3話:夜のナカス絶叫して回った。
若干、嘘予告が本当になりました。
「ロン毛の腰布男の馬鹿野郎~!そんなだから小銭程度で弟子に売られるんだ!」
「パンチパーマで木陰で昼寝してる奴の阿呆野郎~!何がラホツだ!ニグロアイパー!」
「「※◎↑▽〆★の××××野郎~!」」
…冒頭から宗教団体、敵に回すような問題発言は全力で止めて欲しいです…。
牢獄から帰還後(時間になると衛兵に捕まった場所に強制転移で戻されるらしい。)先ず2人が向かった先はナカスの街名物『屋台』だ。
他の本拠地と比べると比較的遅くまで営業してる屋台が多く、ゲーム時代はそれなりに重宝された。
牢獄の中で食べた“味のしない湿気た煎餅”のような“モサモサした段ボール”のようなサンドイッチと“色が付いただけの水”でしかないお茶…、このゲームだか異世界だか不明な世界の食料は全て『コレ』なのか確認するためだ。
…結果、解った事は料理は全て“味のしない湿気た煎餅”飲み物は“色の付いただけの水”だった…散々食べ歩きして得た情報がコレとは切な過ぎる…まぁ彼女たちで無くとも元の世界の信仰対象?をdisりたくもなる、だが対価になるほどでは無いが少し他の情報?も手に入れた。
1つは今までゲームでは“NPC”と認識していた“大地人”には一人一人しっかりと人格も“バックボーン”もある事、2つ目は大地人から観た“冒険者”は今まで物云わぬ“大地人”に似た別の存在で何処ともなく現れて何時の間にか消える不死の存在で今日のように恐慌状態になって泣き喚く事などセルデシア有史始まって以来初めての現象だそうな。
「…何だろう、この屈辱感…不味い食べ物でお腹いっぱいとか…凄くやるせない。」
「…お義姉ちゃん云っちゃ駄目!その件に触れると泣きたくなる…。」
義姉妹はげんなりして背中合わせでその場に座り込み、やるせなさで頭を垂れる。なまじ、見た目が美味しそうなのにどれを食べても同じ味(湿気た煎餅のようなモサモサ食感)これであからさまに不味ければ、諦めも付くのだが辛うじて食べれるレベルと云うのが更にガッカリだ、こんな食べ物しか今後食べないなんて拷問と同じである。
しかし、嘆いていても問題は解決しない。12時間も拘束された上に屋台で無駄骨を折り、時間帯は深夜に近づこうとしている。他にも検証しなければならない事は在るがそれは明日でも良いだろうと2人は結論を出し、今夜泊まる宿探しを始めた。
「悪い!ランエボ、先に行ってて、私<黒剣騎士団>に連絡してアキバの状況聞いてくる。」
「了解~♪もし、義盛さん達と連絡付いたら宜しく云っといて~♪じゃ、終わったら連絡してね。」
「ん、解った。」
ランエボは宿探しにその場を駆け足で去り、八郎は手近な廃墟の壁に寄りかかりステータス画面からフレンドリストを選択し、誰に連絡を取るか思案する。
(さて…誰に連絡するのが問題だ…消去法で行くと、大工は論外、レザリックは…多分手が回らないだろうし…、ドンちゃんやゼッカも論外だし…、エンクルマ…エンクルマは無いなぁ…、義盛と朝ちゃんもダメだし、サッちゃんとわんこもなぁ~、となるとヘルメスちゃんか、キリーちゃんか、ヴィシャスか…キリーちゃんは阿呆共の相手で手一杯だろうし、ヘルメスちゃんは残りの3人相手で限界…となると…ヤッパリ残るのはヴィシャスか…ん~、一番この状況で平静を保てて且つ連絡付け易いったらそこしか無いか…、よし!)
携帯電話でも掛けるように耳に右手を当て、左手でフレンドリストのヴィシャスにカソールを合わせる。
『よう、お嬢こんな時間まで誰にも連絡無いもんだから柄にもなく<黒剣騎士団>心配してたぜ?』
『はは…ごめん!大介さんちょっとトラブって念話不能になってた。』
頭を掻きながら苦笑するしかない八郎。
『おいおい…本名で呼んでくれるなよお嬢、で?用件はアキバの状況とナカスの状況はどうかって話か?それとも今日知り得たお互いの情報の交換か?』
八郎のそれなりに長かったMMORPG<エルダーテイル>プレイ歴でもっと付き合いが長く、彼女の駆け出しの頃の師匠筋に当たるヴィシャス。それだけに彼女からの念話の用件は予想済みだったようだ。
『流石、師匠!話が早い!』
『…師匠か、お嬢が俺をそう呼ぶのも久し振りだな…、まぁそんな昔話はさて置き、ナカスはどうだ?』
『ん~異世界に飛ばされて直ぐに義姉妹喧嘩やって牢屋にぶち込まれたから、そんなにナカスの現状把握出来てないけど、昼間見た限り皆テンパって半狂乱状態だったのは確かだね。』
『?牢屋にぶち込まれた?って事は“衛兵機構”はちゃんと機能してるって事か?』
『少なくともゲームで“戦闘禁止区域指定”されてた場所での準戦闘行為や戦闘行為やらかしたら衛兵は出てくる…流石にゲーム宜しく死んでも生き返る保証がなかったから衛兵に攻撃は仕掛けなかったけどさ。』
『そうか…こっちも似たようなもんだ、状況の把握が出来なくて皆、半狂乱状態。“GMコール”も“ログアウト”も機能しねーわ、トランスポートゲートは機能しねーわ…。』
『は?“GMコール”の件は気付いたけどトランスポートゲートが機能しないって…それ…。』
『ああ、本拠地から本拠地の瞬間移動は不可能、騎乗生物使っての移動か昔ながらの徒歩での長距離移動しか出来ねー。オマケに攻略サイトなんて拝めねーから“妖精の輪”も迂闊に使えねぇ。』
『何それ?最悪じゃない…。』
『それだけじゃ無え、食い物が…』
『『不味い!!』』
ここだけ奇麗にハモる。
『…だが、素材アイテム、…要は果物や野菜は味がするし、調味料も味はする…調理しようとするとゲル状の怪しい物体Xに化けちまうし、酒は味がしねぇー癖に量呑みゃ酩酊する。』
話を聞いていると<黒剣騎士団>は<黒剣騎士団>でこの混乱の最中、色々と検証していたようだし、八郎達に取って有り難い情報も幾つかあった。
『へ~意外と調べたんだね。やっぱりレザリックの指示かな?』
『御名答、ただ戦闘に関しては“死んだら生き返る”保証がねーからストップが掛かってる…一部の新人が勇ましくアキバから出てモンスターと戦闘やったみたいだが…小便漏らして泣きながら帰って来やがった…。』
なんとも歯切れの悪いモノいいだ。
『ん?どういう事?師匠?ちょっと話が見えてこない。』
ヴィシャスの物言いに怪訝そうに質問する。
『要は“ゲームと同じ感覚”で何も考えず、突っ込んだら向こうは“リアルバケモノ”で怖じ気づいて逃げて来たんだと…然も相手はLV20台のゴブリンだとよ…。レベル差が有り過ぎて肉体的には大したダメージは受けてねーが精神的なダメージの方がな…。』
そこまで云うとヴィシャスは押し黙り、八郎も釣られて沈黙する、今までディスプレイ越しに見ていたモンスターが実際に目の前に現れるのだ、そして闘うのはアバターでは無く自分自身。レベルの低いモンスターでも禍々しい姿し、恐ろしげな武器を振るう、本物の生き物のように動き荒々しく呼吸もする、精神的プレッシャーは計り知れない、これが同レベル帯や、パーティーランク、レイドランクになればどうなるか?
『…師匠…<黒剣騎士団>みたいな戦闘系ギルドじゃそれって致命的なんじゃ…。』
『まぁな、実際新人の嬢ちゃん達や古参でも肝っ玉の小さい連中は少なからず動揺してる。』
『…そっか、でアイザック達は?』
何となく暗い方向に話が行きそうなのを察して話題を変える八郎。
『大工は率先して戦闘やってギルメンの恐怖心を払拭しようとしてな、レザやゼッカ達に取り押さえられて軟禁されてる…。アイツはアイツなりに考えての行動だったんだろうが、異世界がゲームと同じとは限らねー…、もしアイツになん有れば<黒剣騎士団>は瓦解だろうからレザ達の判断は正しいと思うぜ…。』
『アハハハハッ…アイツらしいね、そういう不器用なとこ、で?エンクルマや義盛達は?』
『エンクは通常運転、朝坊はこの状況喜んでお祭り騒ぎ…その度にサツキ嬢ちゃんに気絶され、サツキ嬢ちゃんヘルメス嬢ちゃんは、まぁまともな方か…義盛嬢ちゃんは性別と身長の異差に耐えられず“チ○コが生えたお嫁に行けない”を連呼して凹んでらぁ…。』
『…そういや、義盛のアバター“男”だったね…。そうか…そういう弊害があったか…。』
頭を抱えて眉を顰める八郎、ヴィシャスとの念話でまだまだ、調べなければならない事が多い事を思い知らされる、だがこの異世界を知らねば現実世界への帰還の糸口さえ見つからないだろう。
今後、何か在れば逐一連絡を取る約束を交わしヴィシャスとの念話を終えた八郎は漠然と夜空を眺める。
「…意地でも静香を連れて秀くんの所に帰る!否、皆と一緒に私達の本来居るべき世界に帰るんだ!」
肚の中の決意を口にしながら夜空を睨み付けた八郎は改めてフレンドリストから“ランエボ”を探すが見つからない…、何故か見つからない…、そう!この義姉妹はお互いのフレンド登録をし忘れていたのだ…その事に今更気付いた八郎の顔は真っ青になり、慌てランエボが向かったであろう方向に走り出す。
「ランエボ~何処に行ったぁ~!返事して~!」
こうして義姉妹の大災害1日目は終わりを告げたのである…。
一方ランエボは、既に宿に泊まり就寝していたのであった…。
「ランエボ~!静香~!エボリューション!何処に行ったのよ~!」
夜のナカスに妙齢の女性の絶叫が延々と明け方まで鳴り響く…
…合掌…
次回嘘予告
ナカス最大のスピード狂ギルドに目を付けられた義姉妹、ランエボを人質に捕られブチ切れた八郎はギルドマスターのグレーゴーストにチキンレースを提案、チキンレースの勝負の行方は?ランエボの身柄は無事なのか!?次回『三匹が!!!』第4話:疾風伝説!特攻の八!




