第47話:我、光栄なる世界を祈祷し爾を崇め歌おう
中二病と趣味趣向100万%で書かれたものなので普段よりかなり長いです。
新キャラに戸惑うかもしれませんがそこは目を瞑って気楽に読んで下さいまし。
―――――――― 詠踊 ――――――――
「よっ……と。うはぁー暗い暗い」
地下都市って聞いてはいたけどこんなに暗いなんてな。
踏んでいる大地には地上と違い、微かな熱がある。
そして、源素力は激しく脈動している。
「こりゃあ、ちっとは楽しませてくれそうじゃないの」
今回のオレっちの依頼は簡単、暗躍する巨大暗殺ギルドの壊滅とボスの死だ。
各国で共通の国家依頼になっており、依頼を受けたギルドは皆一様にアジトが見つからないと断念し報酬金額が増上しながら宙に浮いていたところを偶然だが受ける事となった。
これをクリアすればみんなのとこにもこの報が伝わるだろう。
みんなと離れてからもうかなりの年月が経った。
元気にしているだろうか。
それとも、誰かが勝ち上がっているだろうか。
そう考えているといくらでも時間が経ちそうなので取り敢えずクエスト優先ということにする。
目の前に広がる街は藍色でなかなか好みの色合いだ。
「んじゃまっ、一つぶっ壊しますか!!」
そう言いながら背中の愛剣【魔剣・グランベルク】を掲げる。
「とっとと終わらせて今日はキャバるぞー!!」
手の甲に浮かんだ浮甲使用紋が光る。
目を強く開き、口を引き締め手に持った魔剣をそのまま一薙する。
次の瞬間、轟音、崩壊音と共に建物が割れ崩れていく。
飛び荒ぶ瓦礫と石飛礫を軽快にヒョイヒョイっと躱しながらその道を進んでいく。
あれならかなりの人間も道連れになったはずだ。
突然の来訪者に閑静としていた街は水を叩いたように騒然とする。
その直後、ピクッ、と第六感に従い声をかけた。
「なあなあ、あんたらさぁ結構強い暗殺ギルド何だろ? なら……」
氷魔法【攻】の槍を無詠唱で作り出し発射、それは標的を完全にロックオンし確実に射抜く。
「……もうちょい、殺気とか消せないわけ?」
背後から襲いかかって来た数十人の暗殺士を1鋲と満たず死へと誘う。
ヌルい。
そして弱い。
「あーあっ、今回もつまんないクエストになり……。いいねぇ」
ゆったりとした足取りで目の前に現れた女に少しだけ戦慄する。
怒りがそのまま溢れ出しているような憤怒の表情だ。
赤茶けた髪を前に垂らし鋼鉄の装甲で胸や脚を守る。
手に持った鞭は次節、雷を撒き散らす。
視界の先で揺れる豊満な胸は筋肉で出来ているのかと思わせるほど女にしては筋骨隆々な身体だ。
……あれでは、いい声で泣きそうにもない。
しかし、戦う相手としては上々。
「手応えがありそうだな、お前。頼むから、ちったぁ楽しませてくれよ、巨乳の姉ちゃん」
「貴様……。吾輩の街を滅するとは、いい度胸だ。死ぬ覚悟は出来ているのだろぉなァ!!」
その豪声と共に鞭が唸る。
神速の鞭はオレっちを囲み展開すると同時、渦を巻きながら一気に収縮。
包囲した電位網がオレっちの退路を完全に断つ。
鞭は紋章具……、あの様子だと伝説武器の類なのか切れそうにもない。
「あのなぁ、姉ちゃん。死ぬ覚悟なんて……」
ザンッ、と女の後ろへ移動する。
美風が女の髪をたなびかせる。
「……ただの、自縛行為だろ?」
女は目を見開きオレっちを見る……、間もなくオレっちの魔剣が女の胴を裂く。
ドサッ……、と真っ二つに崩れ落ちる女を見る。
手応えがなかったわけではないが。
弱っ……。
「……っと! 前言撤回ィ!!」
突如地中からオレっちの心臓へ狙いあまたず双鞭が襲いかかる。
鞭は次々と分裂し八つの蛇へと姿を変え襲いかかる。
女はいつの間にか消えていた。
居場所を確認するのを後回しにし開かれた獰猛な牙を魔剣の一閃で受け止め、四方から毒液を撒き散らしながら突進してくる四頭を氷魔法【造】で胴を凍らせ足止め。
魔剣で受け止めていた一頭の押しが強まり、踏ん張る地面が軽く割れる。
薄い空気に呼吸が乱れるが、オラクルスキルIVオーリアル・エアで補給。
そのまま魔剣に俺っちの精神エネルギーと共に体内源素力を流し込む。
バクンッ! と魔剣が脈動すると同時受け止めていた一頭に頭から亀裂が入り粉砕。
すると八方から次は鋭利な尾が襲いかかり、そして、残りの二頭が地中、空中から喰らいついてくる。
オレっちはその場を動かず止めていた四頭の氷魔法を解除し十四方から繰り出される攻撃を……。
「ソードスキルX、草薙の剣!」
……一回転の斬撃で全破。
一瞬の滑動に時間差で新緑の軌跡が空に覇を唱える。
そして千切れ崩れた残骸の雨を掻き分け女の源素力を探知。
「逃げた……、か。報告にでも行ったかな?」
そう思いながら手の震えに歓喜する。
今回の依頼は……、楽しめそうだ。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「洗零者! これは吾輩達【零暗の衣】結成以来初の危機です!! 早急な対応を!!」
「今すぐ四祖を全員呼べ」
「し……、しかし今。ユリハヌス殿は任務中、イスラルの愚図は素材集めで地上へ出ており連絡が取れません!!」
「パスチナは?」
「い、今呼びに……」
すると、部屋に部下が走りこんでくる。
「大変です、洗零者!! 緑、橙、紫、藍の全街が壊滅!! 暗殺士総勢を以ってかかるも全員歯が立たず全滅!! 正体不明の男は辣腕を振るい洗零者の城まで進撃中です!!」
「バ……、かなっ」
「洗零者ー、すごいことになってるねー」
そう言いながら寝巻き姿のパスチナが足を引きずりながら入ってくる。
「未だかつてない危機だ、臨戦態勢を取……」
するとヨハネの背後から破壊音が轟く。
その音に咄嗟に振り返る。
「ありゃあ、入り口あっちだったかぁ。んで、あんたがボス?」
突如入り込んできた男に……、戦慄する。
何なんだ、この男は。
脈動する黒き剣を手に持ち、流れるような水色の髪を肩まで下ろしている。
目は嬉々としているもののどこか冷眼を携えている。
服装は旅人のローブを纏い全体的に藍色で統一されているが防具のような物は着ていない。
「どこから、入ってきた?」
「いやいや、あんな大きな換気筒が設置されてたら誰でも気づくって」
嘘だ。あの換気筒には何重にもルーンを張り隠蔽していた。
それに、このヨハネの住む城も地下都市の上に何重にもルーンを張っていたはずだ。
すると、サルバロットは笑みを崩さず床に足をつけ体制を整える。
「報告しなきゃ行けないんであんたらの名前教えてくれるか?」
「フン……。名乗るならまずはお前からだろう」
「そーだなー、にしてもオレっちは幸せ者だなー。
こんな美女3人に囲まれて名前を聞かれるなんてなあ」
嫌らしい笑みを浮かべながら宙を舞い、ヨハネの前に着地し、振り返りながら名乗る。
「オレっちはサルバロット・キルレイズ。今から……、楽ませてくれよ?」
嵐のように現れた来訪者は、今まで見たどんな敵よりも……、悪を醸し出していた。
そして掻き立てられた感情は、ヨハネが長らく体感しなかった……、明確なる”恐怖”だった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「おいおい、オレっちは自己紹介したのにいきなり不意打ちとは礼がなってないなあ暗殺士!」
「うるさいぞ貴様ァァァ!!」と吾輩は叫びながら突進する。
この男は何としてでも吾輩が食い止める!!
「憑依使いなんて久々に見たぜ。あれ、結構ムズいだろう?」
「黙れっ!!」
そう言いながら毒の吐息を吹きかける。
だが、男は交わすこともせずまともに受ける……が。
苦の表情を一切見せずせせら嗤う。
「この程度の毒の耐性なんて赤ん坊でも持ってんぞ」
馬鹿な……。
八岐大蛇の猛毒だぞ?!
あれほどの代償を払い契約し憑依化に成功した八岐大蛇の力が今は貧弱なミミズのようだ。
八岐大蛇の脱皮能力は先ほど一度使ってしまったため身代わりはもう出来ない。
任意の部分を憑依化させることができるがまだ全身に憑依させ操れる自信がない。
暴走してもらっては元も子もない。
吾輩は浮甲使用紋させ、紋章の特異能を発動させようとするが。
「それ、今はダメ」と吾輩を抑制しながら、パスチナが機魔法の重律操精でサルバロットを飛ばす。
この城は地下都市の一層上、天井の上に造られており球状に洗零者のルーンを張っていたがそれすら看破されている。
洗零者はひとまず吾輩とパスチナに任せたのか詠唱に入っている。
「お……、オイラの魔法、効いてない」
パスチナの驚愕の声を認知したその時、心臓を握りつぶされたような感覚に襲われ、我に帰ると斬撃が襲いかかってくる。
咄嗟に腕を翳し、八岐大蛇の鱗で守るが力の負荷に耐えきれず左腕が弾け飛ぶ。
それに顔をしかませ、だが怯むことなく右腕に持った打神鞭を振るう。
サルバロットは我輩の剛撃を意に介した風もなく、蚊を払うかのごとく魔剣を振るいものの一太刀で弾き返す。
飛沫する火花を視界の端で捉えながらサルバロットの背後へと回る。
サルバロットは落下していく吾輩の左腕を一つ瞬く間に手中に収める。
再び元の位置に戻ったかと思うと嘗て吾輩の肉体の一部であった左腕を翫びながらせせら嗤う。
「おぅおぅ、八岐大蛇の憑依でその程度ったあ。ハクラン大陸の技術も廃れたねえ」
その言葉に憤慨すると同時、胸中で直感する。
勝てない……と。
すると、パスチナがサルバロットの飛沫していた血を収集、凝縮し球状の血塊にする。
血塊を手に持った手の甲が光ると同時、パスチナは浮甲使用紋を発動させる。
「”移動”の紋章!
特異能”超高速航法門”!!」
すると大気が渦巻き岩盤によって形成されていた景色が歪み渦を巻くように亜空間の門が開く。
その門にサルバロットの血の塊を注ぎ込む。
「契約完了! サルバロット! あんたには”世界の果て”まで飛んでもらう」
すると時空が揺れ、サルバロットを亜空間の門へ吸い込もうとする。
「ちょっ……、あそこはマズイっ!」
サルバロットの表情が焦りの色に染まる。
この男……、馬鹿だな。
パスチナの嘘に騙されるとは。
世界の果てに飛ばせるわけ……。
「……ないのかよ、騙してんじゃねぇぞ! 貧乳女ァ!!」
その言葉……、おそらく”貧乳”ワードににパスチナは、
ビクビクビクゥウゥ!! とオーバーリアクションをかます。
今……、あの男。
吾輩の思考を読んだ?!
だが、その疑問を打ち破るようにパスチナが泣き叫ぶ。
「四祖が一人、死祭・パスチナ!! 主に授かりし御力を解放する!!」
パスチナに貧乳は完全に禁句だ。
するとパスチナから黒き瘴気が溢れ出る。
顔に赤い痣が浮き出、腕に黒い血管が浮き出てくる。
「あんたら……、魔界郷にも干渉してんのかよ。こりゃあますますほっとけねぇわっ!!」
そう言うとサルバロットの魔剣が膨張する。
「グランベルク、今日はちと本気出してもらうぞ」
するとサルバロットの魔剣……、グランベルクの柄に牙が生え口を開き腕にかぶり付く。
「グアッ……、ふふはっ。やっぱ最っ高だねえっ。行くぜっ……!!」
その圧倒的なプレッシャーに身体中が戦慄する。
おそらく今からサルバロットとパスチナは最大級の技を打ち出す。
だが……、分かる。
今二人がぶつかると確実にパスチナが……、負ける!
「パスチナすまん! 吾輩も加勢するぞッッ!! 四祖が一人、教荒・レルエッサ!! 主に授かりし御力を解放する!!」
すると、胸の奥から禍々しい狂気の波長が溢れ出す。
脳がブラックアウトし頰が熱くなる。
灼ききれるような感覚と共に魔障の痣と漆黒の斑紋が彷彿と浮かびあがる。
「おーおー、魔障者二人とは……。やりがいがあるなぁぁぁ!!」
「行くぜ、グランベルク……」と声をかけながら天地よ裂けよよとばかりに喝破する。
「ソードスキルXXI! 斬世する権界の伝説!!」
渦巻く大気を身に纏い、サルバロットの血がステンドグラスの様な鮮血の造形を背後に作り出す。
グランベルクが極限まで膨張する。
サルバロットは真上に剣を振り上げ、斬り下ろす。
黒い斬撃が襲いかかる。
その烈風派だけで普通の人間なら粉々に千切れてあるだろう。
それほどまでに強力だった。
力を抑えているのも分かる。
本当の力をそのまま放てば国の一つは軽く壊せるだろう。
そう思っていると隣でパスチナがその小さな身体のどこからそんな声が出るのかと思わせるほどの怒号で叫ぶ。
「魔界王よ!
凶行たる悪性の万物を拉致し轗軻と衰運に堕ち真価を認められず世に受け入れられぬ者たちの嘆きを聴き、魔障の手を貸し与え給え!!
”轗軻”の紋章解放!
特異能”禺轗坎軻坷”!!!!」
するとパスチナの背後に天鵞絨色に光る円の中に、大腸の六芒星を連想させるような紋章が暴輪旋転する。
それに釣られる様に吾輩も叫ぶ。
「魔界王よ!
非常識で不道徳な者共に魔の血を浸し狂妄悖逆、视听不和に堕とし入れよ!!
”狂悖”の紋章解放!!
特異能”凶暴剽悍悖”!!」
吾輩の背後に藍鉄色に光る円の中に、魔人の心の臓が押しつぶされ飛沫するのを連想させるような紋章が現れ暴転旋転する。
吾輩とパスチナは人間の身体から次々と姿を変容させ、邪空な魔人へと変えてゆく。
脳が……、吹き飛びそうだ。
そして、もはや意識のなくなった脳が本能的に口を開かせ、そこから黒き禍い物を吐き出す。
三つの黒が激突し、大地が揺れ動き激震した。
吾輩とパスチナで押し切る!!
最早、吾輩達は人間としての原型を留めていなかった。
だが、既に吾輩の肉体は洗零者と魔界王に捧げた身ッ!
この世界の特異点を、主に仇なす可能性の芽を……、今ここに排斥する!! そして、吾輩の二人の主が為に、この人生全て賭け尽くす!!
二つの黒と、一つの黒は押し引きを繰り返す。
ふと、技を打つサルバロットを見る。
だが、その表情に写っていた余裕に、吾輩は驚きに目を見張る。
――『馬鹿な! 何故……、何故笑っていられる!?!?』
――その声が届いたのかは分からない
――だが、サルバロットは表情を変えず源素力を更に込め
――吾輩達を断ち破った
――儚き黒の断片と化す
――宙を蹴り狩人の様な瞳で、サルバロットが洗零者の元へ向かう
――あの瞳は見たことがある
――子供だ、無邪気な子供の瞳だ
――恐れを知らずただただ思うがままに向かう
――幼育士として師範として教荒としてたくさんの子供と関わってきた
――だが、その日々は失われた
――吾輩は救われたのだ、洗零者に……いや、救世主に!!
――あぁ……。また、笑えるだろうか
――あの子達の様に、純粋な笑顔で
――だが視界に想起されていた子供達の笑顔は黒く……、黒く塗りつぶされていった
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「よう」
楽々と、というのは甚だしい。
「まさかあのタイミングで異空間に転送するとはな。そんなに、あの場所を守りたかったのか」
「当たり前だ……。家をみすみす壊させる奴がどこにいる?」
「ごもっともで!!」
その声と共にサルバロットが突っ込んでくる。
あれほどの大技を打ちながらまだ平気だというのか?!
「悪いが、ヨハネは君とちまちま戦う気は毛頭ない!! 私の人生を賭けて創り上げた理想郷を毀した罪を断罪する! 覚悟なさい……。今日が貴様の命日だッ!!」
腕が決潰しそうだ。
喉仏が弾けでるほどの金切り声でどこか呻吟するように喚く。
「魔界王よ! 洗零者・ヨハネ! 主より授かりし御力を解放する!!」
黒き瘴気が全身を支配する。
天界王はもう終わりだ。
ここから魔界王の時代が来る!!
次の聖戦では決して敗けない。
私も魔界王と共に天界王を滅する。
必ずや、それのみがヨハネの願いであり祈りなのだから。
「常に福にして吾が神の母なる玷なき生神女、爾を福に稱うるは眞に當れ。
智天使より尊き熾天使に榮え、貞操を破らず神言を生み、實の爾を崇め讃めん!
”祈祷”の紋章解放!
特異能” 経架儀繭祖 ”!!」
ヨハネの背後に鴇色に光る円の中に、天使の羽が天板を包み、矢を射る姿を連想させるような紋章が暴輪旋転する。
この紋章は嘗て天界王たるシファン教に身をやつしていた時の物だ。
これを以って決別し排除する。
最後の一滴まで使い果たす!!
これを捨て再び魔界王の元へ馳せ参じた時、かの紋章を承れるはずだ。
だからこそ、全て出し切る!!
ヨハネの背から白翼が生え、天輪が頭上に現れる。
今からヨハネは天使から悪魔へと堕天する。
これはその最後の儀式が一つだ!!
「来い! [ 伝説武器 ]シェキナーの弓ッッッ!!」
天神の一柱、ケルビルの伝説武器を召喚し、現れた白銀の弓を手に取る。
美しい。
だが、これさえも魔界王への捧げ物として重宝する。
「さぁ、ヨハネの一矢を喰らえッッ!!」
そして矢をつがえ限界まで引き絞ると同時……、射る。
その矢の軌道に吸い込まれるようにサルバロットは目前に立つ。
回避は不可能。
さあ、終わりだ。
だが、サルバロットは不適に咲う。
そして、どこか扇情的な唇から常世にまで続くのではないかという声がヨハネの鼓膜を撫で回す。
「فرمان ما پاکستان در كفاره گناهان و افتخار شمشیر قطع از ما دعوت به مقدس!!
《戒めたる大罪人への贖罪に我らが誓いし誇りの剣よ、不破を断ち聖戦へと我らを誘え》」
馬鹿、な……っ。その言葉は!
千年前に消滅したはずの”失われた言語”!!
「貴様……っ、まさか魔術回路を!!」
「結構、開くの大変だったんだぜ?」
そう言うと同時、サルバロットの魔剣がこの世の物では無いかというほどに黒く染まり、大気中の源素力を喰らう。
魔界郷に存在するという黑鼇泉よりも黒いのではとさえ思わせるほどに、その暗黒物質は禍々しい瘴気を吐き出す。
それに大気の胎動がおかしい。サルバロットは上位源素力の精霊すら憑依させようというのか?
こんなものを使える人間など……っ。人間風情が、過去の遺物を持ち出しよってっ!! 魔界王が恐れ、消滅させた文明の力を所有する者に、ヨハネであろうと勝てる見込みは……、ない。
そして、サルバロットの言葉が……、凛烈と揺れ動きながら鳴り響く。
「”……”の紋章解放!
特異能”…………”!!」
――音は、なかった
――サルバロットの声は聞き取れなかった
――まさか、人間ごときがこのヨハネを
――レピアが崩壊し、混濁した世界でヨハネは渇望に耽ったのだ
――世界が壊れていく情景。あれほど美しい物を作り出す説は天界王に身を委ねていてはもう見ることは叶わないと
――魔界郷の事を崩壊者より聞かされ、憧憬し敬虔した。ヨハネは魔界郷に存在するべきだと
――そして、世界より生きる地位を剥奪され変革を望んだ同胞達をここに住まわせた
――監獄島から何人もの囚人をここへ召喚し生きる道を与えた
――生きがいだったのだ
――福の皮を被り、我独の為に背面で悪に溺れる者達を黄泉へ送ることが
――悪こそが正義だ
――正義を翳す者達の帰路は悪でしかない
――ヨハネは祈祷した
――天界王ではない、別の支配者に
――だが、これでいい
――この死から行き着く先は、ハクラン大陸の黒き黄泉だ
――そこから魔界王の元へ馳せ参じよう
――次にヨハネが地上へ出る時は……
――覚悟しておけ、人間ども!!
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
任務が終わりワーブゲートを潜りいつものように暗い地下都市へ戻ろうとしていた。
今日は俺たち全員が同じ任務だった。
ヨナが死んでから約2年。
任務を順調にこなしある程度の地位を手に入れた。
だが、任務失敗でモーセとシマヤ、ホセアが死んだ。
今日も今日とて、日課のように任務をこなし地下都市インペルダムの家へと帰還しようとしていた。
だが、ワープゲートを潜った果てに、目の前に広がるはずの景色は全く違うものを見せる。
明るい。
この光は……、何の光だ?
眩しい……。
まるで、ずっとその光を避けていたように。
何年もの間、この光に怯えていたように。
全員が顔を手で覆う。
それほどまでに眩しかった。
こんなにも……、煌めいていたのか。
俺たちが、もう忘れてしまっていた”太陽の光”は。
見覚えのあるその景色。
青く生えた草、長年使い古された……、おそらく修道院であるそれは。
紛れもなく……、俺たちが一年間住み続けたソマリナ修道院だった。
懐古が身体中を刺激する。
何が起こったのかを理解しようとすると、ソマリナ修道院の横から一人の男が歩み寄ってくる。
「ふー、繋がった繋がった」
目の前の男は手の甲を見ながら言う。
「”移動”の紋章も使いこなすの簡単だったなー」
すると、男はチラリと俺たちを見る。
「あれ、その外套……。もしかして暗殺ギルドの生き残り? んー、まあいいや。君たち、残念だけどもう地下都市へは戻れないよ」
「にしてもこんな子供も使ってるなんてねー」と男は淡々と呟く。
バッと井戸を見ると岩で埋まり入り口は塞がれていた。
男は傷だらけのマントを着、俺と姉ちゃんに良く似た色の水色の髪を肩まで垂らしている。
「お前、何者だ?」
俺は微量の殺意を込め問いかける。
「オレっちはサルバロット・キルレイズ。
分かんないだろうから言っておくと元<十戒剣>の一人だよー」
十戒剣?! キルレイズ?!
「お前……、あのギルドの。それより俺と同じ家名ってどういうことだ?!」
「あれ? 君もキルレイズ? 奇遇だなー、もうこの家名の人間はいないと思ってたんだけど」
「俺はスレイア・キルレイズ。それからこっちがヒスワン・キルレイズだ」
隣のヒスワンは静かに会釈する。
「聞いたことないなあ、分家の子かな? まあいいや。同じ家名のよしみで君たちは見逃してあげるよ。そもそもボスの死とギルドの壊滅はクリアしてるしさっさと報酬もらいに行こう」
そう言いながら俺たちに背を向け歩き出す。
「ばいばーい」と陽気に手を振る青年は何処へともなく去って行く。
背中の黒い大剣が一瞬だけだが、俺たちを睨みつけ威圧してきたような気がした。
――――――十戒剣。
このギルドは世界最強、そして唯一のSS級ギルドだ。
彼らが打ち立てた数々の伝説は今も後世に語り継がれるだろうと言われている。
だが、彼ら10人は……、レピア崩壊直前に突然解散をしている。
その動向は彼らしか知らない。
十戒剣の謎は深く、十大英傑の丘に突き立てられ100年間の間、誰も引き抜くことのできなかった十本の伝説武器である大剣をいとも簡単に引き抜き所有している。
子供ですら十大英傑の伝記を読み、十本とも名が知られている。
覇剣、虚剣、羅剣、命剣、魔剣
絶剣、無剣、月剣、死剣、聖剣
十戒剣とは何なのか、彼らは何の目的で今を生きているのか。
これは、全世界の人間が注目していることだ。
何せ、彼ら10人の戦力は全紋章器使いを以ってしても敵わないとすら言われているのだから。
もし、3000年前の聖戦が再び現代に起きようものなら、真っ先に彼らの力が必要になるだろう――――
「なあ、状況が読み込めないんだが」
ルナートがミサに言う。
「あら、簡単なことじゃない。彼が洗零者・ヨハネを殺し地下都市を、<零暗の衣>を壊滅させたんでしょう?」
簡潔にサラッと言い放つミサに俺たちはしばしば放心する。
「あら、まだ分からない? 私たちはあの街から解放されたのよ。もう、暗殺なんてしなくていいってこーー」
……そこからは歓喜の連鎖だった。
……抱き合う者、泣き合う者。
……それぞれが開放感に浸り、安堵に耽っていた。
……終わったんだ。
……もう、誰も死ななくていいんだ。
……涙を流さなくていいんだ。
……俺たちはそれから夜が明けるまでただただ喜びに浸り宴を催した。
――こうして、俺たちの暗殺士時代は幕を閉じた――
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
名前:サルバロット・キルレイズ
性別:男/年齢:39/身長:182/体重:70
職士:大刻刀剣士
紋章:ひっみつー!
使用スキル:ソード
特異魔法:氷魔法
装備:武器・[ 伝説武器 ]魔剣グランベルク
・・:防具・旅人のローブ
・・:腕・アスカノーラスの龗杯籠手
・・:脚・震馨と鐴濠のウツシミ
・・:所有品・《ようこそ!キャバクラ〜ノ☆》の会員カード、ひび割れた十戒掟板
所属ギルド:今はフリーだぜっ!(元:十戒剣)
最後に一言!:後の9人は何してっかなー。あん時は楽しかったっ、暇な時がなかったからなー……。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
名前:洗零者・ヨハネ
年齢:100を超えると覚えられぬ/身長:156/体重:40
職士:(元:聖職士、魔法士、結界士)
紋章:祈祷
使用スキル:ルーン
特異魔法:光魔法
装備:武器:[ 伝説武器 ]シェキナーの弓
・・:防具・ラクダの毛の皮衣
・・:腕・回心にきす罪なる神の指
・・:脚・神聖の些亡
・・:装飾品・青い冠
・・:所有品・聖典
所属ギルド:零暗の衣
最後に一言!:あぁ、早く魔界王様にお会いしたい。そして、御身の神聖なる名をヨハネに呼ぶ権利を受け賜わりたいっ!!時は……近い。聖戦の時は……近いッ!!
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
ということで今回は「聖戦」のスケールにおける伏線回でしたっ。(ついでに地下都市も崩壊させて一石二鳥っ)
いきなり新キャラ登場させて戦わせてすいません、戸惑いましたよね。
安心してください、彼らの出番はメダハの最後の方までありませんよ。
「十戒剣」は後々かなり重要なギルドになっていきます。メダリオンハーツの根底に関わる部分もあるので記憶の片隅にでも止めておいていただけたらと思いますっ。
さて、”暗殺士パート”も終わり次回からは”迷宮塔パート”に突入です!
第三章折り返し地点!決闘や大規模戦闘などなどファンタジーっぽいものが盛り沢山なのでお楽しみに♪




