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三匹が!!!  作者: 佐竹三郎
<番外編『アキバの4人娘』>
13/26

その肆:異世界ビックリショー。その2

今回は難産でした…自分の拙い文章と表現力、足りない語彙で如何に対人戦を表現するかが最大の課題でした。最初から決めていた流れとは云え色々と書きながら凹んでおりました。これにて番外編は一旦お終いです。



引き続き

『黒剣騎士団の主婦盗剣士』よりキリーさんを

http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/569756/

お借りしております。不愉快な点、この台詞回しオカシイなど在りましたらご一報頂けると幸いです。


壁際に追い詰められた朝右衛門、彼女を妖術師と2人の盗剣士が取り囲むように立ちはだかる。

 PK集団の一部を引き付けて分断する事に成功したのだが、今度は自分が囲まれる羽目になる朝右衛門。逃げ撃ちの<ラピットショット>で3人のHPはそれなりに削ってはいるがそれでも3対1の数の不利は覆せず朝右衛門もそれなりのダメージを受け、壁際に追い込まれてしまった。

(う~ん、紙装甲かみの盗剣士と妖術師相手だと甘くみてましたね~反省、反省。)


「ゴルァ!この男女!テメェか!俺達のお楽しみ邪魔しや…ブベッ」


 先陣切って朝右衛門に啖呵を吐いた妖術師は言い終わる前に頭を抱えて倒れ込む、その後ろには汚い物でも払うかのように片手をヒラヒラさせて渋面を作るサツキが居た。


「サツキさん!」


「あら?朝ちゃん苦戦してますわね?…やっぱり武器で殴ると嫌な感触が手に残って嫌ですわ…。」


 そう云いながら、虚を突かれ呆然とする盗剣士2人の頭も<キーンエッジ>で攻撃力を上げた釘バットで次々と殴打、3人ともその場でみっともない悲鳴を上げてのた打ち回る。

 朝右衛門にジェスチャーで此方に来るように促し釘バットと、のた打ち回る3人を交互に見つめながら溜息混じりに呟く。


「本当にゲームなんだか異世界なんだか…普通にこんな物騒な物で頭なんて殴ったら死んでしまうか脳に後遺症が残るでしょうに…大袈裟に悲鳴を上げてる割に大してHPは削れてませんわ…この方々、戦闘経験・・・・・・・・が全く無いようですわね…。」


 そう云われてみっともないくらい地面にのた打ち回る3人のステータスから残りHPを改めて朝右衛門が確認するとサツキの云う通りさほどHPは減っていない。


「サツキさん!凄いです!カッコいいです!こんな状況でも冷静に対処して!サバケでの二つ名“ロリータ服を着たゴルゴ13”は伊達じゃないですね!」


 興奮して一気に捲くし立てる朝右衛門だが、彼女が思っているほどサツキは冷静でも剛胆でもない。朝右衛門は気付いていないが釘バットを握るサツキの腕は微かに震えているし、何時もと比べると表情も強張っている…。


「朝ちゃん、そういう賛辞だか貶してるのか解らないのはいいですから、1つ質問宜しくて?」


「はい?なんです?サツキさん?」


 今だに悲鳴を上げて、のた打ち回る3人に警戒しつつ返事をする朝右衛門は、次いでとばかりに<パラライジングブロウ><ヴェノムストライク><デススティンガー>と状態異常を起こす特技を3人に打ち込み、サツキの方に顔を向ける。


「この方達、私達のギルドが何処だか、もしかして気付いてません?」


「ん~んと、多分気付いてないですよ?知ってて喧嘩売るようなお馬鹿さんは<銀剣>の語彙と頭の足らないアホエルフか<D.D.D>や<ホネスティ>に入ったばかりの跳ねっ返りの新人さん位でしょ?…それでも強姦なんで下衆な事はしないでしょうけど…。」


 朝右衛門の云う通りだ、こちらが<黒剣騎士団>のギルメンだと解って喧嘩を売ってくる馬鹿はゲーム時代を通してもそうそう居ない。

 今、追い討ちで状態異常を付与され更にのた打ち回るこの3人にしても先ほどサツキが倒した武闘家にしても、こちらのステータスをしっかり確認して無いのだ。

 

 そこで『ふむ』っと1人納得したサツキは目の前で醜態を晒す3人に問う。


「貴男方は相手のステータスをちゃんと確認出来ます?私達のステータスを確認出来た方は大人しく<帰還呪文>でもなんでも使ってこの場からお引き取りくださいませ…。出来ない、若しくは出来てもまだ、私達わたくしたちと一戦交えようっていうお考えなら…それなりの覚悟はして下さいね?」


 サツキは、まだ強張った顔に無理矢理笑みを作るが、その不自然極まりない笑みが余計に怖さを引き立たせる朝右衛門はその複雑怪奇な笑みを観つつ、これで戦闘が終わるのかと少し安堵の表情を浮かべる。


「クソ女!テメェらのステ・イ・タ…こ…こ、黒剣騎士団…。」


 妖術師は表示された彼女らのステータスを読み取ったあとから苦悶に歪んだ表情が徐々に青ざめ小刻みに震え出す。


「<黒剣騎士団>だぁ?……じゃあ、この付与術師って…アノ……。」


 “盗剣士その1”はサツキを指差しアワアワし出す。


「…って事は、この男女のトリガラ暗殺者は“器用貧乏”の…グェッ!」


 うつ伏せ状態で殴られた頭部を抑えて睨み付ける“盗剣士その2が”最期まで云い終わる前に朝右衛門の愛刀、秘宝級両手剣[倭寇の苗刀]が深々と頭に突き刺さる。


「僕はトリガラでも器用貧乏でもないですよ!失礼な!<アサシネイト>!」


 全12職中、最大の物理ダメージを叩き出す暗殺者の特技<絶命の一閃(アサシネイト)>を頭部に刀が深々と刺さった状態で受け、“盗剣士その2”の頭部が高層ビルの屋上から叩き落とされた西瓜のように弾け飛び、それと同時にHPも凄まじい勢いで減り、あっという間に0になる。

 頭部から下は僅かな金貨とアイテムを残して光の泡となって消えた、頭から返り血を浴びて全身血塗れの朝右衛門はにこやかに言う。


「もしかして、『殺される覚悟』も無しで人を襲ってたんですか?あんたら?あと、ギルドの名前見てビビるくらいならこんな下らない事やるな!…ですよ?」


「「ヒイッ!!」」


 残った妖術師と“盗剣士その1”はその場でしめやかに失禁し、這々の体で逃げ出しながら<帰還呪文>を使い消え去った…それを確認して朝右衛門は[倭寇の苗刀]を杖代わりにその場にへたり込む。


「朝ちゃん!」


 慌てて、朝右衛門の身体を支えるサツキ。


「…すいません、サツキさん…ヤッパリ幾ら『覚悟』してても『覚悟』が足りないですね~僕…こ、腰が抜けて、あ…脚がガ…ガク…ガクですよ…アハハハハ…さ…流石にモンスター相手なら割り切りも出来ましたけど…同じプレイヤー同士は…。」


 顔面血塗れの朝右衛門の笑顔は乾いた血液で引き吊る…、それを聞いてサツキも腰から砕けるように座り込む。


「…そうですわね…『覚悟』なんて幾らしても足りませんわね…モンスター相手とは勝手も違いますし…後は、『慣れ』の問題かしら…極力“人殺し”に慣れたくは無いですけど…。」




「クソ!クソ!なんでこの芋虫頭5人掛かりなのに落ちねーんだよ!」


 5人相手に一歩も退かず暴れ回るエンクルマ、この辺りはゲームでも現実・・・・でも踏んだ場数の違いが如実に現れている、それに加えヘルメスの援護歌や援護射撃、ヴィシャスのヒット&アウェイによる援護もあるので実際には5対3なのだが大規模戦闘レイドで培ったヘイト管理で巧みにヘイトをエンクルマに集中させる。


貴様きさんドレットヘアも知らんとや?どこの田舎っぺか!!」


 …エンクルマに田舎っぺ呼ばわりされるとは残念な奴…。

 

 ラッパ飲みしたHP回復<霊薬ポーション>の空瓶を目の前に対峙している武士に投げつけ言葉を吐き捨てるエンクルマ、PKの5人組も戦闘中にHP回復<霊薬ポーション>を取り出すのだが使用する前にことごとくヘルメスの石弓ボウガンに射抜かれ使用不能にされた上に召喚術師の<ファンタズマルヒール>は発動前に幻獣ごと<死神ヴィシャス>に潰されるのでやはりHP回復は困難でありその為、数の有利を生かせずほぼ防戦一方の5人組。

 

 エンクルマ1人を取り囲むように対峙している5人、防御力や体力に優れた戦士職である武闘家と武士以外の妖術師、召喚術師、盗剣士の3人は既に8割以上HPを削られ、むやみやたらと発動したMP消費量の激しい<特技>乱発でMPも枯渇気味だ、それらを相手のステータスから確認したり、大まかに計算したヘルメスは『パチンッ』っと指を鳴らす、それを合図に猛り狂うエンクルマ。

 

「ヘルメスちゃん!!待っちょったばい!!このクソボンクラ共がくたばれ!!<螺旋風車>!!」 


 槍を主力武器メインウェポンとする武士の専用特技<螺旋風車>エンクルマの得意技である、愛槍“人外無骨”を風車の如く旋回させ強烈な突きを繰り出し周囲の敵をまとめて竜巻状の衝撃波が巻き込む。

 衝撃波をまともに受けた妖術師、召喚術師、盗剣士は鎌鼬に斬り刻まれたかの如くズタズタに五体を引き裂かれ、雀の涙ほどの金貨を残し光の泡となり霧散した、渾身の突きが直撃した武士は<受け流し(クールディフェンス)>で辛うじてダメージを軽減、武闘家も<ハードボディ>でなんとか持ち堪えている、この時エンクルマは特技使用後の硬直で動けない。


「しもた!!討ち洩らしたんがる!!」


 何とか直撃を受けずに持ち堪えた武士と武闘家の攻撃に晒されるエンクルマ、ヘルメスやヴィシャスが慌てて援護に入るが間に合わない、一瞬の隙を突かれHPが徐々に削られるエンクルマ、苦し紛れの槍を軸にした変則後ろ回し蹴りで武闘家が怯んだその時、疾風の如く現れた巨大な影が長大な太刀で武闘家を切り刻む。


 「<ルナティック・アーマー>!!」


 巨大な影の耳は獣のような耳へと変貌し瞳は金色に変わり狼の幻尾が姿を顕わにし周りの人間が威圧されるような、おぞましい雄叫びと共に狂ったかのように大太刀を振り回し武闘家に防御すら許さんとばかりに猛り狂う、神祇官にしてサブ職<狂戦士>の義盛だ。


「た…助け…」


 命乞いも空しく<ルナティック・アーマー>で狂乱状態の義盛は五体をズタズタに引き裂かれ反撃も防御も出来ない肉塊と化した武闘家・・・・だったモノ(・・)何度・・・何度・・・も大太刀を突き立てる…光の泡となり霧散しても尚、何度・・・何度・・・も大太刀を突き立てる…特技の効果が切れ我に返った義盛は血塗れの大地に血と脂で汚れた大太刀を突き刺したまま膝から崩れ落ちその場で嘔吐する。


「ウゲェェェェ…ンヴェェェェ…。」


「ヨッシー!!」


「義盛嬢ちゃん!!」


「義ィ!!」


 目の前で起きた凄惨な一方的殺戮を目の前に戦意を削がれ、その場で失禁する武士の顔面を石突きで殴打、顔を抑え絶叫している処を蹴倒し、地にうずくまる義盛の元へ駆け寄るエンクルマ。

 それより先に、いち早く義盛の側へ行き大太刀の刃にしがみ付く指を一本一本刃から引き剥がすヘルメスとボロ切れのようなローブで慌てて吐瀉物塗れの口を拭ってやるヴィシャス。


「ヨッシーの馬鹿!!神呪系の特技で牽制すればよかったじゃん!!」


 何時もの、のんびりとした口調では無く珍しく怒気と心配と不安を孕んだ早口な口調で義盛の特技選択ミスを叱り付けるヘルメス、その言葉に同調して頷くヴィシャスと、只々うろたえてその場でアワアワするエンクルマ…。


「…だ…だって、エン兄ィが囲まれて…殺され(・・・・)そうで…ウゲェ…無我夢中で…。」


「…義盛嬢ちゃん…気持ちは解るがよう…。」


 思う事はあるのだろうが上手く言葉に出来ず、その先の言葉が出ないヴィシャス・・・。


 そんな彼らのやり取りを観て好機だと思ったのか…太刀を片手に石突きで殴打された顔を押さえ、反撃に出ようと立ち上がろうした武士はそれに気が付いたエンクルマの<兜割り>で頭から真っ二つに両断され僅かな金貨とアイテムを残し光の泡となり霧散。

 戦闘が終わった後、改めて握り拳を作りその拳を睨むように見つめるエンクルマがぽつりと呟く


「…間違いなか…我ん手に『人』ば斬ったり、叩いた感触が残っちょる…こりゃ、ほんなごつゲームの世界ね?…ほんなごつ<エルダー・テイル>の世界ね?もし<エルダーテイル>やったら女子おなごに乱暴とか出来めぇもん…何なってこりゃ…。」


 エンクルマの独白に明確な答えを用意出来る者はこの場には居ない・・・。




 ~ウエノ盗賊城址ウエノローグキャッスルよりややアキバ寄りのゾーン~


 比較的大きな樹の木陰に正座させられている、<ロデリック商会>のギルドタグを付けた紫髪おかっぱ三つ編み瓶底眼鏡に白衣という如何にもな女エルフ<森呪遣ドルイドい>のムッシモールと<タグ無し>ピンクに近い赤髪の小柄な女エルフ<付与術師エンチャンター>の白燐びゃくりん、そんな2人をハリセン二刀流で仁王立ちして視線だけで殺してしまいそうな勢いで睨みつける<黒剣騎士団>のキリー。


「…ムーちゃん、このお姉さん怖い…。」


「しっ!怒らせたのはリンちゃんでしょ?あたし悪く無いもん…」


「だ・れ・が・私・語・を・し・て・よ・い・と・云ったかな?」


 角度の関係で眼鏡に光が反射し、目元は見えないがかなりご立腹のキリー、今にも背後から幽波紋、紫煙が出て来そうな勢いで殺気立っている。


「「…ごめんなさい…。」」



 ---時間はやや遡る---


 義盛と別れた後、<天狗の隠れ蓑>の効果で姿を消し、<ロデリック商会>所属の友達に念話で連絡を付け比較的大きな樹の木陰で救援を待つ白燐、彼女を助けてくれたネカマ?の神祇官達の身を安じながら心細く小さくなって震えていた。

(…大丈夫かな、あのネカマ?の人とお友達さん?…って云うか助けてくれるなら最期まで誰か傍に居て欲しかったなぁ…泣いてすがって一緒に居てもらうべきだったかな?ムーちゃん早く来い!心細いんじゃ~。)


 襲われた時のしおらしさは何処かに放り投げ、さり気なく毒付く白燐。

 今、お前の為に血みどろになってる6人に土下座で謝れ…。


 ピイィィィィィ~ッ


 白燐が身を寄せた樹の上空から何か(・・・)が飛来する、上空を仰ぎ見た彼女の瞳に映ったのは鷲獅子グリフォンだった…。

(ワッザ?ナンデ?ナンデ鷲獅子グリフォン!?)

 プレイ動画などで幾度か観た事はあっても実物を観るのは初めてであり、自分の乏しい情報ではアキバ周辺には存在する筈のないモンスター鷲獅子グリフォンが此方へと降下してくる<天狗の隠れ蓑>の効果で姿が見えないのを忘れ慌てふためく白燐だが…。


「お~い、ヨシ君達に助けられたお嬢ちゃん!居るなら<隠行術ハイドシャドウ>の効果キャンセルして姿現せ~!私は<黒剣騎士団>のキリー、ヨシ君から聞いてるだろう~!」


 その声を聞いて思い出す、確かあのネカマ?の神祇官のステータスと別れた時の言葉を…。

(あっ…ネカマ?の義盛さんのギルド<黒剣騎士団>でお迎えに来てくれる方も<黒剣騎士団>のキリーさんって云ってたっけ?って事はあの鷲獅子グリフォンが…?)


 慌てて<隠行術ハイドシャドウ>の効果をキャンセルして木陰から飛び出し精一杯大きな声とオーバーアクションでキリーに居場所を知らせる。

 それに気付いたキリーは白燐の傍に鷲獅子グリフォンを着地させ、大地に降り立つと開口一番に説教を始める。


「お嬢ちゃん!近頃アキバ周辺はPKやら人攫いの類が個人単位からギルド単位まで!あんたみたいなカモネギを狙ってるって知らないの?馬鹿なの?阿呆なの?コレだから…。」


 キリーが露骨に嫌悪を露わに眼鏡をスチャりながら捲くし立てていると“白燐”の名前を呼びながら馬を走らせる瓶底眼鏡に白衣のエルフがキリー、白燐の傍に駆け寄り馬ごと豪快にズッコケた。

 余りに豪快なズッコケ振りに言葉を失うキリーを払い退け、慌てて瓶底眼鏡のエルフ<ロデリック商会>所属の森呪遣ドルイドいムッシモールに駆け寄る白燐は、彼女ムッシモールの両肩を掴みガクガク揺する。


「ムーちゃん!!大丈夫!!ねぇ!!痛いところ無い?変な事されなかった??」


 ツッコミ処満載だが彼女(白燐)は至ってまじめだ…っというより色々とテンパってパニックを起こしている、そんな彼女を振りほどき逆に両肩を掴みガクガク揺するムッシモール。


「いやいや!!リンちゃんが<黒剣騎士団・・・・・>に襲われたのをネカマさん達に助けてもらって、そこのお姉s…ってこの人<黒剣騎士団>じゃん!?」

 

 思いっきりキリーを指差し驚くムッシモール、伝言ゲームでは無いが最初の念話の時点で連絡した方がパニくって云い間違えたのか、連絡を受けた方が慌てて聞き間違えたのか…兎に角、2人のやり取りを観て憤怒のオーラ放つキリーは手早く2本のハリセンを取り出し今だに漫才をしてる凸凹コンビの頭を叩く。


 スパーン! スパーン!


「「痛いっ!」」


「取敢えず!そっちのタグ無しちゃん!ちょっと襲われた経緯を『お姉さん』に教えてくれない?」


 被害者、白燐の説明によると此処数日のアキバの街の重苦しい雰囲気に耐えられず意を決してレベル上げの為に狩りに出た所、『心優しい数人のプレイヤー』が師範システムを使ってレベル上げを手伝ったくれたらしい、最初の内は優しく接してくれてモンスターを倒すたびに褒めてくれるのでそのまま調子に乗ってウエノ盗賊城址ウエノローグキャッスルまで狩りに行った処で数人の男達に囲まれたそうなのだが、どうも『心優しい数人のプレイヤー』と思っていた連中もグルで上手い事、ウエノ盗賊城址ウエノローグキャッスルまで誘導された事に気付いた時には既に遅く高架橋下の暗がりに追い詰められたらしい、そこで必死の抵抗をしている時に義盛達に助けれて今に至る。


「リンちゃん話が違うよ!<黒剣>のムサイ男達に襲われてネカマさんと蓑虫みたいな頭の人達に助けられて放置されたって云ってたじゃん。」


「違うよ!暗がりでムサイ男達に襲われたのを蓑虫なネカマ?さん達に助けられて<黒剣>の怖い人が助けに来るからここに居ろって云われたの!!」


 微妙に言い分が噛み合ってない上に物事を端折ったり、聞き間違えたり事実誤認が多々あるようだ…、そのまま愚にも付かない言い争いを始めた為、再度ハリセンで叩かれる2人、そんな2人に冷め切った視線を送り淡々と説教をしだすキリー。


「…あのさぁ、昔のアイドルも歌ってたよね?野郎は狼だがら気をつけろって、今のアキバ界隈の状況は馬鹿でもガキでも知ってるよ?そんな狼の群れにホイホイ付いていくなんて食べて下さいって云ってるようなもんじゃない!」


 ハリセンで肩をパンパン叩いていたキリーの不機嫌極まりない顔を不思議そうに覗き込む白燐は反省の弁の述べる処か、説教に対して明後日の方向な返答を返す。


「??いえ、私に乱暴しようとした人達に狼牙族は居ませんでしたよ?昔のアイドル?AK○48ですか??」


「…リンちゃん、そういう事じゃないと思うけど…それと…もっと昔のアイドルの歌だと思うよ…。」


   ブチッ…。


 キリーの中で何かが『切れた』…恐ろしいほどの殺気が2人を襲う…『殺される』彼女達の本能が警告する…踏んではイケナイ虎の尻尾を踏んでしまったと…冷や汗は止まらず動悸は激しくなるばかり、とうとう最後には無意識でキリーの前に正座してしまう。


  ---そして現在に至る---


 大柄な僧兵姿の女神祇官を背負った眼鏡の女吟遊詩人と足取り重くフラフラ歩く海軍のような出で立ちの女付与術師、その周りをフラフラ飛ぶ<死神グリムリーパー>そして、トリガラな女?暗殺者をお姫様抱っこするドレットヘアに派手な着流しの男武士。

 お姫様抱っこされたトリガラ暗殺者は武士の腕の中で手足をジタバタさせてキャンキャン喚いている。


「エンクルマ先輩、お姫様抱っこはストレリチアさんにやって上げて下さいよ~。僕の“ファーストお姫様抱っこ”奪わないで下さい~!」


 顔中に引っ掻き傷を付けられてなお、この横暴な後輩を窘めると云うよりゲンナリした口調でエンクルマが溜息混じりで口を開く。


「あんね、朝ちゃん…腰が抜けて動けんクセにおんぶやったら、乳が背中に当たるし、ケツば触られたくないっち云うたん誰ね?他の方法だっちゃ『アレはイヤ、コレはイヤ』ち云われたらこれしかなかろうもん、あと…一々ユキさんの名前出すん止めんしゃい!終いにゃ怒るばい?」


 そんな、エンクルマの苦情も無視してなおも駄々っ子のように腕の中で暴れる朝右衛門にツカツカと歩み寄り“当て身”で気絶させ、大きな溜息を付き、義盛を背負うヘルメスの傍に戻るサツキ、そんな彼女にぐったりとした身体でなんとかサムズアップで答える義盛と苦笑で応えるヘルメス。

 PKには勝つには勝ったが大小の差はあれ、精神的ダメージで腰抜かしたり、罪悪感に苛まれたり、この理不尽な世界に憤りを感じたりと、結果としてこちらの方がダメージが大きい。架空の『バケモノ』を殺すのと幾ら生き返るとはいえ『人』を殺すのとでは罪悪感が違い過ぎる、その事を思い知らされる苦い戦闘だった。

 意気消沈の5人と1体は義盛が助けた付与術師を置いて来たゾーンへと足取り重く向かう、丁度ゾーンが切り替わる境界でヴィシャスにキリーから念話が入る。


『もしもし!シド?そっちは片付いた?』


『おう、なんとか片付けて、そっちに向かってる…ってーかキリー女史、場所は義盛嬢ちゃんが云ってた場所から動いて無えよな?』


『ああ、そうだよ?』


『解った、到着までさほど時間は掛からんと思う。』


『了解。』



「え~っと白燐ちゃんだっけ?私、女だから…。」


「嬢ちゃん、昔んアイドルが野郎はおお…。」


「…エンちゃんそれ、もう私が云った…。」


「馬鹿ですか?阿呆ですか?レベル上げとかお友達とやりましょうよ?何で見ず知らずの男に付いて行きますか?」


「<EXPポット>だけで無く、貞操まで奪われたいんですか?軽率にもほどがありますわ。」


「お友達さんは~ロデ研でしょう~♪だったらロデリックさんに頼んでギルドに入会させたら~♪」


「嬢ちゃん達が思ってるほどこの世界、常識は通用せんぜ。」


「「<死神グリムリーパー>が喋った!!」」


「「「「「「そこに突っ込むか?」」」」」」


 喧しい問答(正しくは説教)をしつつ、白燐とムッシモールの2人を護衛する形でアキバへの帰路につく<黒剣騎士団>の面々、まともに歩けるようになった朝右衛門、義盛も自力で歩く。道中何度か不穏な動きを見せるパーティーに出くわしたがステータスを確認したのだろう、そそくさを退散していった。


「アキバも物騒にぃ~♪なって来たなぁ~♪」



 PKの一団と一戦交えて数日、<黒剣騎士団>は飽きもせず戦闘訓練の日々。

 アキバ周辺のPKは相変わらずである、それとは別に色々と問題も増えて来た。初心者保護をうたい初心者から<EXPポット>を搾取するギルドの出現、マーケットのアイテム流通は大手生産系ギルドに押さえられ、アキバ周辺の狩り場は戦闘系ギルドに占有されつつある、その戦闘系ギルドの中には勿論<黒剣騎士団>も含まれる、この辺りの是非についてはギルド内で極一部を除けば誰も異を唱えようとはしない。

 総団長アイザックなどは○映Vシ○マの見過ぎじゃないかという位、ギルメンを従え肩で風を切って街を闊歩していた。

 それと真逆に豆腐メンタルな義盛などはアキバの街で中小ギルドのプレイヤーやソロプレイヤーから向けられる憎悪や嫉妬や畏怖の眼差しに耐えられず、人目に付かないように街中を移動する時は<天狗の隠れ蓑>を使ってコソコソ移動する始末。


「豆腐ですわね。」

「豆腐ですね。」

「豆腐~♪」


「…否定はしないけど、そんなお豆腐屋さんのメロディーで輪唱しなくても…。」


 地味に小器用な面々である。


 何時ものメンバーに何時もの如く、つつかれつつ戦闘訓練へと向かう義盛、街の視線が現実でも自身に向けられていたモノと同質のモノのようで彼女(佳香)の中高生時代のトラウマが頭をもたげる…が、それよりここ数日で気に掛かる事があった、アキバの街での噂話…<黒剣騎士団>と<シルバーソード>がとある中小ギルドの後ろ盾…ヤクザスラングで云う処の“バック”や“ケツ持ち”になり、その見返りに『あるアイテム』を譲ってもらっているという噂が流れている事だ…、朝右衛門などは『アホエルフならやりかねないですけど、分別ある大人のアイザックさんがする訳が無い。』というヘルメスに至っては『考えたくはないけど~♪ルールらしいルールが無い今ならやりそう♪』ともいう、サツキは『ノーコメント』とのこと。今の処、戦闘訓練で“件のアイテム”が支給された事は無い。


 だが、その日の戦闘訓練で最悪のカタチで噂話が事実だと知らされる…、総団長アイザックの指示で件の『アイテム』が各人に配布された。


 件の『アイテム』…『あるアイテム』とは…<EXPポット>LV30以下のプレイヤーに1日1本自動的に支給される服用すると約2時間、攻撃力や自己回復力などステータスが約2倍上昇し取得出来る経験値も2倍ほど倍増する初心者救済アイテムの事である。


 手渡されたギルメンの反応は様々だった…、初心者時代を懐かしむ者、自分が始めた頃はこんな物は無かったと云う者、初心者から物々交換ないし等価交換した事を思い出す者、無言の者、表情をあからさまに歪める者、無邪気に喜び奇声を上げる者…、そんな多様な反応を知ってか知らずか大喝する総団長アイザック。


「よく聞け野郎ども!俺達<黒剣騎士団>はこれより本格的にLV90超えを目指す!そして<D.D.D>を抜いて頂点てっぺんに立つ!<EXPポット(こいつ)>は最速でそれを成し遂げる為のモンだ!いいな野郎ども!!」


 その場に居た<黒剣騎士団>団員は、地鳴りのような足踏みや武器を地面に叩き付ける音と、天よ裂けよと云わんばかりの怒号とも歓声ともつかない雄叫びを上げ総団長アイザックに賛同した…ほんの僅かな人数を除いて…。 

 

 興奮覚めやらぬ団員達を押し退け、1人無言でアイザックに歩み寄る僧兵姿の大柄な女神祇官“義盛”、彼女はアイザックが手に届く範囲まで近付き、彼を睨み付け質問する。


「<黒剣騎士団>総団長アイザック殿にお伺いしたき事があります。」


「あん?義盛ィ…珍しいなお前が俺に対してそんなお堅い言い回しすんのは?で?何が聞きてぇ…。」


 普段、アイザックを“あの馬鹿”“あの阿呆”としか呼ばない義盛の言い回しに訝しむアイザックだが、さほど気に留めず話の続きを促す。


「LV85以下の団員の居ない<黒剣騎士団(我がギルド)>に何故、これだけの量の<EXPポット>が存在するのでしょう?コレはLV30以下の初心者にしか配られないアイテムの筈、異世界…否、今は<大災害>と云ってましたか…それより以前にギルド内のアイテム整理をしていた時にも<黒剣騎士団(我がギルド)>の資材庫には存在しなかった!一体何処からコレを調達したのでしょう?」


 真っ直ぐに相手アイザックの眼を観て質問をする義盛、しかし相手アイザックは義盛と眼を合わそうともせず吐き捨てる。


「テメェみたいな三下さんしたがそれを知ってどうする?テメェらは黙って俺に従って付いて来りゃいいんだよ!」


「…って無…ろ…」


「あ!?ハッキリ喋ろコラァ?!」


 義盛は<神炎の鎧>の首回りから覗くインナーの襟を両手で掴み怒りを露わに血を吐かんばかりに叫ぶ。


「この腐れ廃人大工!、テメェ!街の噂は本当にだったんだな!薄汚い“笛吹き(ハーメルン)”のケツ持ちして、その見返りに新人プレイヤーから搾取した<EXPポット>上納させてたんだな?何時から<黒剣騎士団うち>はヤクザ崩れみたいな集団になったんだよ?!っざっけんな!八姐が今、此処に居たら……。」


 普段とは打って変わってヤンキー兄ちゃんのように語気を荒げる義盛、途中で悔しさや憤りや失望などの様々な感情の入り混じった涙を流し言葉に詰まる。だがそんな義盛を払い退け吐き捨てるアイザック。


「…だったらどうした?俺のやり方が気に入らねぇなら<黒剣騎士団うち>から出て行けよ…そして此処は俺のギルドだ!八郎が作ったギルドじゃ無えぇ!勘違いすんなよ?義盛ッ?」


 その場に居た<黒剣騎士団>団員がざわめく中、双方が殺気立ちながら睨み合う。払い退けられ片膝を着いた義盛は小声でブツブツと呟く、最初は誰もそれに気付かず…対峙していたアイザックすらも気付いていなかった…たった1人を除い(・・・・・・・・・・)ては…。


 ヒュルルル~… パンッ!ドドドォ~ン!


「た~ぁまぁ~やぁ~!!!」


 突然“花火”が上がった、その場に居たほぼ全員が呆気に取られ呆然と美しい花火を見上げる…サブ職<傾奇者>の特技<花火>だ、広範囲でのヘイト効果と爆音による『ショック』の状態異常が付与されるが使用者も暫く動けない対象は敵味方の区別なしという何がしたいのかよく分からない特技である。

 しかし、この特技によって義盛がアイザックに仕掛けようとした神祇官、最大級の必殺特技< 三方御饌の神呪 >はキャンセルされた。

 それに気付いた義盛は慌ててサブ職<傾奇者>の先輩を目視で探し叫ぶ。


「エン兄ィ!なんで邪魔すんのよ?!あの馬鹿(アイザック)仕留め損ねたじゃない!」


 いつの間にか、義盛の傍まで歩み寄ったエンクルマはただ何も云わず手を差し伸べるが、その手は無言で振り払われる。


「エン兄ィ!この阿呆(アイザック)のしてる事って、この間のPKと同じ…違う!自分の手を汚さない分、彼奴等より汚い!」


「…大将にゃ考えがあってしようこつやろ?<EXPポット>の出元だっちゃ、しかっと聞いちょらんのに決め付けたらいかんめーも?のう?儂ん云いようこつは間違っちょーか?」


 エンクルマは云い聞かせようと何時もの調子より少し落としたトーンで淡々と説くが頭に血が昇った義盛は全く耳を貸さない。


「私は聞いたよ?質問したよ?でもあの馬鹿(アイザック)答えてくれなかった!答えられないヤマシイ事があるから答えないんでしょ?八姐なら…」


「義!姐やんは関係無かろうが!それより貴様きさん、儂が<花火>使つこうちょらんかったら大将に <三方御饌の神呪>仕掛けちょったやろ?神祇官の最大必殺特技ば使つこうたら、なんぼ大将が守護戦士でん即死ないし大ダメージ受けるの分かっちょろーもん!殺す気か!」


 エンクルマは『答えない=肯定している』と云う極論に達し総団長であるアイザックに攻撃を仕掛けようとした、そして今はこの場に居ない先輩の名を挙げ自分の行動を正当化しようとする目の前の後輩に憤る。

 義盛は只々、ギルドマスターには在るか無いかも分からない思惑があると信じこんで庇い立てをし、今はこの場に居ない大恩ある先輩を愚弄する目の前の先輩に憤る。

 彼、彼女の周りに自然と闘技場のように人の壁が出来る。


「サツキさん、ヘルメスさん…コレ不味い展開じゃないですか?止めましょうよ。」


「「無理!」」


「え?何でですか!?」


「ヨッシーの言葉使いが変わった時点でOUT♪ああなったら暫くは誰の云う事も耳に入らないし、下手に止めに入ったらこっちが~とばっちり受けるよ~♪」


「ですわね。どちらか一方が戦闘不能状態になったら止めに入るがこの場合の最適解…大災害前・・・・・・・・ならPVP慣れしたヨシ君に分があったでしょうけど…今は…。」


「…そんな……僕はあの2人が争う処なんて観たくないですよぅ…。」


 朝右衛門の想いも虚しく2人の戦闘は始まろうとしていた…。


「いいか!こりゃ儂と義のタイマンやけん!余計な邪魔じゃんしょったら大将やろうが誰やろうが後でボテクリ回す!」


「っはん!上等!馬鹿の肩持つようなクソ狐が!生皮剥いで毛皮にしてやるよ?」


「あ~?こん前、PK殺っしまった後、ゲーゲー吐きよった娑婆憎が!どの口で云いよんかい?終やかすぞ?」


「殺ってみろよ?モップ頭!」


 可愛さ余って憎さ百倍…普段、仲が良いだけに憎しみが募る、双方の視界には相手しか見えていない…。


「テメェらのタイマンは口喧嘩か?さっさと始めろ!」


 このアイザックの一言が開戦の合図となった。最初に仕掛けたのは義盛だ、<雲雀の凶祓い>で逸足飛びに間を詰め大太刀でいきなり首を凪ぐ、しかしエンクルマは全く動じず義盛の懐に潜り込み、真下から喉元めがけ石突きで一突き!武士の特技<百舌の早贄ラニアス・キャプチャー>が見事に決まる。


「ガッ…ハッ…。」


 声が出ない、特技発動が出来ない義盛はメッタやたらに大太刀を振り回すが総ての攻撃が雑になりことごとく弾かれ、回避かわされ一太刀もエンクルマには当たらない、当たらない上に近付けば石突きで打ち据えられ、離れれば<飯綱斬り>でHPを削られる攻め立てているのは義盛だがHPの消耗の激しいのも義盛という状況だ。

(クソ!クソ!声が!早く効果切れろ!クソ!)

 苦し紛れに地面を蹴り上げ土埃と砂利を撒き散らす義盛、その土埃と砂利がエンクルマの視界を塞ぐ。


「が~!目が開けられん!クソ!何処な!義盛?!」


 コレを見逃す義盛では無い、腰の入った蹴りをエンクルマの顔面に叩き込み後ろへ仰け反らせ、そのまま間髪入れず鳩尾に深々と大太刀を突き刺す、肉体に刃物が吸い込まれるような、なんとも云えない嫌な感触が手から腕に伝わり先のPK戦で『人間』をズタズタに切刻んだ時の感覚を思い出し胃から込み上げて来る…、込み上げるそれを吐き出さないよう両手で口を押さえた時だった、腹に大太刀が刺さったままの状態でエンクルマは義盛の首目掛け愛槍“人外無骨”を突き立てる、穂先は龍の顎の如く開き義盛の両腕ごと首に喰らいつくエンクルマは突き立てた“人外無骨”に無理やり覆い被さる様に体重を乗せ義盛を地面へと磔にする、流血のBSと緒戦でのダメージで義盛のHPは既にレッドゾーンに入っている。


「…ハァ…ハァ、義ィ、今やったら儂も一緒に頭下げてやるけん…大将に謝れ…のう?」


 義盛ほどでは無いにせよ、鳩尾に大太刀が突き刺さったエンクルマもそれなりにダメージは大きい、それでも力を振り絞り義盛を地にねじ伏せアイザックへの謝罪を促す。


「嫌だ!私は悪くない!!なんであんなクソ野郎の肩持つのさエン兄ィ…。」


 義盛は退かない…ここで退くくらいなら殺せと半狂乱で喚きだした。


「儂がお前に土下座してもか?」


「ふざけるな!!勝った奴の台詞じゃない!どうせ生き返るんだ!いっそ殺せ!」


「…クソボンクラが…。」


 一度天を仰ぎ見て両腕に力込めトドメを刺そうとした時だ、エンクルマの左右のこめかみに[暗器:石弓クロスボウ・籠手ガントレット]と[石弓ボウガン]が突きつけられ、首には大鎌デスサイズが当てられ、背中には双剣が突きつけられ、脇腹には[魔法の殺戮(マジカルジェノサイド)バールのようなモノ(・ロッド)]が突きつけられていた…。


「エンク、これで終いにしとけ。」


「あんたらしくないねエンちゃん。」


「エン兄ィ~♪私、本気だよ~♪」


「もうやめて下さい…エン兄…。」


「エンクルマ先輩…スン…ウエェェェ…。」


 エンクルマは“人外無骨”からゆっくりと手を離し自身に向けられた武器を払い退けその場に胡坐をかいて座り込む、朝右衛門は泣きながら“人外無骨”を地面から引き抜き義盛に縋り付く、サツキはBSの解除、ヘルメスはHP回復<霊薬ポーション>を瀕死で碌に動けない義盛に口移しで流し込み、キリーは追加のHP回復<霊薬ポーション>を用意して待機、ヴィシャスはエンクルマの襟首を掴み骨張った拳で頬を殴りつける、何度も何度も、拳はひび割れ骨が崩れ落ちても何度も何度も無言で殴り続けた…骨が頬に突き刺さり顔面血塗れのエンクルマも抵抗せず無言で殴られ続けた…。


 アイザックを筆頭に他の<黒剣騎士団>団員は只、事の成り行きを傍観いるだけだった…ゾーン一帯を気味の悪い位の沈黙が覆う…。



<番外編『アキバの4人娘』>完


次回から本編再開ですが少々お待ちを…。

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