0話:<侠刃>戦闘班の『蛇と猫』
・本編再開前の軽い前哨戦です。
・捏造設定が結構ございます。
・下ネタ大目ですが決して、作者は女性蔑視の傾向が在る訳ではありません。ネタです!キャラの差別化の為の誇張です。
・八郎、ランエボ、鎌吉は出てきません。
・サブ職<鬼人>の設定はDocよりお借りしております。
テンジン地下ダンジョン
現実世界での天神地下街及び福岡市内地下鉄や博多駅地下街がソレに該当する。
アキバの街、アキバ下水道やミナミの街、ウメシンダンジョンと違い単純明快で複雑な造りでは無いが中~高レベルのモンスターやクエストのボスクラスのモンスターが徘徊する玄人向けのダンジョンだ。
俗に<大災害>と呼ばれる異世界転移現象から向こう、ゲームが現実となったこの世界モンスターの体感LVが実際のLVより高く感じられるようになり、このダンジョンに好き好んで立ち入る冒険者は皆無に近かった、LV90でゲーム時代に何度もアタックし踏覇した冒険者でも入口付近で苦戦し早々に逃げ出す始末、しかしそんなテンジン地下ダンジョンのクウコウエリア最深部を攻略する5人組のパーティーがいた。ナカスを本拠地とする生産系ギルド<侠刃>の戦闘班だ。
「やぁ~っと、この冒険者の肉体にも馴れてきたぜ!」
そう云ってシャドウボクシングをしながら歩を進める2mを超える体躯の右目に眼帯をした少林寺拳法の道着のような装備に巨大な数珠を首から提げた白虎のような猫人族の武闘家 道仁。
「…道っつぁん、あんたゲームの頃より動きにキレが在り過ぎて俺等ぁ置いてけぼりじゃネェか…。」
その5、6歩後ろでトランプをシャッフルしながら呆れ返る、白レザーの三つ揃えスーツにコレまた白レザーのハットを被り、白のブーツを履いた口髭を蓄えたそこそこ身長のある褐色肌の人間、盗剣士の兎原華院。
「…“ミキオ”、おはんも人ん事は云えん…。」
「ナーさん…その“ミキオ”って渾名止めません?俺は東北出身のお笑い芸人のヤクザっぽい方じゃないんだから…。」
口数少なげに兎原華院に話し掛けたのが道仁と変わらぬ巨躯で装備の所為で一見すると蜥蜴男か龍人にしか見えない…、巨大な鯨切り包丁を彷彿させる大刀を肩に担ぐ狼牙族の武士 雪崩。
そんな野郎3人の後をつまらなそうに着いて歩く2人の女性冒険者、1人は巫女装束と云い切ってよいのか非常に悩む露出度の高い装備で背には弓矢を背負った漆黒のワンレンエルフ神祇官の拾壱子、もう1人はかなり上の方までキツく晒しを巻いて裾がボロボロの着流しを兵児帯で留めた若干クセのある金髪ロングヘアーで杓杖を片手に持つ狐尾族の妖術師、迅華。
「ヤダね~、ストレス発散の為のバケモノ退治なんて…溜まってるならヌいてあげるのに、コレだから喧嘩馬鹿は…。」
っと、筒でも持つような手付きで更にその手を上下させて溜息を吐く拾壱子、そんな彼女を心底嫌そうに観ながら溜息を吐く迅華。
「…いっちゃん、乙女の恥じらいち持たんと?」
「本能に正直なだけよ?あんまり殺る事も姦る事も無くて退屈だから本音が垂れ流しになっただけよん。」
満面の笑みを迅華に返す拾壱子はそのまま、蛇のように彼女の身体にまとわり付き耳元で囁く…。
「別に相手してくれるなら華ちゃんでもいいのよ?」
そういうと迅華の首筋に舌を這わせる拾壱子…。
「ひゃ~!!ちょっ!?いっちゃん??私、そっちの気は無かよ!止めてよもう!」
…ダンジョンの中だと云うのに誰1人として緊張感のない、寧ろ楽しんでいるかのようだ。後方で女性陣がキャイキャイとやり取りをしているのを他所に先に進む野郎3人…、っと先頭をシャドウボクシングをしつつ進む道仁の歩みが止まり、構えがデトロイトスタイル(ヒットマンスタイルとも云う)に変わる、それを合図に雪崩が彼の横まで歩み寄り正面を見据え変形八相の構え・・・蜻蛉の姿勢を取る。
兎原華院は女性陣の居る後方まで下がり戦闘体勢を取るが道仁に一喝される。
「お前らは絶対に手ェ出すな!イチコ!障壁も無しだ!雪崩と俺でこいつら殺る。」
道仁、雪崩の前に金棒を引き摺りながら2mを超える2人より更に一回りほど大きな…頭部は牛、身体は筋骨隆々なガチムチ体型のモンスター牛頭と頭部は馬、身体は筋骨隆々なガチムチ体型のモンスター馬頭の2体が現れた。二頭?共にLV85パーティーランク3の高レベルモンスターだ…。
「おう!パーティーランク3か、ちっとは手応えあるか?なぁ雪崩?」
「…愚問…!」
LVだけを観ればLV90の冒険者 対 LV85のモンスター…、単純に2人の方がLVは上だ、しかしモンスターのランクはパーティーランク3、つまりLV85の冒険者が3人で対等に戦えるクラスのモンスター2体(適正人数はLV85の冒険者が6人)を2人だけで倒そうというのだ…正気の沙汰では無い。
だが、道仁と雪崩は殺る気まんまんだし、兎原華院、拾壱子、迅華は全く不安視しておらず、それどころか被害が及ばないであろう位置まで後退し3人で投擲武器であるトランプを使いババヌキを始める始末。
「ネェ?ネェ?ミキオぉ~?馬頭ってさぁ、やっぱりあの褌の中に隠れてるナニも馬並みなのかなぁ~?」
先ほどから興味深々で馬頭の下半身を舐め回すように見詰める拾壱子、その横で顔を真っ赤にしてそっぽを向く迅華と腹を抱えて笑う兎原華院。
「あ~はっはっは、ひぃ~っひぃ~っイチコちゃん、それオッサンの発想だよ。うら若き乙女の台詞じゃね~よ!それ!」
「は?うら若き乙女?こっちとら、華ちゃんと違って年季の入った5円玉だっつーの!ミキオは女に夢見過ぎだよ?童貞じゃあるまいに。」
口を尖らせ皮肉を云う拾壱子、しかし兎原華院も負けてはいない、そんな皮肉を物ともせず云い返す。
「イチコちゃん、男なんざ何歳になっても女性に対して夢見て生きる生物なんだよ?多分、彼処で“漢の世界”に浸ってる2人や、ウチの親分もね、っと牛頭馬頭が仕掛けて来たみたいだよ?」
トランプを配り終えた兎原華院が改めて道仁、雪崩達を見やると牛頭馬頭が金棒を大上段に振り上げて襲い掛る、最初の一撃を道仁は紙一重で回避し馬頭の腕目掛けて変則的なジャブを連打する、俗にいうフリッカージャブだ。
「きっきっきっき!いいねぇ~!いいねぇ!拳がまともに奮える!血が騒ぐ!!」
馬頭の周囲を円を描くようにステップを踏み金棒での攻撃を、ギリギリ紙一重で回避しつつフリッカージャブで弾幕を張る道仁、一方の雪崩だが牛頭の初撃を避けようともせず正面から受けたのだがさほどダメージを受けていない。
「・・・けしね。(※死ねの意)」
雪崩は牛頭の角を掴むとそのまま片腕で力任せにブン投げ、改めて蛮刀[虎殺し]を八相の構えより剣を天に向かって突き上げ、腰を低く落とした『蜻蛉』の姿勢を取り、絶叫し牛頭目掛けて襲い掛る。
「キエェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
その場に居たもの全てが耳を塞ぎたくなるような、けたたましい猿叫がダンジョン内に響く…っと同時に眼にも止まらぬ速さで牛頭との間合いを詰め蛮刀[虎殺し]を振り下ろす…振り下ろされた蛮刀は何の抵抗も無く牛頭を左肩から右下腹部に掛けて袈裟懸けに両断してしまう。
幕末の京都で恐れられた薩摩藩のお家芸の1つ『二の太刀要らず』の薬丸自顕流の如き初太刀である。
まだ若干HPが残っているのであろう牛頭は身体を両断され半身は立ち尽くし腸と血を飛沫のように噴出しているにも関らず、右腕の金棒を振り回し怒声を上げる。
「…見苦しか、バケモンは引き際も分かりもはんか…。」
そう云うと振り回される金棒を片手で受け止めそのまま握力で握りつぶす、そしてまだ敵意剥き出しで怒声を上げる牛頭の頭を問答無用で踏み砕く、脳漿や眼球をぶちまけ四散した牛頭の頭部及び身体は七色をした光の泡となり霧散した、後に残ったのは大量の金貨とドロップアイテム。
一方、馬頭を相手に戦闘継続中の道仁は独特の笑いと共に馬頭を翻弄する、法則性も無く繰り出される金棒が何度か身体を掠めはしたが深刻なダメージは一切受けていない。
「きっきっき!あの金棒が邪魔で仕方ねぇ…!昔は無理だったがこの身体ならイケるか?」
そう云った道仁は馬頭の金棒の射程範囲に自ら飛び込んだ案の定、彼の頭上に金棒が振り下ろされるがそれは予測の範囲内である、例の如く紙一重で回避すると、金棒は地面にめり込み右腕が完全に伸びきった状態となった、それを確認した道仁は馬頭の右肘にほんの少し拳を添えた。
「破!!」
道仁の掛け声と共に馬頭の右腕が肘から先が在り得ない方向を向き、骨が筋繊維や皮膚を突き破り顔を覗かせている、馬頭は絶叫し使いモノにならなくなった右腕を振り回し襲うが簡単に避けられ、またデトロイトスタイルからのフリッカージャブの弾幕でHPを削られる。
(きっきっき…見よう見真似でもやってみるもんだなぁ~ワンインチパンチ…流石にこの破壊力は想定外だったけどな…)
狂乱状態で滅茶苦茶な攻撃をする馬頭の攻撃は全て紙一重で回避される、馬頭が一撃を繰り出せば道仁はそれを回避し4、5発は確実にヒットさせる、見事なアウトボクサースタイルだ。
「さぁて、そろそろトドメと行きますか…。」
今までのデトロイトスタイルからピーカーブーのインファイトのスタイルに切り替え馬頭の懐深く潜り込むと今まで防御に徹していた右腕で深々とボディーブロウを放つ、馬頭が堪らず身体を『く』の字に折った瞬間、馬頭の馬面を無数の拳が襲う…ジャブ、フック、ストレート、スマッシュ、アッパーカット、ジョルトブロー、…左右の拳を駆使した凄まじいほどの乱打、もう既に両の眼球は飛び出し、歯は在らぬ処から飛び出し顔が原型を留めて居らず顎関節も粉砕されたのであろう馬鹿のように口をあんぐりと開き鼻から大量の血液を迸らせる馬頭…、これが最後の一撃とばかりにボクシングとは異なる空手のような構えから繰り出された一撃は変則的なコークスクリューブロウ、これが胸骨を突き破り馬頭の心臓をも破裂させた。
力尽きた馬頭は立ったまま七色をした光の泡となり霧散した、後に残ったのは大量の金貨とドロップアイテム、そして右腕を天へと突き上げる道仁…クウコウエリア最深部のボスモンスター牛頭馬頭をあっさりと倒してしまった2人は戦利品を回収し仲間の元へと戻る。
「ナーさんはね、サブ職<鬼人>だからまぁ牛頭をあっさり屠殺出来るのは分かるんよ?ばってん、ミットさんのあれはなん?ちょっと理屈が分からんとやけど?」
戦闘の一部始終を観ていた(ババヌキそっちのけで)迅華は道仁に疑問を呈するが道仁は笑うばかりで全く答えになっていない、ゲームだった頃もこの2人はそれなりに強かったが、この2人より強い男が1人居た。彼も大災害に巻き込まれて異世界転移しているのだが…。
答えない(回答しようがない)道仁を見かねて拾壱子がよく分からない例え話を始める。
「華ちゃんにこれで通じるか分かんないけどさぁ、あの2人は『ガンダ○ファイター』な訳よ?ゲームだった頃は『ガ○ダムファイター』がMSに乗って戦ってたから本人達の本来の実力を発揮出来なかった、でも今の状態…<大災害>?だっけ?で『ガン○ムファイター』が乗るべきMFを手に入れちゃった訳、適材適所って言うのかな?こういうの?まぁだからあの2人はこの世界で本来か本来以上の力を発揮してるのよ…で真逆がアイツ、アレはパイロットで今まではちゃんとMSを乗りこなせてたのよ、けどここに来てイキナリMFで戦えって云われて…」
ここまで云って話をやめた拾壱子は道仁、雪崩に向き直り戦勝祝いに帰ったら三輪車でも姦るか?と卑猥なハンドサインをしておっさん2人をからかう、からかわれたおっさん2人は真顔で(雪崩の兜はフルフェイスで表情は見えないが)『のーさんきゅー』と棒読みで断り、それに便乗たし兎原華院が『俺とイチコちゃんと華ちゃんで三輪車は?』と鼻息荒く聞き女性陣2人に半殺しの目に逢わされ豚のような悲鳴を上げた。
なんのかんの云いつつ帰りはフォーメーションの確認がてら元来た順路を辿りつつナカスの街へと戻る<侠刃>戦闘班。
本来6人である戦闘班が何故、5人で戦闘訓練をしていたのかについてはまた後日。
今回は結構やりっぱなしですね…反省はしません。で、私はエルフに対して如何わしいイメージがある訳ではありません。(此処重要)




