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メダリオンハーツ  作者: 紡芽 詩度葉
第二章;世界追憶編
53/61

第52話:天より主を讃め揚げ、悔いなく世界を旅立つ者

―――――――― 三聖頌(サンクトゥス) ――――――――




 扉が開かれた。


 ミサが中央に眠るモンスターを視認すると同時、モンスター図鑑を開く。


「考古系モンスター、【オーパーツゴーレ】。弱点は頭部の紋章。パンチやストンプ、岩石飛ばしなどが主な攻撃だけれど基本的にゴーレムと同じよ」


 そのミサの声に頷く。彼女は非常に優秀じゃ。

 かなりの文献を読んでいるのか考古学、天文学、創世学、兵法学、心理学にも長けていると聞く。


 儂のギルドにおって欲しかったのう……と、ついそう思う。

 両手に持つ鎖に力を入れる。

 手慣れた鎖の凸凹の感触が今は気持ちがよい。


 目の前のオーパーツゴーレを見る。

 背丈は天井に届きそうで普通のゴーレムより二回りは軽く巨大。

 肩や頭など至る所に苔を生やし、藍色の岩石によって構成された図体に黄色い光脈が流れており、四角い頭から足にかけて謎の古代文字が刻まれておる。


「行くぞ!!」


 ルナートの声に全員が動き出す。


「ドナーブル様っ! 行きますわよ!」

「分かっとるわい」


 ハンラの一言に、儂は走り出す。

 モーニングスターを引きずると同時に氷床が抉れ氷塊が飛び散る。


 フルールの小隊がまずは突撃。フルール、サクヤの斬撃が背を叩く。

 ユウの爆弾が投擲され頭部を爆破するが外傷に変化はない。

 <零暗の衣>の戦闘パターンはある程度掴めるようになったものの、やはりまだまだ奥が知れん。

 オーパーツゴーレは天井に手をつける。

 すると、そこから氷岩石が降り注ぐ。

 異空間から転生したのかまたは創生したのじゃろう。

 天井に削られた後はない。


 じゃが、降り注ぐ氷岩石に注意することなく攻撃を続ける。当たるかと思うがリックのオラクルスキルが粉砕。

 それを見越していたのかサクヤとフルールの同時スキルによりオーパーツゴーレの右足に直撃させ転がす。


 初見にしては、なかなかいい動きをしよる。

 それに合わせ両サイドからヒスワン、ルナートの二隊が突っ込む。

 そして、一斉攻撃。

 互いの攻撃を完全に理解しているのか誤射や誤撃はない。


 このコミュニケーションは儂たちのギルド<アイアン・キングダム>にはないものじゃ。


 次々と打撃が続く。

 その神業のような光景を見ながら、天才少年団という言葉に鳥肌を立たせる。

 奴らは……、一体どう生き、何を見てきおった? その強さはどうやって手に入れたんじゃ?

 次々と浮かぶ疑問。

 じゃが、一つの結論が脳裏を浮かぶ。

 きっと、彼らは道を踏み外したのじゃろう。

 そして、本来人が歩くべきでは無い修羅の道を潜り抜けてきたということか。


 彼らの生き様。

 フン……っ。なかなか面白味がありそうじゃ。

 迷宮塔を踏破したのち、ゆっくり聴きだすとしようかのう。


 すると、ルナートの声が儂の中に浮かんでおった思考の泡を弾き飛ばす。


「ドナーブル、スイッチ!!」


 その声とともに<零暗の衣>が退き<アイアン・キングダム>が突っ込む。

 体制を立て直しつつあるゴーレムに重撃が重なる。


 儂も若いもんに負けてはおれんのう!!

 

 そう思いながら、儂は特大のモーニングスターを振るい回した。





 5分ほど経つとオーパーツゴーレの各部はヒビ割れ、かけ壊れていた。攻撃も暴れるでもなく、氷岩石落としや殴打くらいで順調だった。


 そして、儂は同胞に大喝する。


「動きが止まったあ、畳み掛けるぞお!!」


 儂のその声に<アイアン・キングダム>の同志達が重撃を重ねる。

 オーパーツゴーレの弱点である後頭部を見る。欠けた岩石が垣間見える。

 じゃが、リーチ的に他のメンバーでは届かぬ。


「全員下がれい! 最後は儂が決める!」


 その指示に同胞たちは距離をあける。


「終いじゃ……。アークスキルVIII、金剛化(ディアマンテ)!!」


 モーニングスターの星球を硬化させ身体を捻りながら鎖の握力を弱め、滑車から鎖を引き出す。そして遠心力を乗せモーニングスターをオーパーツゴーレの前面部にある紋章に叩きつける。


「グ……、ゴゴゴォォォォドトォォォォォアガガ」


 オーパーツゴーレが、耳に痛い断絶魔と共に頽れる。


「ハァハァ、やったかいのう」


 そう言いながら腰を下ろす。

 他の面子も武器を下ろし勝利の美味に酔いしれる。

「お疲れー!」とハナが叫びながらルナートに抱きつく。まったく、若いモンは相応に色気付きおって。そんなことを思っていると、ルナートはハナを押しのけながら全員を奮い立たせる。


「まだ、頂上がある! 全員、気を抜かず最後の塔龍(タワードラグーン)を倒して……、踏破するぞ!!」

「「「おぉーっ!!」」」


 その返事が、ボス部屋一帯に轟く。やはり、この男にリーダーを任せて良かったのう。儂のような老骨より、よほど先導力があるわい。……この塔を踏破し終えれば、ルナートと一杯やるとしようかのう。

 また、楽しみが増えたわい。

 そんなことを思っておると、全員が休憩の体制に入る。

 武器を磨くもの、ヒールを受けるもの、緊張の糸を解き談笑するもの。その中でただ一人……、ミサだけが体制を変えず壁の端でその様子を眺め――っ?!



――突如、脊髄を雷が貫くような殺気と悪寒が走った



――咄嗟に辺りを見回す、そしてその視界にあったものに、儂は絶望する



――馬鹿な……。そんな、ハズは……っ



――ボスの部屋、今ここで起こるであろう現象を察知出来ているものは



――儂と、ミサのみだった



「貴様らぁぁぁぁぁ!! 今すぐ部屋から出ええいいいい!!!!」


 喉が潰れんほどの声で叫んだその瞬間。


 崩れたオーパーツゴーレの氷岩石の欠片が浮遊し何かを形づくっていく。

 そして、それはモンスターの形となり……まるで意思を持ったように動き出した。


「何だ?! こいつら!?」「うわぁぁぁ!!」「撤退だぁ!! 退け、退け!!」


 その焦燥の声とルナートの咄嗟の指示、儂の叫んだ言葉の意味を理解した同志達が急いでボス部屋を退室していく。

 磨いていた武器を担ぎあげ、途中で転ぶ者もいる。

 だが、暴れまわるモンスター達をしっかりと凝視すると……、再び強烈なる絶望感に苛まれた。

 

「う……、そじゃ」


 儂は立ち止まりその光景に唖然とする。

 そのモンスター達の姿が……。


 ”今まで倒してきた各階層のボスと全く同じ形をしていた”のだったのだ。


 そして、次の瞬間。意思を宿したオーパーツゴーレの氷岩石で出来た、各階層のボスモンスター達が暴れまわる。

 【グリジャード】が獰猛な岩の牙で食い千切り、【アブサッロム】の岩の葉刃に引き裂かれ、【パンドラボックス】の岩の棘に絡まれ岩箱に吸い込まれ嚙み砕かれ、【スライム・スライム・メリーズ】ののし掛かりで下敷きになる。


 両ギルドから数えられないほどの犠牲が出る。

 すると、グリジャードが儂の目の前から襲いかかってくる。

 誰かが儂の名を叫ぶ。

 じゃが……。


「こんな修羅場で退く漢が、リーダーなど出来る訳がなかろうがッッッ!!」


 思い切り瞠目し、鎖を引き絞りグリジャードの顔面にモーニングスターを叩きつける、顔面が少しだけ欠けた。それに、グリジャードは数秒怯む。


 その瞬間、儂も扉の方へ向かって駆け出す。そのまま扉の外へ出れば安全地帯だ。全員避難も終わっておる、後は儂だけじゃ。

 ……じゃが、彼奴らを野放しにして、この迷宮塔の踏破クリアなどあり得んだろう。

 どうすればよいか? そんなもん、わざわざ聞かんでも分かっておる。

 そして儂は、扉を出る直前で止まる。


「ドナーブル、後はお前だけだ! 早く来いっ!!」


 ルナートが叫ぶ、だが儂は扉の手前で立ち止まり退散し終えた同胞達を見る。

 そうじゃ、答えなど簡単なことじゃ。


「よく聞けえ、同胞達よお! 彼奴らは、儂が一人で引き受けたあ! お前さんらは体制を立て直しておれえ!!」


 双眸で全員に語りかける。


 このまま体制を立て直し全員で挑んだところで勝てはしない、と。

 指示が入り乱れまともな大規模戦闘(レイド)になりはしない、と。

 儂の、儂の能力ならば、一人でも十二分に戦えるであろう、と。


 数は20体。

 それぞれが先ほどまで倒してきた各階層ボスと同等以上の力と能力を持っている。


 儂は両手で扉を掴み少しずつ閉めていく。

 手を離しているモーニングスターが肩に重くかかる。すると、ルサスが泣きながら手を伸ばす。


「リーダーっ。早く……、早く来てください! お願いです、早くっ!!」


 その声に少しの安堵を感じる。

 <アイアン・キングダム>の同志を見る。

 全員が悲観した顔で儂を見る。

 そんな彼らに儂は声をかけた。


「心配するなあ、あの程度のモンスター共。儂が蹴散らして生き残ってみせるわい。良いか、儂から最後の……。いや、違うのう。

 <アイアン・キングダム>がリーダー、ドナーブル・ガッキマンより同志達に命令じゃあ!! この部屋から一切の音が消えるまで決して開くでないぞ! そしてえ……」


 思い切り息を吸い込む。

 彼らには生き残ると言っておったが、心のどこかで分かっておる。

 あの20体とやり合って生き残れる可能性など皆無。

 死は覚悟していた……、じゃから……。


「……必ず――迷宮塔(ダンジョンタワー)を踏破せい!!」

「嫌です……っ、リーダー!! お願いですっ! 戻――っ」


 儂は……、強く扉を閉めた。






 扉を背に、儂はゆっくりと振り向く。

 全モンスターが儂を見ていた。

 儂はそれらを一瞥し、静謐せいひつに歩き出す。


 モンスター共は動かず、ただ儂の様子を伺う。やはり、殺すことのみを目的意志としていない。

 知能があるのだろう、今までのボスと違う。中央にオーパーツゴーレがいた。


「さあてと、始めるとするかいのう」


 引きずってきたモーニングスター……、いや。


「【万物を毀す鎧球モルゲンシュテルーク】よ……。最後に、儂に力を貸せい」


 肩に乗せた滑車の中心にある黄色の宝玉がチカっ、と応えるかのように点滅した。

 それを目に留めながら、ザッ! 思い切り足を踏み込み、体を限界まで捻り絞り、両手の握力を限界にし、双眸を光らせ、腹の底から咆哮する。


「”殲滅”の紋章装填(メダリオンロード)!!

 特異能”骸死の嵐”いいいいい!!!!」


 身体を旋回させ、地面にイメージで小さな円を描きそれをなぞるようにステップを開始。

 その瞬間、全モンスターが動き出した。


 モンスター共は常にどの瞬間でも儂を殺さんと襲いかかってきおる。

 じゃが、全方位に繰り出される嵐撃は儂に攻撃を一切引きつけず蹴ちらす。

 本来なら一撃が当たった程度では完全には砕けない。

……だが、紋章器が紋章の力を最大まで引き出し止まることなく触れたもの全て粉砕していく。


 右足を前に出し左足を引く。

 右手の握力を緩め、左手の握力を強め二つのモーニングスター……いや、モルゲンシュテルークのリーチを微調整し一匹たりとも儂に触れさせず毀してゆく。

 小円でのステップも、完全にリズムを把握し乗り切る。フロー状態に入れば、サークルに沿ったステップへの意識も消え去り確実に当てることのみに集中出来るはずじゃ。

 膨大な外の遠心力を中のサークルステップで中和しながら、ひたすら敵を葬ってゆく。

 星球を全方位に常に振り回す上、星球と儂の間には長大な鎖があるゆえ、仲間がいる場合ではこの戦法は使えん。

 じゃから、今。この味方のいないステージは、儂にとって最高の戦場であった。


 視界がグルグルと回る。振り回し旋回する星球に思考が浮く。


 筋肉がはち切れそうじゃ。

 遠心力に引き回される星球に身体ごと持っていかれそうになるが両足で踏ん張る。


 回転の風圧に耐え切れず、皮膚が悲鳴をあげ切れる。ほとばしる血が肌を濡らし、飛び荒ぶ汗が鎧へ沁みてゆく。砕いた岩石の破片が身体中、鎧全体へぶつかる。


 爪が剥け、歯が砕ける。

 身体中の細胞が感覚器官を通し痛覚限界を訴える。

 脳が痛覚を遮断しついに……、感覚が消える。


 思考は低迷し、混濁する。


 鎧の留め金が外れ地面へ落ちる。

 心臓が口から飛び出そうだ。旋回の嵐は止まず、敵を砕き割っていく星球は常に儂の視界の先で鈍く光っておる。

 右の目玉に、舞い散る氷片が刺さり片目がブラックアウトする。


「ぐっ……、ガァァァッ!!」


 思い切り瞼を閉じ、刺さった氷片を途中で砕く。

 そして儂は、片目を閉じたまま回転を続ける。

 迷宮の氷に目が痺れる。

 鼻腔が自らの血と肉と鎖の焦げた臭いで満たされる。

 上唇が剥がれ飛び舌を噛むも怯むことなく降るう。


 何匹屠っただろうか。

 何回転しただろうか。


 何も分からず、何も感じない。

 ただただ視界が横へ引き伸び変わっていく。

 フロー状態に入ったのか、いつしかステップの感覚も消え、モルゲンシュテルークの重さも消え、リーチを調節していた腕の感覚も消え、踏ん張っていた脚の感覚も消えていく。


 鎖の摩擦に手が焼ける。

 あと、何体じゃ?!


 ”殲滅”の紋章はその名の通り、視認した敵を全滅させるまで、主の精神エネルギーを暴走させる。

 アークスキルVIII、金剛化(ディアマンテ)の影響がまだモルゲンシュテルークに効いているはずだが少し綻びを生じている。


 既に身体は限界を超えている。いつまで、儂の身体は持つじゃろうか。

 10分は……、もう経ったじゃろうか。

 扉は……、開かない。


 ダメじゃ……。

 まだ持ち堪えるんじゃ、儂の足よっ。

 (よわい)40のこの身体よっ。

 肉体はとうに朽ち、儂は唯一残った自我の魂のみでモルゲンシュテルークを振るう。

 嘗ての儂の身体なら倍は持たせていられただろうか。


 星球の嵐はやまない、嫌。

 紋章が止ませてくれない。


 視界の揺れが少しだけ収まる。

 あと……、4体。


 すると、一瞬だが力が抜け旋回速度が弱まる……。その瞬間。


「ぐるぁぁぁががっ!!」


 肩を喰らいつかれた。

 滑車と共に……、右腕を持っていかれる。失った腕の痛みすら感じない。じゃが儂は唸り声を気合いに変え、思い切り叫ぶ。


「ンぐぁぁっ!! ご……、のや……、んぉぉ……っっ!!!」


 残った左手でモルゲンシュテルークを振るい、頭上から叩き割る。突然片腕を失ったことでバランス感覚がおかしい。


 あと、3匹っ!!


 身体中が火照る。

 自分自信が何なのかすら分からなくなりゲシュタルト崩壊を起こす。


 じゃが、旋回の嵐はやまない。


 まだじゃ……、まだ……!


 地中から飛び出してきたモンスターをリーチを縮め粉砕。それと同時に脊髄が逝ったのか体が動かなくなる。


 ガシャンッ……。不意な落下音と共に握っていた鎖から手が離れ、モルゲンシュテルークの星球が地に落ちる。


 ここまで……、なのじゃろうか。


 そのまま、ドサリと倒れこむ。


 身体は動かず、思考は回らぬ。

 まるで、脳味噌がショートアウトしておるかのように。


 残り……、二体。それなら、あやつらでも――




――嫌……、じゃ


――彼奴らは……



「儂の……、獲物じゃぁあっっ!!!!」


 最後じゃ、答えよっ!! ”殲滅”!!

 儂に力を貸せ!!

 身体も脳も既に死んでおる……、じゃがっ。



『儂の……、儂の魂はまだ死んでおらんッッ!!

 同胞達(あいつたち)頂上(うえ)に導くために!! 最後の血肉の一滴が散るまで倒れるわけには……、いかねぇんだよっっ!!」


 口調が――昔の俺に、戻る。

 あの若くてヤンチャばかりしていた頃のことが走馬灯の様に流れる。

 ただの少年だったあの頃、初めて手に取った剣の重みを。勇敢孤高に軍を馳せ、凱旋のエールを高らかに称賛されたギルドの栄華を。胸の片隅で仄かに憧憬(どうけい)理想(ゆめ)を抱いたあの頃を。

 目の前に昔の自分が朧げに現れる。 

 ギルド結成を夢見て、ただがむしゃらに腕を磨き続けていた時の自分が。

 そして、その幻影がゆっくりと笑いかける。


――いいだろう


 声じゃ。

 紋章の……、声。


ーー力を貸そう


 俺が昔から聞きたかった声。

 紋章器の真の器にのみ聞くことが出来ると言い伝えられてきた、紋章の声。


ーー使え、この力を

 

 最後の魂の一滴。

 使わせてもらうぞ……。


「……”殲滅”の、紋章解放(メダリオンハーツ)!!」


 これは……?!


 振り返ると自らの身体が地に伏していた。食い千切られた右腕がある。

 じゃが……、儂の身体を見てみると全体が半透明な水色に発行しておった。


 これはまさか……、思念体?!

  

 背後には家屋を崩壊させながら舞い散る木片、血飛沫を取り込んだ巨大な竜巻を連想させる文様が映し出された、”殲滅”の紋章が暴輪旋転をしておる。

 なる……、ほどのう。紋章とは、人間の魂であり意志であると聞いておったが。

 まさか、肉体が死してなお生き続ける儂の”紋章たましい”は、まだ死んではおらんらしい。

 背後の巨大な紋章を見る。確か……、これはーー


紋章メダリオン……、解放ハーツーーッ!」


 口にした言葉に、儂は静かに戦慄する。そうじゃ、これじゃ。これこそが真の王の器にのみ使いこなすことの出来る紋章解放メダリオンハーツ

 なる……、ほどのお。こんな感覚じゃというのか。


 そして儂はゆっくりと、だがしっかりと紋章器【万物を毀す鎧球モルゲンシュテルーク】を両手に掴む。

 思念体じゃからとて、それを握れぬわけではないのだ。それが紋章器であるかなどと、愚昧な疑問などは浮かばぬ。


 さぁて……。ずっと、儂と共に生きた盟友よ。

 共に……、この世界で朽ちようではないか。


「ぁ……、ルォォォォォォおおおおお!!」


 そして儂は、最後の力を振り絞りながら残りの二体へ思い切りモルゲンシュテルークを揮ったーー





ーー儂の視界は、全てが白くなった



ーー完全に砕け粉々になった氷岩石が微風に流される



ーーモルゲンシュテルークは砕け割れる、その姿は雄々しく儚かった



ーー倒したのじゃ。あの20体の階層ボスを、儂が一人で



 音が、消えた。

 その瞬間、大きな音を立てて扉が開かれる。

 雪崩れ込むようにして部屋に入った同胞達はその部屋の光景を見て佇立し、壮絶な戦いを綺想した。


 儂は思念体のままそれを眺めておった。


 <アイアン・キングダム>の同胞達が、儂の亡骸の周りに集まる。

 ルサスが飛び散った儂の右腕を抱きながら何かを叫んでいる。

 皆は、滝のように涙を流し、鬱屈とした叫びを押し殺し、ただただ儂の亡骸を見る。

 涙の音だけが耳に聞こえてくる


 あやつら……。


 儂は、それに見かねて、一つ大きく息を吸い込み、思い切り吐き出した。


『顔を……、上げんかい!!』


 その声にルサスたちは驚いた表情を一つ取り辺りを見回す。やはり儂の魂の姿は見えんのか……、じゃが声だけ聞こえておるのなら充分じゃ。

 これで最後なら、儂の最後の言葉というやつを伝えるしかないのう。


 もう一度、深呼吸をする。

 自らの亡骸が酷く散乱しているが、どこか綺麗であった。

 天晴れ。そう言うに相応しい死に様である。


 そして、あの死に様が、儂の周りに集う同胞達……。あれが、儂の生きた証じゃ。


『儂のギルドの同胞達よ! よおく聞けえ! 儂が死んだからとて、このギルドが死んだ訳ではない! じゃから、そう悲観するな!』


 その声に顔を覆い泣き出す、''仲間''。

 その姿を見て、嬉しくなる。この姿を見て、これでこそギルドを作り上げた甲斐があるというものじゃと一人頷く。

 こんなに仲間に囲まれて、こんなに儂の死に悲しんでくれて……。

 儂がどれだけ幸せだったのか。

 死んでから、分かるなんてのう。


 ならば、伝えよう。儂の最期を。

 これまで共に生きてきた<アイアン・キングダム>の面子に、ありったけの想いを込めて。


『よいか! 儂の死をいつまでも引きずるでないぞ……、儂はこのギルドがある限りお前さんらの中に生きとる。それからルサス……。いや、<アイアン・キングダム>新リーダー! 顔を上げんかい!! 儂らのギルド理念を忘れたんか!!』


 ルサスがついに、儂の声の元をを見つけたのか儂の方をしかと見る。


 その表情は儚く脆く、今にも泣き崩れそうであった。


『同胞達よ、よおくその胸に留めておけえ! 漢なら、決して人前で涙を流すなあ! 女なら常に男より強くあれ!! そしてえ……っ、''鋼の意志と鉄の身体''で、<アイアン・キングダム>の誇りを胸に堂々とこの世界を踏みしめていけえ!!』


 儂のその声に。


「「「はい!!!」」」


 全員が儂の方をしっかりと見ながら声を揃えて大きく返事をする。

 いい表情じゃ……。お前さんらのおかげで後悔はなくなったわい。

 あれこそ、儂がずっと作りたいと夢見続けた(ギルド)じゃ。

 消えていく視界の中、最期の最期まで、その光景を目に焼き付けるーー



ーーそして、儂の視界は白くなり、自身が光の塊になってゆくのを感じる



ーーこれが、魂というやつなのじゃろうか



ーー掴むことも、触れることも、感じることもできない



ーーじゃが、''確かにここにある''




ーーその事に一つ笑みをこぼし、儂は腹の底から天に向かって、思い切り叫んだ






ーー『いい、人生じゃったッッ!!』




⌘  ⌘  ⌘  ⌘

名前:ドナーブル・ガッキマン

性別:漢/年齢:41/身長:188/体重:72

紋章:殲滅

紋章器:万物を毀す鎧球モルゲンシュテルーク

職士:闘戦士

使用スキル:アーク、ブレイヴ

得意魔法:雷魔法ボルティマ

装備:武器・モルゲンシュテルーク

・・:防具・鋼鉄王の神鎧

・・:腕・グリード・バン・グラヴィシャス

・・:脚・式脚・【履齒象】

・・:所持品・漢なら肉体と魂だけで充分よっ!

所属ギルド:アイアン・キングダム

最後に一言!:結局、「ギルドもいいけど、良い奥さん早く見つけなよ!」なんて、皆にずっと言われて来たが、とうとう見つけることは叶わんなんだなあ。まあ、儂には家族なんて、一つで充分じゃよ。

⌘  ⌘  ⌘  ⌘



ということで、ドナーブル回でした。

今回は私自身、かなり力を入れました。伝わりましたでしょうか?

さてルナートやスレイアたち主人公を差し置いてガッツリ良いところ持って行きましたが、次回は迷宮塔パートの最終回です。”主人公のスレイア”がメインで活躍します♪

お楽しみに!

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