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光のもとでⅠ 第七章 つながり  作者: 葉野りるは
本編
12/62

12話

「……みんな息してる?」

 しんとした部屋に自分の声が響くと、四人は一気にうな垂れた。

「っていうか簾条……これって男女交えて話すことなのか? それとも、これ、何かのバツゲームとか……?」

「佐野、違うわよ。翠葉がそんなこと考えるわけがないじゃない。もっとも……私もこんな境遇は初めてよ」

 次の瞬間には飛鳥ちゃんの手が額に伸びてきた。

「熱はないみたいだけど?」

 言いながら海斗くんを見ると、海斗くんは手にしていた携帯を見て首を捻る。

「血圧も問題ないっぽい……。秋兄、これ改良して脳波とかも加えてくんないかな」

「「そういう問題じゃないから」」

 佐野くんと桃華さんが落胆した声を揃えると、四人は顔を見合わせ黙ったまま視線をめぐらせる。

「意見がある人は挙手」

 桃華さんの言葉に佐野くんが手を上げた。

「はい、どうやって答えるわけ? っていうか、本当にこのメンバー全員で話すの?」

「それは私も考えていたところ」

 佐野くんと桃華さんの会話に私は首を傾げる。

「……あの、男女でする話ではないの? ……だから蒼兄も逃げたのかな……」

「蒼樹さん、逃げんなよ」

 海斗くんがボソリと口にした。

「ねぇ、メールとかじゃダメ?」

 飛鳥ちゃんが提案すると、

「長文メールは面倒だし誤解が生じやすいから却下。個人面談は?」

 海斗くんが意見に「異議なし」と答えたのはクラス委員ふたりだった。

「じゃ。順番は――」

 と桃華さんが話し始めると、海斗くんが言葉を遮る。

「俺からでいいよ。その間にあっちで次の順番決めてこいよ」

 海斗くんは手をヒラヒラと振って三人に出ていくよう促す。

 一様に驚いた顔をした三人だけれど、何を言うこともなくすぐに部屋を出ていった。


 ローテーブルの向こう側にいた海斗くんが腰を上げ、ベッドサイドまで寄ってくると、ベッドを背にして閉まったドアを見ながら話し始めた。

 何を考え込むでもなくすんなりと――。

「まずは彼氏彼女結婚ってやつからね。俺は結婚前提で付き合い始めるのでもかまわないかな。……というよりは、そういうふうに考えられる相手じゃなかったら付き合わないかも?」

「でも、まだ高校生だよ?」

「うん、高校生だな。もしかしたら、この辺はうちの一族独自の考えなのかも」

「海斗くんは誰かとお付き合いしたことある?」

 海斗くんはベッド越しに振り返り、「ない」とキッパリと口にした。

 びっくりしてまじまじと海斗くんの顔を見ていると、

「意外って顔?」

 コクリと頷く。

「だって、海斗くんはとても人気があるから……」

「ま、人気はそこそこかな」

 海斗くんは爽やかに笑う。

「でも、それと自分が好きな子って別じゃん?」

 あ……確かに、そうかもしれない。でも――。

「初恋がまだなんて言わないから安心しろ」

 言われてはっと顔を上げる。

「気になる子はちょいちょいいた。でも、今はどうかな? 今は仲間でわいわいお祭り騒ぎしているほうが楽しいんだよね。特定の誰かに時間を割くよりは部活って感じだし」

「……海斗くん、気持ちって簡単に変わるものかな?」

「いや、簡単には変わらんだろ」

 海斗くんはコテ、とベッドマットに頭を転がす。

「もし、海斗くんがお付き合いした人がほかの人を好きになっちゃったらどうする? もし、海斗くんがお付き合いしている人以外の人を好きになっちゃったらどうする?」

 タオルケットをぎゅっと握って訊くと、頭を転がしたままクスクスと笑いだした。

「翠葉は『もしも』が多いな。後者はほとんどあり得ないと思う」

「どうして?」

「絶対に一緒になりたいと思う人としか付き合うつもりがないから」

 その答えには寸分のぶれもなく、強い瞳は意志をそのまま表しているかのようだった。

 わけもわからず圧倒されてしまう何かがある。

「前者は……そうだな、自分に飽きられないように努力する、かな。そこは努力しだいな気がするから」

 そこまで言うと、海斗くんは上体を起こした。

「で、性行為とかキスの話。ぶっちゃけ男は今が一番興味を示すものだと思う」

 それは少し申し訳なさそうな顔をして言われた。

「三十越えると性欲減退するっていうけど、それまではあんまり変わらないと思うし、三十越えても性欲が盛んな人間だっているだろうし。……翠葉は好きな人に触れたいって思ったことない?」

 今度は人懐っこい笑顔を向けられた。そして、ぎゅっと握りしめていた手をツンツン、と人差し指でつつかれる。

「力入れすぎ」

 指摘された手を見ながら口にする。

「触れたい、っていうのは……手をつなぐとかも入る?」

「もちろん」

 手に入れていた力を少しずつ緩め、手を広げる。

 手の平は真っ白から徐々に赤みをさしていく。

「それならあるよ……」

 秋斗さんとデートしたとき、手をつなぎたいと思った。ずっとつないでいたいと思った。

「キスも性行為も、その延長戦にあるんだよ。だから、付き合ったらしなくちゃいけないとかそういうんじゃないと思う。どうしてもそうしたくなるからするだけ。……秋兄はさ、間違っても翠葉を傷つけたくて触れようとしてるわけじゃないと思う。ただ、翠葉に触れたかっただけだと思う。好きだからこその行動……。それだけはわかってやってくれない? 行為を受け入れるとかそういうのじゃなくて、気持ちのほうだけ理解してあげてほしい」

 そう口にした海斗くんの眼差しは少し悲しそうで、声は秋斗さんに対する理解を求めていた。

 目が合うと、

「じゃ、次の人間呼んでくる」

 元気よく立ち上がり部屋を出て行った。


 ドアをぼーっと見ていると、佐野くんが頭を掻きながら入ってきた。

「俺さ、こういう話を女子としたことがないから妙に照れるんだけど」

 佐野くんは恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。

「うん、私もしたことないよ」

「はは……そうだよなぁ……。海斗は?」

「え? あ……ものすごく真剣に答えてくれた」

「そっか……なら、やっぱり本音トークだよな」

 言いながらも口元が引きつる。

 佐野くんは深呼吸をいくつかすると話し始めた。

「俺は、付き合うって言ってもまだ結婚とか婚約とかそういうのはわからない。俺の中でそういうのって学校を出て仕事に就いて自分以外の人を養える状態にならないと考えられないと思う。だから、今は立花が好きだけど、そこまでは考えてない」

 なるほど、と思う。

 社会的自立をしていないと養えないから。そういう考えもあるんだ。

「で、キスとか性行為とかのほう……。マジ、海斗なんて言ってた?」

「えぇと……とても正直でいらっしゃいました」

 なんとなく間接的に答えると、

「御園生、顔真っ赤……。じゃ、俺も本音で言う。男って今が盛りなんだよね。だからやっぱり好きな子とはしたいですよ、色々と」

 日に焼けて真っ黒な差のくんが、それでも赤面してるとわかる顔になり、こちらも動揺する。

「やややっっっ! 別になりふり構わずっていうわけじゃなくてっ、好きな子とだからなっ!?」

 何か喋ろうと思うのに、うまく言葉が出ずに口をパクパクとさせてしまう。

「みっ、御園生っ、とりあえず深呼吸だ、深呼吸っ!」

 コクコクと頭を振り、目を合わせたまま一緒に深呼吸を繰り返した。すると、落ち着いた頃にはおかしくなってふたりとも笑いだす。

「逆に女子はどうなの?」

「え?」

「性行為とかキスとかその他もろもろ」

 じっと見られて少し困る。

「ほかの女の子がどうかはわからないけれど……」

「うん、御園生は?」

「私は怖いの……。さっきの、付き合うことの意味もね、佐野くんと同じかな。結婚とか、そこまでは考えられないの。でも、秋斗さんはそこまで考えてる。そのうえで性行為とかを求められているのだと思うのだけど……。性行為自体も怖ければ、それを意識した途端に秋斗さんも怖くなってしまって、どうしたらいいのかわからないの」

「……そっか。それでこんな相談だったんだ」

 佐野くんはマットに顎を乗せた。

「ほれ、俺は?」

 と、人差し指を差し出された。

 不思議に思いながら、自分の人差し指を佐野くんの指にくっつける。

「……なんでETごっこ? 俺や海斗、藤宮先輩は大丈夫なのか、ってこと」

 言われてようやく意味がわかった。

 一本だけ立てられた人差し指を左手でぎゅっと握る。

「全然大丈夫」

「それは良かった」

 佐野くんは真っ白な壁へ空ろな目をやりつつ、

「秋斗先生限定かぁ……。それって秋斗先生からしてみたら切ないな。でも、あの人大人だし。無暗やたらと襲ってきたりはしないと思うよ?」

 その言葉に先日の不機嫌な秋斗さんのキス攻めを思い出し、咄嗟に握っていた人差し指を放した。

「マジ? なんかあったっ!?」

「え……あ、う……い」

「……いい、御園生黙ってろ。今女子ども呼んでくる」

 彼らしい機敏な動作で立ち上がり部屋を出ていった。


 すぐに飛鳥ちゃんと桃華さんが入ってきて、

「何、どうかしたの?」

 桃華さんが不思議そうな顔で尋ねてくる。

「……ううん、なんでもないの」

 苦笑を返すと、

「佐野が早く行って助けてやれって言うから何事かと思ったよ」

 飛鳥ちゃんも同様に不思議そうな顔をしていた。

 桃華さんは手に持っていたトレイをローテーブルに置き、栞さんが用意してくれたであろうローズヒップティーを私に持たせてくれた。

「私たちは三者面談にしましょう」

 桃華さんの言葉に、どこかほっとする自分がいた。

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