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メダリオンハーツ  作者: 紡芽 詩度葉
終章;世界出立編
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第59話:世界の形

(第四章;世界奪還編を読んで下さっていた方々は先に活動報告を覗いて下さいませ)



 風が吹いている。北のほうから吹く、冷たい風だ。

 人々は寝静まっていた。音を立てなければ遠い空から生物の声が風に運ばれて聞こえて来そうだ。

 俺たち四人は荷物をまとめて再び旅をする準備を整えていた。

 馬に荷物をくくりつけながら、ふとスレイアが聞いた。


「セア、次に行きたいところはあるか?」

「うーん。そうだな……」


 そう言って黙る俺に、ルビンが言った。


「あらセア、そもそもあなた。この世界のどこに何があるかも分かってないじゃない」


 言われて見れば確かに。俺はこの大陸にどんな街があるのか、全くと言っていいほど知らない。


「ちょっと待って」


 そう言うとルビンはポーチから擦り切れた一枚の羊皮紙を取り出した。

 そしてそれを広げながら「これ、見て」と俺たちを呼ぶ。

 俺たちはルビンを囲むようにしてその紙を見る。


 それは、一枚の世界地図だった。


「どうしたんだ、これ?」

「クルータムで買ったのよ。どうせみんな、適当に馬を走らせて旅しようなんて思っていたんでしょ」

「気の赴くままに、なっ」

「サクヤは黙ってて。で、私は明確な目的地がないならいっそ世界を一周しようかな、なんて思って」


 そういえば、ルビンは紋章だったころこの世界の色んな場所を見てきたと言っていた。


「買ってから色々調べて、今こうして提示してみたんだけど、どうかしら?」

「いいんじゃないか」

「じゃあ、何にも知らないセアの為にも説明するね」



挿絵(By みてみん)



「私たちがいるのはここ。真ん中のメルシナ大陸の左下」

「メルシナ大陸の真ん中が、レピア帝国か」

「そうよ」


 ルビンは羊皮紙を指でなぞるように、右下へスライドする。


「これがパルティア大陸、砂漠が広がっているわ。貿易が盛んで隊商が往来しているわ。

 その上がディルヴィア大陸、時計塔の聖騎士を中心に様々な連合国が跋扈している」

「聞いたことがあるな」

「今はでも戦時状態だろ?それでも行くのか?」

「ええ」

「ま、ルビンちゃんの行くところならどこへでも行くけどねー」


 ルビンは呆れたような顔をし、それでも少しだけ笑いながら口にした。


「この四人で、行ける所まで行ってみたい」


「だな」俺も相槌を打つ。ルビンは頷いて、指を左上に置く。


「ここがハクラン大陸は御社や神宮で、その下のカナビシ大陸は長城や宮殿があるわ」

「ルビンの、行きたいところ?」

「そうよ。写真をチラっと見かけて。とても、綺麗だったの」

「なんだ、ルビンも行きたいところがあるんじゃないか」

「でも、余りにも遠いじゃない」

「構わないさ。俺たちの人生はまだまだ長い。10年もすれば、きっとたどり着いている」


 そう言ってからもう一度地図を見てみる。

 その視線の先は、一点に集中していた。


「なあ、みんな。ちょっといいかな」


 俺の言葉に、スレイア、サクヤ、ルビンの三人は顔をあげる。


「俺、行きたいところが出来たんだ。出来たというか、前から行きたかったんだけど」


 そう前置きをしてから口にした。


「俺は、レピアに行ってみたい。崩壊で立ち入ることも出来ないかもしれないけど。それでも、一度。俺が生まれた場所を見てみたいんだ」


 そう言って一つ間を置いてからスレイアが言った。


「いいんじゃないか。故郷を見て置くのはいいことだ」

「私も行ってみたい」


 覚悟を含んだ重い声で、ルビンもそう言った。


「キマリだな」


 サクヤがそう言うと、ルビンはポーチから赤のインクと羽ペンを取り出し、地図のレピアの位置に丸を描いた。


「次の私たちの目的地。ここからだと、そうね。半月もすればつくんじゃないかしら」

「でも確か、レピア帝国は今、立ち入り禁止だったはずだ」

「ま。んなもん向こうに行ってからなんとかすればいいんじゃねえの」


 そんな三人の声に。


「ありがとう」


 そう、人知れず口にしていた。


「当たり前でしょ。一応、このメンバーのリーダーはセアなんだから。もっと好き勝手してもいいのよ。私はどこまでもついて行くわ」


 ルビンは、微笑みながらそう言った。


「でもよぉ、その後はどうすんだ?」


 サクヤの問いに、スレイアは呆れながらもどこか微笑みながら返した。


「旅の目的は旅の中で探すものだ。未来のことは、そう急いで決めなくたっていい」

「スレイアさん、何かの本の引用か?」

「まあな。とある旅日記の一節だ。俺たちにはまだ、生きる目的というものがない。だから、それを少しずつ見つけながら旅をするんだ」


 スレイアの言葉に俺たちは頷く。そして、俺たち四人は馬に飛び乗り、出発した。


 街は静かなままだ。

 俺たちを見送る者は、誰もいない。





⌘ ⌘ ⌘ ⌘





 すっかり馬に乗って走るのには慣れた。この高さから見ている景色も徐々に植生を変えて行き、今では草原が辺りに広がっている。

 空には青空が広がり晴れ渡っている。楓の季節だからか所々枯れ果てた土壌もあったが、きっと半年もすればまた豊かな緑に戻るだろう。


 東へ――、レピアへ向かう。とは言ったものの、大陸の端まで行くとなると一年はゆうにかかってしまう。

 目的のない旅は確かにいいかもしれないが、どこかで断念しそうな気がしてならない。

 俺も、故郷を半ば追いやられるように飛び出して、ビラガで革命に参加して、クルータムでスレイアたちの過去を聞いて。もう3ヶ月も経った。

 こうやって振り返って見ると、この3ヶ月はあっという間だったように思う。


 サクヤと並走しながら慣れたように愛馬、アルテミスを操縦する。

 初めの頃は暴れ馬だったアルテミスもすっかり落ち着きを持っている。


 後ろではスレイアとルビンが話をしていた。ちらほら聞こえてくる内容からすれば、旅の具体的なことを決めているんだろう。予算やルート、生活の事など俺たち四人の旅についてはほとんどあの二人に任せきりだ。

 二人がそんな話をしている間、俺たちが何もしていないというわけでもない。


「セア、見えるか?」


 サクヤが警戒心を含んだ声で俺に告げる。視線の先には、大きな岩があり、その陰に何か蠢くものが見える。


「あぁ」

「オークが二体か。ま、何にせよオレの一振りで」


 そう言いながら背中の両刃薙刀へ手を掛けようとするサクヤを制して。


「俺が行く」と、アルテミスを駆けた。


 先を走る俺とサクヤは危害を加えるモンスターを倒す。それが役割だ。だけど、いつもはサクヤが片付けてしまう。


「たまには俺にもやらせてくれっ」


 そう景気良く声をかけながら俺は颯爽と刀。紋章器【紋章を喰らう妖刀アマユラ】を引き抜いた。

 オークとの距離はドンドンと近づいてゆく。強い風を受けながら刀を握る手は緊張で痺れている。

 だけど、強くなったという自信が根底からこみ上げ、それが身体中に浸透しきった時、俺はアルテミスの背から飛び降りた。


 俺が臨戦体制を取っていることに気づきオークは岩陰から出てくる。

 鈍重な棍棒を持った二体のオークは、腐乱した吐息で空気そのものを掻き混ぜるように叫びながら、その武器を振り下ろす。

 俺はそれを一呼吸のリズムを置いて交わし、懐に入る。

――まずは、一体目!

 心中でそう気合いを込め、足元を斬りつける。そして一瞬体制を崩した瞬間に背に回り斬り上げる。鈍い食感とともに青臭い血を撒き散らすオークを尻目にーー、二体目。


 すっかり攻撃体制に入っているオークの振り下ろす棍棒を流れるように刀で受け流す。

 そして――。


「はっ!」


 溜め込んでいた息を吐き出しながら、そのタイミングに合わせて力強く心臓目掛けて刀を突き刺した。

 充分に取られた飛距離で跳躍し、突き立てた刀はブレる事なく貫通する。


 確実に二体目を葬り去った時、一体目がようやく体制を立て直すがそれを一振り。オークの首を落とした。


 二体のオークを倒し終え、安堵の息を吐いた。


「おー!やるじゃねぇかセア!!」


 ノンビリと速度を緩める事なく来たらしいサクヤが賞賛の声をかける。

 オークを仕留めると信じてもらえたのかと思うと何処か嬉しさがあり、達成感が跳ね上がる。


「あら、セアすごいわね。私は支援する気満々だったけど。でも強くなったんじゃない?ね、スレイア」

「ああ、見事な手際だ。サクヤ、鍛錬を怠けているとすぐに追い抜かれるぞ」

「へっ。まだまだ動きが鈍いな。オレならお前の半分の時間で倒せた」


「そこは素直に褒めろよ」と、俺はそう言いながら、オークの血を拭う。

 あまりこれをノンビリやると、ルビンの悪態が止まらなくなる。

 オーク用の消臭スプレーを撒くとすっかり臭いが取れたので、岩陰に入って着替えを済ますとオークの死体は腐りかけていた。


「さ、セア。準備が出来たんなら行こうぜ」


 そう言って手綱を手繰り前を向きながら、サクヤはもう一言。


「ま、前に比べりゃ上出来だ。そのうちオレが直々に鍛えてやるよ」

「その時はよろしく頼むよ、サクヤ」

「ちなみにオレに教えてもらうってことは、お前はオレの弟子だ。師匠にはちゃんと敬いの気持ちを持ち、お前の分け前いくらかオレに渡すように」


 胸を反らしながら言うサクヤにスレイアが言う。


「サクヤ、それやったら小遣い渡さないからな」

「んなっ、それはナシ!タダでさえ金なくて遊べねぇのによぉ」

「サクヤ無駄遣いしないの!アンタたまには出費の半分でも生活費に回せばどうなの?

 あとね、サクヤ。アンタの服……、ちょっと臭ってるわよ」


 その一言にグサリと来たのか「嘘だろ……」と苦悶の表情を浮かべる。


 俺はそれを笑いながらアルテミスの背に飛び乗り、再び走り出した。





 四人は変わらず道を走る。

 俺は時々、この四人の旅がいつまで続くのか不安になる時がある。

 楽しい旅もいつか終わる時がくる。そう思うと、どこか不安になる。だけど、だからこそ今、四人でいる時を大切にしようと思えるのだ。

 すっかり慣れきった旅路。繰り広げられるのは他愛のない会話。笑いながら走っているといつの間にか夕日が落ちて夜になり、また明日を迎える。

 時たま訪れる街で色んな出会いと物語を繰り返し、また旅に出る。

 そんな日々を繰り返しながら、俺たちは人生を歩んでいく。


 大地を駆ける足は止まることを知らず、曇りない空はまだ見えない明日も照らし続けていた。







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