第45話:セラフィムの歌が鳴り止む頃、聖三祝文を祈り主よ敬虔なる世界を救え
―――――――― 昇階曲 ――――――――
あれから……、一年が経った。
この一年は俺たち人生の中で最も苦痛で地獄だったと言えるだろう。
それほどまでに過酷だった。
俺たちレルエッサに鬼畜を追い回すかのように調教され、毎日血反吐を吐きながらもここまでやって来た。
流れた涙と吐瀉物の量は人が人生で摂取する水分を遥かに超えるのではと言うほど吐き出された。
過酷な特訓の中、ハバクワとアモスが死んだ。
ハバクワは、耐えきれずに自殺。
アモスは訓練中に狭心症と膜下出血を同時に引き起こし腹上死。
レルエッサは死者がたった二人だということに関心をしていたが、俺たちの中では余りにも呆気なく削ぎ落とされた命が、軽いものに思えて仕方がなかった。
そんな地獄の中で、俺たちは必死に千切れんばかりの血肉を引き摺り回した。
ある時は怒声を浴びせられ、またある時は甘い言葉で可愛がられた。
恐ろしいほどのメニューが繰り出される日々だったが、レルエッサは育成のプロなのか過労による肉体強化は退化にしかならない、と限界を超え倒れたものには1日の休暇を与え寝かされていた。
それに一ヶ月ほど経つと年齢、能力、性格を全て把握し個々のメニューを作成。
かなりオーバーな部分があったがそれぞれの希望職士や特徴にあったメニューだった。
そう……、まさに”飴と鞭”。
レルエッサ曰く特異能などと言っていたが、それが本当かすら空恐ろしい。
俺たちは暗殺士としての基礎知識、基礎体力、判断力を全て身につけた。
そして……、死祭との初対面で暗殺士に就職し地上へのワープゲートの許可を仮にだが貰った。
モンスターと対面し、実際の模擬訓練など地上に出るとまた違うものがあった。
まあ……、本格的に許可がもらえたのはヒスワンとサクヤのチームだけだったけど。
後はレルエッサの付き添いなしでは地上に行き来出来ない。
ここまで……、来たんだ。
「みんなぁ〜! 今までお疲れ様っ!! 取り敢えず任務に出せるくらいにはなったわねっ。ご苦労様♪
……でしたぁっと!! んじゃァ、ここから貴様らには食料も寝どころも一切与えない! 貴様らの力だけで生きろ!!」
その言葉に全員が強く頷く。
最早、ここにあるのは一つの兵団だった。
レルエッサによって完全に統率された獰猛狡猾な兵士たちだ。
俺たちだけで生きる。
特訓はまだまだ続けると言っていたがまた過酷な試練が待ち受けているのだろう。
「唱えよ! そして吾輩に賛美を捧げ!」
「「「我らが死により分かたれ零の境地に至るまで、この魂を賭し生きとし逝くことを誓う! 教荒に従う全ての者は迷うことはない」」」
正直みんな意味は分かっていないが言わされるがままに覚え言ってきた。
レルエッサは満足そうだ。
「それじゃあ貴様ら! 初任務……、死ぬんじゃねえぞっ!!」
「「「はいっ!!」」」
明日から……、初任務だ。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
俺は、昼まで時間があるので少しブラブラと街を歩いていた。ルナート・アレクトスというリーダーとしての覚悟も今では硬くなったような気がする。
今日はけたたましい罵声や怒声はなく落ち着いている。
街の藍さが、静けさを一層高める。
石吹きの地面を少しリズムに乗りながら歩いていると、ふとどこかから歌が聞こえた。
奇麗な音色だ。
俺は建造物の間にある小さな階段を見つけ、そこをゆっくりと昇っていく。
こんなにも何もない時間は何年ぶりだろうか。
ここ1年、ずっとレルエッサにしごき回されていたから、何も考えず自由に時間を潰せることが心地良かった。
階段を昇っていると、少しずつ音色がよく聞こえるようになってくる。
やはり、綺麗な音色だ。
荒んだ街を憐れみ、過去を悼むような……。そんな歌。
その歌はどんどんと耳に届くようになり胸の鼓動が早くなっていく。
宗教的でアルカイックな曲だ。
静謐で透明な響きが心に届く。
一音一音のメロディが空気中に溶け出され俺の元へと舞い降りてくる。
そして、歌詞が聞き取れるほどに近づいていく。
「至善者よ、我等寤め興きて、爾に伏拝す。
全能者よ、天使の歌を以て爾に呼ぶ。
聖、聖、聖なる哉神よ、生神女に因りて我等を憐み給え。
光栄は父と子と聖神に帰す。
主よ、爾は我を覚して榻より起す。
我が智慧と心とを照し、我が口を開き、爾聖三者を讃め歌わせ給え。
聖、聖、聖なる哉神よ、生神女に因りて我等を憐み給え。
今も何時も世世に。
審判者俄に来たらば人人の行は顕れん、故に我等夜半に畏れて呼ぶ。
聖、聖、聖なる哉神よ、生神女に因りて我等を憐み給え」
風が心地よく吹き抜ける。
美麗な歌声だ。
歌を、風が運んでいく。
階段を昇りきり歌っていた人を見る。
そこにいるミサは……、いつも見てる姿よりずっと美しく映えていた。
まるで、そこが世界の中心であるかのように。
胸に手を当て、目を瞑り、口を清らかに開け……、詠う。
暗がりに閉ざされた地下都市に淡い水色の泡が浮かび、まるでここに空が広がっているようだ。
音色が空気を漂い、安らぎと癒しの雨を街に降らせる。
「そんな歌、いつの間に覚えてたんだ?」
「ソマリナ修道院にいた頃に覚えたのよ」
ミサは溶かした淡い茶色の髪をサラサラと靡かせ街を眺める。
藍色の街と歌声が幻想的な青い世界を作り出す。
「こんなところ、知ってたんだな」
「かなり街の外れの所だけど、ふと見つけてね。たまには……、こうして歌でも歌っていないと気が変になりそうだったから」
踏む地は固く、岩盤をそのままにしているのかどこか凸凹している。
「どう、ルナート? まだ、この世界は苦しい?」
「もう……、慣れたよ」
「そう……」
ミサは今何を考えているのだろう。
手すりに手をかけ街を見下ろす。ミサのその姿が……、この上なく美しかった。
ミサのいる所まで行きたい、そう思っても手を伸ばしてもたどり着かないところにミサはいるような気がした。
「ねえ、ルナート……。死は、怖い?」
「どうだろうな、今まで色んな死を見てきたから……。この手で死を与えたことがあるから俺にはわからない」
「そっ……。やっぱり私たちは逃げられないのよね、ここから」
「そういう運命なんだろ、きっと。こんなに幼いのに……。いや、俺たちはもう大人か」
「そうね、精神年齢的には私たちはもう大人になってしまっているかもしれないわ。この地下都市での1年が、地上ではもう10年くらい経っているような気がするわ」
そう言われれば、そうかもしれない。でもまだ、俺は9歳だ。
みんな、その年齢に似合わない体格であったり精神であったり心を持っている。
それが正常ではないことも分からず、ただ一年間己を高め続けた。
……生きるために。
「やっぱり、ルナートには死んでほしくないわ。あなたほど面白い人間はいないんだもの」
「どういうことだよ」
「さぁ?」
イタズラっぽく微笑みかける。
「みんなも……、変わってしまったわ。絶望と諦観の連続で子供としての精神が完全に麻痺し毀れ、本来あるべき子供の姿とは異端の道を行ってしまった」
「確かに……、な。俺たちの中で、人殺しを躊躇う奴はもういないかも知れない。人間の根本的な常識が欠落してしまっているからな」
「まあ、私たちも人のことを言えたものではないけれどね?」
「だな。でも、俺たちだけで生きるためにあの修道院を飛び出したのに……、こんなに非情な運命に苛まれるなんて」
「でも、ずっと続くわけではないわ。この生活が。必ず……、終わりが来る。そしたら、今度は素敵な人生を歩みたい」
「終わり……、か。来るといいな」
すると、ミサは話の穂を接ぎ、俺に問いかけた。
「そういえばルナート。もうあなた……、日付感覚も狂ってるでしょ?」
「んー、そういや最近カレンダー見てないな。でもそんなこと関係な……」
ギュ……、とミサは俺を抱きしめる。
あまり見せない、甘い笑顔を俺に向ける。暖かい、いい香りがする。そのままミサの茶色い髪を撫でたい。
「はい、誕生日プレゼント。今までお疲れ様、とこれからも頑張れの意味がこもってるわ」
「……ありがと、な」
少しだけ、ミサの震えが伝わる。
一年経ったとはいえほとんど子供だけでこの地獄の都市で生きてきたのだ。
「もう……、無茶しないで。絶対、死なないでね。今の私の心の拠り所は残念ながらルナートしかいないから」
「残念ながらって。まあ俺もだよ……、ミサ」
心の拠り所……、か。
だけど、ミサなら信頼できる。
心を預けられる。
このまま、ずっと永遠に抱きしめていたい。そう思えるほど愛おしかった。
ミサの歌声は、まだ俺の心の中で仄かに響き渡っていた。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「えぇー、オイラがやんの〜ダールー」
「頼む」
「メンドい〜」
この少女は死祭・パスチナ。
猛烈な面倒くさがり屋でかなりのインドア派。
だがここの四祖と呼ばれるメンバーに入っているだけあって残虐と言えば残虐だった。
ミサと会って、色々と話をしてから昼前に死祭の屋敷へ向かったものの「夕飯を食べ終えるまで待て」と言われしぶしぶ退散。
昼から夕方までパスチナの領域である紫の街をブラブラしながら時間を潰し、夕飯を終えたであろうタイミングを見計らいようやく会えたと思ったらこれである。
「おい、ルナート」
「ん?」
「任務はもう受けたのか?」
「あぁ、ついさっきな」
「ふーん」
「王族の暗殺だ」
「聞いてない」
そう返すパスチナはピンクを基調とした少女一人が住むには広すぎる部屋の隅でうじうじと折り紙を折っている。
ずっとそうしているのだから部屋も美しい折り紙の造形で一杯であるはずだが、彼女は十中八九途中で飽きそこらに散らかす。更にそこに運ばれてきた食事の残骸や食器、脱ぎ捨てた服が散乱しており、パスチナという少女には”美心”というものが欠落していると見る。
「パスチナ! ワープゲートの許可、早くやってくれ!! みんな待ってるんだ! 何であの2チームだけなんだよ!!」
「許可したの聞いたのなら、オイラに何すれば良いかも分かってるよね?」
「ゥグっ……」
くそ……。こうするしか他に手はないのか。
あらゆる会話誘導を用い他の手で許可をもらう方法を考え実行したがあの偏屈な少女には効かないらしい。
パスチナは対面する人数に限界があり、最大4人とまでしか接することができない。
もしそれを超えると何かの障害なのか一切喋らなくなる。
しかし……、あの手は使いたくない。
だけど……、そうするしか方法はない。
くそ……っ!
なんでサクヤとユウはこんなこと出来たんだ。
いや、ユウは仕方ないか。
あいつ……、まだ幼いし。
「ルナート躊躇わないで、早くするのよ」
「何であの二人は俺たちの分も許可を取り付けなかったんだ!!」
「仕方ないわよ。ルナート、大丈夫。私たちは部屋を外すから」
そう言うミサの顔が涼しい。
我関せずだ。まあ女子には関係のない話だが。
「ねーやるのーやらないのー」と少女の体つきをした自称20歳は言う。
折り紙の冠を被り俺たちと同じくらいのサイズであろう花色のワンピースを着ている。
服がずれ肩が見えている。半分脱ぎ掛けたあられもない姿をしたパスチナは寝そべっていた体制から一回転をし、ゆっくりと立ち上がる。そして、そのサイズにはおよそ似合わないピンク色のゴージャスベッドへダイブする。
髪は銅髪でさらりとショートにまとめている。手入れをすれば綺麗な光沢が出るのだろうが、残念ながらこの部屋から出ることそのものが億劫らしく、まともに風呂で洗ってないだろう髪はボサボサだった。
顔立ちは可愛いと評されるミサともほぼ互角だというのに残念な話だ。……まあしかし互角といえど個人差もありミサの方が上か。
しかしどうやらサクヤにはピンポイントだったらしく饒舌にパスチナの容姿を聞かされた。いざ会うと百聞は一見にしかずという諺を作ったのは誰だというほど似通っており、少々度肝を抜かれたほどだ。
ちなみに、サクヤはパスチナに大分気に入られたのか俺たちの服も大量に貰ってきてくれていた。
200枚ほどを異次元巾着ごと渡されたので、サクヤがそれを持って帰ってきたときには大歓喜したものだ。
流石の俺とて、いつまでも修道院に来ていたボロ衣とレルエッサの作ったのは奇怪珍妙な服を着ていられない。……例え、貰った衣類がほとんど女物であろうとも。
それにしても、サクヤはパスチナをどうあやしたのだろうか。
はぁ……。と、ため息を一つ置く。
やるしか……、ないのか……。
「ねーはやくー、あと10秒で決まらなかったらもう二度と……」
「……やるっ!!」
「けってーい」といいながら手に持ったクシャクシャの折り紙を俺に投げる。
しかし届かずそのまま地面に落ち、折り紙の山の頂点に返り咲く。
あれで相当な実力者なのだから気がひける。
「それじゃあルナート、頑張って。それからよろしく」
「あぁ」
ギィ……、と扉が閉まりミサたちが退室すると同時パスチナはダッシュで俺の所へと駆け寄る。
そして……。
ガバっ!!!! と勢いよく前転しながらワンピースを脱ぎ捨てた。
あらわになったパスチナ。
下着は履いているとはいえ、女の子の裸を見る様でつい顔を背ける。
俺はこういうのをサクヤの様に積極的にはしない……、のだが。
「さぁ!!」
目が輝いている。
そう……、パスチナの要求はただ一つ。
「胸を揉め!!」だった。
だけど……、彼女の胸には。
揉める様な胸など、一切なかったのである。
ずっと胸の小ささがコンプレックスだったらしく、どこで聞いたのか男に揉んで貰えば成長するというのを鵜呑みにしたらしい。
そして、一晩一緒に過ごし、オイラの言う通りにしろ!だそうだ。
パスチナにもこれまでの20年、色々あったんだろう。
そう、彼女の体はおそらく8歳くらいで止まり20歳になるまで一切の成長をしなかったのだ。
余談だがレルエッサはパスチナとかなり年が近いらしい。
一晩パスチナと過ごした二人は言っていた。
サクヤ曰く、何か違う。
ユウ曰く、楽しかったよー!
……だそうだ。
俺たちはそう言う類の事は合間合間の時間にレルエッサから性教育がどうの暗殺の基礎知識がこうの……と、いいながら教えてもらった。
ベッドリードの仕方など訳の分からないことを、レルエッサはいつもより満面の笑みで語っていたのを思い出す。
そういえばサクヤとレルエッサの仲は異様に良かったな……と、しみじみと追想する。
パスチナの”移動”の紋章、特異能”超光速航法門”は彼女が許可した者の血をあのワープゲートの複雑に囲まれた装飾に浸せば契約が完了し、俺たちは地下都市と地上を自由に行き来できる。
つまりはそう、パスチナの胸を”触っていればいい”のだ。
こんなことをしているのをミサに見られでもしたら恥ずかしさで死ねる気がする。
レルエッサはそういう神経には早めに目覚めておかないと暗殺する時の枷になると言っていた。
この心中葛藤、これがレルエッサの言っていたものなのか?
いや、だがしかし性という枷がついた気がする……。完全に逆効果だ。
普通この年頃なら異性の事で機敏に反応したりしない。
パスチナは俺を待っている。
正直……。結論を言えば、嫌なのだ。
抵抗どころの話ではない。
だが彼女の目は期待に溢れている。
今度こそ大きくなる……と、その目が物語っている。
サクヤが聞き出したこぼれ話に寄ると、今まで他の男にもこんな頼みをしていたらしく嬉々として受け入れた男が翌朝には全身血塗れ……、よりもヒドイ比喩しがたい状態になっていたことがあったらしい。
何をパスチナにしでかしたのかは知らないが”触る”こと以外はせずに過ごそう。
「早く! オイラ待ちきれない!!」
「それじゃあ……、失礼」
何もない。
俺は……、心を殺した。
あの日……、マリサを殺した時の様に。
だけど俺はその夜……。何か一つ、大切なものを失った様な気がした。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「で? どうだった?」
「ミサ……。聞かないでくれ……」
「面白いと思っていたのだけれど。まあ、気にすることはないわ。女の胸の一つや二つ」
あれは数に数えるのかとふと思いながらミサを見る。
少しすねているのか頰が膨らんでいる。
「はぁ、ルナートは本当に……。まあ見ていなさい、胸なんて興味ないけれど……。ないけれどその内レルエッサのようになるわ」
「お、おぅ……。頑張れよ」
「分かってないわね。別に胸なんて女性の胸に取り憑いた邪魔な突起物でしかないのよ?」
「ミサぁ、それはねぇぞっ!? おっぱいってのは男子を満足させるためにあレぶれっ¥€×€3〒\°☆°%っ!」
サクヤがキリーナの正拳突きを食らう。
あれは間違いなくクリーンヒットだ。
キリーナはつい先月、紋章”怪力”を認知していた。
それまでもあり得ないほど力持ちだったのだがもうキリーナに筋力で勝てるものはいない。
「はぁ、全く。ねえ、ルナート」
「どうした? ミサ?」
「……これからの任務、死んじゃダメよ」
「当たり前だ」
ミサの頭に手を置く。茶色い柔らかい髪の感触が手に伝わる。そして、そのままゆっくり微笑みかける。
これで少しでも安心し……。
「……そうやったら安心するとでも思ってるのかしら」
「……って、思ってたけど取りやめだ」
相変わらず、つかみどころのないやつだ。
けど、ミサなら死なずにいつまでも俺の側にいてくれるような気がした。
全員がワープゲート前に立つ。その数、34人。
それぞれ6チームが各一つずつの依頼を受け取っている。
依頼はどういう原理かは知らないが全て死祭の元に回ってくるらしく先ほど受け取ったばかりだ。
するとレルエッサが何かの袋を持って俺たちの元へ来る。
「あなたたちぃ〜……。よ〜く聞け、お前らは今日から≪零暗の衣≫として任務に当たって貰うわけだが、吾輩たちは基本的に夜にしか活動しない。そして吾輩達≪零暗の衣≫の象徴でありシンボルでもある団服を貴様らに渡す!」
そう言って袋から大量の漆黒の布切れを渡す。
各リーダーがそれを取りに行きそれぞれに分配する。
「それはここから肌身離さずつけていろ。吾輩達の同志の証明でもあるからな」
そう言われみんなは団服を付け出す。
黒い。
暗闇の様な団服だ。
まるで夜のようなそのコートを俺たちはバサッと被る、付け方が分からない子にヒスワンやミサが教え回っていた。
心の片隅で、女物を着ていてもこれがあれば大丈夫だ。と、ふと思う。
「それじゃあみんな、準備はいいか?!」
レルエッサの声にそれぞれが頷く。
初任務だけど、きっと大丈夫だ。
あれほど特訓してきたのだから。
早く済ませて早く帰る、食料調達や寝所の確保などやる事は山積みだ。
「それではチーム<ウーノ>から順に任務地へ向かえ!!」
その声とともにまず俺の班から向かう。
深呼吸をする。
腰に差した短刀に触れ少し引き抜き、そして戻す。
緊張していた。
チームメイトも同様だ。
だけど、リーダーの俺がそれを見せてはいけない。
平静に……、だ。
拳を強く握る。
着たばかりの黒い衣が背中をさするように靡く。
これをつけただけで、少し強くなったかのような錯覚さえする。
……よし。
息を整え、決意を固めた。
「任務地ルザリア、チーム<ウーノ>行きます!!」
そう叫び、俺たち6人は大きく渦巻くワープゲートへ飛び込んでいった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
――――
※ルザリア王、第一補佐ボンネットの暗殺※
依頼主・グッグ
内容・ボンネットの夜間暗殺
報酬・4万p
期限・次季節まで
詳細・暗殺動機。奴らは≪零暗の衣≫の調査を行い、深くまで探りを入れており。さらには国王に進言し、国の治安をわがままにしている。見放してはおけん、即座に殺せ。
――――
依頼書……、レルエッサの言う任務書をもう一度確認する。
基本的な所から詳しい所までみっちりだ。
「みんな、作戦の手筈をもう一度確認する――」
ここは、メルシナ大陸西端国ルザリア。
この国の政令都市ルザナリアにて今夜凱帰する補佐を暗殺しろ、との命だ。
ワープされた場所は予め指定してあった集会所の屋根の上。
ヒンヤリとした風が黒の衣を吹き抜けていく。
バサパサッ、と黒い団服がひらめく。夜のしじまに紛れた黒き外套を纏った暗殺士6名は静かに佇む。
「ルナート、時間までもうすぐだ」
「あぁ。全員、準備は万端にしておけ。そして思い出せ、特訓の日々を……。あぁ、いや気分が悪くだけだからやめておこう」
もちろん、屋根と屋根をかけるパルクールの特訓も十分にしたし実践練習で囚人を街に放ちそれを暗殺するという実践訓練も何度か受けている。
チームメイトの眼光は鋭い。
暗闇の中、獲物を仕留めようとする獣の目だ。
今回の作戦は簡単だ。
隣国ビラガの炭鉱都市レベルコへの訪問の帰りだ。
ちょうど今日の後10分だ。
チームにはミーニアとレノンもいる。
まだ二人はマーニアに面倒を見てもらいながらでキツイ所はあるが、それでも自我を持ち動ける所までにはなった。
獲物を待つ時間、誰も口を開かない。
マグドとハナも今は静かだ。
マグドは小型のハンマーを、ハナは弓矢を持っている。
残り、5 分。
人を殺す準備。そして……、死ぬ覚悟を整える。
俺たちは皆、等しく生と死の狭間で生きとし生ける罪人だ。
その贖罪は誰に願うことも出来ず、ただ断罪の時を待つ。
息を殺す。自分の……、心を殺していく。
残り、1分。
すると、街の外の方で音が聞こえる。
門が開く音だ。
標的が凱帰した。
もうすぐこの通りを通って俺たちのまちかまえる位置に来る。
右手を上げ、ハナとマグドを見ながらゴーのサイン。
二人は音もなく消え配置に着く。
マーニアは二人に耳元で何か囁く。
そしてマーニアとレノン、ミーニアも配置に着く。
馬の馬蹄音が近づいてくる。
音は五つ、予想通り。もうすぐだ……。
――5
――4
――3
――2
――1
――バッ!!
――闇に紛れ、短刀を引き抜く
――俺たちは黒き衣を纏い暗闇に紛れ標的へ作戦を決行する
――そして、俺たちの初任務が始まった
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
名前:死祭・パスチナ
性別:女/年齢:20歳/身長:129/体重:27
スリーサイズ:B・61/W・48/H・58
紋章:移動
職士:大導陰陽士、(元、神祇士、召喚士、魔術士)
使用スキル:式神
得意魔法:機魔法
装備:武器・折衷式神
・・:防具・花色ワンピース
・・:頭・折り紙で作った冠
・・:所持物・折り紙、ペン、はさみ、のり
所属ギルド:零暗の衣
最後に一言!:いつになったら、胸って大きくなるのかな?
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
〜めも〜
作中歌詞; 祈祷文「聖三者祝文」より抜粋
※パスチナは作者の趣味で書かれた訳ではありません。
※作者はロリコンではありません。
※パスチナちゃんは見た目は子供、年齢は二十歳ですので大人の分類になります。
※重ねて申し上げますが作者はロリコンではありまs……。




