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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
本編
22/62

22話

 ステージの下は想像していたものとは全く違った。

 歌舞伎や舞台下の奈落を想像していたけれど、そこはきれいに整備された空間だった。

 薄暗いことに変わりはないけれど、円形のホールは上のステージより少し広いくらいで、そこから四方に向かって通路が伸びている。

「じゃ、各ペア桜林館を一周したらここに集合ね」

 加納先輩の言葉にみんなが頷いた。

「翠葉ちゃん、ゆっくり歩いてね?」

 里見先輩に声をかけられてどうしてだろう、と思う。

「そうそう、翠葉を見たいって男子生徒は結構多いのよ~?」

 荒川先輩の言葉に絶句した。

 私を見たところでなんの特典もないんだけどな……。

「藤宮司、ちゃんとガードしなさいよねっ?」

 桃華さんが口にすると、

「目的は女子生徒に着たいと思わせること。それから男子生徒の目を引くこと! そんなわけで女子メンバーは笑顔で歩けばなお良し! な、司っ!」

 春日先輩の言葉に司先輩は舌打ちをした。

「別にそこまでする必要ないだろ」

「何言ってるんだよ。翠葉ちゃんを笑わせるのはおまえの仕事だからな?」

 春日先輩の言葉に、「そうよ」と荒川先輩が乗じる。すると、

「翠、下手な笑顔でいいから適当に貼り付けとけ。じゃ、行くぞ」

 私は司先輩に手を引かれ、一本の通路を進むことになった。


 桜林館中央から観覧席まではざっと二十メートルくらいだろうか。

 等間隔にスポットライトが照らす通路を歩く。

「読み上げ、上出来だった」

「……本当ですか?」

「嘘つく必要はないだろ」

「そうですよね……。とにかく、間違わないように読むのに必死でした」

「翠の声や話し方は聞き取りやすい。だから読み上げに指名した。これが優太なら読むペースが早くて生徒が聞くのをやめる」

 ……そんなことまで考えて総会は開かれるのね。

「さっきの桃華さんの話、びっくりしました」

「あぁ、ストール認可の件?」

「はい」

「強引にでも議題を通したいときにしかここまではやらない」

 ……そうなのね。

「そのくらい、みんなが必死に動いた集大成の可否が今出る」

「……先生たちで話し合いとかはしないの?」

 こういうのを決めるとき、普通なら職員会議を開くのではないだろうか。

「そういうケースもある。総会がないときは基本顧問に案件を渡して職員会議にかけられる。そのうえで学園規則委員に持ち込まれるんだ。時間がかかるときは二、三ヶ月かかる。でも、総会の議題にあげることができれば、学園長、高等部校長、学園規則委員の三人が揃うことから満場一致が得られればその場でゴーサインが出る。今回はタイミングが良かったんだ」

 タイミングがいいにしても、これだけのことを一週間でやりきるというのはとても大変だったのではないだろうか……。

 この総会に時期を定めて動き出したのはいつなのだろう。

 佐野くんの話しだと一週間ということだった。

 それは私が休んでいた時間……。

 私には耐え難いくらい長い時間だったけれど、ここにいる人たちは、みんな一分一秒を忙しく動いていたのだろうか。

「……そんな顔で歩くなよ?」

「え……?」

「みんな、翠に笑ってもらいたくてがんばったんだ。その当事者がそんな顔してるな。失礼だ。……それに、実際問題冷え性に悩む女子は多数いた」

 先輩の物言いは相変わらずだ。

「司先輩は魔法使いですね。英語で言うとウィザード?」

「……やっぱり翠の頭の中を割って見てみたい」

 そんな話をしていると、観覧席へと上がる階段にたどり着いた。

 階段を上がったところには指紋認証キーが設置されていて、それを解除するとドアが開く仕組みになっていた。

 普段は通路脇の壁である。

 ドアが開く前に「深呼吸」と言われ、司先輩と顔を見合わせて深呼吸をしたらなんだかおかしくなってきた。

「行くぞ」

 どこか柔らかい表情の先輩と観覧席に出た。

 ほか三ヶ所からも同じタイミングでほかのメンバーが現れる。

 観覧席に出ると、まずは観覧席の一番下まで下りた。

 久しぶりに長く歩いていることもあって少し息切れ気味。

 それでも、先輩曰く、下手な笑顔を貼り付けて歩き続けた。

「体調は?」

 小声で先輩に問いかけられる。

「……大丈夫です」

「……翠の大丈夫は当てにならない」

 先輩は言ってから少し黙り、

「なのに毎回訊いてる俺がバカなのか?」

 どこか自問自答しているような言葉だった。

「珍しいですね?」

「何が?」

 思っていることを口にすることが……。

 そう返そうと思ったけどやめた。

「いえ、なんでもないです」

「はい、その顔で観覧席を見る」

「え……?」

 観覧席に視線をやると、一年B組の前だった。

「翠のホームグラウンドだろ」

 相変わらずなんでもないことのように話す。

 つまらなそうに、でも、何か企んでいたことがうまくいったときのような表情で。

「翠葉ーっ!」

 飛鳥ちゃんに声をかけられた。

 その前の席に座っていた佐野くんが、「立花うるさい」と指摘する。

 佐野くんに諭されつつも、飛鳥ちゃんは私を呼ぶことをやめなかった。

 最前列にいた希和ちゃんや理美ちゃん、早穂ちゃんにも声をかけられつつクラスメイトの前を通り過ぎる。と、次は朝に自己紹介を交わした実乃里さんに声をかけられた。

「うちのクラス、全員賛成よっ!」

 なんとも力強い言葉だ。

「ありがとう」と答え終わる前に、

「司先輩、こっち向いてくださーいっ!」

 と、黄色い声も飛び交う。

 司先輩に視線を移すと、「何」と不機嫌そうな顔で訊かれる。

「……笑顔じゃないですよ?」

「……じゃぁ、絶対零度の笑顔でも貼り付けようか?」

 爽やかな笑みを浮かべたけれど、

「あの、私にじゃなくてあっち……」

 と、指で示すも、

「そういうのは海斗や秋兄がやればいいんだ」

 と、すぐに笑みを消した。

「……でも、先輩は黙っていても無愛想でも格好いいですけど」

 先輩は瞠目する。

「あれ? 嘘だと思ってますか? お世辞じゃないんですけど……」

「……冗談じゃないほうが性質が悪い」

 その言葉の意味が理解できないまま残りの半周もゆっくりと歩いた。

 ほかのメンバーを見回すと、私たちの一ブロック前を歩いている加納先輩のところがひどく騒がしい。

 里見先輩に手を出す人の手をはたきつつ、一方では「楽しいイベント希望ー!」などと声をかけられている。それに、

「おまえら、イベントやりたければ賛同しろよ!」

 と、声をかける加納先輩。

 後ろからは「女帝には逆らえねー」なんて声が聞こえてきた。

 振り返ると、艶然とした笑みを浮かべた桃華さんと、それをフォローしながら歩く海斗くんがいた。

 そんなふうに無事観覧席を一周して階段を上り、上階の通路に戻る。

 司先輩が指紋認証を解除して中に入り、先ほどと同じように地下へ下りる階段を目にした。

 正直、アップダウンの連続はつらい。

「少し疲れたか?」

 階段を下りながら訊かれる。

「少し……でも、大丈――っ」

「翠っっっ」

 大丈夫と言い終わる前に、身体から力が抜けた。

 ひとりで階段を下りていたら、間違いなく転がり落ちただろう。

「文句は聞かないから」

 先輩の声が耳に届くと、すぐに抱え上げられた。

 文句など言えるわけがなかった。

 階下の通路に着くと下ろされる。

 携帯を取り出したところを見ると、私のバイタルをチェックしているのだろう。

「軽い貧血だな。少し歩かせすぎた。悪い」

「……あの、先輩は何も悪くないと思います」

「……座ってる体勢はきつくないのか」

「はい。でも、床のほうが楽かも……」

 と、階段に腰を下ろしていたものを通路の方へとずらした。

 壁に背を預けて深呼吸を繰り返す。

 背中が冷たい。そして、視界には薄暗い通路と真正面の壁。

「暗いところって、なんだか不安になりますね」

 なんとなしに口にした言葉だった。

 目を開けていても暗闇ならば、と目を閉じる。

「翠、俺がここにいる」

 その声に目を開けると、真正面は壁ではなく司先輩の顔になっていた。

「何があっても変わらないし離れないって言っただろ」

 言われて、いつかの仮眠室での出来事を思い出す。

「本当だ……。司先輩がいた」

「私たちもいるわよ~?」

 通路の先から声が聞こえてきた。

「荒川先輩……」

 というよりは、先ほど観覧席を一周したメンバーがみんなそこまで来ていた。

 桃華さんが側に来て、

「藤宮司、翠葉の状態は?」

「軽い貧血。翠、痛みは?」

「痛みはないです」

「休んでる?」

 加納先輩に声をかけられ、自分の携帯を取り出してバイタルを確認した。

 脈拍が百……。心臓さん、がんばって動いてくれてるんだ。

 身体に血を送るためにがんばって動いてくれてる。

 血圧は七十二の五十八――。

 脈圧ないなぁ……。それから過呼吸一歩手前。

 不整脈のような感じはしないから、きっとこのくらいなら大丈夫。

「いえ、一緒にステージへ戻ります」

「うん、みんなで可決させよう!」

 里見先輩の声に立ち上がろうとすると、司先輩と桃華さんが手を貸してくれた。

 少しふらつきながら歩みを進めようとすると、

「戻るなら文句は言うな」

 と、またしても司先輩に抱き上げられた。

「わっ、先輩っ――」

「「「「「「拒否権なしっ!」」」」」」

 司先輩以外のメンバーが声を揃えた。

「……そういうことだから」

 司先輩はそれだけを口にして歩きだした。

「ごめんなさい……」

「謝るくらいならご飯をもっと食べろ。……翠、体重減っただろ」

 間近で鋭い視線に刺される。

「……善処します」

 薄明かりの中で司先輩のきれいな輪郭に目を奪われているうちにホールへたどり着いた。

 そして、そこで下ろされる。

「優太、このあとの案件はおまえが話せ。早口も許可する」

 司先輩が言うと、春日先輩は「OK」と請合った。

 それから昇降機が上がり席に着くと、美都先輩がモニターチェックをしていて、それを司先輩が覗き込む。

「問題ないな」

 一言口にすると、目で合図をして加納先輩が中央の台に上がった。

「集計が終わりましたので結果を発表します」

 円形体育館に設置されている四つの電子掲示板の表示が一斉に変わった。

「賛成六百三十人、反対ゼロ。満場一致にて可決!」

 言い切ると学園代表者の方へと向き直る。

「よろしいですね」

 と、いたずらっぽく口にした。

 真ん中に座っている学園長はとても愉快そうな表情だ。

「ん~、久しぶりに面白い生徒総会だったな」

 そう口にした学園長に、

「今年の生徒会はできがいいんですよ」

 と、高等部校長が言葉を添えた。

 ただひとり、無愛想な顔をしているのは篠宮先生。

「わかったわよ……後日マリアージュに行って話詰めてくるわ」

「梓、この件に関してはおまえに一任するからな」

 と学園長が言えば、篠宮先生は「はいはい」と二度返事をした。

 まるで面倒くさい、と辟易している感じ。

 なんとなく、篠宮先生は湊先生に似ている気がする。

 顔の作りやそういうものではなくて、雰囲気や話し方が……。

 この先生も藤宮の一族なのだろうか……。

 そんなことを考えていると、発言台には隣に座っていたはずの春日先輩が立っていて、社会貢献におけるゴミ拾い活動やボランティア活動の老人ホーム訪問、それらのことをざーっと話しだした。

 確かに、これだけ早く話されたらプリントを目で追うどころではないかもしれない。

 最後、一呼吸おいてから、

「次の期末考査ですが、赤点を取った生徒は生徒会主催のイベントに参加できませんので、勉強をがんばるように! 会長がクラス対抗も楽しそうなんて話をしていたから、クラスの人間の参加率によっては不利になる可能性もあるかもしれません。クラス一丸となって赤点を取らない努力を怠らないようがんばりましょう」

 そのように締めると、春日先輩はカウンター席へと戻ってきた。

「これにて二〇〇九年度六月生徒総会を閉会します!」

 加納先輩が引き継ぎ生徒総会は無事に幕を閉じた。

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