18話:中州与太郎騒々曲その1
…最後の更新が昨年の5月。
『おっしょい♪おっしょい♪』
『なんもなかー! しょんなかばい!』
『うちらをしばるもんはなんもなかー! 服着とったってしょんなかばい!』
ナカスの街は、半裸の踊り子とそれに釣られ半裸…、酷い者になると全裸で踊り狂っている冒険者で溢れかえっている。
この乱痴気騒ぎの主犯が何を思ってこんな破廉恥な事を思い付いたのかは知らない。
街の外では冒険者同士の大乱戦、街の中では冒険者による乱痴気騒ぎ…、そんな喧騒を余所に“無法街”は何事もなかったかのように静寂を保っている。
出入口を改装し和風にアレンジ、『盃にぶっ違いの日本刀』をあしらった代紋の描かれた提灯が掲げられた建物が“無法街”の顔役、ギルド<侠刃>のギルドタワー。
その玄関先で煙管をペンのように指先でクルクルと小器用に回し歓声とも奇声ともつかない声が挙がる方向に目をやり、隣でヤンキー座りで紙巻煙草を吸う兎原華院に質問する。
「ねぇ、ミキオさんあの“どんたく”だか“ええじゃないか”みたいな変な掛け声ってなんなんです?」
「ミキオって呼んでいいのは<侠刃>のメンツだけだ…。まぁ、いいか…アレか?ありゃナントカってギルドが音頭とって半裸や全裸で躍り狂ってんだよ…。」
「野郎の全裸や半裸は観たくないっすね…。」
「バ~カ!音頭とってるギルドのギルマスはネェチャンで、オメエ!バイン!バイン!のボイン!ボイン!だぞ?」
「オッパイっすか?オッパイなんですか?僕が不在の間にナカスではオッパイ祭りですか!?」
鎌吉はPKに襲われて以降、ナカスの街中には近寄りもしなかったので現状には疎く鼻息荒くし、空に瓢箪かコーラのペットボトルのような形を描く兎原華院に詰め寄る。
「そういうこった…。つーか、オメエが大人しく事務所に入ってくれりゃあ、俺は裸躍りに参加してたんだよ!」
「…ギルドタワーの中にあの馬鹿が居るんでしょ?冗談じゃない!アイツと同じ空間に居るなんて想像しただけでムカっ腹が立つ!」
「…お前のボン嫌いも大概だな…。あんな理由でよくもまぁ…って」
「あれ?」
二人の身体が突如、宙に浮く。
「色ボケども、いい加減にしとけよ?」
2mを超える鎌吉と成人男性としては標準的な身長の兎原華院を猫でも掴むかのように吊り上げる白虎のような猫人族の大男。
■
<侠刃>ギルドタワー応接間
○映Vシネマ任侠モノにそのまま使えそうな反社会的組織の事務所を彷彿させるような数々のオブジェ、豪奢な対面式ソファーに座り折れた打刀をまじまじと観察する乞食然としたドワーフ、<侠刃>ギルドマスターKY=ミツ。
彼の前で眉間に皺を寄せソファーの上で正座する伊庭八郎と彼等を囲むように立つ<侠刃>の面々。
「云いたい事、聞きたい事は山ほどあるけどさ、ミッちゃんも<侠刃>戦闘班も今回の件、黒幕が誰だか最初から知ってたわけ?」
「ああ、知ってた…、どんな時代、どんな状況でも“情報”ってのは生命線だ。こんな訳の分からん状況でもそいつは変わらねー。些末な情報だろうが与太話だろうが拾えるモンは全て拾って精査する。」
「…ふ~ん、で知った上で私の嘘っぱちに付き合った訳だ?」
「そういう事だ、退屈凌ぎにその嘘っぱちに付き合ってやってんだ?博打はハチ公、お前が勝ったんだぜ?もっと喜べよ?」
その言葉に口の端を歪め、おもむろに懐から煙管を取り出しペンのように指先で一回転させ雁首をKY =ミツの鼻先に突き立てる八郎。
それとほぼ同時に八郎の首筋に無数の刃が突き立てられる。
「よぅネーチャン…、なに物騒なモノ親分に向けてるんだ?親分の古馴染みで、ランエボ嬢の姉さんだからってその手の悪戯を笑って見逃すほど俺達はぬるくねーぞ?」
2mはゆうにある十手を八郎に突き立て何故か肩にランエボを座らせている和装の大女。
「悪戯って分かっててそこまで殺気立つなんて、あんたらの程度が知れるわよ?“コマサンダー”?」
薄ら笑みを浮かべ煙管クルクルと回転させ目の前にあるテーブルに[斬刹龍]を置き、懐に携帯している[ダザネックの魔法鞄]も取り出しテーブルにポイっと放り投げ、両手を挙げて敵意の無い事を示す。
八郎の首筋に突き立てられた無数の得物は潮が引くが如く次々と鞘などに納められる。
「…俺はジン○グマの怪人か?“コマ○ンダーはスーパ○1より強いのだぁ~”って沢り○お御大ヴォイスで※)おらべってか?」
※)『おらぶ』方言で『叫ぶ』の意
「あら?ごめんあそばせ“うえうえ、したした、ひだりみぎ、ひだりみぎ、びー、えー”さんだったズラか?」
大女を見上げながら『べぇ』っとハーフアルヴ特有のタトゥーの入った舌を出し挑発する。
「その語尾は“コマさん”だ!」
「やっぱり“コマサンダー”なんじゃん。」
「てめぇわざとやってるだろ!?俺の名前は↑↑↓↓←→←→BAだ!なんべん云や解る!」
↑↑↓↓←→←→BA、通称“コマ”ギルド<侠刃>もう一人のサブギルマスにして生産部棟梁。
戦闘“班”が『隊長』で生産“部”が『棟梁』とはこれ如何にではあるがそれを言い出すとツッコミ処は幾らでも出てくる。
鼻息荒く怒鳴るコマをランエボが宥める。
「コマさん、お義姉ちゃんこんな人だからあまりムキにならない方がよいよ?寧ろスルーすれば、そのうち自滅するから。」
「なっ?!ランエボ!あんた!」
「嬢ちゃんの云う通りだコマ、ムキになるなハチ公は昔っからこうだ。」
「なっ?!ミッちゃんまで?!」
思わぬ処からの援護射撃で致命的ダメージを受けた八郎は返す言葉も見付からず口をパクパクさせる。
そんな八郎お構い無しで会話を本来の方向へと修正するミツ。
「なぁハチ公、お前<放蕩者の茶会>の参謀格に誰か知り合い居るか?」
「…、なによ?それが私の質問に対しての答え?質問を質問で返すってどうなのよ?」
あからさまに不快感を露にする八郎だが、それを一睨みし改めて質問をする。
「茶会の参謀格に知り合いは居るか?」
「だから…しつ」
「知り合いは居るかと聞いて居るが。」
表情も声色も全く変えず睨み据えるミツ。
「…そりゃ、<最強工務店>時代から大規模戦闘攻略の一番争いしてた相手だから茶会の参謀格を知らない訳じゃないけどさ…少し言葉を交わした程度よ?知り合いってほど近くはないわね。」
根負けした八郎がポツリ、ポツリと呟く。
「…。」
「…、私の記憶違いじゃなかったら<KRひとり団 >ってタグ付けた妙なプレイスタイルのKR って<召喚術師>とヘイロースの九大監獄の攻略法web にアップしてた<付与術師>“腹黒メガネ”と茶会のリーダーにべったりのナイフ使いの…<妖術師>の…外部交渉窓口係りみたいな?なんとかティクスってのが<放蕩者の茶会>の参謀格じゃなかったかな。
…てか何よこいつらが黒幕?それともこいつらの誰かが黒幕だったの?」
八郎の問いに答えず破損した[オサフネ]に改めて視線を戻し呟く。
「“元”黒剣なんざ掃いて棄てるほど居るんだ、そんなモン有難がるバカはいねえ。“現”黒剣で幹部ってんなら話は別だがな…。
けどよぅ同じ“元”でも『伝説』になっちまった<放蕩者の茶会>のメンバー、しかも参謀格ってんだからそりゃ、半端者共が泣いて有難がるってもんだ。」
「掃いて棄てるほど居る塵芥な元黒剣騎士団で悪ぅございましたね!勿体ぶらないで端的に云いなさいよ!結局誰なのよ?」
『年寄りは一々回りくどい』と云わんばかりの云い様で喰って掛かるがそんな八郎などお構い無しで破損した刀身を自身の腕や足に突き立てたり斬りつけたりするミツはボソリと呟く。
「元<放蕩者の茶会>参謀『なんとか』ティクス…、そいつが裏で糸引いてるって話だ…。」
「…、その情報確かなの?」
ミツの『なんとか』官兵衛的な言い回しに情報の正確さを疑問視する八郎だが、そんな彼女の頭を唐突に破損した刀身でコツコツと小突きながらニヤリと笑みを浮かべるミツ。
「冗談でぇハチ公、『なんとか』官兵衛的な言い回しがしたかっただけだバカ。裏で糸引いてんのは“元”茶会のインティクスって小娘って話だ。」
頭を小突く鋒を鷲掴みにし満面の笑みを浮かべる八郎。
「ミッちゃんも昔と変わらないね。一応、念押すけど裏は取れてるのよね?」
「くどいようだが“情報は生命線”だ。しっかり裏ぁ取ってあらぁ。」
お互いが喜色満面でドカリとソファーに座り直す。
ミツは情報元を告げず、唐突に現在の日本サーバーにある本拠地の状況を北から順に話し出す。
最北の地ススキノは現在、ギルド<ブリガンティア>が無法の限りを尽くす危険地帯だそうで冒険者も大地人も怯えて暮らす毎日。
もっとも冒険者が多くログインしているであろうアキバは混乱の只中。
ホームから一歩出ればPKに襲われ、よしんばPKに遭遇しなかったとしても狩場は大手ギルドに占有され零細ギルドやソロプレイヤーには優しくない雰囲気。
ホームに戻れば大手生産系ギルドの出し渋りに大手戦闘系ギルドが幅を利かせ大通りを闊歩、それに属さない者は肩身を狭くせざるを得ない状況、他にも問題はあるがそれはお前も知ってるだろうとミツは話を省略、シブヤもアキバと似たり寄ったりだとやはり省略。
ミナミは“剛勇無双”の二つ名で有名なナカルナード率いる関西最強戦闘系ギルド<ハウリング>や<甲殻機動隊><キングダム><ハーティ・ロード>などの戦闘系ギルドの小競り合い。
それを裏で工作しているのがインティクスと<付与術師>濡羽の二人だと云う話と…イヤイヤ、ナカルナードとゲーム時代からド突き漫才をやっている“死霊術師”“屍体愛好”の二つ名で一部有名な西武蔵坊レオ丸と云う話が錯綜しているが、今回<NKS24鬼衆>を中心に集まったナカスギルド連合の黒幕がインティクスだというのならミナミで暗躍しているのはインティクスと濡羽で間違いないだろうとの事。
「レオ丸法師の名前が挙がるって事は、あの坊さん大なり小なりミナミでやらかしたの?」
「なぁ~に、昔、お前とヘルメス嬢ちゃんがミナミでやらかした悪戯よりは可愛らしいもんだ。」
※八郎とヘルメスが昔ミナミで何をしたかは『残念職と呼ばないで(仮)』22話~弧状列島ヤマトの旅その1~を参照。
ミツにそう云われ当時のドタバタ劇を思い出し眉間に皺を寄せ憮然とする八郎だが、そんな彼女に更なる追い討ちが掛かる。
「レオ丸和尚はヘラヘラしちゃいるけど、人望も人徳もあるから回りに人が集まる。だからそれをやっかんで下らない与太話を吹聴されるけどさぁ、雌ゴリラ!あんたは人望は無い、人徳は無い、色気も無いの無い無い尽くしじゃん。
あんたと和尚じゃ“やらかした事”のスケールが違うってーの!」
ミツの後ろで腕組みをし八郎に『ベェ』っと舌を出しあからさまに挑発する露出の高い巫女装束の女エルフ。
その挑発に乗り敵意剥き出しで睨み据える八郎。
「…初対面のクセにいやに噛み付くね…尻軽女!昔、何処かで私とクエストか何かでカチ合ったクチかい?」
「…あんたは覚えて無いみたいだけど何度か大規模戦闘で会ってるだけどねぇ…。」
口元に笑みを浮かべているが眼はまったく笑っていない<侠刃>戦闘班所属、拾壱子。
オヒョウ様御作 『私家版 エルダー・テイルの歩き方 -ウェストランデ編-』より西武蔵坊レオ丸法師のお名前をお借りしております。
にゃあ様御作 『ログ・ホライズン二次外伝~六傾姫の雫~Ⅰ ルークィンジェ・ドロップス』011 混迷 ~毎日が日曜日、終わらない日曜日~と若干リンクさせて頂きました。
時期的に情報が錯綜している時期なのでこのような扱いになっております。問題点等ありましたらご一報を




