仕事は却下だ。明日手術をすれば三日の絶食になる。水分も摂れない。一週間は安静にしているんだな。蔵元くん、秋斗のパソコンは私が責任を持って預からせていただこう」

「承知いたしました」

 蔵元が俺のパソコンを涼さんに渡してしまう。

「それから……消灯と起床時間は厳守だ。しばらく規則正しい生活をしてとっとと体内リズムを直せ」

 楓に言われて愕然とする。

「まさか消灯時間って九時……?」

 訊くと、涼さんが答えてくれる。

「それに何か問題でも?」

「……眠れそうにないのですが」

「安心していい。軽い睡眠導入剤を出しておく」

 司そっくりの顔がにこりと笑って解決策を提示した。

 ……この人いくつだっけ。全然中年に見えやしない……。翠葉ちゃんが見たらどれほど喜ぶことか……。

「おまえは病人らしい格好をしてとっとと横になれ」

 楓に言われ、渋々ベッドに上がりこむ。

 家から持ってきたパジャマに着替え、横になると腕を取られた。

 どうやら再度点滴につながれるらしい。

「それともう一本」

「はっ!?」

 ステンレストレイには真っ赤なパックが載っていた。

「……輸血?」

「おまえの意識が戻るまで待っていたんだ。輸血にも手術にもリスクがあるから同意書が必要になる。で、起きた途端におまえはなんて言ったかわかるか?」

「……一度帰らせろと申しました」

「そのとおり。通常あれだけ吐血した人間が言える言葉じゃないから」

 楓が俺と似た顔でにっこりと笑う。

 ……あぁ、司が湊ちゃんを避けるのがなんとなくわかった気がする。自分と同じ顔が目の前にあるのってぞんが嫌だわ……。

「まいった……」

「自業自得だ。とっととサインしろっ」

 同意書二枚にサインをしながら、

「楓くーん……しばらく会わないうちに口が悪くなったんじゃないの?」

「おまえがアホすぎるからだっ」

 考えてみれば楓は翠葉ちゃんのことでも俺を怒っているし、今の俺の状態にも怒っているのだろう。

 まだ口を利いてくれるだけいいか。

 そんな俺たちを涼さんと蔵元がくつくつと笑って見ていた。

「輸血、ね。確かに若槻の部屋で吐血したとき、かなりの分量があった気がする」

「あのあと、数回にわたって吐血なさってるんですよ」

 蔵元が教えてくれた。

 そうだったのか……。

「今頭がくらくらするのって物理的に血が足りてないせい?」

「そう。ショック状態だった人間が起きてすぐに家に仕事の荷物を取りに帰るってあり得ないから……」

 楓に睨まれたものの、

「おや? 楓にそれを咎める資格はあったか?」

 涼さんが笑みを深めて楓を見やる。

「楓が認めたから秋斗は帰ったのだろう?」

「……蔵元さん付いてたし最悪の事態は避けられるかと思って……」

 無言のやり取りがしばらく続き、

「すみませんでした。っていうか、さっき謝ったじゃんっ」

「秋斗が身内だったからいいようなものの、通常は許されることじゃない」

「すみませんでしたっ。……秋斗も謝れよっ」

 これは謝るべき、だな。

「俺のわがままが過ぎました。それと……楓、ありがとう」

 楓は白衣のポケットに手を突っ込んで、「別に」と答えた。

 そんなところは司と似ている。

 ……なんだ、これ。なんか妙にくすぐったい気分だ。

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