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三匹が!!!  作者: 佐竹三郎
~2章仲間集めをしよう!~
20/26

13話:ダンジョンの出入口で出会いを求めるのは危険だろうか?その5

前回の話の後半と出だしが前後してますのでご注意。


今回、かなりひねくれた独自解釈をしております。

あと、ダラダラと長くなった箇所を整理したら思いっきりご都合主義になりました、普段以上に荒が目立ちますね反省。

 道仁の大振りな打ち下ろしの左(チョッピング・レフト)気味の<ライトニングストレート>を紙一重で回避し<オリオンディレイブロウ>を叩き込む怒門、それを仁王立ちになり<ハードボディ>で正面から受る。

 オリオン座の形をなぞるように打ち込まれた衝撃が共鳴しあい、時間差で大打撃を与える筈なのだが、時間差で襲う衝撃に何事も無かったかのように仁王立ちのまま不貞不貞しい笑みを浮かべる道仁。


「きっきっき…どうした?自慢の籠手ガントレット能力ちからは解放してくれねーのか?怒門よぅ?」


「チッ!おいさん!あんたなんかしとろう(・・・・・・)?なんでその装備でそげん堅いとか?」


 怒門の云う通り、戦士職1防御力の薄い<武闘家>が最大の長所である回避力をほぼ発揮せず殴り合いをしているのだ。

 にも関わらず怒門と道仁では受けるダメージ量に差が有りすぎる。


 幾ら<ハードボディ>を発動させているとは云え<武闘家>の必殺技である<オリオンディレイブロウ>を正面から受ければ、それなりのダメージ量になる筈だが道仁の受けたダメージ量は深刻なレベルではない。逆に道仁より防御力に勝る装備や、防御力上昇アイテムを身に着けた怒門の方がダメージ量は深刻である。

戦闘班こいつらが馬鹿んごと強えけ忘れよったばってん。母体の<侠刃>は生産系なってね…。防御力上昇アイテムか戦闘時にダメージ無効、ないし即時HP回復アイテムでも仕込んどるか…?)


 一端、道仁の射程圏内から外れステータス画面を開きHP回復の<霊薬ポーション>を選択し使用する。


「きっきっき?どうした?まだ闘争れるよな?とんずらなんて悲しい事してくれるなよ?」


 御丁寧に怒門の回復を待つ道仁、それを忌々しく思いつつある程度HPが回復するまで<霊薬ポーション>を使い勝つ為の作戦を練る。

(虎のおいさんの戦闘スタイルはボクシングベース…然もなんでもござれと来てやがる…?間合いを取れば、あの厄介なジャブの弾幕。

 接近戦に持って行けば<特技>織り交ぜの重いのが飛んで来よる…蹴りや投げが来んち分かっとっても“分かっちょる”だけでどうにもならん。どげんかしてこっちのペースに持ち込まんとジリ貧か…。

 ……出し惜しみは無しで攻めるか…。『攻撃は最大の防御』ち云うしな。)


「おいさん!後で武器使われたけん負けたちゃ云うなよ。」


 極自然に左半身の構えを取る怒門。


「きっきっき!ブーじゃあるまいし、得物使ったって文句なんか言うかよ!」


 往年の名ボクサーのようにノーガードで時折、首を差し出すような仕草で挑発する道仁。


 怒門はおもむろに左籠手ガントレットの手首付近を探ると特技<ハンティングホーク>を発動させ針状の投擲武器を道仁目掛けて投げつける。


「何だぁ?」


 怒門の投げた針状の投擲武器、避けずに受けた道仁の身体に刺さる。


 ダメージはさほどでもないが<硬直>のBSバットステータスが付与され身動きが取れなくなる。<暗殺者アサシン>の特技<影縫い(シャドウバインド)>と似た効果を持つ暗器[針ノ一縫シンノイッポウ]の効果で数秒ほど道仁の動きを封じる。

 其処へ間髪入れずに<ワイバーンキック>を叩き込み<エアリアルレイブ>へと繋げ他の特技を織り交ぜ空中連続コンボを決める。


「ゲハッ…っきっき…き、やっぱゲーム(・・・)だな…現実でこんな馬鹿げた動きが出来るかってーの!」


 防御はとるものの、間断無く続く空中コンボに為す術の無い道仁。


「こん状況でまだ減らず口かい!くたばれ!<ライトニングストレート>」


 怒門の右手に装備された<武闘家モンク>専用武器であり特技<ライトニングストレート>の威力を大幅に向上させる[閃光の(シャイニング・)籠手(ガントレット)]が眩いばかりの光を放ち道仁の眉間にヒット、そのまま右手で顔面をアイアンクロー気味に鷲掴み。


 特技<タイガー響拳エコーフィスト>の威力を上昇させる左手の[暗黒ダークネス・籠手(ガントレット)]が禍々しい暗黒のエフェクトを纏い道仁の鳩尾に深々とめり込む。


「ゲッ…」


 道仁の鳩尾には波紋状のエフェクトがつき、数秒後炸裂し彼は血反吐を吐きながら地面へと墜落する。


 ドウッ


 地面に叩きつけられワンバウンドし大の字に横たわる道仁は左手首から外れバラバラになった念珠を見てその後ステータス画面を確認しつつ血反吐を吐きながら愉快そうに笑う。


「…きっき…ゲハッ…この身体になって久し振りの瀕死だ…念珠の効果も切れたか…きっきっき…やっぱり殴り合いは楽しいなぁ…おい?イチコぉ~!ヒール頼む!っつっても全回復は無し!インスタントな!身体が動けばいいからよう…。」


 彼の左手首に装備された念珠[鳳眼菩提念珠]は珠の材質や珠の数によって効果などが変わる製作級アイテムで彼の物は<施療神官クレリック>の<反応起動回復リアクティブヒール>と<神祇官カンナギ>の<禊ぎの障壁>の効果を併せ持つ。


 但しその能力は熟練の回復職のそれと比べるとかなり見劣りする効果しかなく使用回数も珠の数に依存する使い捨てアイテムである。利点が在るとすれば効果発動時に派手なエフェクトが発生しない為、PVPなどでは相手に防御力が高いように錯覚させる事が出来る事とソロでの継戦能力の延長が図れる事である。


「道っちょん、インスタントで良いなら<霊薬ポーション>でも使いなよ!面倒くさっ…。それにあんたの好きな1対1(タイマン)でしょ?ミキオだって根性見せたんだからNO.2のあんたも根性だか本気だか見せたら?」


 心底面倒臭い!っと云わんばかりに眉を潜める拾壱子とその反応を面白がる2人と何考えてるのかさっぱり分からない1人に呆れながら虚空を指でなぞり<霊薬ポーション>を出現させる道仁。


「…きっきっき…あぁ~そうだタイマンだったな…さて、そろそろ実戦・・・・で試してみるか?俺の実力(・・・・・・・・)の片鱗を(・・・・・・)


 そう云うと取り出した<霊薬ポーション>を一気に煽り布鎧[悪僧の法衣]の袖と裾を捲し上げおもむろに立ち上がる。


「おいさん、まだるとや?」


「“本気”には“本気”で応えねぇと無礼ってもんだろ?なぁ?<NKS24鬼衆>ギルドマスター怒門雷ZO殿。」


 そういうとそれまでよりも速い動きで瞬時に間合いを詰める、咄嗟に間合いから逃れようとする怒門を<アドヒュージョンビー>で執拗に間合いを詰め反撃を開始する。


「速い!」


「一緒に踊ろうぜ?怒門!」


 2mを超える巨躯を小さく屈め“ガゼルパンチ”気味に<サイレントパーム>を撃ち込む。

 直撃を喰らった怒門は大きく仰け反るが間髪入れずに左右のストレート、右のジョルトブローを連打する<トリプルブロウ>が飛んでくる。先ほどまでとは速度が違う(・・・・・・・)エフェクトなどで、どの特技が来るのか分かるが分かっても反応出来る速度ではなかった。


「ガ…ッ」


 今度は怒門が血反吐を吐く番だ、防御ガードはすれど防御ガードすらこじ開ける破壊力と回避が追いつかないほどの手数、HPは見る見る内にレッドゾーンへと突入。


わりいな…ヤッパリ俺の方が強えぇわ…。」


 BSやダメージでフラフラではあるが戦意を失わない怒門の眼を観てそう呟く道仁は彼の左胸(心臓部分)に軽く右拳を当てる。


ヒュンッ


「え?」


「あん?」


 一瞬の出来事だった、怒門の僅かに残るHPが一瞬にして“0”になり七色の泡となって消えた。


 だが、それは道仁の攻撃ではない(・・・・・・・・)何者かの遠距離狙撃・・・・・・・・でだ…、余りに突然の出来事で呆けている彼は状況が把握しきれて居ない。


 そしてそれは道仁だけで無く、周辺に居た冒険者も同様であったが、角度によっては道仁の攻撃で(・・・・・・・・・・)倒されたようにも見えなくもなかった。


「汚いぞ!<侠刃>!伏兵に(・・・・・)狙撃させるなんて(・・・・・・・・・)!これがお前らのやり方か?」


 大声で大仰に叫び道仁の背後から斬り掛る張、その叫び声で我に返った道仁は間一髪で斬撃を回避するがそこで突然動きが止まる。


 ゴボッ…


 道仁の脇腹に毒々しい紫色の毒の泡が沸き立ち、ドス黒いとも紫ともつかない色の液体を口から吐瀉する、<ハイディングエントリー>で誰にも気付かれず彼に近付いた<Dirlewangerディルレヴァンガー>所属の<暗殺者アサシン>による<ヴェノムストライク>が決まり猛毒に犯されその場に力無く膝を着く。


「…何なんだ…こりゃ…ゴフッ…。」


 毒に犯され四肢が麻痺しそのまま崩れ落ちる道仁。


「ギルマスの仇だ!この卑劣漢・・・・・を始末するぞ!!!」


 状況が上手く掴めていない<NKS24鬼衆>と怒門を慕う約10人はちゃんの言葉を真に受け敵討ちとばかりに瀕死の道仁に殺到。


「ギルマスの仇!」


「こん卑怯もんが!!」


「死にさらせ!!」


 次々と罵詈雑言を発しながら半ば死に態の道仁に襲い掛る。


「この喧嘩馬鹿!!油断しすぎよ!!<四方拝>」


 離れた場所から一部始終を観ていた<侠刃>戦闘班、距離的に即座の援護が無理と判断した拾壱子が指定した位置に瞬間移動出来る(但し、術者を中心に八方向距離固定6m以内)<神祇官>の特技<飛び梅の術>でいち早く道仁の傍らへと転移し緊急回避技<四方拝>を発動。


 瀕死の道仁にトドメを刺そうと殺到した<NKS24鬼衆>らは一矢報いる事も出来ず弾き飛ばされる。

 <四方拝>の効果が切れる前に手早く<禹歩>で猛毒のBSを解除し<快癒の祈祷>を連続投射する。


「道っちょん起きろ!BS解除して回復もしてやった!!さっさと起きろ!でないとここでアンタの粗品晒して公開○慰ショーさせるぞ!起きてよ!そろそろ<四方拝>の効果も切れるんだよ!!」


 近距離戦闘を得意としない拾壱子は道仁を起こしつつ、手早く矢を番え迎撃体勢をとる。張を筆頭に<NKS24鬼衆>が<四方拝>の効果切れを今か今かと身構える。


<四方拝>の効果切れ前に助太刀に入ろうとした雪崩、迅華、兎原華院は<Dirlewangerディルレヴァンガー>に行く手を阻まれ辿り着けない。


「くそ!こいつら異世界(こっち)での対人戦に馴れてやがる。」


「ちょっとどきない!あんた達の相手してる暇ないとよ?」


「おまやらどけ!」


 真正面からぶつからず連携をもって<侠刃>戦闘班を翻弄する<Dirlewangerディルレヴァンガー>所属の<守護戦士ガーディアン><暗殺者アサシン><施療神官クレリック><召喚術師サモナー>先ほどまで相手をしていた戦闘に不慣れな有象無象と動きが違う。


「ああ!!もう![散弾矢]は撃ちつくしたし、障壁張ってもどれだけ耐えられるか分かんないし!範囲攻撃魔法は詠唱が間に合わないし!起きてよ!道っちょん!!」


 がなり立てる声も空しく<四方拝>の効果は切れ、それと同時に四方を取り囲んだちゃん率いる<NKS24鬼衆>らが一斉に拾壱子、道仁に襲い掛る。

 既に障壁を張り迎撃体勢は取るものの接近戦闘を苦手とする拾壱子はヤブレカブレで敵首魁、ちゃん目掛け矢を放つが近すぎた為、容易に回避され次ぎの矢を矢筒から取り出そうした右腕をあっさりと捻り上げられる。


「よう、色ボケエルフ。同じ<神祇官>でも“凶神マガツカミ”のクソ野郎と違って接近戦は苦手か?」


「…粗品弄り倒してカス塗れの汚いお手々で触んないでくれる?ってなんで障壁が発動しないのよ?」


 現実世界で関節を決められ腕を捻り上げられるよりは痛みは軽いのだが、やはり『痛い』ものは『痛い』、苦痛と云うほどでは無いが痛みに顔を歪める拾壱子は障壁を無視して自身の腕を捻り上げ下衆の極みのような薄汚い笑みを浮かべているであろう男に罵声と疑問をぶつける。

 男は彼女が予想した斜め上を行く塵溜めの蛆虫よりも薄汚い笑みを浮かべ更に腕を捻り上げる。


「痛いっ!!」


「ハッ!お前みたいな安売女ばいたじゃ、こんな簡単な事も気が付くまい。この程度なら“攻撃判定”はされないんだよ!攻撃判定されなきゃダメージ遮断の<禊ぎの障壁>が発動するかよ?お前らみたいに『この世界』でバケモノ相手の戦闘しかやってない薄ら馬鹿はそんな事にも気が付かない!はっはっは、お前ゲーム時代から人を『童貞』だの『粗品』だのと馬鹿にしてくれたよな?なんならこの場で確かm…グビュッ」


 ヒュン!バキッ!!


 最後まで台詞を云い終わる前に背後から飛んで来た上段回し蹴り(ハイキック)ちゃんの側頭部を捉え下卑た顔を更に歪め吹き飛ぶ。


「この騎士ナイト気取りの下衆が!<侠刃うち>の女をチ○カス塗れの病原菌みたいな手で触るんじゃねぇよ。

 何が『攻撃判定されなきゃダメージ遮断の<禊ぎの障壁>が発動しない。』だ?じゃぁ<四方拝>も同じ原理で無効に出来るだろうが!

 偶々、現在いま気付いた事を然も『前から知ってた。』みたいな云い方するんじゃねぇよ!てめぇ!イチコを安売女ばいた呼ばわりして覚悟は出来てるんだろうな?

 おう!イチコ、悪かったな…助かったぜ。」


 其処には残心の構えを取り殺気を漲らせる先ほどまで地に伏せていた道仁の姿があった。


ベチッ


いてぇっ!!」


ベチッ


いてぇっ!!」


 目に大粒の涙を溜めて退魔大弓[鵺討ぬえうち]で道仁を引っ叩く拾壱子。


「馬鹿!動けるんだったらさっさと起きて戦ってよ!もう!痛いわ、カス塗れの手で触られるわ…後で“夜伽”してくれないと許してやんない!この馬鹿道っちょん!!」


「…どうしてお前はそっち方面にしか話しをもっていかねぇんだ…ったく…『だが断る!』って奴だ…。」


 呆れて頭を抱える道仁と涙を流すのを堪えて不細工な顔になっている拾壱子の2人を気が付けば取り囲みじりじりとにじり寄る<NKS24鬼衆>達。


「貴様ら、こん状況が分かっとうとや?囲まれとつぉ!」


「怒門の兄貴ん仇ば獲らしてしてもらいばい!」


「おい!誰かちゃんの旦那回収して来い!」


「<NKS24鬼衆>舐めとったらいかんだい!」


 威勢は良いがほぼ全快の道仁を見て及び腰になる<NKS24鬼衆>ら約10名、そんな彼らを左目で睨みつけ拳をボキボキ鳴らす2mを超える巨躯の猫人族。


「死に掛けで身動き出来ねぇ俺や、接近戦苦手なイチコ相手なら数圧しでれると思ったか?あぁ~“この拳が使いモノにならなくなっら日”を思い出しちまったじゃねぇか?束にならなきゃ何も出来ないガキ共…覚悟は出来てるか?」


 アウトボクサー特有のステップを踏んだかと思うと獰猛な虎の如く咆哮し取り囲む<NKS24鬼衆>達に襲い掛り次々と薙倒して行く。


 獰猛な虎が猛り狂ったような殺気を放ちつつそれとは裏腹に精密機械の如く計算された無駄の無い動きで再使用時間リキャストタイムが短くタメの少ない特技を確実に人体の“急所”と呼ばれる部位に叩き込み一撃で昏倒させて行く、雪崩がほぼ一撃で相手を『殺害・・・・』する“力”の『一撃必殺』ならば、道仁のそれは急所を的確に打ち抜き相手を『行動不能』にする“技”の『一撃必殺』とでも云うべきか…(殺害・・・・にまで至らないので“必殺”という表現も変ではあるが。)

 

 異世界転移後の戦闘経験も現実での暴力を振るう(振るわれる)経験も少ない<NKS24鬼衆>をはじめとする10人は為す術も無く着実に1人また1人と意識ごと薙倒され6人目に差し掛かった頃には既に


戦意も失い腰を抜かしその場で失禁するもの


絶叫しその場から逃げ出すもの


捨て鉢になって無謀な特攻をするもの


諦めその場に立ち尽くすもの


だけとなった。


 彼らを無慈悲な一撃で沈めて行く道仁、そんな彼の前に最後の1人、今回の馬鹿騒ぎの中心的人物…張鈴木がへっぴり腰で手足をガクガク震わせ剣先を突き立てる。




「チッ!上手いこと動きやがる!」


 乱戦の序盤でMP消費の激しい特技を連発した為、高いダメージや広い攻撃範囲の特技が使用出来なくなり遊撃手的な<盗剣士>本来の戦闘が出来ず現在、絶賛お荷物状態の兎原華院。


 苛立ちを顕わにしMP消費の少ない<ピンポイント>で攻撃力を底上げし<ターキーターゲット>のようなヘイト操作技で<Dirlewangerディルレヴァンガー>の<施療神官クレリック><召喚術師サモナー>を挑発し壁役の<守護戦士ガーディアン>や攻撃役アタッカーの<暗殺者アサシン>から引き剥がそうと躍起になるのだが、ヘイト操作に長けた相手方の<守護戦士ガーディアン>に阻まれ逆に彼が他の2人から引き剥がされ孤立している。

 

 完全に囲まれたこの状態は本来の兎原華院がもっとも得意とするシュチエーションだが、MP不足(ガス欠)投擲武器職人ジャグラーにとっては完全に詰んだ。


「この馬鹿ミキオ!だけんあんだけ云ったとに!」


 <妖術師>の迅華はそう愚痴を溢しながら<ルークスライダー>で<施療神官クレリック>の背後に迫り<クローズバース>で威力を高めた<サンダーボルトクラッシュ>をまとわせた錫杖で相手の後頭部を殴打、 怯んだ所に魔力で無数に作られた針-<フラッシュニードル>-が装甲の関節部の継ぎ目から潜り込み激痛をもたらす。


 激痛でのた打ち回る<施療神官クレリック>、だが一言の悲鳴すら上げない。


 --PKやloot(戦利品略奪)を専門とするギルド<Dirlewangerディルレヴァンガー>はゲーム時代からギルマスを除き全メンバーが揃いの[道化師(ジェスター)の面の皮(・スキンマスク)]を装備し『一切言葉を発しない。』『テキストチャットを用いない。』という奇妙なプレイスタイルのギルドで噂ではギルマス以外はbotないしギルマスと数人がサブ垢を1人で複数操って居るのではないかと噂されていたギルドだ。


 <大災害>と呼ばれる異世界転移に構成メンバーの約3分の1が巻き込まれた<Dirlewangerディルレヴァンガー>は初日こそ混乱していたものの数日で体制を整えゲーム時代と変わらずPKやloot(戦利品略奪)を行っていた。プレイスタイルは変わらないのだが極稀に[道化師(ジェスター)の面の皮(・スキンマスク)]をズラして談笑をしている所等を目撃されておりゲーム時代の噂は噂でしかなかった事が証明されている。--


「…無表情で声も出さんでのた打ち回られたら、きしょいっちゃけど…。」


 <侠刃>戦闘班で現在、一番弱いであろう兎原華院を他の2人から引き剥がし1人ずつ撃破する算段だったようで彼を倒す前に迅華の不意打ちを喰らうのは想定外だったようだ。

 ゲーム時代であればミニマップで相手の位置関係を正確に把握も出来たので<妖術師>しかも魔導砲台型ヌーカーでは無く近接魔術師コンバットメイジの不意打ちなどまず成功しなかっただろう。


 ミニマップが等しく使用不能の現在だからこそ通用した。


“GAoooooooooooooN!”


「ちょ!っきゃ!!」


 だが条件はお互い同じである、不意に迅華の足元より巨大な腕が現れ彼女の脚を掴み逆さ釣りにする。

 <召喚術師サモナー>の従者マッド・ゴーレムである。

 PT戦のセオリー通り回復役ヒーラーを先に潰そうとして<施療神官クレリック>を沈黙させる事に思考が凝り固まった迅華には手痛いしっぺ返しである。


 急襲に面食らった迅華は下着が見えないように着物の裾を押さえるに必死になる。


ハナ!受身ば取れ!!」


 そう云うが速いか<一騎駆け>で間合いを詰め逆袈裟に<旋風斬り・大>を発動し後方の術者と従者を纏めて斬り上げる雪崩、咄嗟過ぎて受身をとり損ねた迅華は着物の裾を押さえながら落下し尻餅をつく。


「痛ぁ~い!なーさんもうちょっとどうかならんと?」


「ならん!」


 乱暴な仕打ちに抗議するが即答で返される。

 

 雪崩の放った<旋風斬り・大>はマッド・ゴーレムを屠り、兎原華院ごと<Dirlewangerディルレヴァンガー>の4人を薙ぎ払う。

 迅華の不意打ちを先に喰らっていた<施療神官クレリック>は七色の泡と消え、至近距離で喰らった<召喚術師サモナー>は瀕死、<守護戦士ガーディアン><暗殺者アサシン>と兎原華院も瀕死と行かないまでもそれなりのダメージを受ける。


「なーさん!俺!俺も居るから!あんたの<旋風斬り・大>喰らったら死ぬから!」



「お前んさぁ、け死んでなかじゃっどが。」


 漫才のようなやり取りだが、雪崩にしてみれば兎原華院がこの程度で死なないと踏んでの一撃である。言葉足らずの彼の言い分を正しく伝えるなれば、『女性である迅華に当たらないようにはしたがお前は男なんだから当たっても耐えろ!』である。


 取敢えず、<Dirlewangerディルレヴァンガー>の連中よりはダメージの少ない兎原華院は手早く<霊薬ポーション>でHPを回復させ<ユニコーンジャンプ>で雪崩、迅華の元へ戻る。


回復役ヒーラーでリーダーっぽいのは潰したけん、今までみたいな連携は多分あいつら無理よ?」


「…重畳」


「は?ハナちゃんあいつら会話してねぇのに良く<施療神官クレリック>がリーダー格だって分かったな?」


兎原華院の云う通り、彼らは言葉を発していないし何かしら(・・・・・)のサインを送りあっていたにせよ、彼ら<Dirlewangerディルレヴァンガー>でしか通じない方法を取っていた筈だ。


 この場に居ない戦闘隊長ならソノ手(・・・)の些細な事にも気付くだろうが、NO.2の道仁を筆頭にこの5人はソノ手の観察は苦手な連中ばかりである。

 だが、迅華は気付いたのだ…、彼女は目を泳がせ兎原華院の質問に答える。


「いや、多分やけんね…?多分?」


「…多分?」


 残心の構えを解かずに小首を傾げながら雪崩も不思議がる。


「あの<施療神官クレリック>だけマスクのひたいっちゃく『リーダー』っち書いてあったと…。もう消えたけん確認はでけんけど…。」


「「は?」」


 倒した後なので確認は取れないが迅華が云うにはそうらしい…。半信半疑ではあるが改めて残っている<Dirlewangerディルレヴァンガー>の3人を注視するとマスクで表情は分からないが心無しか挙動不審に見えなくもない…。


「あぁ~…このまま突っ込んでぶん殴ったらハナちゃんの言い分が正しいか間違っているか分かるっぽい感じかい?なーさん?」


「…うんだもしたん。」※)(そんな事、知らん。)


「なーさん、分かるごと話せん?」


 迅華たちのコントじみたやり取りは続くが<Dirlewangerディルレヴァンガー>の3人組はやはり何処か浮き足立っているのか先ほどまでの精悍さを欠き、戸惑っているように見える。


「…ほら、あいつら挙動きょどっちょるよ?<ディスインテグレイト>!」


 命中した相手のHP残量に応じて即死判定が行なわれる<妖術師>の特技<ディスインテグレイト>が瀕死の<召喚術師サモナー>に命中し七色の泡と消える。

 それを観た残り2人のリアクションは<施療神官クレリック>が存命中?と比べ明かに狼狽していた。


 コレ幸いと迅華たちが追い立てると蜘蛛の子を散らす様に逃げたので深追いはしなかったのだが彼らが退散した後、兎原華院がシャッフルした[幸運な賭博師ラッキー・ギャンブラーのトランプ(・シュピールカルテ)]から一枚、カードを抜き出して渋い顔をする。


ハナちゃん、なーさん、<Dirlewangerディルレヴァンガー>のギルマス…見かけたか?」


「見ちゃおらん。」


「…アイツがったら直ぐ分かろうもん、せからしいし、見た目もせからしいし、ツヤこいとるし…。」


 雪崩は興味無さ気に迅華は嫌なモノでも思い出したように可愛らしい顔をあからさまに歪める。そんな2人に先ほど引いたカードを見せ難しい顔をする兎原華院。


「「ハートの2??」」


「ハートの2…カード占いの仕方なんざ知らねぇが、トランプ使ったゲームじゃ大抵“最弱” なんだよハートの2(このカード)は…。」


「?だけんどうなん?」


 云ってる意味が理解出来ない迅華が小首を傾げる。


「あぁ、俺の勝手な解釈だけどな、何気なくカード引いてハートの2が出た時は“最弱”転じて“最悪”って解釈を昔からしてんだよ俺ゃ…。」


「そげななんじゃっか?」


「よく分からねぇけど嫌な感じがするんだよ…。」


 気障にハットのツバを摘み目深に被る兎原華院。

 そんなよく分からないやり取りをしていた時だ、拾壱子が金切り声を上げる。


「ちょっと!ミキオ!なーちん!そっちカタが着いたんなら道っちょん止めてよ!」


 一同、何事かと道仁達を見るとちゃんをサンドバックの様にボコボコにしては死ぬ寸前で<霊薬ポーション>を使いHPを回復、死ぬ寸前まで蹴る殴るしては<霊薬ポーション>を使いHPを回復する…の繰り返しという異様な光景…、それを止めようとする拾壱子。


「…道っつぁん何やってんだ?」

 

 ハットのツバを人差し指で跳ね上げ眼を剥く兎原華院、異様な光景に顔から血の気が引きその場でへたり込む迅華、龍頭を模ったヘルムで表情が見えないのでどのような表情でこの光景を観ているか分からない雪崩。


ちゃんの莫迦が道っちょんの古傷・・・・開くような事してくれたお陰でブチキレて人の話聞かないのよ!!莫迦がどうなってもいいけど!兎に角止めてよ!!これじゃ、鼠を嬲殺しにして食べる猫と変わらないよ!こんなの何時もの道っちょんじゃない!」


 普段、下ネタしか人語を解さないような拾壱子が珍しく悲痛な声を上げる。


 ここで少し<侠刃>サブギルドマスターにして<侠刃>戦闘班副隊長猫人族の<武闘家>“道仁”の現実リアルについて触れる。


*****


 “道仁”こと工藤道仁くどう みちひとは地方の小さなボクシングジムでトレーナーをやっている元プロボクサーだ。

 現役時代は所属しているジム初のチャンピオンが輩出されるのではと期待されたほどの腕前と才能を持っていた。

 だがある日、彼は突然リングを降り引退した、否!そうせざるを得ない不幸に見舞われたのだ。

 

 プロボクサーと云ってもチャンピオンにでもならない限りボクシング一本では飯は食えない、大抵のボクサーは何かしら副業なりアルバイトなりを持ち生計を立てている。

 幾らチャンピオンになれるだろう逸材であってもその例に漏れず彼も朝夕は新聞配達、夜は居酒屋でアルバイトをして生計を立てていた。


 ある日、バイト先の居酒屋で酔っ払って女性に絡む一団を咎めたのが不幸の始まりだった。酔っ払いの一団は所謂いわゆる“半グレ”と呼ばれる現在だと準暴力団扱いされる集団だった。

 (道仁)はプロボクサーであり、リングの外で人に向かって拳を振るう事はどんな理由であれ禁じられている。彼は一切、暴力を振るう事は無かったが彼の言動が半グレ集団の怒りを買い10数人に囲まれ袋叩きにされ、ボクサーの“生命いのち”である両拳を潰されたのだ。


 プロボクサー工藤道仁はこの日“死んだ。”


 潰された両拳は完治したが、あくまでそれは日常に支障をきたさない程度であり、二度と人を殴れない拳(・・・・・・・・・・)になった。

 そんな拳になってもボクシングを捨てきれなかった彼は所属ジムの会長に頼み込みボクサーでは無くボクサーを育てる立場へと転身した。


*****


 


 そんな事もあり彼は多数対1をもっと嫌う、それは現在、異世界転移したゲームのような場所でも変わらない、昔の様に自由に拳が奮える様になっても変わらない…。


 そんな道仁の忌まわしい過去の出来事を思い出すような真似をちゃんは知らずに行った、虎尾を踏んだのだ。

 道仁は怒り狂った…だから簡単に殺さない(・・・・・・・・・・)痛むはずの無い拳に幻痛が走る。それが更に怒りを憎悪に変える…。

 ギリギリまでHPを削る、HPが1桁になり死を懇願するちゃんの口に<霊薬ポーション>を捩じ込み更に殴る蹴るを繰り返す。

 

 道仁の過去を知っていればこそ止めようとする拾壱子、知っているからこそ止められない兎原華院と雪崩、止めたいが底が知れない憎悪を剥き出しにした道仁に気後れして何も出来ない迅華。


 何時終わるとも知れないこの無限地獄のような苦痛に耐え切れなくなったちゃんが狂ったように絶叫する。


「クソ野郎!さっさと殺せよ!殺してみろよ!どうせ生き返るんだ!次は憶えておけ!」


「次がなんだ?仲間殺し(・・・・・・)の愚図野郎!また数頼み(・・・・・)か?」

 

 先ほどまで死を懇願していたちゃんの開き直った言葉に一瞬、我に返る道仁。


「数頼みの何が悪い!いいか!無法街の裸の王様野郎!俺達・・・・黒幕バックはなぁ!」


「あん?黒幕バックだぁ?」


【電光!】の()【ラ○ダー】さん【キッ~ク!!】グゲ!!」


 上空からの叫び声でちゃんの言葉は途切れ途切れにしか聞き取れず紫電と共にドロップキック気味にちゃんの頭を蹴りぬき舞い降りたのは真紅の髪をポニーテールに結い上げた真紅の着物に袴姿の女<武士>。

 それに続くように<羽毛落身フェザーフォール>で舞うように着地する長身黒衣の<暗殺者>。


「…おい、あんた誰だ?」


 ちゃんを踏みつけ眼前に現れた女性に問い掛ける道仁、そんな彼に悪意に満ちた笑みを浮かべる彼女は応える。


「はじめまして道仁さん、使えないポンコツ共がお世話になったみたいね。

 私がこいつらのケツ持ちしてる『元』<黒剣騎士団>庭八郎よ。黒剣の“チープスリルジャンキー”若しくは“羅刹女”って云った方が分かり易いかい?」


「「「「「な?!」」」」」


「先生…『電光ラ○ダーキック』なんてよっぽど仮○ライ○ーとか昭和特撮の知識が無いと知らないと思いますし分からないんじゃないですか?…ども、ご無沙汰してます道仁さん、伊庭八郎一の子分キティー・ホークです。」


「そうなの?じゃ『超電○妻キック』の方が分かりやすかったかしらん?」


「いやいや、そういう問題じゃなくてですね…。」

 

「「「「「に?!」」」」」


 高々度から放たれた武士の特技<電光石火>で蹴りぬかれたちゃんは七色の泡となって消え去った…。

 後に現れたのは、昭和特撮が分かる人にしか分からない会話をする元<黒剣騎士団>伊庭八郎を名乗る女<武士>とその一の子分を名乗るキティー・ホーク。







----------------------------------


『返事はしなくて良いからそのまま聞いてね、お義姉ちゃん。

鎌吉くんが推測した場所(・・・・・・・・)、やっぱり云ってた通り派手な(・・・)スナイパー<暗殺者>1人とお揃いのマスクした冒険者が3人居たよ。

 張とか云う人も狙ってたみたいだけど、大神殿送りになったのを確認したら<帰還魔法>で4人とも退散したみたい…。

 私に気付いて無いしそっちを気にしてる素振りも無かったよ?』


色々と突っ込み処満載ですね…分かってます…分かっているんですヨヨヨ…。

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