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メダリオンハーツ  作者: 紡芽 詩度葉
第二章;世界追憶編
51/61

第50話:栄光なる世界の為に。並に我等に、口を一つにし心を一つにして

最近一話の量がとても多くなっています。すいません。

一話でここまで行く、という目標決めて書いてるので(一重に作者の力量不足)

添削、苦手なんですよ。

――――――――奉献唱(オッフェルトリウム)――――――――





 神秘的だった。

 天井から降りる氷柱は地面へ繋がり、あたりを包む氷壁の表面は流れるような水色と白色の羅線が綴られている。

 床や壁に張り巡らされた脈絡や柱構造、その他全てが全世界の文明限界を遥かに逸脱していることに改めて感嘆し確信する。これは人界郷の産物ではない、と。

 迷宮の中ではいつ何が起こるかわからないため、常に”氷結”の紋章を浮甲使用紋の状態にし、気を張り続けている。


 通路はクルータムの大通りほどの広さで人5人が並ぶと埋まってしまうような広さだ。

 それがアリの巣のように枝分かれし、それこそザ・迷宮という雰囲気を出している。

 時々、雨でも降るかのように氷雨や(みぞれ)が舞ってくるため頭上には常にルーンを張っておかなければならない。

 零度を超える温度に体温を持っていかれそうになるが、火魔法【造】によって造られた半永久的温暖コートが体温を下げにくくする。

 手は常に(かじか)もうとするので、寒波遮断手袋を全員が着用している。

 この手袋をはめながら武器を振るう練習は道中で何度も行い、今では素手と同じくらいの要領で武器を振るえる。

 目に付いたモンスターは一応全部倒しているが下級モンスターがいるのは最初の階層だけだろう。


 俺たちは6人一組の小隊に分かれ、二階へ続く階段を探し始めていた。俺はルナートと共に立ち止まることなく迷宮を進んでいっていた。


 見たこともない絶えず脈動する種子植物や、凍った花。樹枝(じゅし)状の霜が天井に網のように張り巡らされ、長い柱状の氷晶が壁の至る所から生えている。

 俺たちが常に火魔法のコートを羽織っているせいで温度差による水蒸気が発生し、視界を曇らす。

 リザードやパンサーが襲いかかってくるもルナートや俺の剣の一閃により蹴散らされる。

 

 他にレノン、ミーニア、マーニア、スララが俺の小隊にいるのだが、不意にスララがルナートに声をかけた。


「ルナート、私思うんだけどさここで水魔法とかすっごい意味ないと思うんだよね」

「だな。きっと凍るだけだろうし」

「んでんで、私の”透過”の紋章も湿気てるとこじゃ意味ないでしょ?」

「そうだな」


「だからさ……」と、水色のツインテールをフリフリしながらスララがルナートに言おうとする。……も、それにミーニアが口を挟む。


「要するに、私、用済み、だから、守ってって、言いたい、わけ?」

「え……。えー、まあそんな感じかなー?」

「もう、またミーニアはそんなズカズカ言ってっ!ダメだって言ってるでしょ?!」


 マーニアは腰に手を当てながら言う。

 灰色の髪を後ろに束ね、どこか母親のような穏やかな顔つきでミーニアを注意する。

 ミーニアは渋々というようにそっぽを向く。

 ミーニアとマーニアは仲の良い姉妹だ。二人ともお揃いのキャップに”ハフニールの羽根”という加護アクセサリを付けている。

 マーニアはいかにも面倒見のいい明るいお姉さん、という印象なのだがミーニアは打って変わって引き篭もり気質の暗い雰囲気なのだ。

 それに未だに、ミーニアがみんなと仲良く喋っている所を見たことがない。ずっと、一人で何かを考えているような顔をしている。


「そいやミーニアさっ、ルナートとまともに話したことってほとんどないよね〜」


 レノンが杖をミーニアの腰に押し当てながらおちょくるように言う。ミーニアがむっとしながら反駁(はんばく)しようとする前にルナートが軽く笑い振り向きながら声をかけた。


「確かにミーニア、あんまり話しかけてこないよな」

「ルナートも、話しかけて、こないじゃん」

「いや……、それは」


 口ごもるルナートを他所にレノンが俺にも白羽の矢を立てる。


「そんなこと言ってスレイアもミーニアと話さなくない?」


 レノンのその言葉に俺も返す言葉が詰まる。

 何せミーニアは常に話しかけないでオーラが全開なのだ。レノンは気兼ねなく話しかけているがミーニアとレノンは最年少組としてずっと一緒にいた。

 ちなみに今、二人は10歳だ。

 少し間をおき、俺は(いぶか)しむミーニアに諭すように言う。


「まあ俺はいいとしてもルナートとは話しておいたほうがいいぞ?」

「なん、で?」

「そりゃ、リーダーだからいざという時にだな……」

「なんか、スレイアって、ルナートと口調、似てるよね」

 

 ミーニアは話の主旨を逸らしながら後方へと下がっていく。「もぉ〜」とマーニアは困ったような態度を取りながら俺とルナートに手をあわせる。

 俺の口調が何処となくルナートと似ているのは、子供の頃から憧れていたからだ。などとはそう簡単に言えるものではないので「そうだな」とだけ返しておく。

 俺とミーニアのやり取りに介入してくるかと思ったがルナートはズカズカと迷宮を進んでいく。


「ミーニア、もしかしてルナートのこと、嫌い?」


 マーニアがミーニアにそう問いかけると目の前のルナートの耳がピクリと動く。ルナートもなんだかんだ気にしていたようだ。

 すると、ミーニアは何の躊躇いもなく口にした。


「嫌いじゃ、ない。けど、ルナート、なんか、汗臭い」


……。

…………。

………………誰も、何も言わない。


 静寂が耳に痛い。

 ミーニア、それは仕方ないよ。だってルナートはお年頃の男子なんだから。

 ただ、この一言を言えば済んだ話だ。だけど……、口に出せない。

 パッ! とレノンを見る。

 するとレノンはすぐさま目線をそらし上の空を装う。レノンならこの雰囲気にも負けず言ってくれると信じたが、言う様子もない。

 頼みの綱が消えた。

 ルナートは何も返すことなくさっきよりも早足で迷宮を進んでいく。


「え、なに。みんな、あえて、言わなかったの」


 そうだけど?!

……とは、もちろん言わない。


 フルールが以前、若干そんな感じのことを言っていたがルナートは軽くスルーしていた。

 俺たちは結局黙ってルナートについていく。

 マーニアの話によるとミーニアの魂紋章(ソウルメダリオン)は”友達”だそうだが、生憎そんな優しい感情は持ち合わせていないようだ。


「あ、行き止まり」


 ルナートが呟く。道の先は行き止まりだった。

 だがミーニアは何かを感じ取ったのかそのまま進んでいく。


「ねー、ね……」


 ミーニアが壁に向かって何かを言いかけた途端。

 行き止まりの壁の天井あたりに二つの黄色い閃光が走る。

 パラパラと石礫(いしつぶて)が降り――


「危ない!!」


――咄嗟にルナートが駆け出しミーニアを押し倒しながら回避する。

 ミーニアが先ほどいた場所には大きな凍った岩が……。いや、既に姿を現し始めたゴーレムの足が踏み抜いていた。

 直ぐさま臨戦態勢を取り、マーニアが背中の槍を手に取り、俺は鞘から剣を抜きながら突進する。

 ちなみに今、俺の6人パーティで戦えるのはルナートと俺、マーニアだけだ。

 レノンは生粋の回復役だし、魔法士のスララはこの迷宮の特性と相性が悪い。

 ミーニアは召喚士だが召喚に膨大な源素力(マレナス)と時間を有するのでこういった下級モンスターには使えない。


 俺は剣を横薙ぎに(ふる)いゴーレムの足を砕かんとする。

 ガゴんっ、という歯ぎしりの悪い音に顔をしかめる。

 マーニアは槍を軸棒にして氷の地面に突き刺し思い切り飛び上がる。同時に浮かぶ氷の土塊を躱しながら俺はゴーレムの腹部へ向かう。

 マーニアは天井につくギリギリの上空で槍を回しながら勢いを殺さずゴーレムの額目掛けて槍を突き刺した。

 槍がゴーレムを貫通すると同時。まるで最初からそれが砂の偶像だったかのように砕け崩れ、足元には砂の山ができる。

 俺は地面に光っている物体……、ゴーレムの瞳と呼ばれる素材を拾い上げ一時的に保管可能な氷箱(アイスボックス)に入れる。


 あと1時間以内にハナと出会わないと全部腐るな。

 氷箱(アイスボックス)に入れた今までの下級モンスターの素材を眺めながらそんなことを考える。

 すると「ルナート、重い、キモイ」と不愉快な事を言いながらミーニアがルナートを押しのけていた。


「ひどいな、ミーニア」


 ルナートのガッカリした声を聞いてか無視してかは知らないが……。


「ま、ありがと」


 服を叩きながらボソッとそう呟くと、再びミーニアは列の最後尾へ回り歩き出した俺たちについていく。

 ルナートは少しの微笑を浮かべ再びゴーレムのいなくなった通路を歩き出した。








「あーあー、もーもー!!」


 ハナが悲鳴をあげる。いつものように面倒くさそうで嫌そうだ。


「何で私がいっつもこんな気持ち悪いもん触らなきゃいけないのよー!! しかもあんた達どんだけ素材取ってんの?! 私の苦労も考えないわけ?! いっつもいっつも私を道具のように……。ていうかサクヤ! あんた器用なんだから闘戦士とかダサい職士やめて狩人士に転職しろっ!!」


 ハナの怒声とワガママに俺たちは誰も返事をしない。これ以上、ハナの癇性(かんしょう)を刺激して匙投げされるとお手上げになる。

 それにもし、ハナの気が変わり転職でもされると俺たちは貧乏ギルド真っしぐらだ。モンスターの素材による収入がどれだけ多いか……。


 ハナはブツブツ言いながらも手際よく「ハンタースキルIX、防腐掌」をまとい「ハンタースキルVII、モンスターボックス」へ種類別に分けていく。


 俺たちは剥ぎ取った素材をハナの横に並べただその作業を見る。

 狩人士のハンタースキルを会得するのはただただ地味でモンスターの死体を触り続けてようやく解放される。

 ハナは「何となく」何て言いながらスキルランクを解放していったが俺たちは狩人士になりハンタースキルを習得しようとして一ヶ月、必死にモンスターの死体に触れ消毒し、を繰り返したが結果スキルランクVという現状に絶望し諦めた。

 おそらく狩人士はある程度の才能がないとハンタースキルを使えないことも分かり今はハナを重宝している。ただ、性格が性格なだけあって取り扱いには注意しなければいけない。

 

「ねー、もうボーっと見てないで先にボスのとこ行っちゃえば?」

「いや、置いていったら登れないだろ」

「面倒くさ……」


 ハナのいうとおり、各階にはボスと呼ばれる個系モンスターがいる。




――――個系モンスター。

 これは、普通のモンスターと違いそれぞれ固有の名前を持つモンスターだ。

 基本的にモンスターはその圧倒的な数によりリザードやパンサーなど種別に名前で呼ばれることが多い。

 だが、個系モンスターは基本的に各階にしかおらずそれが繁殖し世界に放たれているのもごく稀だ。

 個系モンスターは通常モンスターの比にならないほど強く、もしボスの個系モンスターが子孫など作っており、世界に放たれ存在が確認された場合、国家依頼(グランドクエスト)になることが多いーーーー



「そういえばサクヤ。お前たちのグループ、やけにボロボロだな」

「いやー、それがさっ、(トラップ)に引っかかりまくって鉄球に追いかけ回されたり氷槍が飛んできたりって大変だったんだよ。いや、マジ二度は死ぬと思ったね」

「俺らの来た道にはそれらしき者はなかったけど……」

「簡単な話よ。どうせ、サクヤが見え透いた罠の起動装置に本能的に触れていたのでしょう?」

「オイコラ、ミサ。テメ……、それ悪口だよな?」

「野生的なボス猿に悪口が通用すると思って?」

「誰がボス猿だっつの」


 ミサがサクヤを揶揄(やゆ)しながら寒波遮断手袋を付け直す。

 サクヤはどちらかと言うとミサを苦手にしているらしく、二人がこうして張り合うのも中々珍しい光景だ。

 ルナートは無意識なのだろうが、一途に視線をミサへ向けている。敢えて言及しないまでもリックやフルールも何となく気がついているのか揶揄する会話が微かに聞こえる。何か企んでいそうだが、そっとしておくのが一番だと思う。

 そうこうしながら、俺たちはボスの扉の前で体制を整える。

 もちろん、隣には<アイアン・キングダム>の面々が素材を整理したり武器の手入れ、身体の回復などをしている。

 ちなみに<アイアン・キングダム>には狩人士は3人もいるようだ……、羨ましい。

 いくらかして、用意が整ったのか全員が先頭に立つルナートを見る。


「いいかっ、階層ボスとはいえ並のモンスターとは訳が違う。一階層だからと侮らず、的確に行動パターン、弱点を見極めて倒すぞ!!」


 その声に全員が頷く。


「とにかく初めは様子見だ。遊撃型が中距離から攻撃。支援型、遠撃型は各々定位置を定め待機。俺の合図で近接型で囲うように突撃する」


 ルナートは全員の表情を見回しながら一つ頷く。

 そして、俺たちを振り返り扉に手を当てる。迷宮塔の入り口と同じような扉だ。

 そして、ルナートはゆっくりとその扉を開けていった。





⌘  ⌘  ⌘  ⌘




 ボスの部屋はひんやりとしていて、雰囲気はさっきまでと同じだが天井がやや高い。

 デコボコとした地面に鍾乳洞のように壁から僅かに光が照らす。

 部屋はブルーな空気に包まれており広い。

 俺たち54人でようやく部屋の1割といったとこらか。


 目の前で眠っているモンスターを見る。

 基本的に階層ボスは初め眠っているらしく、起きるまでにどれだけダメージを与えるかが勝利の鍵となる。


「ミサ、あれは?」

「ちょっと待って……」


 ルナートがミサに問うと、パラパラとモンスター図鑑をめくリ始める。




ーーーーモンスター図鑑。

 この図鑑は何千年前、レピアが建国されるよりも前に作られており現在まで内容が受け継がれ複製されて来たにも関わらず内容は一切更新されていない。

 この図鑑にはモンスターの名前、容姿、特徴、剥ぎ取り可能な素材の種類、弱点などが載っている。

 種別モンスター、個系モンスターの全てが載っており、ページ総数はおよそ800ほどにもなるという。

 一説には、かつての聖戦を制した三賢者の一人が書き出したと言われているがその実態は怪しいーーーー





 今では巻が分けられているがミサは瞬時にどの巻かを判断しめくっている。


「あった……」


 ミサはページをめくる手を止め掲載されている内容を口にする。


「牙獣種、個系名【グリジャード】。弱点は羽の根元、尻尾、そして腹部だそうよ」


 弱点を脳内で反芻(はんすう)し記憶しながらグリジャードの姿を凝視する。

 眠っているグリジャードは種別モンスターのキマイラと違い羽が鋭利に尖り、爪が長い。

 決定的にキマイラと違うのは胴体で、4足の他に羽の根元にも腕がある。

 全身は腐ったような青色で、(たてがみ)が尻尾まで続いている。


「ユウ、爆弾の用意は?」

「あとは起爆するだけー」


 そう言いながら爆薬士のユウはポーチを叩きながらグリジャードの方へ起こさないようゆっくりと歩いていく。

 ユウは爆弾作りの天才で、以前何の気にもなしに売ってみた自作爆弾が炭鉱都市レベルコでバカ売れしている。


 ユウがオーク製の樽爆弾を二つ、「よっ」と掛け声をかけながらポーチから取り出し設置する。

 大きさはユウと同じくらいだ。

 起爆準備が整うとルナートの合図にそれぞれが配置につく。

 そして、全員が位置につくと上げていた手を振り下ろす。


 それと同時にユウが起爆させる。手の甲が輝いていることから”誘爆”の紋章。特異能”爆撃テロリズム”を使用したのだろう。あの異能力は自分の設置した爆弾を好きなタイミングで爆破させられる上、威力を調節できるというものだったはずだ。


 爆破音に続き硝煙が舞い、火薬の匂いが場を焦がす。

 グリジャードの顔の皮膚が焼け(ただ)れ肉片がいくらか吹き飛び、鬣が焦げ濛々(もうもう)と煙が立ち上る。

 すると、グリジャードは攻撃されたことに気づきむくりと立ち上がりながら俺たちを睨みつけ咆哮した。


「グルァジャァァォァァぁぁぁととドドドド!!!!!!!」


 絶大なグリジャードの咆哮に俺たちは耳を抑える。


 デカイ。

 側に立って逃げるように走るユウの10倍ほどの高さに部屋の3割を占めるほどの巨大だ。

 それに怯えることなく遊撃型であるルナートやドナーブルが動き出した。

 アイアン・キングダムの面々は長大なランスや巨大な盾を装備した重装備者が多いため近接型が多く、遊撃型は二、三人いる程度だ。


 ドナーブルがモーニングスターを頭上に上げながら振り下ろすと同時にルナートがグリジャードの羽を狙い斬撃を見舞う。

 どちらもクリーンヒットするもグリジャードは少しよろけるのみ。


 するとグリジャードは走り出す。狙いはドナーブルだ。

 遊撃型のランス使いが盾を構え二人がかりで止めようとするが2鋲と持たず下敷きにされる。

 死には至らなかったが、重症。すぐに支援型がヒールをかける。


 ミサがルーンを張り遠撃、支援型からグリジャード隔離。

 ルナートとミカ、アイアン・キングダムの暗殺士による疲痺囃(ヒヒバヤシ)の連撃とマイクの麻痺矢でグリジャードは痺れ動きを止める。


 駆けるように動き回っていたグリジャードの停滞。その瞬間ルナートは「近接型、突撃っ!!」と合図を出し、しばしの一斉攻撃に入る……が。


 それぞれの攻撃を理解していないため、誤って攻撃を食らうものが多発。

 それに気を取られ打撃数が減り、連携は崩れる。

 一旦退避の声に後方へ下がるが追い打ちをかけるようにグリジャードが喰らい付く。支援型の援護により直撃は避けられるがグリジャードは方向を変え再び喰らい付いていく。


 予測不可能なグリジャードの動きに翻弄され、休む間もなく繰り出される攻撃にただ逃げの歩を打つ。

 指示が飛び交いルナートの指示が通らない。

 支援型は誰を回復していいのか分からず、遠撃型は動き回る敵に誤射を怖がり攻撃を躊躇う。

 近接型は少しでも止まると畳み掛けるがすぐさま蹴散らされる。

 遊撃型は近接型がグリジャードの周りでウロウロしているため決定打を叩けない。


 連携というなの歯車は壊れ、ただそれぞれが自分の役割のみに固執した最悪の大規模戦闘(レイド)となる。

 俺も周りを見、剣を振るおうとするもやはりアイアン・キングダムのメンバーの動きが読めず斬りつけられない。


 顕著と攻勢が入り乱れる。


 すると何人かが部屋を飛び出していく。

 逃げたのか?!

……と思うもの束の間、あちらこちらで「退け! 退け!!」と声がかかる。


 ルナートも必死に撤退命令を出していた。

 俺は、それに流されるかのようにグリジャードの部屋を後にした。




⌘  ⌘  ⌘  ⌘




 話し合いが行われていた。

 主にルナートとドナーブル、そして各小隊のリーダー。その間、俺たちはヒールを受け再び戦闘の用意を行う。


 10分後。

 話し合いが終わったらしくルナートが作戦内容を説明する。


「話し合った結果……。ここからの大規模戦闘(レイド)では各小隊ごとに立ち回ってもらうことにした。把握するのは各小隊だけでいい。だが、動き回りすぎずある程度持ち場をキープしてもらう。小隊が一つでもちそうになかったら援護だ」


 そこか、ルナートは細かい指示を各小隊へ出していく。

 遠撃型、支援型、遊撃型、近接型でバランスよく小隊を結成しリーダーを決め各小隊の動きを説明する。

 そして、一通りの説明を終えるとルナートは再び扉を開ける。

 不安しかない……。

 先ほどの大規模戦闘(レイド)の恐怖がまだ残っている。他のメンバーもまだ僅かに怯懦が残っているようだ。


 だけど、何が何でもグリジャードを倒して上の階層へ進まなければならない。ちなみに、二階へ昇る階段はボス部屋入り口の間反対の扉を開けた先にある。

 だからやろうと思えばグリジャードを足止めしその間に全員で昇り切れば戦わずに次の階へ行ける。

 だがそれをすると、同時にグリジャードを世界に放つことになる。

 そうなれば被害は俺たちが全滅した場合の54名より遥かに大人数の関係のない人々を巻き込むことになる。



 だからこそ、後ろにはひけないし否が応でも倒して昇らなければいけない。


 今は……、前に進むしかないのだ。




⌘  ⌘  ⌘  ⌘




 全員が大の字になって寝そべっていた。

 息は途切れ途切れ。だが、安堵の息が場を包む。


 戦闘は、ギリギリの勝利だった。


 動き回るグリジャードが向かった先に配置された小隊が一定時間足止め。

 そして、標的を変えると対応していた小隊が回復などで体制を立て直す。


 グリジャードが止まった場合、一定時間で小隊をローテーションさせる。

 約30鈖という長期戦の果てに消耗しきったグリジャードへドナーブルの星球がグリジャードの顔を潰しようやく幕を閉じた。


 素材の保管を終えた俺たちは、満身創痍で奥の扉の先にある階段を一瞥してから休憩を取っている。

 死者は出なかったものの重傷者が9名。


 この調子で……、後20階層。

 途方もなく果てしないその道のりに俺たちの心は萎えかけていた。


 1時間ほど休むと全員が用意を終え、ここからの戦いの意欲を高め切っていた。

 1階層クリアまでに約3時間。このまま進むと3日はかかるだろう。


 だが、俺たちはまだ終わるわけにはいかない。


 踏破によって得られる大量の報酬金。

 山のような素材を売った先に待つ大金と獲得した紋章具の山。

 踏破の栄光と名誉がギルドのタグについて回り、依頼も次々と流れてくるであろう。


 そして何より、強大なる力を持つ紋章器。

 ただの一つで国一つ滅ぼさんというそれがあれば怖いものはない。


 しばしの極楽の日々と敵なしの依頼。


 全てを手に入れた自分たちを想像することで俺たち全員は踏破の意欲を高めていた。






 そう……。この迷宮塔(ダンジョンタワー)挑戦者(チャレンジャー)の真髄は全て同じであり、ただ俺たちはその意志にのみ突き動かされていた。


 物欲という……、人間本能の塊に。



そういえば最近、後書き書いてませんでしたね笑

三章は全話予約投稿済みですので後から後書きやらを挿入するのですよ。

まあ、三章についてはまた章の終わりに活動報告でたんまりまとめて書こうと思ってますので笑


ちなみにこれが50話になりますねっ。

長い話であるにも関わらずここまで足を運んでくださってありがとうございます^ ^

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