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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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04~07 Side Akito 02話

 気づくとベッドの上に寝かされていた。

「あぁ、気づかれましたか?」

 ……蔵元?

「病院ですよ」

「病院っ!?」

「大マヌケ……」

 蔵元とは反対側、窓際のベッドサイドに白衣を着た楓が立っていた。

「胃潰瘍だよ。普段からコーヒー飲みすぎ。不摂生しすぎ」

 ぶすっとした顔で見下ろされる。

「吐血してるから最低でも一週間は入院」

「……は?」

「……何、恋愛ごときで胃壊してるんだか」

 ……マジで? 俺、胃潰瘍なの?

 まじまじと楓の顔を見るものの、呆れてものが言えないという顔をされる。

「あのさ、ものは相談で一度家に帰りたいんだけど……」

「この状態で出せるわけないだろっ!?」

 ですよねぇ……。

「でも、仕事に必要なものとか、あの部屋、俺じゃないとわからないもの多すぎるんだ」

「それは確かに」

 蔵元は頷いたものの、

「秋斗様、あなた吐血して一時はショック状態だったんですよ?」

 は……?

 言われてみれば確かに胃の辺りが痛いし気持ち悪いし、嫌な感じは満載なんだけど、そこまで具合が悪い気はしない。

「今、割と普通なのは輸液を入れて血液量を増やしたからだ。でも、成分的には貧血の状態だから」

 ……貧血、ですか。なんて俺に馴染みのない言葉なんだろう。

「……とはいえ、病院から脱走されても困るし。今五時過ぎだから七時までには戻れよ?」

「えっ、家に戻っていいのっ!?」

「ものがなくちゃ仕事の引継ぎだってできないだろ? それで困るのは秋斗じゃなくて蔵元さんと若槻くんだ」

 なるほど。俺のためではない、ということか。

「一度点滴抜くけど、戻ってきたら再度点滴だから」

 そのとき、自分が点滴なんてものにつながれていることに気づいた。

 楓が針を抜きながら、

「翠葉ちゃんのところには行くなよ?」

「……わかってる」

「蔵元さん、悪いんですけど秋斗をマンションまで送っていって、何事もなくここに戻してもらえますか? 俺、七時にもう一度来るんで、そのときに点滴入れますから」

「かしこまりました。お手数おかけいたします」

「いいえ。こちらこそ手のかかる従兄で申し訳ない」

 楓が病室から出てから蔵元に尋ねる。

「なんで楓?」

「ホテルで倒れられた際、静様が楓様に連絡を入れたんです」

 あぁ、そういうことか……。

 胃潰瘍ということは消化器内科。もしかしたらりょうさんが診てくれたのかもしれない。

「蔵元、悪い。マンションまで頼む」

「わかっています。ですが、下までは車椅子で行きますよ?」

「え? 俺そんな重病人? 歩くくらい大丈夫だと思うけど」

「今は貧血を起こしやすい状態だそうですから勝手は控えてください」

「……かしこまりました」

 反論の余地なく車椅子に乗せられ、病院の地下出口から表に出た。

 確かに、身体を起こしているだけでも頭がくらくらする。

 これが貧血か……。彼女はいつもこんな状態なのだろうか……。


 タクシーでマンションへ戻ると、エントランスで崎本さんに迎えられる。

「秋斗様、おかえりなさいませ。……お顔の色が優れないようですが……」

「単なる飲みすぎです」

 自嘲気味に笑ってその場を去ろうとすると、

「大変恐縮なのですが、美波が秋斗様に用事があるらしく、家に寄ってほしいと申していました」

「なんだろう……? わかりました。ちょっと寄ってみます。蔵元は先にうちへ行ってて」

「かしこまりました。何かございましたら携帯を鳴らしてください」

「了解」


 エレベーターが九階に着くと蔵元と別れて崎本家へ向かう。

 視線は自然とゲストルームへ向く。けれど、彼女の部屋には照明は点いていなかった。

 寝ているのか、それともリビングにいるのか……。

 そんなことを気にしつつ崎本家のインターホンを押した。

 ドアはすぐに開かれる。

「いらっしゃい」

「こんばんは。用事ってなんでしょう?」

 美波さんは珍しく疲れた顔をしていた。

「立ってするような話でもないから上がって? 今コーヒー淹れたとこ」

 コーヒーは無理しても飲める気がしない。でも、それを言う気にもならなかった。

「秋斗お兄ちゃんだーーー!」

 入り口脇の部屋から出てきた拓斗が足に抱きつく。

 拓斗、ちょっと悪い。今はかまってあげられる余裕がないんだ。

「タクっ、大人の話があるの。大切なお話だから、タクはお風呂に入ってきちゃいなさい」

「えーーー、ママずるいよぉ……」

 拓斗に聞かせたくない話、か……。

 なんの話かはわからないけど、今はぶーたれている拓斗をなだめるほうが先。

「拓斗、誕生日プレゼントに拓斗だけのゲームを作ってあげるよ。だから今は美波さんの言うことを聞いてお風呂に入っておいで」

 拓斗はキラキラと目を輝かせ、

「うんっ! わかった、ぼくお風呂に入ってくるね。お兄ちゃん、絶対だよ? 絶対絶対約束だからね!?」

 拓斗は押せるだけの念を押して、バスルームへと駆けていった。

 その素直なところが海斗の小さい頃とかぶって見える。

「悪いわね。とりあえずリビングへ」

 廊下の先へ促され、

「今日、何かありましたか?」

 キッチンにいる美波さんにカウンターから声をかける。

 昨夜の出来事なら情報は得ている。が、ほかにもあるなら話は別だ。

「あったわ。……たぶん、秋斗くんがショックを受けることよ。でも、知っておいたほうがいいと思うの。もしかしたら栞ちゃんか湊ちゃんから聞くかもしれないけど……。でも、あえて私の立場から言わせてほしい」

 美波さんにしては珍しく前置きが長い。それでも、内容は明確に話してくれそうだ。

 トレイにカップふたつを乗せてリビングへ来ると、コーヒーを差し出された。

 そのカップを一瞥して美波さんに目を向ける。

「しばらくの間、翠葉ちゃんに触れるのはやめたほうがいいと思うわ。キス以前に抱きしめるとかそういうことも含めて、ね」

 楓にも湊ちゃんにも言われたけれど、美波さんの言葉が一番重く感じるのはどうしてだろう。

 やばい、胃が痛む――。

「美波さん、起きてる事態を把握しておきたいので、包み隠さず教えてください」

「最初からそのつもり。オブラートになんて包むつもりないわ」

 果たして、今の自分が昨夜以上のことを受け止められるのかは不明。

 まさか、昨夜の一件で胃潰瘍になるなんて思ってはいなかったわけだし……。

 でも、知っておかないといけない気はした。

「翠葉ちゃんね、お風呂に入っているときにキスマークを目にして、ボディタオルで真っ赤になるまで擦ったんですって。それも、ボロボロ泣きながら。それだけでキスマークが消えるほどの内出血を起こしていたらしいわ」

 俺は文字通り絶句していた。

 昨夜の話じゃなくて、これは今日起こった話……?

 湊ちゃんはそんなことは言っていなかった。俺に隠していたようにも思えない。

 もし、そんなことが起こっていたとしたら、俺は怒鳴られたはずだ。

「そのあと、私も栞ちゃんもついていたのだけど、彼女、寝ている間に首を掻き毟ったみたい。気づいたときには擦過傷のひどい状態、出血を起こしてた」

 擦過傷で、掻き毟って出血するほどって……?

 頭が真っ白になる。何も考えることができなくなるほどに。

「美波さん……俺、そんなにひどいことをしたんでしょうか」

「……そんなこともないわ。ごく普通の十七歳の子なら受け止められる範囲の行動じゃないかしら?」

 引っかかりのある言葉だった。

「でも、彼女は違うと?」

「違うわね……。翠葉ちゃんって、きっと無菌室で育っちゃったような子なのよ。だから、そこら辺にいる高校生との感覚とも大きくかけ離れたものを持ってると思うわ。良くも悪くもね」

「……知ってるつもりで、全然わかってなかったかな」

 キスマークがストレスになったかもしれない。

 それは、楓と湊ちゃんの電話から察することができた。けど、こんなことになっているとは――。

「翠葉ちゃん、今は学校に通うことと体調を安定させることに専念したくて、それ以外のことはキャパシティーオーバーって言ってたわ。……意味、わかるわよね? つまりはそういうことなの」

 俺は……仕事と翠葉ちゃんならば翠葉ちゃんを優先させてしまうだろう。

 けれど、彼女は学校と体調、それから俺を秤にかけると、前者に傾くということ。

 やっぱり、想いの丈が違いすぎる――。

 鳩尾のあたりが痛むのを堪え口を開く。

「俺、しばらくはマンションに戻らない予定なので、当分は彼女に会えません。代わりに俺の部下が俺の部屋に寝泊りすることになっています」

「それはなぜ……?」

「今、彼女に会うと真面目に襲っちゃいそうなんですよ。それくらい俺には余裕がない。少し頭を冷やして出直してきます」

「……なんだかんだ言って、秋斗くんも真面目なのよねぇ」

 真面目というか、実際はしばらく入院することになる。

 強制的に彼女と距離を取ることができれば、自分を立て直すことができるかもしれない。

 なんにせよ、今のままじゃいけないことは明白だ。

「何かあればいつでも話くらい聞くわよ?」

「はは、ありがたいです」

「……ショック受けるようなことを話してごめんなさいね。秋斗くんも色々と思うことがあるでしょうけど……」

「教えてもらえて良かったです。俺がしたことの結末ですから。今日はそれを確認するためにここへ戻ってきました」

 湊ちゃんから連絡がなければ、それを確認するためだけにここへ戻ってくる予定だった。

 少し順番がずれただけであり、これは聞くべきことだった。

「じゃ、自分そろそろ行きます」

「えぇっ!? せっかくコーヒー淹れたのに飲まないのっ!?」

「すみません。ちょっと胃の調子が悪いんです。昨日の酒があと引いてるみたいで」

「あらそう……。でも、飲める相手がいるっていいものよね」

「管巻いて、どうにもならないところに静さん登場ですよ。鼻で笑われてしまいましたが」

 適当に話を逸らしてとっとと退散することにした。


 時計を見れば、すでに五時三十五分を指している。

 彼女にメールを送ったら一時間以内には荷物をまとめて出なくてはいけない。

 俺の入院期間、ここには若槻にいてもらおう。そのほうが若槻のためにもなるし、彼女の心の拠り所になるかもしれない。



件名 :昨日はごめん

本文 :俺の基準で行動した節が

    否めない。

    しばらく仕事でマンションには

    戻れないから会うこともできないけど、

    俺の代わりに若槻がマンションに

    泊ることになった。

    何かあれば若槻を頼ってあげて。



 彼女からの返信はなし……。

 それも仕方ないか。彼女も今は動揺の中にいるのだろうから。

 まずは自分の態勢を立て直そう。身体も精神的にも――。

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