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メダリオンハーツ  作者: 紡芽 詩度葉
第二章;世界追憶編
54/61

第53話:世界の頂上にて彼は既に真の光を見

ええ、今回迷宮塔パート最終回なのですがどこで何を間違えたのか、文字数が10000ジャックになっております。二つに分けろですね。はい、すいません。

……切り目、わかんねぇです。

ということで軽く読むかって感じの方、途中でホームボタン押して離脱してしまいそうなのでドッシリ腰を落ち着けて読むことをお勧めします。いや、ホントに。


ちなみに今回はオールでスレイア目線です。主人公ですからね、頑張ってもらいますよっ。

では、どうぞっ!

―――――――― 祝福(ベネディクトゥス) ――――――――





――タン


 そんな涼んだ音と共に、氷の階段を昇ってゆく。

 螺旋状のその階段は透き通り、飄々とした水色を映やす。


――これが、最後だ


 階段を昇る音と、装備の擦れる音のみが場を満たす。

 腰に下げた剣に触れ、少しだけ抜く。刀身が氷の屈折に反射し軽く目を灼く。


 他のみんなはただ、静かにその足を上へと動かす。

 一段一段が強い。

 まるで……、見えない誰かに背を押されているようだ。


 <アイアン・キングダム>は感懐かんかいを押さえ込んだかのように、何も話さない。

 ルサスが先頭を歩く。

 悲嘆などない。だが……、彼の雄姿に魂が突き動かされたのか、その双眸には確かな光が宿っている。

 ドナーブルの紋章……。それも魂紋章ソウルメダリオンの漂霊紋が語りかけたギルドの心。

 その思念が死してなお、彼らに意志という名の焔を灯し精神の糧となっている。


 全てをルーンという名の安置に委ね、嘗て自分たちのリーダーであったドナーブルをあの部屋に残し……、奮い立たせた魂をありったけ振り絞り叫んだ声を押し殺しているかのように、腫れた頬を拭い歯を食いしばり昇っていく。


 おそらく、彼らにもう慟哭はいらない。


 待つのは……、栄光という名の勝利とうはのみだ。


 すると冷気が頭上より押し寄せてくる。

 それに、軽く身震いをしながらとうとう頂上へ辿り着いたのかと目測する。


 ルナートは何も言わない。

 もう、言わなくても通じていると信じているから。


 仲間を失った悲しさも、今は引きずってはいられない。


 そして、神々しい光の傘下に俺たちは目を細めながら迷宮塔の頂上へとたどり着いた。




――迷宮塔挑戦開始より78鎡鐶



――挑戦者残数47名



――21階、頂上



――塔龍タワードラグーン、対面





⌘  ⌘  ⌘  ⌘





 塔龍はまるで氷像のようだった。


 ただ、そこに寝ているだけだ。

 だけど、それだけのことなのにその姿を見るたびに戦慄する。

 頂上の広さは各階の広さと同じでかなりの広さを持ち俺たち全員でも一割と満たない。氷結晶があらゆるところに張り巡らされ障害物であるかのように立ち塞がる。


 当の塔龍は静かに中央でトグロを巻きながら深睡している。

 深く覆われた氷の体毛を憚るかのように絶対零度の氷柱が浮遊している。

 蛇のような体をしているが手足は見当たらない。

 全身は薄い水色に包まれおり藍色の鱗が離反するように際立つ。常に身体中が振動し、摂氏0度の境を往来する。


 未だに神秘のベールを纏っているも、その姿は一見しただけで冷艶で、絶佳で、美麗だ。


 すると、ユウがルナートに確認する。


「いつも通り、いっちゃうよ」

「頼む」


 そのやり取りを視認した瞬間、全員が小隊に分かれ塔龍を囲うように展開する。


 ユウがそろりと近づき、おそらく温存していたのであろう特大の樽爆弾を設置する。

……その数、4個。


 そして、ユウが離れ自らの小隊に入ると全員が息を殺しルナートの合図を待つ。

 汗が滴り落ちる。

 ふと、隣のルナートを見やる。

 その眼には、一分の曇りもなかった。


 そして……。


 その手が振り下ろされた。


――刹那


 遠撃型の最大火力のスキルが塔龍の頭部目掛けて発射、投擲。樽爆弾の接触と同時、爆音を轟かせ爆風と破片、そしてスキルにより初撃の大ダメージを喰らわす。


 だが目覚めた塔龍は意に介した風もなく、微動作一つ取ることもなくただゆるりとその身体を起こしその瞳を開く。


 その双眸が俺たちを静かに見つめる。

 深い……。何処までも深い、青。

 それは海よりも深く、空よりも広い。

 そのまま観入りそうになる脳を振りほどき動き出す。


 塔龍はそのトグロを解く。

 それだけで、頂上全てを占領するほどの大きさへと変わる。


……デカいっ。


 だが、そう思うと同時に俺は目の前の胴体に鞘から剣を抜き放ち斬りつける。


 右上から袈裟斬り、払い上げ。

 次々と乱撃を繰り返し、至る所でライトエフェクトが巻き起こる。四方八方から繰り出される乱撃に……。だが、塔龍は微動だにせず不動。


 これが機と見たのか全員が一斉にスキルや魔法、特異能を繰り出した。



――5分



 果てしない数の斬撃、打撃を喰らわせた。だが、外傷を軽く残すのみ。


 塔龍は何もせずただその光景を眺める。


 なぜだ……。

 なぜ、何もしてこない。


 このスキルが、この魔法が、この特異能が効いているのか分からなくなり猜疑さいぎの沼へとのめり込む。

 皆の動きは次第に精彩を欠いていくもルナートが何度も「気を抜くな!」とこえを張り、大規模戦闘レイドを盛り上げようとする。きっと、本来ならドナーブルの大喝で<アイアン・キングダム>も更に奮いたつのだろうが、今はまだどこか鬱屈としたものを抱えているような気がした。

 終わりの見えないその攻防……。いや、攻のみのその状態に徒労感を来す。


 早く……、早く。

 何か、変化が……。


 感触が欲しいっ。追い詰めていくという感触がっ。


 ゴゴ……、と塔龍が少しだけ動く。

 そして……俺たちを見据え、口にする。


『愚かな人間たちよ、もう……満足はしましたか?』


 何ものをも浄化せんとする澄み切った透明な声で、塔龍の声が響く。


『貴方がたへの慈悲は……、ここまでです』


 静謐で息を潜めても、なお難聴なその声を発すると……。


「シャャャャァァぁぁぁああオォォォォォ」


 塔龍の啼き声と共に霙が降り荒れる。

 そして、竜巻となって天空に昇り自在に飛翔しながら天を駆ける。

 頂上の外周をグルリと回りながら口辺にたくわえた長髯を靡かせる。

 喉下にある一尺四方の逆鱗が顎下の宝珠オーブを包んでいる。あの宝珠を割れば、この迷宮塔の踏破だ。


 だがいつの間にやら天に黒い雲がかかり、そこから氷塊槍の五月雨が霙となり振り荒ぶ。


「躱せっ!」


 ルナートの声に即座に思考を転換し、天から降る氷塊槍を躱す。


「戦いは……、ここからだってのか」



そう――先程までの攻勢がただの余興であったかのように

ただ――虚構の優勢であったという錯覚に

いま――底のない深淵に全員が悲嘆していた



 神だ。

 頭上に君臨するあれは、神なのだ

 そんなものに俺たちは挑戦して……、何になろうというのか


 すると塔龍がその長い尾を引き思い切り叩きつける。

 それに対応しきれず、<アイアン・キングダム>から、一人消える。


 そしてついに……、塔龍が攻勢に移った。

 冷眼な眼差しを向けながら口を開け、氷のブレスを吐き出す。

 そのブレスはマイクとヒスワンが風魔法ハーウィルでその進路を定められるも僅かな隙間からブレスが流れ出し、身体に触れた瞬間凍結する。


 冷覚が過剰刺激され心臓が萎縮する。


「各隊! 体制を整え、間隔を空けろ! 隊同士固まるな!!」


 ルナートの指示に各リーダーが散会。それに釣られ全小隊が動く。


 俺はルナートの後ろをただ走り氷雨を躱し弾きながら中央へと向かう。塔龍は飛翔と着地を繰り返しながら俺達を掻き乱す。


「スレイア! 塔龍アレの氷は操れないのか?!」

「あぁ、何度か試してるんだがいつもの氷と生成源が違っていて操れない……っ」


 既に俺も何度か試しているが、ここの氷は何故か紋章の意思を介さない。

 ルナートはそう問いながら次は「ハナ!」と声をかけるが当の本人はそこにはいない。


「あいつ……、あんなとこでっ」


 ハナは隅の方で装飾に背をもたれかけながら戦闘を眺めていた。近くにはスララもいる。


「あいつら……、今回は戦えないから上手く立ち回れっていおうとしてたのに」

「ルナート、上!!」


 そう叫びながらマーニアが槍を一閃し、頭上の氷解を砕く。


「すまんっ!」

「気を抜かないで……。それより、早く突破口を探さないと」


 歯ぎしりするようにマーニアは呻吟する。

 各隊の近接型が地につき攻撃可能範囲へ入った途端に畳み掛け、それを遠撃型が隙を縫って技を繰り出す。

 支援型、遊撃型はタイミングと仲間の状態を把握しベストタイミングでフォローに入る。

 チームワークは完璧だ。


 何だ……、何が足りない?!


 火力は最大出力でぶつけている。

 分厚い鱗と体毛に阻まれながらも着実にダメージは追わせているはずだ。


 だが塔龍に疲労の色は見えない。





 降り注ぐ氷解の氷雨を淡々と交わし、頂上一体に定律的なリズムが生まれる。

 もう20分もこの状況が続いている。

 あらゆる所を切り刻まれ傷だらけの仲間に、何度めになろうかというヒールスキルがかかる。


 疲労と焦燥に駆り立てられる中、ただ無謀な刃を振るう。

 ルナートが時節飛ばす指示する。


 すると……、突然それに耐えきれなくなったのか、先ほどハナに突っかかってきていた<アイアン・キングダム>のハックが飛び出した。

 もちろん狙うは塔龍の喉元に一際強く輝く宝珠。


 1人の独断行動によりその隊の連携は崩れる。


「ハック! 勝手に動くなっ」

「うっせぇよ!! いつまでもこんなことしてられっか!! とっとと終わらせんぜっ!!」


 遠撃型のハックは塔龍の胴を踏み台にし思い切り跳躍する。

 そして、手に持った特大のブーメランを身体を捻りながら投擲する。


「アークスキルIX、無限裂破インフィニティ・ブレイク!!」


 そう叫びながら放ったブーメランは空中で何10個にも別れ宝珠を狙う。

 あの技は一見、攻撃の手数が増えたように見えるが実質の所、力の分散を行っているだけだ。だから数が多いほど一撃のダメージは浅くなる。

 そんなことを重々承知で打ち出したのならおそらく数うちゃ当たる戦法。


 ブーメランの連撃は次々とヒットする……。だが体毛や鱗に弾かれ、空回りし空に霧散するもの。

 しかし……、その中に一つ、歪な軌跡を描きながら回転するそれが。

 宝珠へ、衝突しひび割れる


 分散された力によって放たれたブーメラン。

 そこまでダメージを与えることは出来なかった……と、思いきや。


 塔龍が突如、悲鳴のような雄叫びをあげ痙攣する。

 あの症状は……、麻痺ッ!

 そう認知し、ルナートに視線を送ると頷き返される。

 そして、


「全員っ、チャンスは今しかない!! 一気に畳みかけるぞ――っ!!」


 その声に凍結し停滞していた全員の空気が、豹変した。


 端の方に座っていたハナとスララが立ち上がる。

 ハナは特に何もせず、スララが場の水蒸気を使い水魔法【攻】スプラシュ・オーケアノスで作り出した水圧を極限まで圧縮させた水造弾を打ち出し天から降り注ぐ氷雨に集中発射。

 おそらく、全源素力(マレナス)を使い果たすつもりだ。


 それに合わせリックが「オラクルスキルVIII、神の加護」を起術し天に半円球状の遮断膜を張る。

 これは、内外部からの接触を経つルーンスキルと違い衝突した源素力に反応し効力を消去すると同時に衝突物の源素力のみを吸収し強化し続ける特殊な膜だ。


 ミーニアのサモンスキルIIIがようやく発動しつい先程契約したばかりのゴーレムが巨大な魔法陣と共に出現し、塔龍が再び飛翔しないよう尾を地面に押さえつける。


 ヒスワンとエリシャが氷魔法【攻】(フリージア・ハーデス)火魔法【攻】(ファイム・ヘーリオス)によって造りだした魔法弾を連射。

 その軌道は胴の中心に畳かけたミリアムとキリーナが同時起術によって打ち出した「ナックルスキルXIV、スタンノッカー」に見事に触れないよう微切に調整され魔法弾は付着と同時に魔法陣を撒き散らしながら破裂。


 すると、塔龍タワードラグーンが一啼きする。

 それと同時に場にあった全ての氷結晶が砕け割れ、破片となる。

 それは見切り不可能な軌道を刻みながら旋回し俺達に襲いかかる。ミカの渾身のサーベルとユウのボマースキルが塔龍の2本の角を砕き割り苦しみに満ちた声を出す。


 突進していたフルールとサクヤの側に氷槍が接近するも、マイクの矢とメイのチャクラムが被ることなく全槍撃ち落とす。

 まるで撃ち落とされるのを確信していたかのようなフルールとサクヤが起術。


「ソードスキルX、草薙の剣ッッ!!」

「アークスキルX、恢掻(グレス・エヴルス)!!」


 二つの衝撃波が胴を断つ……と、思われたが幾片の鱗が飛び散るのみに終わるも塔龍は軽く呻き声を上げる。

 氷槍にやられたハガイとマグドに、ダニエルとレノンが即座に「ヒールスキルIX、リフレッシュ・バブル」をかけ軌道上にいた他のメンバーにも回復をかける。


 ルサスとマーニアが槍を軸棒にして跳躍していた。

 2人は塔龍の頭上から宝珠目掛けて思い切り起術する。


「「ランススキルXII、天翔裂槍臥てんしょうれっそうがっ!!」」


 2人の周りに竜巻が起き、オラクルスキルの神の加護による遮断膜を加速の踏み台にし思い切り貫きにかかる。

 それを目視した塔龍が全氷槍を2人に集中攻撃させる。


 だが、ミサが予め全氷槍にかけていた「ルーンスキルVIII、ブロックコフィン」により全てが棺に収められミサの前に集結する。

 塔龍が麻痺から解放されたと同時2人の槍がつきたつ。その瞬間、ミサが棺を開放し全氷槍を塔龍向けて打ち出し今にも飛翔しようとした塔龍を牽制し留める。


 そしてつき立った槍が抜かれ2人が着地したその瞬間。



――まるで、今までの攻撃が赤子の抵抗出会ったかのように



――塔龍が大きく身震いした瞬間、全方位に暴冷風が放たれ




――交わす間もなく全員が吹き飛ばされ、その場に凍てつく




「バ……、かな」


 咄嗟の起点でミサがルナート、そして近くにいた俺に極小のルーンを張る。だが、ミサは足元を凍らせ身動きが取れない。


 完全に凍てついた者はおらず完全に動けるのは俺とルナートだけになったその瞬間、塔龍が俺達2人に食らいつく。


 バ――っ!! 俺とルナートは正反対に避ける。

 床を巻き込み氷塊が辺りに飛ぶ。


 そのまま塔龍は勢いを殺さずトグロを巻きながら頭を後ろに引く。

 そして、口元の大気が渦を巻くように揺らぐ。源素力が圧縮されていく。


 あれは……っ、氷圧弾か!?


 そう思うと同時、人間では精製不可能な量の源素力を含んだ氷圧弾が吐き出される。

 狙いは……。


「俺か……っ!!」


 咄嗟に左へ避けようとする……が。


 足元が氷結していた。

 いつのまにっ?!

 足が動かない。動かせば動かすほど冷覚が刺激されていき、痛みが増していく。


 俺の気づかない内に凍結されていたのだ。それも、初めから俺に狙いを定めて。


 知性だ……、ただのドラゴンではない。

 絶対なる知性を持った生物だ。


 クソ……っ!!


 どんどん近づいてくる氷圧弾が視界を完全に埋めようとした瞬間……。


……浮遊感が俺を包み込む。

 足元の氷結晶が砕けている。



――……一瞬だった



――ミサが手の甲を光らせ放った見たこともない特殊な火炎弾が俺の足についた氷を飛ばし



――同時に俺を突き飛ばしたルナートに



――塔龍の氷圧弾が直弾する



――それを脳で理解した途端、ルナートが視界から消え



――頂上の周りに張られた氷の装飾を突き破り



――場外に飛び出る



――その刹那の出来事に対応出来る者は……、いなかった



「ルナート――っ!!」


 どうして……、どうして俺をかばって?!


 焦燥が、恐怖が身体中に襲いかかる。


 どうすれば?!

 ルナートを助けないと……。

……だが、ここの氷は使えない。


――あぁ!!


 くそっ!

 こんなことを考えている内に何か出来るだろっっっ。

 考えるんだ。早く……、はやく――ッ


 何かないのか?!?!


 視界に入るもの全てを瞬時に脳に叩き込み全ての可能性を……、捨て……。


「――これしか、ないっ」


 頼む、頼む頼むっ!!


 効いてくれ、動いてくれ――っ!!


 両手を床につけ、強く念じる。

 紋章……、''氷結''っ!!

 お前は、俺の意志によって変わるんだろ?! 俺の魂だろ?!


 視界に入ったのは膨大なる量の''氷''

 この全てに俺の特異能''結克する氷の傀晶クリジエート・バリリルス''で意思を宿せたら――っ!


 これしかない……、頼むっ!!

 もう……、失いたくないんだっ。

 大切な仲間を、命の恩人を、俺の……。初めての親友ともを!!


「''氷結''の紋章!! 俺の――俺のこえを聞けぇぇ!!!!」


 虚空に叫んだその声に――ピシッっと。俺の声に答えるかのように、頂上の床に張り巡らされた氷に亀裂が入り、大音響の破裂音を轟かせ一斉に割れる。


 飛び散った氷の欠片が全て俺のところに収縮していく。

 みんなを凍らせていた氷も……、この大気中にある水蒸気も――



……全て、''氷結"させるッッ!!



 集結していく''意思を宿した氷''は大きな鳥へと姿を変えていく。


 巨大な……、青い鳥だ。


 そして、氷の大鳥が創成される。

 大きく羽ばたきをすると、羽毛のように氷結晶を撒き散らす。


 その感慨に胸が溢れそうになるがそれを押し込め氷の大鳥に飛び乗る。すると塔龍もトグロを巻き離陸体制を取る。


 そして……。



――塔龍と全く同じタイミングで、俺を乗せた氷の大鳥は天へと飛び立った



 バサァァァッ、という飛翔音を頂上に残す。


 足を掛けている氷の大鳥の背にある突起物はしっかりと固定されており、手をつけている体毛の部分がヒンヤリとしている物の力強さを感じられる。

 風圧と冷風が身を切り髪を靡かせる。

 背後から塔龍が今にも喰らいつかんと追ってくる。


 早く――早くっ!!


 すると雲を切り視界が開けた瞬間真下にルナートが落下しているのが見える。

 もう地面に着いてしまいそうだ。


――ピト


 何かが頬に触れ、氷結していく。

 これは……、何だ?

 その水滴は真下から次々と込み上げてくる。


「ルナァ……、ト……」


 涙だ。

 決して、流すことのなかった涙。

 いや、ルナートが一人で泣いていたのは知っていた。俺が支えることは、出来なかった

 ずっと支えられっぱなしだった……、だけどッ!



「俺はもうッ、あの時の弱い俺じゃないっ」


 両手に力を込め氷の大鳥にありったけの意志を流し込む。


 間に合えッ、間に合え……ッッッ!


 落下音を残響に氷の大鳥が加速する……、そして。


――数瞬の秒差でルナートの下にまわりこみすくい上げた


 腕に抱えたルナートはまだ正気を保っていた。


 ルナートは俺を見る。


「助かった……」


 その声に安堵の息を吐き、急上昇。


 急降下してきた塔龍を抜き去るそのタイミングを見計らい、腰から剣を抜刀し宝珠目掛けて斬り払う。


 だが、剣は宝玉を覆う凍結した体毛に激突した途端……、無慈悲に根元から折れる。

 砕け折れた剣の刀身が落ちていく。

 だが、俺の中にある未練をすぐに取り払い柄ごと捨てる。

 長いこと……、世話になった。

 役目を終え、落ちていく剣に心の中で声をかける。


 そして、再び頂上の高さへと舞い戻る。

 下から吐かれたブレスを交わし、降り荒ぶ氷雨を交わす。


 一瞬でも気を抜くと終わりだ。


 両手に込めた意思をコントロールし、絶妙なタイミングで交わす。

 天は暗く、灰色の雲が辺り一面に浮かんでいる。振りゆく氷雨も黒い。


 だがそんな中、神々しい光を放ち追尾し続ける塔龍と対面する。


 そこから、壮絶な空中戦が始まった。

 大鳥を操作し、氷圧弾や叩きつけられた尻尾を回避。

 ルナートが視界を効かせ繰り出された技を即座に俺に叫ぶ。

 それに呼応するように大鳥を操りルナートの指示方向の反対方向へと向きを変え交わす。


 2人の意志が混じりあい、一つの塊となる。

 見えない……。何か、突破口はないのか?!

 塔龍の宝珠は体毛に隠され、俺とルナートの持っている技では確実に狙えない。

 どれほどの長さがあるのかと言うほどの胴体を操る。


「スレイアっ、右っ!!」


 しまっ――っ、反応が遅れたっ!

 塔龍を見る。

 まるで長大な蛇を模した透水な胴を竜巻の様に回転させながら大きく口を開け喰らいつく。


 ぱ……、リィっ、と氷の大鳥の右翼が削がれる。

 パランスを失う大鳥の他の部分から氷を移動させ即座に補強する……が。


「くっ……。重量オーバーかっ」


 体積の減った氷の大鳥の背にのった二人の男。この重さに耐えうる量の氷は今はない。


 どうする――?

 一気に畳み掛けるかっ?!


 すると塔龍がトグロを巻きながら再び頭上で体制を立て直し、突進してくる。

 このままじゃ、ぶつかる――っ。

 それに今は操縦不可な為、交わすことは出来ない。

それにこれ程大掛かりな氷をコントロールするため、意志が宿っていたとしても俺が両手を放し源素力を注ぎ込むのをやめれば砕け散ってしまう。


――もう、手はないのか?!


 焦燥に冷や汗が流れ出るも一瞬で氷結し背中を蝕む。目を見開き、思考を張り巡らせ突破口を探す。


 強く手を握る……。だがそこに、突然何か冷たい金属のようなものが押し当てられる。


「ルナート――っ?!」


 俺の手にはルナートが愛用していた短刀が握られている。そこから、確固たる果断の意志が雪崩のように押し寄せてくる。

 そして、ルナートはその黒き双眸で俺に語りかける。


「このナイフ、お前に託した。後はお前が決めろ」

「おいっ、待てよルナート! まだ他に何か!」


 トンっ、とルナートが大鳥の背を軽く蹴る。

 支えていた手を離し――落ちていく。


「ルナートッッ!!」


――咄嗟に突き出したその手、だが届かない


――そして、ルナートは俺を見て……、笑った


――初めて会ったあの日のように


――無邪気なその瞳に……、語りかけられる




――『お前はもう、1人じゃない。塞ぎ込み弱かったスレイアはもういないっ。胸を張れ!自分で自分を縛るな。お前はもう、自由なんだから……』




「スレイアッ!! 強く、生きろッ!! 自分のその手で、お前の選んだ道を!!」




――その声が耳に届いた時には、ルナートの姿が消えていた



――溢れ出る涙は氷結しながら、ルナートの後を追うかのように落ちていく



――待ってくれ、失いたくない……、でも!



「今の俺がするべきことは……っ!」



――気づかせてくれた、ルナートが



――死んでいった仲間、頂上まで辿りついた仲間……、その全ての意志を



「俺一人が担いでるんだッッ!! 俺が……、終わらせてやる。この挑戦を!!」



 ルナートの分の重量が消え、大鳥は体勢を立て直す。その叫び声に答えるかのように大鳥の氷が俺に憑依するかのように侵食しまとわりついていく。


 視界が完全に透明な水晶のような景色へと変わる。

 完全に一体化していた。

 自由だ……。

 俺にはどこまでも行ける羽がある。


 目を見開く。

 目の前に閉ざされた氷を突き破りルナートに託されたナイフを突き出す。


 視界に塔龍の宝玉を捉える。

 一直線だ……、今しかないッッ!


 俺達の勝利のために、仲間達の意志に答えるために。

 閉ざすものも、支配する者もいない。

 どこまでもっ、遠い未来へ!




「行ッッけぇぇぇぇ――――ッッ!!!!」





――氷の大鳥は狙いあまたず、塔龍の宝珠へルナートの短刀が衝突する



――耳を覆いたくなる轟雷のような衝撃音



――砕けちり宙へと消えていく氷の大鳥



――そして、鮮やかでどこまでも透き通った葵い宝珠の破片が



――俺の視界を覆い尽くした、その瞬間






――世界は、膨大な光によって真っ白に包まれた







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