その参:異世界ビックリショー。その1
前回から1ヶ月以上投稿しておりませんでしたので、補足説明を前回が大災害から2日目、今回冒頭のやり取りが3日目の午前中になります。
引き続き
『ある毒使い死』よりクニヒコさんを
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『黒剣騎士団の主婦盗剣士』よりキリーさんを
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お借りしております。不愉快な点、この台詞回しオカシイなど在りましたらご一報頂けると幸いです。
『或る歌唄いの非日常』http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/555835/より
ストレリチアさんのお名前だけお借りしています。
<第八商店街>ギルドタワーを後し、一路<黒剣騎士団>ギルドタワーに歩を進める2人の狐尾族の男女。
「相変わらず、ヘルメスちゃんは若旦那に容赦無かね…観よって可哀想んなってくる…。」
両肩に愛槍“人外無骨”を天秤棒のように担いだエンクルマは、<第八商店街>移籍組の引率時のヘルメスと<第八商店街>ギルドマスター“若旦那”カラシンとのやり取りを思い出しゾッとする。
アキバの街、三大生産系ギルドの3位のギルドマスターでチャッターとして有名なカラシンを良いようにあしらって<第八商店街>移籍組を受け入れさせた上に今後、必要になるであろうアイテムを買い叩いて泣かせて来るのだからエンクルマで無くともゾッとする…。
『ある一件』が無ければ、今でもヘルメスは<第八商店街>所属か下手すると生産系ギルドのギルドマスターに収まっていてもおかしくない位、金に汚…否!商才と云うか『金の匂い』に敏感なのである。
「え~♪若旦那が口ばっかりで『ここぞ!』って時の駆け引きが下手で度胸が無いだけだよ~♪」
全く表情を崩さずにサラリと“若旦那”をこき下ろすヘルメス、「儂には出来ん芸当やもんなぁ~。」そういって苦笑するエンクルマ、彼は知らない…エンクルマが居たからこそヘルメスが此処まで強引なやり取りが出来た事を…自身の二つ名“黒剣の一番槍”がそれなりに畏怖の対象になっている自覚が全く無いのだ…。
◇
アキバ五大戦闘系ギルドの一角、<西風の旅団>…別名“ハーレムギルド”のギルドタワーから肩を落とし“どんより”とした雰囲気を辺りに撒き散らしながら出て来た、大(大)・中(無)・小(凹)の女性3人組…。
「…揉まれた…揉みしだかれた…。」
「「…撫で回されて…摘ままれました(わ)…。」」
「危うく下腹部弄られるところだった……。」
「ぼ…僕…耳を甘噛みされましたよ…。」
「わ…私は剥かれましたわ…。」
…一体、ギルドタワー内で何が起こったのか…、彼女達の言い分から察するに『貞操の危機』に晒されたのは間違いないだろう…。
「目が完全にイッてたよ…獣の目だったよ…。」
半泣きで胸を両腕で被い隠す義盛、普段装備している革胴を身に付けていないので法衣の上からでも解るほどのボリュームある胸が更に強調されるように谷間が出来る…。
ペチン!ペチン!
「痛い!何すんのさ!?お嬢!朝ちゃん!?」
無言で義盛の胸にビンタを張る、サツキと朝右衛門の眼は座って居る…スラム街の子供が富豪の子供に向ける羨望とも嫉妬とも憎悪とも取れるそれはそれは空恐ろしい眼差しが義盛の胸に刺さらず、明後日の方向に弾き飛ばされる。
((もげろ…牛乳…))
◇
ギルド会館から出て来た大柄な騎士然とした男性と眼鏡の似合う凛々しい女性と大鎌を携えた骨格標本、<黒剣騎士団>でも、年長組に入る、クニヒコ、キリー、ヴィシャスの3人。
「さて、一仕事終わったがこれから大変だぜ?御両人。」
先ず口火を切ったのこのメンバーで最年長のヴィシャス、これが元の世界でのオフ会などならそれなりに言葉に重みも在るのだろうが、現在の彼は<死神>に身を窶している所為か“重み”より“不気味さ”が先に立つ…。
「?何が大変なのさシド?」
「…この先も脱退者が出る…って事ですか?シドさん?」
ヴィシャスの端的な物言いに云わんとしてる事を図りかねる2人。
「それも、あるかも知れねーが、大工や他の連中の馬鹿さ加減を注意して見守らなきゃならんと俺は思ってる。アイツら今は良くも悪くも“ゲームの世界”に閉じ込められたって思い込んでるだろうが、『この思い込み』が悪い方に作用した時が多分…、ギルド内の揉め事のタネに…そのなんだぁ、ギルド内だけで済めば御の字か…、色々と断言するには情報が無さ過ぎるが難儀で仕方ねぇ…。」
其処まで云うと押し黙るヴィシャス、思う所はあるのだろうが表情の無い髑髏からは一切の感情は読み取れない。
「ヤダねェ~、棺桶が近くなるとシドみたいに心配症になんのかねぇ…。」
「イヤイヤ…キリーさんそれはちょっと言い過ぎじゃ…。」
少々、重苦しくなった空気を払拭しようと軽口(寧ろ悪態に近い)を叩くキリーと苦笑しつつ咎めるクニヒコ、この2人も決してこの異世界転移について、そしてノリと勢いだけで生きているような<黒剣騎士団>の面々の今後を考えていない訳ではない。
だが、現在<死神>に身を窶した年長者の云う通り物事の判断をする為の材料、置かれた状況を把握する為の材料…情報が圧倒的に少ないのだ。
果たして、アイザックや他の大多数が思っているように“ゲームの世界”に転移しただけなのか?それとも“エルダーテイルに酷似した別の異世界”に転移したのか?
今は誰にも解らない…。
■
数日後…
~ウエノ盗賊城址 付近~
<黒剣騎士団>のギルドタグを付けた女性4人、男性1人、黒いローブを身に纏った骨格標本…もとい、ステレオタイプの死神1体がパーティーを組んで徘徊している。
<黒剣騎士団>自体の戦闘訓練後、自主的に各々の特技の訓練の為に行動している5人と1体。
「エンクルマ先輩!!聞きました?アイザックさん最初に戦闘訓練やった日に!なんと!<西風の旅団>に宣戦布告したらしいですよ?全面戦争ですかね??こんな風になって始めての対人戦がギルド同士の戦争なんて!!ファンタジーですね?漫画みたいですんね?ラノベみたいです!!くぅ~腕がn…。」
ぱたんっ
異世界だかゲームの世界だかに集団転移されて数日は経つが相変わらずハイテンションの能天気娘<暗殺者>の朝右衛門がマシンガン掃射の如く<武士>エンクルマに捲くし立てていたが余りに五月蝿い為<付与術師>サツキに当身を喰らわされ気を失う。
「…もう、朝ちゃんは考え無しに戦争だとか…只でさえ最近はアキバ周辺がキナ臭いのに…。」
ぶつくさ云いつつ左手で頭を抱えながら、右手で気絶した朝右衛門の秘宝級布鎧[暗器使いの衣]の襟首を掴んで引き摺るサツキ。
「確かに~♪『死からの生還』が解った途端にPKが横行しだしたねぇ~♪PKなんてやっても大した稼ぎにならないのに~♪」
相変わらず銭勘定が全ての基準のように事も無げに呟くヘルメス。
「違えねー、ヘルメス嬢ちゃんの云う通りだ…、だが、その何だぁ~やってる奴らは金やアイテムだけが目当てでもなかろうさ。」
「?シド兄?それどういう事?」
男と変わらない低音ヴォイスでこのパーティーではもっとも身長の高い女性、義盛が怪訝な顔をして骨格標本の顔を覗き込むが相手が骸骨なだけに表情は読み取れない。
「義ィ、簡単に云うたら“八つ当たり”たい!こん訳ちゃ解らん世界で金やらそげん要らんやんか、ばってんする事は無か、オマケに飯ゃ不味い!ほいでイライラするけん“八つ当たり”でPK!GMに連絡も出来んし、ミニマップも使えんけん、あんボンクラ共ぁやりたい放題!ほんなごつ、見つけたらぼてくり回しちゃろうごとある。」
忌々し気に空を睨み付け唾を吐かんばかりに言葉を吐き捨てるエンクルマ、普段ギルド内で馬鹿だ、阿呆だと云われても怒らないどちらかと云えば、温厚な部類の彼が珍しく隠しもせずに怒りを露わにしている。
「「「「…。」」」」
その場に居た全員が、口をポカンと開けて……骨格標本…否!<死神>のヴィシャスですらワザワザ顎関節を外してエンクルマを見つめる。余談だが朝右衛門だけは白眼を向いてる。
「…何ね?どげんしたとね?」
仲間のリアクションに不満を覚えたエンクルマの言葉はどこかトゲトゲしい。
「お前がそんなに殺気立つなんて珍しいじゃねーかエンク?」
「…うん!エン兄がPKとか嫌いなのは知ってるけど…、それでも…。」
「シド兄が云う通り、ちょっとピリピリし過ぎてませんこと?」
「何か~♪あったの?エン兄ィ?」
皆が口々に普段では見れない殺気立ってピリピリしたエンクルマを心配する、当の本人はそんな3人と1体の顔を見回し、今度は愛槍“人外無骨”を支えにその場にへたり込む…。
「…悪ィ…八つ当たりが好かん云っちょる儂が、皆に八つ当たりばしちょったら世話なかね…儂ゃ今だに、こん“状況”ち云うたらいいんか、“環境”ち云うたらいいんか…慣れんったい…何でこげんなっしまったか?仕事場のスタッフ、オーナー、それに常連さんにどげんして説明ばしたら良かか…。」
<エルダーテイル>プレイ歴、約8年廃人プレイヤーの部類に入るエンクルマも一応、現実では美容師であり、社会人である。
美容師に為って最初の年に苦い経験もした、苦手とするお客様も居るし、年齢の割に美容院でもそれなりの立場にある、決して楽しい事ばかりでもないが現実の仕事や生活にさして不満が在るわけでも無い…故に手放しに今現在を受け入れられないし、受け入れたくもない…だが逆に約8年間慣れ親しんだゲームのキャラクターになった…ゲームに似た異世界に突然転移し自分自身が“冒険者”に成った事に心の何処かで密かに喜んでいる自分が居るのも確かだ…。
そんな自身の中にある葛藤と、ゲームの頃とは違いギスギスしたアキバの街の空気やゲームの頃では考えもしなかった事態が風の噂で嫌でも耳に入る度にエンクルマの心を得も云えぬ暗いモノが蝕む。
「エンクルマ先輩!!駄目です!愚痴は大声で云うもんです!!僕みたいな高校生が社会人のエンクルマ先輩に偉そうにお説教とか可笑しいですけど!!今!この状況に陥った原因が解らない以上、この状況から元の世界に戻る方法なんて誰にも解らないんですよ?だったら自分達でそれを探すか、帰る術を探してる人と意見を交換したり、助け合ったりするのが筋じゃないですか?腐ってその場に蹲っても良い結果は出ないですよ?それに…」
先ほどまで白眼を向いて気を失っていた朝右衛門が何時の間にやら正気に戻り、地べたにへたり込んだエンクルマの前に立ち、無い胸を張って説教を始めた…余りに唐突過ぎてその場に居合わせた全員が目を丸くして、ただ朝右衛門の説教を聞いていた…そして、まだ云い足りないのか言葉を続ける。
「それに!今のエンクルマ先輩、格好悪いです!!ストレリチアさんが見たら振られちゃいますよ?」
………。
「な、なんで!なし今、ユキさんの名前が出るとな!!だ…だいたい!わ…儂とユキさんはそげな仲や無いち何遍も…。」
慌てて立ち上がり朝右衛門に抗議を…この時エンクルマは気付く、自分を除く全員が自分をいやらしい目で見て口の端だけ歪めて笑っているのを(ヴィシャスだけは露骨に顎関節を骨ばった手で覆い隠している)…、それもその筈『ストレリチア』の名前を聞いた途端、エンクルマは耳の先から尻尾の先まで真っ赤赤なのだ。
「あ~!!もう!!なしな!なし!あんたたちゃ儂をそげな目で見るとな!!」
((((やっとらしくなった))))
恥かしくて仕方の無いエンクルマは1人明後日の方向を向いて尻尾をパタパタさせている…。
敢えて口には出さないが此処に居るメンツも、そしてこの異常事態に巻き込まれた全てのプレイヤー… “ 冒険者 ” は皆大なり小なり不安を抱えている、ハイテンションで何時も能天気な朝右衛門ですら人前では出さないが不安な時があるのだろう、稀に夜中、義盛やサツキ、ヘルメスのベットに潜り込んで止め処も無く無駄話をして夜を明かすこともある。
その事を3人が咎めたは事は1度も無い、自分達も不安で眠れない夜がある、だから朝右衛門の不安が解らない訳ではない、なので例えどんなに下らない無駄話でも付き合って夜を明かす。
…ただ、サツキと朝右衛門が話す夜は『掛け算』の話で盛り上がってるのだろう時折、時間帯も弁えず2人で奇声を発している事がある…。
少し、横道に逸れたが朝右衛門の云うとおり『腐ってその場に蹲っても良い結果は出ない』のだならば行動に起こすしかない。
具体的どう動くべきかはまだ誰にも思いつかないが…。
…~~~~ッ
「?今、悲鳴が聞こえんかったね?」
ついさっきまで座り込んで居たエンクルマが突然立ち上がり悲鳴が聞こえた方向ウエノ盗賊城址奥の廃墟を睨み付ける、同じ狐尾族のヘルメスと狼牙族の義盛にも聞こえたらしく同じ場所に目をやり義盛は背中の大太刀を抜き放つ。
多分PKだろう、5人と1体は得物を装備し戦闘の準備に入る。
「皆ぁ~♪念話をパーティー念話に切り替えてぇ~♪指揮は私が取りますOK?」
ヘルメスがこの場を仕切る。
「「「「OK (だよ)(です!)(たい!)(だ)(ですわ)」」」」
◇
ウエノ盗賊城址高架橋下
10人近くの男達が1人の女性を壁際まで追い詰め取り囲んでいる。
「おい!黙れよ嬢ちゃん?命までは取らねぇって!」
「そうそう、お嬢ちゃんの持ってる<EXPポット>を俺達にくれたあと…俺達全員の相手してくれたらアキバでもシブヤでも返してやるからさぁ」
男達は下衆な笑みを浮かべ、女性の身体を舐め回す様に観る…。PKと云うより多数による集団婦女暴行…アキバ周辺の治安が悪化し高レベルプレイヤーによる低レベルプレイヤーに対してのPKや女性プレイヤーに対しての性的集団暴行などが増えてきた…PKはゲーム時代からもありそれを専門として結成されたギルドもあった、ネットストーカーや女性プレイヤーに対して卑猥な言葉投げかけるセクハラ行為なども確かに存在した、しかし異性に対して性的暴行などはゲーム時代では考えられない事案である。
「や…やめてください…<EXPポット>は差し上げますから…だから!放して!!」
両腕を掴まれ、壁に身体を押し付けられた女性は殴られたのであろう口や鼻から血を流し泣きながら懇願する、しかし両腕を掴んだ男はヘラヘラ笑うだけで力を緩める気は無い、そして女性の脚を他の2人の男達が押さえつけ無理やり広げる…。
「イヤ~~~~!!」
「そう嫌がるなって、もしかして初めて?大丈夫…俺等の大半、童貞だから…同じだよ~。」
屑どもが下衆な笑みを浮かべ女性を囲む輪を縮めていく…。
◇
『敵視認!武闘家2、盗剣士3、妖術師2、召喚術師1、武士1の9人、ギルドタグ無し全員LV80代前半、襲われてる女性はLV20の付与術師。』
先行偵察として朝右衛門がサブ職<追跡者>の特技<隠行術>を駆使して現場を視認出来るギリギリの距離まで近づき敵情を報告。
今にも飛び出して1人でも多く倒したい、今現在自分がどれくらい対人戦がやれるか確かめたいという逸る気持ちを圧し殺して指示を待つ。
『了解~♪朝ちゃんは其処からもう少し下がってから弓で攻撃開始、奴らがざわついたらエン兄は朝ちゃんと逆方向からタウンティング、私も援護射撃するからぁ~♪敵がバラけたらヨッシーはお姉さんを救出~サツキは状況に応じてサポート、シド兄は指示出すまで待機~♪』
『了解です!』
『任しない!』
『解った!』
『賜りました!』
『おう!』
『じゃあ、GO!』
朝右衛門は背負った秘宝級の弓[鎮西八郎の大弓]を引き絞り特技<ラピットショット>で数名を射抜く。
「がっ痛ぇ!」
「なっどっから矢が!?」
「くそ!クソ!痛ぇ!誰だ!ゴルァ!!」
強姦魔の一団は矢が飛んで来た方を警戒し矢が当たった妖術師、盗剣士達は怒りに任せて矢の飛んで来た方へと殺到する、すると逆方向から暗がりでも解る派手な着流しにドレッドヘア、槍と云うには余りにも異形な穂先の槍を携えた武士が現れ大喝する。
「貴様達ゃ女1人をようけ数で囲んで!それが男のする事か!」
大喝した事でサブ職<傾奇者>の特技<名乗り>が発動、<武士の挑戦>と比べると隙だらけで敵の攻撃を受けやすくなるが効果と範囲は大きく武闘家、盗剣士、妖術師、召喚術師、武士の5人が射程範囲に入りエンクルマに引き寄せられる。
「クソ!誰だあの芋虫頭!!」
「知るか馬鹿!<武士の挑戦>ってこんなに効果範囲広かったか?」
「んな事はどうでもいい!!」
「クソ!たった2人か?」
「馬鹿!もっと居る筈だ!!」
愛槍 “人外無骨”を振るい上げ特技< 瞬閃>で攻撃速度を上昇させ5人の中に躍り出るエンクルマ、それを援護するように石弓の遠距離射撃と呪歌<のろまなカタツムリのバラッド>で援護するヘルメス。
『ヨッシー~♪いい感じに敵さんバラけたから~♪お姉さんの脚にへばり付いてる武闘家、引っぺがしてお姉さんを安全な場所まで逃がしてぇ~♪』
『了解!任された!』
物陰に潜んで居た義盛は特技<天足法の秘儀>で高速移動し襲われていた付与術師の元へと駆け寄り彼女の脚にへばり付く武闘家の顔面を蹴り飛ばし、引き剥がしたところへ間髪入れず<勾玉の神呪>を叩き込み、オマケとばかりに顔面を大太刀の峰で殴打し、自分より小柄な付与術師を小脇に抱えその場から一足飛びに離脱。
「…この出来損ない回復職が!!」
顔面を押え追撃しようと立ち上がる武闘家、しかし彼の身体は魔力の輝く糸に絡み取られ締め付けられ、一定の場所から動けない。
「クソ!移動阻害か!妖術師か?召喚術師か?」
辺りを見回す武闘家の前に何処からどう観ても『釘バット』にしか見えない短杖を携え水兵服の上に外套を羽織った小柄な法儀族の少女…サツキが立ちはだかる。
「此処からは通しませんよ?」
可愛らしい顔には似合わない口の端を歪めて微笑むその顔は一種独特の怖さがあり法儀族である事を表す頬のタトゥーが更にその異様な怖さを引き立たせる。
「あん?法儀族のモヤシが調子k…」
サツキが予告本塁打でもするように釘バットを構えると、バットの先から光弾が放たれ武闘家の顔面にぶち当たる付与術師の特技<パルスブリット>だ。
「<パルスブリット>だぁ?!テメェ!このクソ付与j…。」
悪態を最後まで云う間も無く、魔法攻撃職専用武器[魔法の殺戮釘バット]から無数の光弾が放たれ武闘家を襲う、宛ら機関銃での一斉掃射の如く撃ち出される光弾は武闘家のHPと肉体を徐々に削り落とす。
<パルスブリット><キャストオンビート><メイジハウリング>の高速複合詠唱で総合火力は同LV帯の一般的な妖術師の火力を凌ぐ。直接ダメージを与える能力は12職中最低である付与術師の唯一攻撃的なビルドにして“ネタビルド”と揶揄される“スプリンクラービルド ”を極めたサツキの必殺技だ。
為す術も無く光弾に晒された武闘家の上半身は消し炭化し、HPが0になるや残された下半身は光の泡となり、僅かな金貨とアイテムを残して消えた…それを醒めた眼で見下すサツキ。
「…ふむ、こうなってから初めて使いましたけど、やはり<メイジハウリング>だと威力は向上しますが命中率が下がりますわね…、これは今後の課題ですわ…誰でしたっけ?『銃の利点は、殺す事と殺意と罪悪感の簡便化だ。引き金1つで誰でも簡単に兵になる』って云ってらしたのは…?銃と魔法の違いはあれど、云い得て妙ですわ…引き金も無ければ反動も無い分、魔法の方が…さて、私は朝ちゃんの方に加勢行きますかね。」
羽織った外套を翻し朝右衛門の加勢に向かうサツキ。
◇
ウエノ盗賊城址よりややアキバ寄りのゾーン
小柄な女性付与術師を小脇に抱えた大柄な女性神祇官は取敢えずその場に女性付与術師を下ろすと、<快癒の祈祷>を投射し彼女の傷を癒す。
「怖かったね?もう大丈夫、貴女に変な事しようとした輩は私の仲間がやっつけてる、貴女お友達居る?」
よくよく見るとかなり幼く見える朝右衛門と変わらないくらいか少し下くらいの年齢だろうか、彼女は今だに恐怖に震えながらコクコクと縦に首を振る。
「そうか、ギルドに入って無いみたいだけど?お友達は何処かギルドに入ってる?念話で連絡付く?」
義盛は義盛で交戦中の仲間が気になる為、少し気忙しく質問する。
「…はい…<ロデリック商会>に何人か友達が居ます・・・。」
「“ロデ研”か…一応連絡してくれる?私も<黒剣騎士団>の腕利きのお姉さんに連絡しとくから、コレ身に着けて待っててそのお姉さんは眼鏡の盗剣士でキリーさん、ギルドは<黒剣騎士団>」
義盛はそう云うと<ダザネックの魔法の鞄>から<天狗の隠れ蓑>を取り出し付与術師に装備させ使用方法を簡潔に説明する。
「これ装備してたら<隠行術>が使用可能になるから、お友達か<黒剣>のお姉さん来るまで此処でじっとしてて、私は仲間の加勢に戻るから!!」
そう云うと軍馬の召喚笛を鳴らし軍馬を召喚しウエノ盗賊城址高架橋へと急行しながらキリーへと緊急連絡を入れる義盛、<天狗の隠れ蓑>の効果で姿を消した少女はその場で何度も何度も震える声で『ありがとうございます』と呟き義盛が視界から消えてから“ロデ研”に所属する友達に念話をするが、彼女の友達が来るよりも早く鷲獅子に騎乗して急行してきたキリーに保護されるのだった。
ちょっとトラブルでこの話、全部書き直したり、途中でデータが飛んだりで話が支離滅裂です。
次で番外編は一区切りです。
あとあと今回の話は修正が入るやも…。




