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メダリオンハーツ  作者: 紡芽 詩度葉
第二章;世界追憶編
49/61

第48話:常に福にして、世界の平和に幸あらん

―――――――― 続唱(セクエンツィア) ――――――――




 あれから、4年が経った。


 俺たちは暗殺士の稼業から足を洗い、それぞれに合った職士に就職し依頼を受け日々を過ごしていた。


 孤児院だった元ソマリナ修道院を改築しギルドハウスとしてみんなは住み込み、生活に困ることもなく楽しく日々を過ごしていた。


 きっとこの4年間は孤児院で暮らした1年間よりも楽しく平和だったような気がする。

 誰も死ぬこともなく、誰も涙を流すこともなかった。


……だけど、これまで失くしてきた者たちの傷はまだ癒えきっていない。




 インペルダムで暗殺士として死ぬほど辛い1年を過ごしたおかげで俺たちはほぼ無敵だった。

 モンスターの討伐も、賊の壊滅もお手の物だった。

 ただ、地下都市を壊滅させた男に再び会うことはなかった。

 俺たちはメルシナ大陸の西側を中心に活動しメンバーの中にはそこそこ有名になる者も現れた。


 俺たちはギルド<零暗の衣>として登録し一応冒険者という形で各国を渡っていた。

 <零暗の衣>という名は色々な議論の末決まったのだが世間一般にその名は全く知られておらず黒い団服(コート)を着ていても暗殺ギルドと疑われることもなかった。

 俺たちは、この黒い団服(コート)を脱ぐことはなかった。

 執着しているかのように、取り憑かれたかのように……。いつもこの忌々しい呪いの衣を身に纏っていた。


……それが、俺たちが殺した人達への罪滅ぼしだと思っていたからかもしれない。


 あれから俺たちはさらに強くなっている。

 スキルランクもXVまで開放する者も出てきた。

 要領を掴んでいるからかは分からない……。だが、俺たちは世間に[黒衣の天才少年団]と呼応されるようになっていた。


 そして今日は特に依頼もなくみんながダラダラと過ごしていた時……、それは唐突に訪れたのだ。





⌘  ⌘  ⌘  ⌘





 バンッ!! とその強く扉が開く音にうたた寝状態だったみんなは飛び上がる。


 そして 1秒と満たずその来訪者……。ハナが大声で嬉々としながら言う。


「みんな! 依頼板(クエストボード)にとうとう迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破の依頼書が貼られたわよっっ!!」


「なにっ?!?!」とルナートが驚きの声を発する。


 迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破の依頼(クエスト)は俺たちがずっと待ち望んでいたものだ。

 地下都市(インペルダム)が壊滅したあの日、運良くサクヤが紋章器であるレクゼリサスを持ち出しており1年ほどでようやく真価を発揮しだした。

 なんと、紋章を装填(ロード)したことでサクヤの腕と脚が霊獣化したのだ。

 文献などを漁り調べたところ、紋章器に紋章を装填(ロード)すると身体の一部を霊獣化させる。紋章解放(メダリオンハーツ)状態だと全身を霊獣化させ、そのまま特異能を使用すると周囲の空間そのものと同一化する。

 それだけでは飽き足らず、頑丈なだけでなく殺した人間の紋章を吸い取り多種多様な紋章を操れると言う。

 その性能は俺たちの物欲センサーにバッチリ反応し調べまわった末に迷宮塔(ダンジョンタワー)の産物であることがわかった。

 だが、迷宮塔(ダンジョンタワー)は政府や軍が管理しておりそれが俺たち一般ギルドに挑戦させてくれる機械など早々なかった。


 以前にも一度、依頼(クエスト)として貼られていたことがあったがそれを知ったのは1日後でその依頼は大手ギルドに持って行かれた。

 結果は踏破成功だったようでそこのリーダーは晴れて紋章器使いとなり、俺たちは一晩中歯ぎしりしたなどというトラウマのような記憶がある。

 それから依頼板(クエストボード)を毎日見に行くのがこのギルドの日課になりついにそのチャンスが巡ってきたのだ。


「こうしちゃいられない!! スレイア、ミサ! 取り敢えず俺らで確保しに行くぞ!!」と、言いながらルナートは走り出す。


 その声にミサは頷き、俺もルナートについて走り出した。


――ちなみにギルドで依頼(クエスト)を受注するには最低三人の署名が必要だった





⌘  ⌘  ⌘  ⌘





 集会所(オスティリア)に入り真っ先にルナートが依頼板(クエストボード)に到着する。

 他の冒険者は輪になって依頼書を眺めていた。


 そしてルナートは目にも留まらぬ速さで迷宮塔(ダンジョンタワー)の依頼書を確認すると迷わず手を伸ばした。

 パシッ!! と爽快なキャッチ音に迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破を悩んでいた冒険者達が目を見張る。

 それもそのはず、その依頼書を掴んだのは……、二人同時だったからだ。


「え?」

「あ?」


 ルナートと見知らぬ男の声が重なる。

 俺たちはルナートの側に追いつく。

 ミサに視線を送ると、静かに頷きルナートの方を見たので俺も経緯を見守ることにした。


「おいおい、おっさん。悪いけど俺の方が早かったぞ」

「坊主、お前さんもふざけたことぬかしよるのお。突然飛び込んで横取りしようとしたのはお前さんじゃろうが」


 一触即発とは正にこのことで男は今にも殴りかかりそうなほど峻厳(しゅんげん)な雰囲気を醸し出していた。

 男は全身に鉄の鎧を纏い、少し動くたびにガシャガシャと音を鳴らす。

 額には真一文字に切り傷であろう瘢痕(はんこん)があり、その双眸は赤くルナートを睨みつける。

 銀髪をザックバランに生やし剛毛なヒゲは鉄の棘の様に鋭い。

 見た目からして30か40台ほどだろうか。

 見るからに堅いのいいおっさんだ。


 お互い一歩も譲らないまま、依頼書を手に持っている。


「坊主、早う身を引いた方が身のためじゃと思うがなあ」

「それはちょっと不公平じゃないか?」


 するとその男はルナートの羽織っている団服に目をやる。


「黒衣か……。お前さんら、ちと実力があるからあてのぼせ上がっとらあせんか? あくちも切れん青二才の分際で実力差はからんと足を突っ込み過ぎたら痛い目え見るぞ?」

「これは俺らにとっちゃ千載一遇の大チャンスなんでね、そう易々と引くわけには行かないんだよ」


 そのまま二人はにらみ合う。

 すると様子を見ていたのであろう一人の男が席から立ち上がりこちらへ来る。


「リーダー、あんまり意地を張らない方がいいんじゃないですか?」

「ルサスか……。あんましデカい口聞いてると」

「まあまあ、ここで張り合ってても仕方ないですよ。どうせ僕たちも精鋭部隊、後5人足りてないんですし。……いっそのこと、合同なんてどうですか?」


 ルサスという男はどこか怯えた様子で提案する。


 ちなみにルサスが足りないと言ったように、迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破が依頼(クエスト)として回される場合、上限参加人数は54人と決まっている。

 どうしてかは分かっていないが俺たちは54人という枠組みの中で大規模戦闘(レイド)を行わなくてはならない。

 初の迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破人数が54人だったことからそう決まったそうだが、この人数で挑むのが一番ベストであり成功率が高いと判断したのかもしれない。


「じゃがなあルサス。それじゃと司令塔が二人になってバラバラになるやろうて」


 そう……、大規模戦闘(レイド)において基本司令塔は一人だ。

 もしも二つの勢力がバラバラに動いたとしたらそれは不破しか生み出さない。

 集会所(オスティリア)である酒場にいる周りの人たちは俺たちの成り行きをただ見守っている。

 おそらくこの男達のギルドも有名なのだろうが生憎顔を見ただけではどこのギルドなのか判断しかねない。


「フンッ……。まあいいわい。取り敢えず聞いておこうかのう。おい坊主、お前さんの名は?」

「ルナート……、ルナート・アレクトスだ。あんたは?」

「儂はドナーブル・ガッキマンじゃ」


「取り敢えず座ろうじゃあないか」と言いながらドナーブルは近くの席に座る。

 それにつられ俺とルナート、ミサは席に着きルサスもドナーブルの隣に腰掛ける。


「でじゃ、このまま儂が大人気もなく子供に意地を張るのもおかしな話じゃからな……。お前さんに一つ提案がある」

「何だ?」


 その声にドナーブルは笑みを浮かべながら言った。


「こうなりゃあ、迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破の司令塔の権を巡ってお互いのギルドリーダー同士の決闘と行こうじゃあないか。そんでじゃ、勝った方が此度の迷宮塔(ダンジョンタワー)踏破の司令塔に着く。どうじゃ?」


 ルナートは考えるように沈黙する。

 大体、子供相手に決闘を申し込むなどそれこそ大人気ないにもほどがある。

 それに結局、合同で踏破を目指すことになっておりこの交渉は元々矛盾している点が多い。

 そういうやり取りが苦手なのか脳筋なのか、ドナーブルは勝ち誇ったように腕を組む。

 隣のルサスは呆れたような諦めたような表情でドナーブルをチラリと見、流れるように申し訳なさそうな表情でルナートを見る。

 すると、隣のミサが小声でルナートに囁く。


「ルナート、どうするの?」

「そりゃ受けるしかないだろ。何せこれがラストチャンスなんてこともあるし」

「そうね、色々勝手に決められているけれどまた口論になっても(もつ)れるだし……」


「で、どうする?」とドナーブルはルナートに問う。


 すると、ルナートは意を決したように立ち上がる。


「いいだろう。<零暗の衣>がリーダー、ルナート・アレクトスがその決闘を受諾する!!」


 するとドナーブルがテーブルに両手を着き、

 ガッシャャア、と立ち上がる。


「よかろう! <アイアン・キングダム>がリーダー、ドナーブル・ガッキマンの名の下にこの決闘の正立を認める!!

 決闘は明日の正午! ここクルータムのアストリア聖堂前にて執り行う!!」


 すると酒場は一気にざわめきだす。

 何人かは大急ぎで飛び出して行く。

 

 だけどまさか……、<アイアン・キングダム>のギルドだったとはな。


 名前は聞いたことがある。

 ビラガ国で今、最も勢いのあるギルドだ。


 そしてクルータム国での最強ギルド<零暗の衣>。

 その二大ギルドのリーダーの決闘なのだ。


 また恐ろしい数の観客と博打が行われるんだろうな、と肩を落とす。


 ドナーブルとルサスは立ち上がり、ルサスが俺たちに「ではまた明日」と一言声をかけ会釈しながら二人は酒場を後にする。


 取り敢えず依頼書を保留という形で受付嬢に渡し、俺たちも集会所(オスティリア)を出る。



「なんか、凄いことになったな」

「みんなの反応が楽しみね」


 余裕そうな二人を他所に俺は静かに集会所(オスティリア)を振り返る。


 また、波乱が巻き起こりそうだ。





⌘  ⌘  ⌘  ⌘





「電光石火の如く決まったな」

「展開が早〜い」


 サクヤとフルールが後ろから声をかける。

 もうすぐ正午だ。


 アストリア聖堂は既に人でごった返していて当然のように博打(ばくち)士が勝敗の賭けを行っている。

 そこへ、フラっと寄って行こうとするサクヤとフルールを両手でそれぞれガッシリ止め、一睨みしてからみんなの面持ちを見る。

 不安そうな顔をしている者はなく、俺の勝利を信じてくれている。

 腰に下げた短刀は、暗殺をする時よりも軽い気がする。


「ルナート、一応言っておくけど殺さずにね」

「分かってるよ、ミサ」


 そう言いながら聖堂前に陣取る<アイアン・キングダム>の面々を見る。

 皆、重層甲の鉄鎧をまとい威圧感を放っている。

 ドナーブルは何かを取り付けている最中で俺たちからはよく見えない。


 修道都市クルータム中心部のアストリア聖堂は中央部の8本の柱で支えられたドーム型で十字式の平面構成だ。

 ちなみにここには3年半ほど、教牧士に就職したリックが通っている。

 聖堂の隣にある時計塔がもうすぐ正午の鐘を鳴らそうとしていた。

 喧騒は更に高まり街中の人間が揃っているのでは、と思うほどに人がいる。

 応援する声も半々で俺の名を呼ぶ者もドナーブルの名を呼ぶ者も両方がこれからの戦いに期待を寄せている。

 まだ1日しか経っていないというのに、まるでこの決闘が街の一大イベントであるかのように国王ですら聖堂の二階からこの様子を眺めている。

 恐ろしいほど金が動いてるんだろうな、と思いながらリングに立つ。

 

 リングと言っても特に何もなく勝手に白線で引かれた(サークル)があるだけだ。

 すると目の前の<アイアン・キングダム>の集団からようやくドナーブルが姿を表す。

 昨日つけていなかった武器を纏っているが初めて見るものだ。


 両肩に巨大な滑車を担ぎ、それを装甲で覆っている。

 その滑車から鎖が出ていてそれは両手に持たれた特大の星球へと続いている。


 鈍い鉄色の星球には全方位に向け何本もの棘がついており、さながらモーニングスターのようだ。

 鎖の部分を持っていることから自らを軸に鎖を振り回しモーニングスターで攻撃する、と言ったところか。


 滑車がついているので伸縮する可能性が高い。

 それに対する自分の戦い方を脳内でシミュレートする。


 4パターンほどか……。

 考えた先にたどり着いた戦法、だが圧倒的に不利という訳ではない。


 こちらは小型な短刀だが、あちらは特大モーニングスターを二つ。

 モーションの少なさと切り替えや打数なら確実に俺のほうが上だ。

 素早く立ち回れば勝機はある。

 

 そう考えていると正午を告げる鐘がなる。


 いつの間にいたのか審判らしき人が片手を上にあげる。


「これより!

 <零暗の衣>リーダー、ルナート・アレクトス。

 <アイアン・キングダム>リーダー、ドナーブル・ガッキマン。

 両者の決闘を執り行う!!」


 そしてその片手を振り下ろすその間際にミサへ目配せを送る。

 事前にドナーブルへ伝えていたようにミサのルーンで結界を張り衝撃が観客を巻き込まないように設置する。


「ルーンスキルX、デュエル・アリーナ」


 その起術と共にドーム状に薄い橙色のルーンが張られ、幾ばくかするとそれは透明の結界へと変わる。

 かつてレピアにあったという巨大な闘技場(コロッセオ)に似ているとレルエッサが言っていたのを思い出す。


 すると、それを見届けた審判が……。


「それでは……、開始!!」


……手を振り下ろしたその瞬間。





 俺は目にも留まらぬ速さで地を蹴りドナーブル目掛けて一直線に駆け出し、抜刀した短刀を思い切り振りかざした――




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