15話:中州与太郎行進曲
何時もより短めなのと手前味噌な解釈はご愛嬌って事で。
~キティー・ホークside~
「拙ったか?」
キティー・ホークは薄ら笑みを浮かべつつ自身の不用意な反撃を反省する。
本来は相手を逆上させ、動きが雑になった所を一気に攻めて倒す算段だった。自身より明らかに格上を相手に闘う以上、このような手段しか無いと判断した上での作戦だったが、あまりにも作戦通りに事が進み過ぎるので過信し決着を急ぎ過ぎた。
だから相手は冷静さを取り戻し、格下相手でも油断無く警戒している、先ほどまでのように不用意には間合いを詰めて来ないし、飛んで来るジャブも牽制やこちらの出方を観る為のブラフだ。
だが、不用意な掌打は必ずしも無駄ではなかった。猫人族相手に(?)あの程度の打撃では『脳』を揺らす事は出来ない…他の種族より身体の構造が『獣』に近い所為かは他の猫人族と対峙して比較してみないと分からないが…。
(玉葱食わせたら悶絶するかな…?)
下らない事も頭を過るが、今はそれどころでは無い。眼前の巨躯の白虎を思わせる猫人族、現実では元プロボクサーと噂の道仁を如何に殺さず素手で戦意を挫く若しくは沈黙させるかが目下最優先課題だ。
八郎は素手で武闘家を倒せとは云ったが何も道仁に合わせて殴り合いで勝てとは云っていない。
多分、噂に聞く彼女の性格からしてそうでは無いのだ…。
彼女なりの思惑はあるだろう、それを全て告げらた訳ではない、だが後に<大災害>と呼ばれるこのイカれた事態で知己を得て共に行動をするようになってから彼女は言葉通りの無茶振りをする事もあれば、言葉に出さす暗に無茶振りをする事がある。
前者の場合は暇潰しの悪戯か、セクハラ行為への報復が多い。しかし後者の場合は実力をかった上での『もっと凄い事出来るだろう?』的な信頼からのモノだ。
知り合って日も浅い人間に其処まで信を置かれるのも悪くはない、それがおっぱいの大きな年上の女性なら尚更である、股座がいきり立つ…もとい、その信頼に応えようという気にもなる。
道仁との間合いを少しづつ縮める多少の被弾は覚悟の上だ。最小の攻撃で大ダメージを出すべく特技<ソアスポット>を発動させ急所を見定めつつ何時の間にか取り出した物体を右手に握り込む。
(ぶっつけ本番で巧くいくかな?)
数発のフリッカージャブをギリギリで回避しつつタイミングを測る。
「きっきっき!艦小僧!やっと闘る気になったか?」
「まぁ、そんなところです!よっと!!」
左ジャブに合わせて右ストレートを道仁の大きな左拳へと叩き込む。タイミングはドンピシャ、キティー・ホークの右拳からガラス片と毒々しい色の液体が弾け飛び、黄色い電撃が走るエフェクトが道仁の左拳に纏わりつき左腕に<麻痺>のBSが付与される。
麻痺で動かなくなった左腕を掴み逆関節を極めなんの躊躇もなくへし折るキティー・ホーク、道仁の左肘は『ボキッ』と渇いた悲鳴を上げ在らぬ方向へ曲がるがそんな事はお構い無しとばかりにまだ左腕を掴むキティー・ホークの脛を踵で蹴り飛ばし痛みで掴む力の緩んだところに振り向き様、大振りな右フックで吹き飛ばし射程範囲外へと退避する道仁。
折れた上に<麻痺>のBSを付与されダラリと垂れた左腕を動くか確認し苦痛に顔を歪めるが口元は笑っている。
「きっきっき…<パラライジングブロウ>で麻痺させた上で骨を折るとはお優しい事で、で?てめぇの拳も無事じゃないみたいだが大丈夫か?艦こ…否、キティー・ホーク。」
「あぁ~ご心配なく道仁さん安物の効果時間の短い<麻痺毒>ですから<パラライジングブロウ>打ち込まれた貴方よりはダメージも少なく済みますよ、そいぎんた今の僕は“鳥八十の鎌吉”名乗ってますんでよろしく!」
「は?なんだ?そりゃ?」
<麻痺毒>の小瓶を握り込んでいた右手をヒラヒラさせ <麻痺>のBSが効果時間が過ぎているのをアピールする鎌吉。
(さて、一発もらったけど、ダメージはさほどでもない…対して道仁さんは左腕損傷…っても向うはまだ本気じゃない…タダでさえ緊縛プレイで僕の方が分が悪いんだから、いい加減畳み掛けないとこっちが先に殺られるよ。)
先の大乱戦とゲーム時代の道仁のプレイスタイルを考えれば飛距離の長い<ワイヴァーンキック>は移動補助程度、他の蹴り技や投げ技系の特技もほぼ使わないので警戒すべきは彼がもっとも得意とする拳による打撃とアウトボクサー特有の歩方だ。
元々素手の戦闘が可能な<武闘家>は素手で発動する特技のバリエーションが豊富だが、武器攻撃職の<暗殺者>である鎌吉は素手で発動する攻撃用特技はかなり限られてくる。<ソアスポット>で急所を見定めたところで彼のもっとも得意とする特技は現状発動出来ないので一撃で沈黙させるのは無理だ、なので鎌吉は現在も考える、如何にして素手で<武闘家>を打倒するかを…。
(ちっ!油断した!まだあのガキを舐めて掛ってる証拠だ…まさかあんなやり方で<パラライジングブロウ>を発動させやがるとは…舐めた代償が左腕ってのは決して安かぁねぇな、本気ださねぇとこっちが殺られちまわぁ。)
折れた左腕を一瞥し、改めて間合いの外で此方の隙を覗うエルフの<暗殺者>を睨む。ゲーム時代からの顔見知りでプレイスタイルも知っていたので舐めて掛っていた…だが、ゲームが現実化した(?)この異世界ではその思い込みは命取りだと再認識せざるを得ない。
近しい間柄の冒険者に良い例が居るのを失念していたし、先ほどの大乱戦に参加していた冒険者も本来のプレイスタイルと異なる連中が居たのも確かだ。
『敵を侮るな』そう肝に命じた時だった。
「なっ?!」
ほんの一瞬、眼前から鎌吉が消えたかと思うと右側頭部に痛みと衝撃が走り左後ろへと仰け反る道仁、眼帯をしている方からの飛び膝蹴りをモロに貰った格好だ。
鎌吉の攻撃は止まらない、そのまま死角から<アクセルファング><デッドリーダンス>を発動させた上での蹴りやパンチ、肘鉄をこれでもかと叩き込む。
慌てて反撃をする道仁だが左腕がいう事を利かない為、そして巧妙に死角から攻撃を加えられる為、満足な反撃が出来ない。
鎌吉の攻撃速度と与えるダメージ量は1HIT毎に上昇する。
「道仁さん卑怯なんて云わないでくださいよ?」
そう云うと道仁の背後を取り、首に右腕を回して左上腕あたりを掴み、左手で相手の後頭部を押して絞めるスリーパーホールドを極め頚動脈をガッチリとホールド。
「ぐっ…がっ…」
気管にも腕が食い込み、巧く言葉を発する事の出来ない道仁は必死でもがくが、もがけばもがくほど鎌吉の腕は余計に食い込む。
苦し紛れに背後にいる鎌吉の頭を掴み力任せに引き剥がそうとするが掴んだ右手は力なくダラリと下がり背後の鎌吉にもたれ掛かるように崩れ落ちる道仁。
白眼を剥き気絶した道仁を確認し高々と右拳を天に突き立てる鎌吉。
「伊庭八郎が1の子分、“鳥八十の鎌吉”ことキティー・ホーク!!<侠刃>副頭道仁討ち取ったり!」




