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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
本編
30/62

30話

 頭が痛い。ズキズキする……。

 瞼の向こうは暗い。……そうじゃなくてっ――。

「唯兄っっっ」

 飛び起きると眩暈全開だった。

「大丈夫よ」

 湊先生の声が耳元で聞こえた。

「……先生、頭がズキズキ目がぐるぐる気持ち悪い」

「……頭は壁に打ったからで、視界が回ってるのはあんたが飛び起きたから」

 呆れ果てた声が返ってきた。

 抱きとめてくれているのが湊先生であること以外、何もわからない。

「先生、唯兄は? 唯兄はどこ?」

「……若槻はリビングで蒼樹と一緒にいる。ここは翠葉の自室。さっき若槻に振り払われたとき、壁に頭を打って脳震盪を起こしたのよ」

 ことの経緯はわかった。

「先生……私、唯兄をものすごく怒らせてしまったみたい。もしくは、ものすごくだめなタイミングでオルゴールを返してしまったのかも……」

「そんなことないわ」

 視界が回復した目には湊先生の背中が見えた。

 きっちりと抱きかかえられていたのだ。

「どんなタイミングで、どんな経緯でオルゴールが若槻の手元に返ったとしても、そんなに状況は変わらなかったと思う」

「そんなっ――じゃぁ、どうして私だったんですかっ!?」

 どうしてこんな役を私が……。

「悪いわね、そこら辺は私の勘よ」

 勘、それだけで――でも……。

「湊先生、ごめんなさい。今のは八つ当たり」

 そう言って先生から離れた。

「私がオルゴールを持っていたのは事実で、お姉さんから託されたのも私なの。……だから、やっぱりこの役は私の役だった」

 湊先生はため息をつくと、

「ものわかりが良すぎるのも問題ね。若槻が謝りたいって言ってる。どうする?」

 唯兄は平常心に戻ったのだろうか……。

 いや、そんなわけはない。

 きっと、私を振り払ったことに対してだけ謝罪をしたいということだろう。

「嫌なら嫌で、あとは私たちが引き受けるわ」

 そうだった……。

 私の後ろには湊先生と蒼兄、それから蔵元さんまで控えているのだ。

 すべてを私が背負う必要はないと言われた。でも、唯兄のことをほかの誰にも任せたくはなかった。

「会います……。唯兄は謝りたいって言ってるんですよね?」

「えぇ……先に言っておくけど、まだいつもの若槻ってわけじゃないわよ?」

 眉間にしわを寄せる表情は司先輩とそっくりだ。

 その表情を見て落ち着きを取り戻した私は、

「謝りたいということは私が許すも許さないも私の自由ですから……。先生、唯兄を連れてきてください」

「……翠葉?」

「……なんでしょう」

「……何企んでるのよ」

「企むなんて人聞きの悪い……。ただ、許さないだけです」

 湊先生が部屋を出ていってから部屋の照明を点けると、すぐに唯兄がやってきた。

「……まだ痛い?」

「痛いです」

「そっか……突き飛ばして悪かった」

「許しません」

「……別に、ただ謝りたかっただけで許してもらわなくてもかまわないし」

「それ……謝るという行為に反してます。謝るのは相手に許しを請うためのものでしょう?」

「……じゃ、どうしたら許してくれるわけ?」

「私が許すまで一緒にいてください」

「はっ?」

「だって……唯兄は許したらすぐにここを出ていってしまうでしょう? だから――許さない。今日はここに泊まってください」

 今、ゲストルームを出られたらだめなの。

 ここを出たら私の管轄外になってしまう。

「……前から言おうと思ってたんだけど、あんた、バカっていうか身の危険を察知できなさすぎじゃない?」

「え……?」

「俺、男。あんた女」

 それはわかるけど……。

「……意味わかってねぇし……。俺、基本は秋斗さんと同じ人種だけど? 女だったら誰でもいい。抱ければそれで満足。そういう男っ」

 あ――。

 急に身体が温度を失っていく。

「やっとわかったか……。あんた、世間知らずのお姫様って言葉がぴったりだよなぁ?」

 すごく嫌みたらしい笑みを浮かべて口にする。

 こんなに柄悪く笑う唯兄は見たことがなかった。

 でも、ここで引き下がるのは嫌――。

「大丈夫だもの……。だって、唯兄はお兄ちゃんだものっ」

「……バーカ。俺らは血ぃつながってないし、そもそもごっご遊びだろ?」

 柄悪いし悔しいし、私、どうしたらいいのかな……。

 一生懸命呼吸を整え感情を抑えるけれど、ちょっと我慢できそうになかった。

「……唯兄のバカっ。ごっこ遊びでも、唯兄って呼ぶの勇気いったんだからっ。それに、今は本当に頼りにしているお兄ちゃんなんだからねっ!? それにそんなにバカバカ言わないでっ。私、これでも学年で三位なんだからっ」

 一気に喋ったら息が切れた。

 唯兄は私を見て唖然としていた。

「……唯兄にとってはただのごっこ遊びだったの?」

 私にとっては違ったよ。ちゃんとリハビリの一環になっていたと思う。

 蒼兄以外の人に頼るなんて、今まで本当にできなかったんだもの。

 海斗くんや桃華さんたちにだってまだ遠慮が入ってしまう。司先輩は頼る前に支えられる感じで、自分から……というのとはちょっと違う。

 でもね、唯兄には普通に頼ることができたんだよ。

 ドアに寄りかかっていた唯兄は、ズルズルと背を滑らせてフローリングにしゃがみこんだ。

「……ごっこ遊びじゃなかったよ。ちゃんとリハビリになってた。……昔話ができるくらいには――」

 その言葉に少しだけほっとした。

「リィだけは別……。リィは妹にしか見えない。女としては見れない――」

 口調が戻った……?

「……唯兄、側にいってもいい? 怒らない……?」

「……いいよ、っていうか、俺がそっちに行く。脳震盪起こしたあとに動くのはあまり良くないから」

 そう言って立ち上がると、唯兄はベッド際まで来てくれた。

「……まだ頭痛い?」

「っ……ズキズキするから許さないからね?」

「そんな警戒しなくったって出ていかないよ。どうせ、ここを出たところで蔵元さんあたりに捕獲されそうだし……」

「…………」

「あ、当たり? ま、湊さんがいる時点でそんなこったろーと思ったよ」

 そう言って笑う唯兄が纏う空気はいつもと変わらないものだった。

「唯兄、湊先生と蒼兄と蔵元さん、安心させたい……」

「そうだね、そうしよう……」

 ベッド越しに振り返った唯兄と目が合うと、いつものように笑ってくれた。

「俺、あんちゃん差し置いてこの部屋に入っちゃったし、あの人、本当に筋金入りのシスコンだよ」

「……でも、私は蒼兄のこと言えない。だって、私も蒼兄のこと大好きだもの」

「リィたちのは微笑ましいんだけどな……」

 唯兄は苦笑しながらドアを開け、リビングにいるであろうふたりを呼んだ。


「翠葉、大丈夫か?」

「うん、ズキズキするけど平気」

「で? 唯は許してもらえたのか?」

「いんや、まだ……」

 唯兄の答えに蒼兄と湊先生が顔を見合わせる。

「許してもらってもいないのに、なんでこんな和やかな雰囲気なのよ」

「リィ効果、かなぁ……? 謝ったら許さないって言われたから、それでかまわないって言ったら、それは謝るって行為に反するって怒られた」

「なるほど」

 湊先生は私を見て笑みを深めた。

「で? どうしたら許してくれるって?」

 引き続き湊先生が面白がって訊くと、

「許すまで一緒にいろだって。……ってことで、湊さんと蔵元さんが俺を見張る必要はなくなったから。帰っていいですよ?」

 唯兄はケロっとした顔で言った。

「了解。じゃ、私は帰るわ。蔵元にも伝えとく」

 私の脈を見にベッド脇にやってきた湊先生は、

「安定してるわね。早く寝ろとは言わないけど、明日も学校があるんだから考慮するように」

 そう言うと、ゲストルームを出ていった。

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