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三匹が!!!  作者: 佐竹三郎
~2章仲間集めをしよう!~
19/26

12話:ダンジョンの出入り口で出会いを求めるのは危険だろうか?その4

「トドメじゃゴルァ~!!」


 渾身の肘鉄が兎原華院の腫れ上がった顔面に深々とめり込み、その場に崩れ落ちる。


 倒したブルータスも顔面が腫れ上がり肩で息をし辛うじてその場に立って居るのがやっとの辛勝である。

 このファンタジーの世界で武器も特技も使わず素手の殴り合い…装備の所為でここだけ、90年代の不良漫画の様相を呈している。


「おう、姉ぇちゃん達!9分殺しで勘弁してやったからとっととこの気障キザ野郎を連れてけ!」


 そう云うとボロ布のように兎原華院を拾壱子、迅華の足元に放り投げる。


「…痛えな…ブーちゃん…今のでHPの残りが“2”になっちまったから…9分8厘殺しだぁ…バァ~カァ…。」


「ハイハイ…ミキオ、そのザマで減らず口叩いても虚しいだけだよ。」


 顔面がパンパンに腫れ上がった兎原華院の負け惜しみ丸出しの減らず口に呆れつつヒールを投射する拾壱子。

 それを見届けると脱ぎ捨てた[喧嘩爆弾クォーラル・ボンバー]の上着を羽織り<F.B.I>メンバーの元へ覚束無い足取りで歩み出すブルータス。


「ねぇ~喧嘩番長!あんたも回復してあげようか?」


 ゲーム時代からPVPは素手の殴り合い(ステゴロ)を良しとする残念なギルド<F.B.I>…どこか憎めない愚直な喧嘩馬鹿のブルータスを始め<F.B.I>のメンバーに<侠刃>戦闘班の男衆と似たものを感じて悪感情を持たない拾壱子は軽い調子で声を掛けたのだが何故か狼狽してその場でアタフタするブルータス。


「ね…姉ェちゃん馬鹿か!俺た…達は一応、お前達のてってっ敵ぞ?てってってっ敵のなっなっな…情けやら受けらるっか!」


 腫れ上がった顔面を真っ赤にして目を泳がせるブルータス。…どうやら余り女性に免疫が無いようだ。

 その狼狽っぷりに慌ててギルマスを迎えに行く<F.B.I>のメンバー。


「姉さん、好意は有り難いんやけどウチのボスは女性オナゴに余り免疫が無かけん、そっとしといてくれんね。」


「良い歳して、それなりの経験はあるはずなんよ?一応、ボスの面子メンツを潰さんようにフォローはいれるけど…。」


「惚れっぽいけん、そっとしといて!」


 仲間からのフォローにすらならないフォローを受け居たたまれなくなるブルータス。

 その狼狽っぷりが微笑ましく?映る拾壱子。


「アハハハッやっぱりアンタらは面白いわ!今度は私がミキオの代わりに相手してあげようか?ベッドの・う・え・で、キャッ。」


 そう云うと胸の谷間をこれ見よがしに見せ付け往年のグラビアアイドルのようにポーズを取る拾壱子、男所帯で女性に縁遠い<F.B.I>には刺激が強かったらしく皆エビのように腰を折っている。


「はいはい…、いっちゃんは男の人を誑かさんと!ごめんね、<F.B.I>の皆さん、この人の云う事、真に受けんでね?」


 拾壱子の耳を摘まんで頭を引き寄せ無理やり頭を下げさせる迅華、そんな彼女らに『お構いなく』と頭を下げギルマスに肩を貸しその場から撤収する<F.B.I>の正規メンバー。

 去り際にブルータスが拾壱子たちに気になる一言を残す。


「怒門の馬鹿と戌威神の腐れは踊らされてるだけだがよう、チャンコロの裏で糸引いてるヤツがる、勿体ぶって誰だか教えやがらんかったが結構な有名人らしか。あの透かし野郎(チャンコロ)の言い分が本当ならな…。まぁ、<F.B.I(ウチ)>はそげん事より、兎原華院にオトシマエ付けたかっただけやけん、もう用件は済んだ!じゃあのう!」


 彼女らに背を向けサムズアップする<F.B.I>の面々に冷ややかな視線を送る迅華。


「ミキオとケリ付けるだけやったら、別にちゃんの尻馬に乗らんで堂々と正面から来ればいいとに…馬鹿やないと?」


「華ちゃん…それ云っちゃ駄目だって、男なんて何か理由(大義名分)でも付けないと動けない面倒な生き物なんだからさぁ~?まぁ、私は好きだけどね?ああいう面倒臭い奴。」


 迅華の言い分は正しいが拾壱子は駄目ンズウォーカーか?そんな2人の会話が聞こえたらしくサムズアップした腕が下がり肩を落としたかと思うとその場で崩れ堕ちこの世の終わりのような雰囲気を醸し出しいじける<F.B.I>。

 その光景を観て面白がって笑う拾壱子とそんな彼女の頭を錫杖で小突く迅華。



「…なんでわざわざ殴り合いの喧嘩してるんだろうあの人達…。」


 駄々を捏ねて 義姉より借り受けた<妖精軟膏フェアリー・パーム>で足下の喧嘩を冷ややかな目で見ながら呆れた風に呟くランエボ、それとは正反対にニヤニヤしながら鎌吉に今決着のついたブルータス対兎原華院の戦いを見て八郎が無茶振りをする。


「いやぁ~実に有意義なモノを見せてもらった!時に鎌吉?あんただったら素手で<武闘家モンク>に勝てるかい?」


 その言葉にやや考えてから回答する鎌吉。


「<暗殺者アサシン>は所詮しょせん、“武器攻撃職”ですからねぇ…、でも相手が身体の遣い方(・・・・・・・・・・)に馴れてない(・・・・・・)のであれば…あと、<特技>を使って良いのであれば僕でも素手で<武闘家モンク>に勝てるかと…。今のミキオさんとブルータスさんの殴り合いだって一方的なブルータスさんの勝利って訳でも無いですから…。」


「そうか、そうか…重畳、重畳…二ヒッ」


 とても女性とは思えない悪辣な笑みを浮かべる八郎。


 この笑みに薄ら寒い物を感じつつもその悪辣な笑みが何を意味してるかを今の鎌吉はまだ知るよしもなく、なんとなく感づいたランエボは如何に巻き込まれないかを早々に思案しだす。


「それはさて置き…あっちはまた…えげつない事で…あんなのが[“火仙”兼定]持ちだなんて世も末だねぇ…。」


 頭を軽く掻きながらさっきとは打って変わって渋い顔する八郎。

 彼女が観ているその先では仲間であるはずの冒険者を盾代わりにし、プロップ式で有ろう打刀から蛇のように纏わり付く炎を繰り出しつつ雪崩に斬り掛かる戌威神の姿があった。


「カセンカネサダ?」


「って[妖精軟膏フェアリーパーム]使ってるとは云え、よくアレが[“火仙”兼定]だって分かりますね…。」


 刀剣には全く興味の無いランエボとそれなりに知識のある鎌吉とで反応が違う。そこは織り込み済みの八郎、これまた自慢げに薀蓄を開始する。


「そりゃ伊達に“伊庭八郎”は名乗ってないさ、私が引退した年までに<エルダーテイル>でリリースされた日本刀をモデルとした武器は自慢・・・じゃないが店売りから幻想級まで全て網羅してたし入手方法なんかのデータもきっちり押えたわよ!」


 自慢げに胸を反らし聞いている聞いてないはお構い無しに話を続ける。


「えっと、<エルダーテイル>が世に出て今年で20年だっけ?その歴史の中で私の知りうる限り2度日本ヤマトサーバーで刀剣ブームがあった!1度目はレベル上限80くらいの頃だったかな?とあるサブ職<刀匠>の製作する刀剣に無駄に付加価値が付いて一時馬鹿みたいにアキバの『変人窟』に刀剣を好んで使うプレイヤーが殺到して大変な事になった事があってさ。


 その時に<海洋機構>のギルマス、ミチタカが採算度外視でサブ職<鍛冶屋>を<刀匠>に転職させて対応したから<刀匠>製作の刀剣欲しさから『変人窟』に殺到した奴らまで行き渡ったてブームは沈静化したのよ…ここいらの話は古参のプレイヤーにでも聞いたら詳しい話は知ってるよ…胸糞悪いから私の口からは詳細はパスね?


 っで、2度目は私の古巣<黒剣騎士団>が大規模戦闘レイドコンテンツ『ラダマンテュスの王座』を世界最速で制覇してアイザックの馬鹿が調子に乗って前のギルド名から<黒剣騎士団>に改名した年だから2015年か…、あの年の1月に運営開始された刀剣を題材にしたブラウザーゲームをあんたら憶えてる?」


 一息つく為か話題を2人に振る。


「あぁ~在りましたね、良くも悪くも女性に大人気で雨後の竹みたいに刀剣に興味を示す女性を増やしたブラウザーゲーム…。」


「あ~あったね、18禁ゲームなのに私の学校でも話題になってた。」


 一様に難色を示す2人。


「まぁそれで一大ブームになったもんだから<エルダーテイル>の本家<アタルヴァ社>だか日本ヤマトサーバー管轄の<F.(フシミ・)O.(オンライン・)E(エンタテインメント)社>だかが流行に乗っかって突発で期間限定イベントやったわけよ?まぁそりゃ雑な仕事だったけど、『刀剣女子』だっけ?こそらの層にスマッシュヒットして一時的に女性廃人ゲーマーの<武士>や<暗殺者>や<神祇官>とかの『刀剣』が扱えるメイン職やら刀剣絡みのサブ職が増えた事、増えた事…乱造とはああいう事をいうんだろうねぇ…。」


 当時を思い出し大きな溜息を吐く八郎は更に続ける。


「っで、何がどう雑だったか…既存のクエストを若干改変したり、既存の武器のビジュアルと名前を変えただけだとか、元が魔法級なのに“云われ”に準拠して壊れスキルになった『脇差』だの『大太刀』だのがリリースされた訳さ…。

 『期間限定』だったから出回った数なんてどれもこれも幻想級よりも少ない…っで瞬間的に限定刀剣類は軒並み高騰するは<贋作師>の作るパチモノやらリネームされた既存の刀剣類も高騰…私みたいな昔っからのプレイヤーからしたらいい迷惑さ…私や古参の<武士>はトチ狂ったバカ女共からPKの的にもされたよ。

 んで、サブ職<刀匠>に粘着してくる『クレクレ厨』なんかも湧いて目も当てられなかった…。

 まぁ…、女性ヲタクはお金落としてくれる『良い鴨』かもしれないけどさぁ~、『悪貨は良貨を駆逐する』って言葉宜しく古参の良識あるプレイヤーがそんな狂騒に嫌気が差して引退したりとかもあった訳さ…。」


 当時の狂騒を思い出しゲンナリしてこうべを垂れた八郎、そんな彼女に『婆ぁさんは話が長い、婆さんが執拗しつこい、婆さんは五月蝿い…』と云わんばかりの感情の起伏が伺えない瞳を向けるランエボと必死にジェスチャーで『巻いてください。』と訴える鎌吉。


 2人の反応を観て、1人昔話で盛り上がっている事が恥かしくなった八郎は軽く咳払いをして『本題』に入る。


「…コホン…、で[“火仙”兼定]だったね。正式には[銘刀:兼定]、“火仙”はプレイヤーが付けた通称、<ナインテイル自治領>“エイスオの街 ”付近の山中に入り口のある<仙境>で手に入る<宝貝パオペイ[青雲剣せいうんけん]が期間限定でビジュアルと名前を変えたもんだったけど…まぁ本来のクエストより難易度は上がってるわ、性能も盛ってるわ、数は少ないわでイベント終了後に馬鹿みたいに高騰した一品さ。“火仙”の通称はまぁお察しくださいだね。以上!」


 云い足りないようだがこれで終わりらしい…。


「「万歳~!万歳~!万歳~!」」


 八郎の御高説がやっと終わり万歳三唱で感涙に咽る2人、その光景にムスくれるが苦情は申し立てない(立てられない?)彼女は改めて視線を足下の戦場へと戻す。


(説明を求める癖に長くなるとこれだ…あ・と・で・お・ぼ・え・て・ろ・よ…。)



「クソ!火属性に耐性があるってね!貴様きさんの装備は!俺の“火仙”とは相性がわりいのう!おい!<妖術師サラ>!何か<特技>使って攻撃せろ!殺すぞコラ?」


 戌威神の[“火仙”兼定]から放たれる炎や斬撃では雪崩に決定的なダメージを与えられず苛立ちが募り“盾代わり”に使っている<妖術師ソーサラー>に苛立ちをぶつけるが[無限蛇ウロボロス・ロープ]で縛られた者は行動不能な上に<特技>も使用不能となる、そんな事すら忘れるほどに戌威神は焦燥に駆られている…。

(チッ…最初は暴れ回ってたくせに相手が戦意喪失したら攻撃せんなったけん、戦意の無え奴らば盾にしたら攻撃出けんで、こっちが良かごと斬り刻めるち思ったんが甘かったか…。)


「…ど外道のワレコッポ※)が…。」


※)ワレコッポ=悪ガキの事。


 雪崩は戌威神を一瞥すると一旦その場から大きく後方へと跳び後退ずさり“蜻蛉”の姿勢を取る。


「おう?なんか?やっと殺る気なったか?」


 距離を取って来た事で勝負に出て来たと察した戌威神は“人間の盾”で身を隠す。


「…雲耀うんよう!」



「ゲハッ!?」


 全ては一瞬だった、雪崩が『雲耀うんよう』と呟き紫電が疾走はしったかと思うと<妖術師>と<暗殺者>を雁字搦めにした[無限蛇ウロボロス・ロープ]が寸断され、戌威神が廃墟ビルの壁にぶち当たり2、3度バウンドして元居た場所近くで首と左肩付近が通常考えられない方向に向いて痙攣している。


「…おはん達、こっからね。」


 盾にされていた<妖術師>と<暗殺者>の2人に一瞥し、その場に背を向け兎原華院達の元へと歩を進める雪崩。



「この!クサレが!<フロストスピア>!!」


「死ね!!<アサシネイト>!!」


「ギャッ…。」


 [無限蛇ウロボロス・ロープ]から開放された彼らは足元で痙攣して横たわる自分達を盾にした戌威神に向けて各々<特技>を叩き込み、手に持つ武器で何度も何度も殴打し突き刺し怒声を上げる…力尽き七色の泡となって戌威神が消えてもその身体が横たわって居た場所に何度も何度も武器を突きたてて呪詛を吐き続ける…。


「… ぐわんたれ※)の末路か…。 」


※)ぐわんたれ=質の良くない、ぼろ、転じて『だめな人』の意



 ランエボと鎌吉は何が起こったのか全く把握出来ず只々、その場で呆然としていたが、八郎は違う意味で呆然としていた。


「何あれ?雪崩さん何したの?稲妻のエフェクトが一瞬光ったと思ったらあの戌威神とか云う人が…。」


「…どうなってんです?僕も全く分からなかった…。」


 事態が把握出来ず思った事をそのまま口にする2人。


「…超々高速の<電光石火>からの<斬鉄剣>で[無限蛇ウロボロス・ロープ]を切断して戻す刀のミネであの戌威神クズに一撃…こっちの世界で『二の太刀要らず』を体現するってどんなバケモンよ…。」


「…見えたの?お義姉ちゃん?」


「って先生、<電光石火>は一瞬見えた稲妻のエフェクトで納得もいきますけど<斬鉄剣>ってどういう事です? 」


 口々に質問をぶつけるが八郎は一切答えず咥えた煙管を上下にピョコピョコさせるだけだ。

(…説明したってどうせ『長い』って云って聞きゃしない奴らに説明なんてしてやるか!馬鹿!…っても私も見えた訳じゃない…。

 辛うじてだ…辛うじてメイン職が同じ<武士サムライ>だったから…そして武道を嗜んでたから理解出来た(・・・・・・)。大体、秘伝にまで高めても<電光石火>であの速度と爆発力は出ない。“盾”にされた人間を斬らずにロープだけ斬るなんて芸当は<斬鉄剣>以外出来得ない、そしてあの雪崩ってのの“残心”から察するに返す刀のミネで逆袈裟に斬り上げた…。

 だからダメージはデカくても身体が切断されず首と左肩…肋骨もアレだと粉砕骨折か…、アレは“来る”って分かっていても回避も防御も無理だ…、異世界こっちに飛ばされてからどれだけ研鑽したらあんな芸当が出来るのやら…。)


 思案に耽りながらもう1つの戦場に目を移す八郎。ピーチクパーチク騒いでいるエロフとロワーフの抗議は全く無視だ。



 ガキッ


 道仁のフリッカージャブを籠手ガントレットで受け止めた怒門はそのまま低姿勢で道仁の懐に入り込むが一撃を放つ前に射程圏から逃げられ、なかなか決定打が放てない。


「クソッ図体がデケー割りにちょこまかいごきやがる。」


 独特の構えを取り間合いを計る怒門は忌々し気に唾を吐く。


「きっきっきっ、“英雄ヒーロー被れ”呼ばわりは失礼だったな小僧、存外やるじゃねーか?」


 下げた左腕を振り子の様に揺らし、デトロイトスタイルで怒門との間合いをズラす道仁は独特な笑い声を上げる。


 膠着状態を作る間も無く怒門が<ワイバーンキック>で間合いを詰める。それを<ファントムステップ>で回避しフリッカージャブ(通常攻撃)で弾幕を張るが回避せず<ハードボディ>で全て受け切る怒門。


「この瞬間ときを待っとったったい!」


 <ハードボディ>の効果切れと同時に道仁の伸びきった左腕をがっちりと掴み<グリズリースラム>で一本背負いの要領で大地に叩きつける。


「ガハッ!!」


 脳天から地面に叩きつけられた道仁だが遠くに投げ飛ばされた事と怒門の詰めの甘さにより追撃は免れた。

 

「虎のおいさん!貴様きさぁんの動きは見切った!!」


 背景に『ドーン』っという擬音が描かれそうなくらい偉そうに腕組みをし仁王立ちする怒門、そんな彼を観て投げ飛ばされた地面に胡坐をかき豪快に笑う道仁。


「きっきっきっきっ!…くっくっく…がっはっはっは…!!!血が騒ぐなぁ~おもしれーよなぁ~おい!騎士ナイト気取りよりは楽しませてくれそうだな?いや?あの馬鹿を基準にしたからお前の力量を見誤ったみてぇだな?悪い悪い?で?お前の実力はこんなもんじゃねーよな?もっと俺を楽しませてくれるんだよな?」


 そういうとムクリと立ち上がり半透明の虎が咆哮するエフェクトが発生し、足元に赤いオーラを発生させる道仁…<武闘家>の攻撃補助技<タイガー・スタンス>を発動させ今までのデトロイトスタイルとは違う構えを取る。


 回避力に重きを置いたアウトボクサースタイルから一転、攻撃重視のインファイトスタイル ~ピーカーブー~ に構えを切り替えた。


貴様きさぁんコラ?舐めとうとか?<タイガー・スタンス>?俺をまだ格下扱いか?」


「きっきっき…いいや~!ガチンコの殴り合いしようぜ?怒門…本気じゃねぇんだよな?本気出してくれるんだよな?1つや2つのレベル差なんてどうって事無いよな?おい?楽しませてくれよ?なぁ?なぁ?」


 戦闘狂(喧嘩馬鹿)の血が滾る道仁は∞を描くように上半身を揺らし怒門を挑発する。


「このキチ○イが上等たい!相手してやる!」


 そう云うと一気に間合いを詰め飛び縋りながら長身の道仁の顔面に<トリプルブロウ>を打ち込む怒門、それに応えるが如く<バックハンド>で最後の右フックを弾く。


「おらぁ!!どんどん来い!」


 犬歯を剥き出しにし笑う道仁、打ち下ろしの左(チョッピング・レフト)気味に<ライトニング・ストレート>を放つ。


 それをアッパーカット気味に繰り出した<ライトニング・ストレート>で相殺、至近距離からの<ワイバーンキック>を道仁の巨躯に叩き込む怒門。


 <ワイバーンキック>直撃の刹那に<闘気斬オーラセイバー>をねじ込む道仁、お互い至近距離で避け切れず直撃を喰らい地を舐めるが直ぐに立ち上がり戦闘を再開する。


 双方笑みを浮かべながら…。




 <侠刃>戦闘班、戦闘から一線を引いてこの場を去った<F.B.I>最初から積極的に戦闘に参加せず傍観を決め込んでいる<Dirlewangerディルレヴァンガー>を除いてこの場に残って居るのは<NKS24鬼衆>の数名と盲信的に怒門を慕うソロプレイヤーのみだ。

 その数、約10人ほどだ皆信奉する怒門の言い付けを守りただこの勝負の決着を見守っている…ただ1人を除いて。


「雷ZOの馬鹿が(道仁)の口車に乗せられやがって…。」


 先程、道仁に一矢報いる事も出来ずサンドバックか巻き藁のように打ち据えられたちゃんが忌々し気に2人の戦闘を観ながら毒吐く。 

 今回の企ての首謀者たる彼からするとイレギュラーの連続だった。


 元々張が計画していた訳ではないが怒門、戌威神と一部のプレイヤーの強い主張で<無法街>の顔役である<侠刃>ギルマスと<無法街>最強戦力<侠刃>戦闘班隊長の懐柔ないし拉致監禁を目的として今回動いたのだが、どこからこの企ては漏洩。

 現れたのは隊長を除く<侠刃>戦闘班…。たった5人と侮っていたのが間違いだったのか?異世界転移して以降、戦闘訓練を怠っていたのが災いしたのか…。


 寄せ集めとはいえ約70人を従えて数で押し切れると張も怒門、戌威神たちも思っていたし半ば信じて疑っていなかった。


 だが結果は約70人もいた此方の陣営がほぼ壊滅に近いほどの大打撃を喰らい、向こうは誰1人として大神殿送りになっていない。


(クソ!クソッ!!何処で俺の計画は狂った?)



 自称“ナカス一の知将”ちゃん鈴木、彼は<大災害>当日から『これこそが求めていた世界だ!』と狂喜していたクチだった。しかし所詮、“自称”は“自称”でしかなく具体的な方策も思いつかないままだったがゲーム時代に知己を得たあるプレイヤー(・・・・・・・)からの<念話>を受け彼は動き出した『ナカスのプレイヤーを纏める』為に…。


 先ず彼は日和見で英雄ヒーロー被れではあるが人望“だけ”はある自身の所属ギルド<NKS24鬼衆>のギルマス怒門雷ZOをそそのかしソロプレイヤーを囲う事にした。そして同ギルドの問題児、(ちゃんも問題児だと周囲に思われているが本人にその自覚は無い。)黛琉マユルのギルド外の取り巻きも取り込んだ。

 そしてリアルで九州、山口在住もしくは出身者以外で構成されたギルドを『仮想敵』と定め彼らが糾合してナカスの街を掌握し従わない者は排除する算段をしていると吹聴し九州、山口在住もしくは出身者で構成されたギルドの危機感を煽った。

 

 …ゲームの頃なら誰もこんな荒唐無稽な話に耳を傾けなかったろう…しかし、突然現実化したゲームの世界、PCも携帯もTVも無い情報源の乏しい現状ではこの手の荒唐無稽な流言飛語でも十分な効果を発揮する。

 ちゃんの思惑通り<NKS24鬼衆>を中心に即席のギルド連合が形成される、流言飛語に惑わされないギルドやソロプレイヤーにはバックに控える大物プレイヤーの存在をチラつかせたり、数にモノを云わせ取り込んだりもした。

 そうして膨れ上がった人数を見て彼は増長した『コレだけの数が居て自分の智謀あれば<ナカスの街>が牛耳れる』と…。

 

 自分の舌先三寸で自分の手駒が増えたと思い上がった彼は自分に酔しれこのまま事が旨く進むと錯覚しあるプレイヤー(・・・・・・・)からの言葉を失念していた。ナカスの街に(・・・・・・・)単一ギルド(・・・・・・・)を作り上げろという言葉を…。

 失念したというべきか敢えて無視したというべきか…彼には集まった連中をぎょするだけの力量は無い…だから単一ギルドではなく“あやふや”な繋がりだけで集まったこの『集まり(・・・)』で良いと勝手に決め込んだ、統率は各ギルドのギルマスや怒門、黛琉マユルに任せておけば『集団』としての体裁は取れるだろうと…。


 


 その思い上がりが現在の惨状を作り上げていると彼は欠片も思っては居ない。全ては<無法街>の連中をあわよくば力で屈服させようと暴走し考え無し(・・・・・・)に現在までに取り込んだほぼ全ての人数を投入した怒門の愚挙が元凶であると思い込んでいる。


(人望しかないゴミクズのクセに!怒門あいつが余計な事しなければ!<無法街>の奴らなんて放っておいても問題なかったのに!クソ!クソ!!)

 

 張が腹の中で毒吐いていた時、急に周辺がざわつく。


「やばかね…怒門の兄貴が押され気味やん…。」


「こげんとこでてれーっとしとかんで加勢行こうぜ!」


「馬鹿か貴様きさんタイマンやろうが!ギルマスに恥かかすっとや!?」


「ばってんこのままやったら…。」


 どうやらこれまで五分の戦いだったが現在、怒門が劣勢になっているらしい。慌てて視線を怒門達に向けステータスを確認すると確かに怒門の方が劣勢である。


(チッ!使えねぇ…ガミといい雷ZOといい使えねぇ…。)


 忌々しげに地面に唾を吐き、目の前の空間を指でなぞり左手を耳に当てコソコソと誰かと<念話>をしている、周りは怒門と道仁の戦闘に気を取られ張が誰と何を会話しているかなど全く気にも留めていない。


『おい!出番だ!今まで傍観してたんだから戦力は温存してるだろう?どさくさであの馬鹿も始末したって構わん…俺も今から出る!』


 そう云うと<念話>を切り1人加勢に向かう張。



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