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三匹が!!!  作者: 佐竹三郎
~2章仲間集めをしよう!~
18/26

11話:ダンジョンの出入口で出会いを求めるのは危険だろうか?その3

にゃあ様作:『ルークィンジェ・ドロップス』より設定をお借りしております。

http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/571075/

宇礼儀いこあ様作:『神殺しの青』より設定をお借りしております。

http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/136726/

GoogleDocより設定をお借りしております。


毎度の事ながら一部キャラの不適切発言やキャラの事実誤認などがございます。

捏造設定などもかなり増えました。表現などに問題やご指摘、在らぬ誤解御座いましたらご一報下さい。

 レベルが上は90から下は40辺りで構成された総勢70余名の冒険者に完全包囲されているにも関わらず、全く恐怖心を見せない<侠刃>戦闘班。その中に居て一際異彩を…っと思ったが揃いも揃ってアレな感じな連中の(1人は僧兵姿の2mオーバーの猫人族の武闘家。1人は布面積が非常に少ない露出狂気味の女エルフの神祇官。1人は金髪ボサボサ頭に鎖骨辺りまで晒しを巻いた男物のヨレヨレの着物を着た女狐尾族の妖術師。1人は周りが和装にも関わらず1人だけ洋装の褐色肌で髭面人間(ヒューマン)の盗剣士)中で常に無言の男、龍の頭部まんまの兜というか被り物に希少な龍鱗や龍爪で造られた幻想級ファンタズマルの鎧に匹敵する防御力を誇る帷子を身に付けさながら龍人のような出で立ちの雪崩が怒門、戌威神の2人を片手でそれぞれ摘み挙げ<F.B.I>と<麒麟DEATH>へとそれぞれを放り投げる。


 その威力たるやLV90オーバーしているからと簡単に断ずるには余りにも強大過ぎた。投げられた彼等もそうだが、投げつけられ直撃を受けた<F.B.I><麒麟DEATH>のメンバー数人が<気絶>のBSを付与され一緒に吹き飛ばれたほどだ。これは雪崩のサブ職<鬼人>の特技<怪力>によるものである。


 サブ職〈鬼人〉とは如何なるモノか?少し触れておこう。


■サブ職<鬼人>■              


 <吸血鬼>と同じ制作会社が開発したサブ職。元々は<人狼>という名称であったが、ヤマトサーバー下では「人狼」のイメージ自体が希薄であった為、和風テイストの強い<鬼人>へと改名された。


特徴として、自己強化の特技を多く習得でき 、その殆どが常時発動形である為、常にステータスが強化された状態になる。その強さは、同レベルの<パーティ×3>モンスターを、ソロで圧倒できる程である。反面、ステータス強化以外の特技は殆ど習得できない。


修正される前の<吸血鬼>同様、ゲームバランスを崩しかねない程に強力なサブ職だが、 その獲得方法に大幅な「運」要素を盛り込む事で、バランスを保つ試みがなされた。その入手確率は、最大でも10万分の一になるように調整されており、あまりの希少性から「幻想級サブ職」等と評されている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こん青大将が!こんだけの数に喧嘩売って勝てると思うなよ!」


「そげな人数でノボんなよ貴様きさんら!」


 罵詈雑言の雨霰、皆が揃いも揃って同じような内容の恫喝をするのに両耳に人差し指を突っ込み辟易した表情の兎原華院…。


「なーさん、っつぁんじゃねーんだから、そう馬鹿ども煽りなさんな…あんたらしくもない。」


「…ミキオ、おはんも人ん事ぁ云えん!」


「?そうかい?下衆が<侠刃うち>のお姫様(レイディー)を侮辱しやがるから…ついな。」


 両耳を塞いだまま大袈裟に肩を震わせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる兎原華院。

 どう考えても数の不利は覆しようが無いこの現状でも彼等<侠刃>戦闘班に恐怖も焦りもない。両陣営が血を観ずに収まらない位に殺気を膨らませ一触即発状態の中、1人の見た目に“気障キザ”な宝塚版ベルばらのア○ドレを彷彿させるような出で立ち、そしてその出で立ちにそぐわない濁りきった小悪党丸出しで下卑た眼差しの<盗剣士>ちゃん・鈴木が雪崩や兎原華院を無視して道仁へと歩み寄る。


「いやぁ~、道仁さんに<侠刃>戦闘班の木っ端共(皆さん)、<NKS24鬼衆(ウチ)>のギルマスやガミ君が誤解を招く(・・・・・・・)ような言動を取ってしまって誠に申し訳ない。」


 慇懃無礼とはこの男の態度の事を云うのだろう…身長的に見上げる形ではあるが態度は明かに<侠刃>戦闘班を見下してる。

 そんな張の対応なぞ眼中に無いのか地面に唾を吐き面倒臭そうに首を鳴らす道仁。


「誤解だぁ?お前らがオジキとボンを呼び出して拉致るつもりだったのはバレてるんだぜ?しょーもぇ絵図描いて俺等“無法街”のもんを取り込もうとしてたのも筒抜けだぁ?そんなに<バイアクヘー><第十一戦闘大隊><紅蓮><紅葉の風>あと、なんとかって云う<食闘士フードファイター>の小娘ちゃん達をナカスから摘み出してェか?やりたいんならお前らだけでやってくれや!俺達には関係の無ぇ話だ…ソレに<工房ハナノナ>や他のギルドが居ねぇのを観るとそっち(・・・)も“総意・・・”って訳じゃあるめぇ…?」


 道仁は面倒臭気に明後日の方向を向き犬でも追っ払うかのように『シッシッ』っと手をヒラヒラさせる。

 それを観て顔を引き吊らせながらも食い下がる張。


「…総意?コレだけ賛同してくれているのですよ?それに“無法街あなたがた”には本当に関係在りませんか? ゲーム時代ならいざ知らず<バイアクヘー><第十一戦闘大隊><紅蓮><紅葉の風>なんかが徒党 組んで我々や貴方達をナカスの街から力尽くで追い出すなんてこ…。」


「そういう発想はそういう発想しか・・・・・・・・・・・出来ない(・・・・)馬鹿が『相手も同じ事を考えてるに違いない。』って発想からしか導き出されない答えだぜ?誰が本当に音頭(・・・・・・・・・・)執ってるか知らねぇが手前ェらはそうしたい(・・・・・)訳だろ?騎士ナイトさんよう?」


 張の言葉を遮り云い切る道仁、言葉を遮られた方は目を泳がせ、口をアワアワさせている。彼の間抜けな表情から察するに道仁の云い分は的を射ているようだ。


 バキッ!!


「ぐぇっ!」


 そんな間抜け面目掛けて打ち下ろしの左(チョッピング・レフト)を喰らわせ嗤いながら言葉を吐き捨てる道仁。


わりィな、家は代々『宗教上の理由で“出来損ない”のベル○らのコスプレみたら泣くまで殴れ』って教わって来たんでな、悪く思うなよ?騎士ナイト気取りの屑野郎。」


 不意の一撃はクリティカルヒットし、張は<気絶>のBSを付与されその場に崩れ落ちる。

 …一体どんな教義を掲げた宗教に入信してるのかはさておき、雪崩以外の<侠刃>戦闘班は皆、腹を抱えて笑っているし、彼らを囲む冒険者の一団が一気に殺気立つ。


っちょんナイス!じゃあ、私は『宗教上の理由で良い歳して素人童貞は射殺しなきゃならない』わね?アハハハハっ!」


 そう云いながら拾壱子は幻想級ファンタズマル和弓:退魔大弓[鵺討(ぬえうち)]に腰に携えた矢筒から巨大な鏃の矢を取り出し、つがえて遥か上空に撃ち放つ。…云ってる事は道仁よりも最低である上にどんな『宗教上の理由』だ!?


「喰らいな!<侠刃>特製[散弾矢]」


 彼女の放った矢は上空で炸裂し無数の矢が彼女ら<侠刃>戦闘班を囲む冒険者達を襲う。

[散弾矢]はゲーム時代から存在した製作級アイテムであり、本来はプレイヤー前方に大挙する雑魚モンスター掃討を目的として使われるのだが拾壱子の使用した<散弾矢>はゲーム時代のソレ(・・)とは異なる上に上空に射る事で広範囲に拡散し正に雨霰の如く降り注ぐ。


 そしてゲーム時代との最大の違いは仕込まれた無数の矢にサブ職<符術師>の作る攻撃用の<霊符>が巻きつけてあり受けるダメージ量などがゲーム時代の物とは桁違いである事、全て違う効果の<霊符>が仕込まれている為、使用者ですらどのような効果を敵に与えるかが分からない。

 現に[発火符]の矢が当たり<火傷>のBSが付与される者、[起爆符]の矢が当たり身体の一部が爆ぜて欠損しのた打ち回る者、[捕縛符]で動きを封じられる者、[閃光符]で一時的に視力を奪われる者、[氷結符]で凍傷を負う者、様々だ。


「イテェ~!!死ぬ!死ぬ!」「目が~!!目が~!!」「熱い!焼ける!顔が焼ける!!」「俺の腕!俺の腕が!!」「何だよこんなんの聞いてねぇぞ!!」


 一帯は阿鼻叫喚そのものだ。<大災害>後からの戦闘経験の差が如実に現れた形だ、それに追い討ちを掛ける様に兎原華院、雪崩、迅華が続く。


「イチコちゃんエグイ!ほんじゃぁ、まぁ俺も『宗教上の理由で女性に暴言吐くヤツは泣かす!』ってな!」


 そう云うと手近な冒険者の集団の中へと踊り出る兎原華院は自慢の秘法級投擲武器[幸運な賭博師ラッキー・ギャンブラーのトランプ(・シュピールカルテ)]による<オープニングギャンビット>を繰り出しダメージマーカーを設置して行き、サブ職<魔盗賊(ミスティック・ローグ)>の能力、『攻撃職の特技と交換に魔法職の特技を得る』で得た特技<デスクラウド>と<ライトニングネビュラ>を発動、周囲は毒でのた打つ者、ダメージマーカーに更に魔法攻撃を喰らいほぼ瀕死者など兎原華院の周りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


「ミキオは馬鹿んごと飛ばし過ぎようけど、MPの管理大丈夫なん?」


 戦闘序盤からMP消費量の多い大技を連発する兎原華院の心配より彼のMPの管理のずさんさを嘆きつつ自身に襲い掛る敵を特技<インフェルノストライク>を付与した杓杖で次々と薙ぎ払い一面を爆炎の海と化す迅華。

 全員が相手のレベルの低い高いを無視で手当たり次第に暴れる<侠刃>戦闘班、数を頼りに相手を侮っていた<NKS24鬼衆>をはじめとするギルド連合はなす術も無く恐慌状態に陥る、中でも彼らを戦慄させたのが『<侠刃>の“猫”と“蛇”』の“蛇”こと雪崩だ、全く<武士>の特技を使わず蜻蛉からの“一撃”で3、4人の冒険者を豆腐か何かのように簡単に袈裟懸けに切断する。装備している龍頭を模したヘルムの為、全く表情が見えず返ってそれが不気味さと恐怖を煽る。


「おい…レベル差が在るって云うたちゃアレは何か?<武士サムライ>の特技で一遍に3、4人も終やかす特技とか無かろうもん…。」


「俺ん聞いたちゃ知るか!あげなんバケモノ相手やらしきらんばい…。」


「もう、逃げよう!なんぼ『生き返る』ったちゃ痛いのは変わらんめぇもん!」


 恐怖は伝染する…特に中堅レベルの冒険者達は戦意を既に無くして完全に恐怖に支配されている…。その場で腰を抜かし失禁する者、掠り傷で恐慌状態に陥る者、形振り構わずその場から逃げようとする者…。



パルコ屋上


 咥え煙管で溜め息を吐きながら、地上で起こる惨状を眺める八郎…。

(あ~っ、そうか現実化してるからゲームの頃の常識が必ずしも通じる訳じゃ無いか…。

 そりゃ、現実で受ける痛みよりは多少は痛みは軽減されてるけど、視覚的なモノで戦意は削れるわなぁ~、ましてや此処に異世界転移とばされた連中、総てが武道の経験がある訳でもなし、下手すると殴り合いの喧嘩もした事無い連中ばかりか…。それ考えるとあの<侠刃>って連中はこっち(・・・)での戦闘も現実での“戦闘”?も場慣れしてるねぇ~。…だけど)


「ねぇランエボぉ~、確かに<侠刃あちらさん>の方が場慣れはしてるみたいだけど、ありゃ個々人が強いだけで連携もヘッタクレも無いじゃない?よくあんな連中にヴィシャスは大規模戦闘レイドの助っ人なんて頼んだわね?」


 元<黒剣騎士団>所属の八郎からすれば、異世界転移で現実化したゲームのような世界に放り込まれて、戦闘自体が様変わりしたとは云え、とても大規模戦闘レイドを経験しているプレイヤーの動きでは無い…、全く連携というモノが無い。個人の能力値や武器の特殊性をフル活用して暴れているだけにしか見えない。

 だが、装備を観るに確かに大規模戦闘レイドや難関クエストの経験者でなければ入手出来ないような物ばかりだ。

 

 露出度の高い<神祇官>の[鵺討ぬえうち]は八郎の知りうる限り<ハウリング>のギルメンが所有していた位の記憶しか無いが幻想級ファンタズマルの“和弓”など<エルダー・テイル>では数えるほどしかバリエーションが無い。

 

 モンスターにしか見えない<武士>の“蛮刀”[虎殺し]は秘宝級ではあるが純粋な攻撃力やクリティカル率の高さはアイザックの幻想級両手剣[苦鳴を(ソード・オブ)紡ぐもの(・ペインブラック)]をも凌ぐが重量が異常なほど重い為、通常攻撃ですらまともに当たらない、重量軽減アイテムを使用しても鉞鎚と変わらない位の攻撃速度にしかならず攻撃力の高い割に不人気アイテムなのだ。

 だが(雪崩)は全く重量を感じさせない戦いぶりを見せるし、身に纏うドラゴンからのドロップアイテムで造られた[鋼鉄龍の兜タッツェルブルム・ヘルメット]と[龍血の帷子ジークフリート・スーツ]も大規模戦闘レイド産の防具だ。


 金髪狐尾族の<妖術師>の錫杖[混沌への誘いコール・オブ・ラヴクラフト]も矢張り難関クエストでしか入手困難な代物である。


 リーダー格であろう<武闘家>の[悪僧の法衣]や首に掛けた[虎眼菩提念珠]にしても難関クエストで入手する稀少なレシピと稀少な素材で製作されるアイテムだ。


 このPTパーティーで一番浮いてる<盗剣士>の装備も以下略。


「そうだねぇ~。でも、本来はこのメンバーに指揮官で戦闘班隊長のバンドウ君って<神祇官>の男の子が居て、そのコがみんなを纏めてるの。ゲーマーとしては(・・・・・・・・)超一流なんだけど、言動に問題有り…かな?」


 一度、同じ戦場を共にし、それが縁で交流のあるランエボが一応・・・・の状況説明らしきもの?を八郎にする。

 面識の無い八郎は眼下でレイドモンスターの如く暴れ狂う<侠刃>戦闘班を観るにこの場に不在らしい彼らの指揮官を『フル○タル・○ャケット』に登場するハート○ン軍曹のような人物なのだろうか?それとも『特攻○郎!○チーム』の○ンニバ○のような人物なのだろうかと勝手に想像する。


「あ~っ先生!多分凄い“切れ者”か“鬼軍曹”みたいなのを想像してそうですけど、“バンドウ”って野郎は確かにゲーマーとしては凄腕ですよ?、自称“ナインテイル最強”なんて云いよる馬鹿んごとあるヤツで“凶神マガツカミ”とか狂った剣士って書いて“狂剣きょうけん”なんて呼ばれちゃってる<ナカス>一の鼻摘まみモンの“なんちゃってDQN“ですよ?」


 額に<流血>のBSを付与された状態(矢の刺さった箇所から血が吹き出し徐々にHPが減少している。)の鎌吉が不愉快を隠そうともせずに額から血液を迸らせる。


「鎌吉くん、バンドウ君と何かあった?」


「『無い』って云ったら嘘ですけど…そいぎんたぁ、あの馬鹿(バンドウ)もログインしてるっぽいのに、まだ観て無いし、こんな大喧嘩なら真っ先に暴れてる筈なのに…?」


 血塗れで小首を傾げる鎌吉の顔色は徐々に青白くなって来た、流石に拙いと思ったランエボが(…その状態を分かっていて普段通り会話するのだから義姉妹からすれば『何時もの事』なのだろう。)鎌吉の額にBS解除の<霊薬ポーション>とHP回復の<霊薬ポーション>を瓶ごと投げつける。

 投げた<霊薬ポーション>は見事、傷口に直撃し瓶が炸裂する、どう考えても怪我の具合を悪化させているように思えるのだがBSは解除され、HPも回復しているのだから理不尽この上無い…。

 

「…ランエボちゃん、何時も助かるんだけど…もう少し、こう普通に<霊薬ポーション>を渡してくれません?」


「無理だよ。」


 鎌吉のささやかな抗議もにこやかに拒絶するランエボ。義姉が義姉なら義妹も義妹である。


 一方の義姉はそんなコントを無視して呟く。


「…私の知ってるゲーム時代の[散弾矢]にあんな効果はなかった…って事は“料理”と同じ『原理』で造られた(・・・・・)シロモノか?しかも武器が造れるサブ職<矢師>辺りと<符術師>辺りの合作?…それとあのバケモノその1の動きは…薬丸ジゲン(・・・)流か…?」


「ヤクマルジゲンリュウ?って何?お義姉ちゃん?」

 

 全く剣術など、武術全般に疎いランエボが聞き慣れない『単語』に反応する。

 その反応を見て顎をシャクり鎌吉に説明を促す。


「…先生、僕も其処まで詳しく無いですよ?ぶっちゃけ“東郷”と“薬丸”の違いくらいしか説明出来ませんよ?」


「トウゴウ?ヤクマル?何それ?」


 困惑しながら八郎の顔を伺う鎌吉に頭を掻きつつ面倒臭そうにその場に座り込む。


「鎌吉は問題無しでもランエボは全くその辺りの知識無しか…。ランエボ!某異世界漂流国盗り漫画の主人公は分かる?」


「?それは分かるけど、あの人の流派はタイナントカ流じゃ無かった?『二ノ太刀不要にのたちいらず』だっけ?」


 自信無さ気に答えるランエボ、基本的に歴史上の人物や事柄は『記号』程度の認識で詳しく掘り下げようとは思わないランエボにとってはこの程度でも知っていれば上等である。


「そう!あの主人公は『タイ捨流』ね。ただし!『二ノ太刀不要にのたちいらず』は違うよ?『タイ捨流』は、“右半開に始まり左半開に終わる、すべて袈裟斬りに終結する”独特な構えで 丸目家の家紋である九曜の型による円の太刀や、色んな地形での戦いを想定した身体の動かし方、飛んだり跳ねたりで相手を撹乱する技、剣術に体術…アレだ蹴りや目潰、関節技なんかを取入れたモノで例の漫画の作中だと新撰組の副長との戦闘シーンが正に『タイ捨流』の真骨頂だね。」


「…お義姉ちゃん長い?長くなる?要はタイナントカ流は総合的武術で『二ノ太刀不要にのたちいらず』じゃないんでしょ?既に飽きたんだけど…。」


 瞳を輝かせながら熱く語る義姉に問答無用で冷水を掛けるが如く『飽きた』宣言をする義妹…。そこは折込済みなのか構わず続ける八郎。


「そういう事、でアンタの質問した薬丸自顕流やくまるじげんりゅうって云うのが『二ノ太刀不要にのたちいらず』正確には『一の太刀を疑わず、二の太刀は負け』っていう一撃必殺の剣術さ、“蜻蛉”っていう独特の姿勢からの一撃で全てを終わらすってシンプルな考え方で小難しい精神論とか防御の技の無い剣術が、あの雪崩とかいう<武士サムライ>が現実で修得した流派だろうね。

 で、鎌吉が云ってた東郷示現流とうごうじげんりゅうってのが別にある訳さ、こっちの方が世間一般では有名で薩摩藩の御留流なんていわれてるけどねぇ~。同じ<ジゲン流>なもんで世の中ごっちゃにしてる作品の多い事、多い事、東郷は“示現流”で連撃も防御の技だってあるし、“蜻蛉”の姿勢からして違う。で薬丸は“自顕流”で東郷示現流とうごうじげんりゅうの分派ね!さっき説明したから薬丸の説明は止めとく、まぁ授業にも出なければ、テストにも出ねぇから興味が無ければ憶えなくて良いよ?因みに『生麦事件』で異人さん斬ったのは薬丸門下、明治新政府・陸軍少将桐野利秋(きりのとしあき)や幕末に活躍した鹿児島出身者はほとんど薬丸門下だと思いねぇ。」


 っと地面に適当な棒で『薬丸自顕流やくまるじげんりゅう』と『東郷示現流とうごうじげんりゅう』と書いて説明する八郎の口調は後半から何故か『べらんめぇ口調』になる。


 一通り説明を終えて達成感から満面の笑みを浮かべる八郎。そんな八郎を尊敬の眼差しで見る鎌吉。やっと終わったと安堵の溜息を吐くランエボ。


「要はお義姉ちゃんが蘊蓄を垂れ流したかっただけ?それだけ?ねえ?」


「その通り!」


「先生!勉強になります!伊達に“伊庭八郎”を名乗られていない!其処に痺れる!憧れるぅ~!」


 この手の話題で八郎と鎌吉が盛り上がると、興味の無いランエボがツッコんでも焼石に水なので収集が着かなくなる…。



 寄せ集めのギルド連合は今や瓦解状態だ。揃いの限定アイテム『特攻服』のような布鎧[神速の向こう側ゴッド・スピード・ユー]を纏った<青空隊>は鋼尾翼竜ワイヴァーンを召喚し戦線離脱、ドラゴン系モンスター討伐専門ギルド<龍狩り団>は対人戦を得手としない為か早い段階で離脱。

 

 異世界と化した世界での戦闘に不慣れだった<麒麟DEATH><外角低め(アウト・ロー)><烏枢沙摩ウスサマ>は全員大神殿送りとなり率いていたソロプレイヤーは蜘蛛の子を散らすように戦線を離脱。

 <NKS24鬼衆>も旗色が悪いと見た途端、黛琉マユルとその取り巻きは早々に戦線を離脱し<九尾ナインテイル髑髏スケルトン>も恐怖に駆られ離脱。


 残るは<NKS24鬼衆>数人と怒門を妄信的に慕うソロプレイヤー、PKやloot(戦利品略奪)をゲーム時代から専門としていた<Dirlewangerディルレヴァンガー>、サブ職<決闘者><無法者>で構成された揃いの限定アイテム『特攻服』のような布鎧[喧嘩爆弾(クォーラル・ボンバー)]を纏う喧嘩(PVP)ギルド“狂乱の焼豚チャーシュー”ブルータス率いる<ファンタスティックブルータスいちばん>だけとなった。


「兎原華院!相変わらずこすっからい“喧嘩”が得意やのう~。」


 <F.B.I>ギルマス“狂乱の焼豚チャーシュー”こと<武闘家>ブルータスが贔屓目に観ても“ポッチャリ系”の身体を揺らしながら兎原華院の元へとにじり寄る。


「俺の事を“兎原華院”ってちゃんと呼んでくれるのはお前さんだけだな!ブーちゃんよぅ!だが!らくしねぇな!テメェが余所の下に大人しく着くなんて!?“異世界転移”で日和ったか?」


 挑発とも仲の良い相手との冗談交じりな言葉のキャッチボールとも付かないやり取りをしながら[幸運な賭博師のトランプ]を優雅にシャッフルする兎原華院。


「なんとでん云いよけ!テメェの我が儘でギルド抜けたヤツが、俺のやり方に文句云う資格やらあるとか!?」


 忌々しげに地面に唾を吐き捨てるブルータスを観ておもむろに上着と帽子を捨て去りネクタイを緩める兎原華院。


ちげえねぇ…、初っ端から飛ばしてMPもスッカスカの“Eペタ”だぁ、<Fファンタスティック.Bブルータス.Iいちばん>名物、“ステゴロタイマン”で勝負するかい?元ギルマス(・・・・・・)?」


「ケッ!<武闘家>に<盗剣士>が“ステゴロ”で勝てんのは貴様きさんが一番知っちょろうが!それでんやる気か?」


 [喧嘩爆弾クォーラル・ボンバー]の上着を脱ぎ捨て、右腕をグルグル回すブルータスと親指を立て自身の首を斬るジェスチャーで挑発する兎原華院。



 「オラオラ!どうした?騎士ナイトさん?さっきから一発も俺には当たって無いぜ?アレか?こっちが素手だから手加減してくれてるのか?」


「も…ぅ…やめ…ろ…。」


 『円』を描くような軽快なステップで張・鈴木の周りを囲みフリッカージャブの弾幕を張る道仁。

 為すすべも無くサンドバックのようにされるがままの張は顔面が倍に腫れ上がり血と吐瀉物塗れで棒立ち…否、倒れる事すら許されない程、打ち据えられている。


「?やめろ?『やめて下さい。』の間違えじゃねぇのか?騎士ナイトさんよぉ?」


 移動系特技以外は一切使わず通常攻撃だけで敢えてクリティカルが出ないよう微調整しつつじわじわとHPを削る道仁は軽く張の鼻っ面にジャブを掠めるように当てる。


「か…勘弁し…て…く…」


 血と吐瀉物と涙と鼻汁塗れで口を開くのもやっとな張が懇願しようとした時だった、道仁の左頬を<ワイヴァーンキック>が掠める。


「待てコラァ!このアント○オJr.もどき!」


 真紅の鉢巻とマントを棚引かせ道仁と張の間に割って入る<NKS24鬼衆>ギルドマスター怒門雷ZOは張を小脇に抱え一旦その場から離脱し目に映った仲間の施療神官クレリックに張を預け道仁の元へ駆け戻る!!


「ちっと待たせたな!ア○トニオJr.もどき、貴様きさぁんの親父んごと片キ○にして剥製にしてやる!ようも<NKS24鬼衆(ウチ)>の張ば可愛がってくれたのう!」


 流派○○不○のような構えを見せる怒門に呆れたような蔑むような目を向ける道仁。


「あぁ~ん?“貸し(・・)”作る為に今迄、こそこそ待機してやがったボケナスが大層な口を叩きやがる!お飾り(・・・・)英雄ヒーローごっこする為にやっとお出ましか?お前、足が震えてんぞ?」


 図星を突かれ怒りと羞恥で真っ赤な怒門雷ZOはソレを誤魔化す為に天よ裂けよと云わんばかりに怒声を上げる!


「せからしい!!貴様きさぁん!俺と1対1(サシ)で勝負せいや!他ン奴は絶対手を出すな!!俺ば馬鹿にしくさって!俺の実力見せたるわい!!」


「きっきっき…1対1(サシ)か?自慢の籠手おもちゃの性能でも見せてくれるのかい?英雄ヒーロー被れ!」


 右腕で顎をガードし、左腕を振り子のように規則的に揺らす“デトロイトスタイル”をとる道仁。



「おい!巻き込まれる前に逃げえ!戌威神ガミさんは敵とか味方とか関係なかぞ!」


 次々に巻き込まれ切刻まれる仲間の手を引き逃げる<暗殺者>、そんな彼が引っ張っていた仲間の<森呪遣い>は既に腕だけになっておりその腕も間も無く七色の泡となって消えた…。


「ヒィ!!」


 <暗殺者>は恐怖に腰が抜けその場で失禁。


 彼の目の前では仲間を盾代わりに使い<侠刃>戦闘班の『猫と蛇』の“(・・)”雪崩と切り結ぶ戌威神の姿があった。


「オルァ~!!田舎っぺの薩摩芋野郎!どうした?当たらねぇぞ?貴様きさんの斬撃は!ほら!他の奴みたいに一撃で俺を沈めてみろよ!ひゃははははははははははははは!!」


「やめて!!もう俺は嫌だ!放してください!戌威神ガミさん!!」


「この屑!放せ!殺し合いしたいならお前らだけでやれ!」


 戌威神の特殊アイテム[無限蛇ウロボロス・ロープ]で雁字搦めにされ文字通り『人間の盾』にされる“仲間であるはず(・・・・・・・・)”のソロプレイヤー達。


「おはん…血に酔うちょるか…。」


 蜻蛉の姿勢のまま微動だにしない雪崩。


貴様きさんを終やかす為の防具たい!気にせず掛って来いよ?」


 勝つ為に手段を選ばない戌威神は仲間・・・を盾に雪崩に襲い掛かる。



 「ねぇ?いっちゃん?ミキオまで“漢の世界”に浸っとるけど、どうする?」


 ほとんどの敵が散り散りに撤退する中で始まる『漢と漢の闘い』に浸る男衆を溜息混じりに見ながら拾壱子に話を振る迅華…、退魔大弓[鵺討ぬえうち]の戦闘支援AI“ぬえ”で僅かに反撃しようと試みる中堅レベルのプレイヤーを蹴散らしながらやはり溜息を吐く拾壱子。


「本当に男ってのは“切った張った”が好きで仕方ないねぇ…私に云わせりゃ、よっぽど…」


「いっちゃんストップ!!それ以上云いなんな!女の子やろう?」


 慌てて言葉を遮る迅華に向かいペロっと舌を出しおどけた表情を作る拾壱子。


「いやぁ~ん♪華ちゃんと違って私は使い古しの五円玉だしぃ~テヘッ♪」


「…いっちゃんェ…。」




すみません…その3でこの話し終わらすつもりが…あと2話くらい続きます…。


次回も趣味丸出しな戦闘が続きます。

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