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三匹が!!!  作者: 佐竹三郎
<番外編『アキバの4人娘』>
11/26

その弐:不思議ノ国ノせ・る・で・し・あ

手羽先は15m離れるとクロワッサンです。ういろうは近くで観ても何だかよく分かりません!


今回は

『取扱説明書 製品名:蒼瀧 潤【劇物指定】』http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/498942/

よりユストゥスさん、龍之介くん。


前回より引き続き

『ある毒使い死』よりクニヒコさんを

http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/533931/

『黒剣騎士団の主婦盗剣士』よりキリーさんを

http://trackback.syosetu.com/send/novel/ncode/569756/

お借りしております。不愉快な点、この台詞回しオカシイなど在りましたらご一報頂けると幸いです。



翌日早朝、アキバトランスポートゲート前広場。


 そこに集まって居るのは数少ない<黒剣騎士団>の新人女性陣の大半と数人の男性、その前に立ち一様に困った顔して彼、彼女らの話を聞くのは<黒剣の残念職3人組>と<器用貧乏>の4人。


「…すみません、義盛兄…姐さん…私達、モンスターが怖くて戦えません…、こんな訳の判らない異世界ところで死にたく無いです…戦えって云われてもどうしていいか判らないんです。」


 1人の森呪遣いの女の子が義盛と目も合わせられずにそう告げる。


「うん、他の人達も同じ??」


 満遍なく話を聞こうとその場に居るメンバーを見回す義盛…余談ではあるが昨晩はサツキ、ヘルメス、朝右衛門らに慰められ取敢えず平静を保てるようにはなっている。


「…あまり、男の人と接した事が無くて…正直…大勢の男の人に囲まれて行動するのは…怖いです。」


「兄…姉御、昨日…、調子に乗って緑小鬼(ゴブリン)と戦闘…いや…姿、見ただけで怖くなって逃げ出したっす…俺のレベルの半分も無いレベルのモンスターが怖いんですよ?大規模戦闘レイドなんて無理っすよ…。 」


 皆、恐れをなしている(・・・・・・・・・)それは仕方の無い事だろう…この異世界なのかゲームなのか判らない世界に転移したプレイヤーに一体どれだけの数、現実世界で殴りあいの喧嘩をしたり、武器を取っての武道の経験があるだろう…例えあったとしても、モンスターと戦った事のある人など皆無だ(寧ろそんな物と戦った事のある者が居てたまるか!)、転移してから持て余す程の身体能力が備わっているのは周知だが、それに見合った精神力や実戦経験を持ち合わせた者など、どれほど居る事か…、義盛じぶん達ですらこれから待っているであろうモンスターとの戦闘に精神が耐えられるか?身体が耐えられるか?全く想像が付かない。

 だから義盛達は、彼、彼女らを責めようとは思わないし、彼らの反応が正常な人間の反応だろうと思う、出来れば彼女達に今後の身の振り方や希望が在るのであれば聞き入れて対応したいと考えている…もし、ギルマスであるアイザックが『否』と云っても彼女らの希望を優先してアイザックを説得しようとも思う。


「うん、判った。あの馬鹿(アイザック)が首を縦に振るか判らないけど…私達から伝えとく、で?脱退ぬけた後はどうするつもり?」


 一応、今後の身の振り方を聞いてみる男性陣はサブ職が生産系なので三大生産ギルドのいずれかに属したいとの希望。


 …女性陣は…。


「私達!<西風の旅団>に移りたいです!兄…姐さん達、<西風の旅団>の方と伝手つては無いですか?」


 先ほどから義盛の呼び方に一々、戸惑う彼、彼女ら・・・流石に “おねにーさま”というネタがさらりと出てくる年代では無いらしい。


 …男だらけの<黒剣騎士団>と真逆に構成メンバーの9割を女性プレイヤーが占めている<西風の旅団>ギルドマスター、“剣聖”の二つ名持ちにして、今は無き伝説的プレイヤー集団<放蕩者の茶会>のメンバーだったソウジロウ=セタの率いる別名“ハーレムギルド”である。


 一度、4人は<西風の旅団>のメンバーと一悶着あり、それが縁で数人面識もありお互いフレンドリストに登録しているプレイヤーも居ない訳では無いのだが…。

 義盛達は4人揃って膝から崩れ落ち正に“orz”な状態になる…。


「ヨシくん…<西風>は誰とフレンド登録してます?」


「…多分だけど、た!ぶ!ん!サツキお嬢達と同じ…。」


「え~っと…と云う事はヨシ先輩達も…あの方(・・・・)とフレンド登録してるんですよね?」


「…私はぁ~♪大金積まれても、あの人(・・・・)とは今の状況でぇ…関わりたく無い…かなぁ?」


「「「「ですよねぇ!」」」」


 4人が全力で苦虫を噛み潰したような顔をしている理由は解らないので少し不安になる女性陣…。


「…って云う事はナズナさんに連絡取るのが一番安全よね…。」


「…ナズナさん…八姐に似た所在るから、それはそれで怖いですよ?」


「…じゃあ、イサミさんかドルチェさんかしら?」


「私はぁ~ドルチェさん経由で♪連絡するのがぁ♪1番安全だと思うよぉ~♪」


「「「「ですよねぇ~!」」」」


 この4人共通で苦手なタイプのプレイヤーが居るらしい事は4人のやり取りで判ったが、彼女らが此処まであからさまに名前も出さずに共通して苦手とするプレイヤーは誰なのか?という好奇心にも似た感情が芽生えてくる脱退希望組。

 勇気ある者が好奇心に負けて尋ねる。


「皆さんがそんなに苦手意識丸出しになる方って何方どなたなんですか?」


 あぁ~…聞いちゃったよ!勇者が居るよ!的な脱退希望組の眼差し、そして名前は答えてあげるが実害に関しては教えないよ?っとでも云わんばかりの4人娘の口から名前が零れ落ちる。


「「「「…くりのんさん…。」」」」


 そう答えた後は一切の質問には応じなくなった4人娘。


 先ず、義盛がアイザックに今、相談された事を包み隠さずに伝えた処『ウチのやり方に付いて来れねー奴は要らねー!とっとと止めちまえ!』っとアッサリと脱退が許されたのだが、念話中『クソ!』『痛え!』『誰だ!こんな縛り方した奴は!』などの単語がちらほら聞こえた事から察するにまだ“芸術的な亀甲縛り”のままなのだろう。


 <西風の旅団>で唯一?ギルマスのソウジロウ=セタ以外の男性陣?ドルチェ、見た目は某格闘ゲーム『ス○リートファ○ター2』に登場する米空軍将校ガ○ルのような容姿だが、心は“漢女心おとめごころ” 満載のオネェな<吟遊詩人>である。

 そちらにはサツキが念話をし<黒剣>から<西風>に移籍したいメンバーが数人居る事、もしかすると今後も脱落者が出て<西風>移籍希望者が出るかもしれない旨を西風のギルマス(ソウジロウ)にも伝えて欲しいと頼み込む、ドルチェから色好い返事が返って来たので一同安堵する。


 男性陣に関してはヘルメスが<第8商店街>ギルドマスター “若旦那”ことカラシンに念話にて連絡、向うに拒否権が無い様な話を一方的に押し進め、ほぼごり押しで移籍を認めさせる。

 余談ではあるがこの件に関してヘルメスが一切、脱退希望組に金銭などを要求してこなかった為、その場に居合わせた一同は “転変地異の前触れ” “もしかしたら元の世界に帰れる前兆では?” などと騒いでいたが、後々にヘルメスから各人に、とても良心的な(・・・・・・・・・・)金額の “請求書” が手渡しされるのはまた別の機会にでも…。


 一通り方々への連絡が終わったのち、朝右衛門が脱退希望組をギルド会館まで引率し、ギルド脱退手続きを済ませたあと、脱退希望組を宿に待機させ、<黒剣騎士団>ギルドタワーへと4人は向かう。





「「「「「なんて事しやがりますか!お嬢さん方と色男!!」」」」」


「「「「「数少ない女性陣が脱退とか!おまっ!」」」」」


「「「「「只でさえおとこムサいのに!なんて事しやがる!」」」」」


 ギルドタワー到着と共に大多数を占める男性陣から血涙を流さんばかりの形相で、血を吐かんばかりの罵声を浴びせられた4人娘(若干1名見た目、男性)、アイザックから伝えられたのであろうギルドタワーに居たギルメンには完全に筒抜けだ…が、責め立てられている4人娘(若干1名見た目、男性)は全く意に介さずで悪びれもしない。


「俺らのやり方について来れねぇ女なんか必要ねーだろ!!」


「「「「「「「「なっ…(ボス)(大将)(頭)(団長)?!」」」」」」」」


 突然、騒然としたギルドタワー大広間に<黒剣騎士団>総団長 “黒剣” のアイザックの大喝が木霊する…先ほどまで4人娘(くどい様だが若干1名見た目、男性)に集中砲火で罵詈雑言を浴びせて居た男性陣は一瞬にして押し黙る。

 そのあと、昨夜の一件も在り、八つ当たりだか『芸術的な亀甲縛り』の犯人でも探したかったであろうアイザックがナニやら続けて云いたい事を云おうと口を開いたが、そんなギルマスを無視してヘルメスが口を開く。


「ええぇ~っとぉ♪皆さん“彼女”さんはいらっしゃらないんですか~??」


「「「「「「「「なっ……?!」」」」」」」」


「あぁ~ごめんなさぁいぃ~♪“彼女”さん“が!!”リアルで居たらぁ~♪こんなぁ異世界なのかぁゲームの中なのかぁ~♪分からない世界にぃ~♪閉じ込められる事はぁ~♪無かったんですよねぇ~?“彼女”さん“が!!”リアルに居らしたりぃ~♪<エルダー・テイル>のプレイヤーさんのぉ“彼女”さん“が!!”居らしたらぁ~♪“高々数人の女性が!!”ギルド脱退したくらいでぇ~♪座敷犬みたいにぃ~♪キャンキャン騒ぎませんものねぇ~??」


「「「「「ゲフッ!!」」」」」


「って云うか、彼女居たら大規模戦闘レイドの時、その場のノリや勢いとは云え、女の子に“バカ”だとか“アホ”だとか云わないと僕は思うのです。」


「「「「「ギクッ!」」」」」


「そもそも、あんたら普段、女性と接する機会あるの?殆どディスプレイ前で生活してる人ばかりでしょ?」


「「「「「アイエエ~!」」」」」


 …ヘルメス、朝右衛門、義盛の台詞で多数の男性陣がその場に崩れ落ち行動不能となる…、(余り人の事を云えるほどリア充では無い人が2人ほど居ますが…)そしてまだダメージを堪えている残りの男性陣にサツキからトドメの一言が…。


「あっ!因みにヘルメスはリア充で彼氏さんいらっしゃいますからね。」


「「「「「「ぶべらっ!!!」」」」」」


「なっ?!?サツキ?!アイツ彼氏じゃない!!私フリー!!」


 トドメの一撃でその場に居合わせた男性陣の凡そ9割が崩れ落ち行動不能に…そして何故か狼狽し両手で顔を覆いその場にへたり込むヘルメス、耳が何故か他人から見て取れるほど真っ赤になり幻尾まで真っ赤になっている…。


「「えぇ~??アイツって誰ぇ~(ですぅ)???」」


 そこへ白々しく、棒読みで追撃を加える義盛と朝右衛門。


「えぇ~?2人とも知ってるじゃありませんか、ホラ!さk…モガモガ…」


「皐月!!云うな!!!あぁ~!!あぁ~!!!」


 更に追撃を掛けようとするサツキの口を両手で塞ぎ大声で誤魔化そうとする真っ赤な顔のヘルメスそんな普段では、ほぼ見れない狼狽っぷりをニヤニヤしながら観ている義盛と朝右衛門。


「…オイ…おめーら、俺を無視するんじゃねぇよ…。」


 完全に八つ当たりの矛先を奪われたアイザックは所在無さ気に立ち尽くす。


コンッ!「痛っ」カンッ!「あだっ」コンッ!「痛ぁ~い」カンッ!「イチャイ」


 死屍累々、ギルマスは悶えながら立ち尽くすギルドタワーで漫才を繰り広げる4人娘(大切な事なのでもう1度、若干1名見た目、男性)の頭を大鎌の柄で小突く<死神グリムリーパー>…ヴィシャスと横で頭を抱えるエンクルマ。


「嬢ちゃん達、お痛が過ぎるぞ?」


「…朝からなんをしようとな?」


 遅れて現れた2人に事情を伝えると納得はしてくれたが4人揃ってヴィシャスに小言を云われ嗜められる。


「「「「ごめんなさい…。」」」」


 小さくなって反省する4人娘(大事な事なので更にもう1度、若干1名見た目、男性)






 精神口撃に耐え抜いたメンバーやアイザック、ヴィシャス、後から来た宿泊まり、所有ゾーン持ちのギルメンと今後について喧々囂々と言うより、只々騒いでいるだけにしか他所様から見れば見えるような意見交換を始めた頃。


「ちわーす、どなたかいらっしゃいますー?」


 ギルドタワー入り口に狼牙族の青年がにこやかな笑顔(多少黒いものを含んだような)で誰かを探している、それに気付いた総団長アイザックとその他数人の古参と昨日のわんこ達が入り口へと向かう。


「…ねぇ?シド兄ィ♪確かあの人って…<銀剣>の『教官組』だったぁ♪ユストゥスさん?」


「あぁ、確か<狐将軍>の秘蔵っ子の<道化師トリックスター>のアンちゃんだ…。」


「元<銀剣>が何の用ですか!!<銀剣>って聞いただけで僕の怒りは爆発寸前です!!」


「そう云えば、朝ちゃんは<銀剣>のギルマスさんお嫌いでしたわね?」


「<銀剣>のギルマスって一周回って頭悪そうに聞こえる名前の弓暗殺者エルフだよね?」


「あっこのギルマスちゃ、エル…なんとかいう人や無かったと?」


 6人が<シルバーソード>の話で変に盛り上がっている処、入り口でも何か話しに花が咲いているようにも見受けられる、向うはそうこうしている内にレザリックが出て来て対している…っと云う事はアイザックには到底理解不能な込み入った内容の話なのだろう。

 少し間を置いて<黒剣騎士団>最後の(常識人)、歩く良心、胃がガトリング砲の的、頼れる?参謀格レザリックが現れユストゥスとナニやら話し込んでいる、暫くするとレザリックはアイザックに耳打ちをし直後、アイザックの号令が掛る。


「おめぇら!今から班分けして<カンダ用水路>で戦闘訓練だ!!班分けは、レザリックに一任するから、班が決まった奴から<カンダ用水路>に集合だ!!」


「「「「「おお~!!!!」」」」」


「「えぇぇぇぇ~」」


 ギルドタワーに異なる雄叫び?が鳴り響く。




~カンダ用水路~


「アイザックさん違うっス!もっとこう腰を落として、振りぬくっス!」


「お…おう!こうか?」


 長身の猫人族暗殺者が腰を落とし逆手に持った短刀を振りぬくと、それを真似てアイザック以下、<黒剣騎士団>の面々が見よう見真似で各々の得物を逆手に持ち同じモーションで武器を振るう。


「あ~そんなんじゃ駄目っスよ!利き手をこう!手首はもっとこう!軸足もそうじゃなくて…。」


「「「「「こ…こうか?」」」」」


「だぁ~かぁ~ら!そうじゃないっス!もっと、ぐいっと腰を回して!腕をスッとこう!」


 色々と身振り手振り擬音を交え、実際に<醜豚鬼オーク>などを倒して実演してみるが<黒剣騎士団>の面々はこの長身の猫人族のような自然な動きが出来ない、真似て素振りをするがさながらその姿は、集団で出来損ないのアバ○スtoトラッシュをやっているような戦闘訓練とは程遠い光景だ・・・、エンクルマに到っては“人外無骨”を逆手に振り回すモノだから、周辺にいるギルドメンバーにも被害が及んでいる…。


「エンクルマさん!危ないっス!槍を振り回すなら他所でやって欲しいっス!」


 出来損ないの集団ア○ンストラッシュは続く…。


 元<シルバーソード>の “道化師トリックスター” ユストゥスとその後輩、長身の猫人族暗殺者、龍之介の指導による戦闘が開始され約1時間ほど…アイザックを筆頭に、ユストゥスの説明が理解出来ない、戦士職、武器攻撃職、殴り系ビルドの魔法攻撃職、回復職は、龍之介の擬音交じりの説明の方が理解し易く自然、龍之介の元に教えを乞う者が黒山の人だかりを形成している、っと云っても理解し易いだけで、誰も龍之介のような自然なモーションが出来ていない。

 ユストゥスの説明に耳を傾け実践しようと試みる者はごく少数… 、<黒剣騎士団>でも一握りの聡い者達と後衛職だけだ。


「なんだなぁ、 “道化師トリックスター” の兄ちゃんの言ってる事は理解出来るが如何せん、俺は純魔法攻撃職な上に動きを身に付ける為の “”がねぇや…骨なだけに。 」


 <幻獣憑依ソウルポゼッション>以降、おやじギャグを連発するヴィシャスを尻目に少し怪訝な顔でユストゥスを見つめるヘルメス。

(おかしい…何故かあの人(ユストゥス)から“金”の匂いがする…。)

 彼女の守銭奴センサーが“金”の匂いをキャッチしたようだ…そんな友人を更に怪訝な顔で見上げるサツキ。

(おかしいですわ?…沙代があんな顔する時は大抵“お金”が絡んでたりする時ですけど…なんだか今回は変ですわね?)

 そんな3人(?)を他所に1人ユストゥスの説明を実戦する義盛、『戦う』という意思を明確にすれば、背中の大太刀はゲームの頃のようにすんなり抜ける。

 しかし、これが『戦う』意思をそのままに “太刀を抜く事”に意識を持っていくと抜けない…。


「ん~…やっぱりか…。」


 「?どうしたんです?ヨシ君?さっきから太刀が抜けたり、抜けなかったりしているようですけど?」


 端から観ると戦闘訓練にすら観えない、ともすれば奇行のようにも見えかねない義盛行動に首を傾げるサツキ。


「あぁ、あのね?この大太刀 “意識して”抜こうとすると抜けないのよ…、ゲームだと鞘から簡単に抜けるけど、本来の大太刀って、戦う前から抜き身で持っておく物で、『いざ尋常に勝負』なぁ~んて云われて抜く物でもなし、ましてやこの長さ(身長よりも長い)だと本来、1人で抜けないし戦闘用じゃなくて、神社に『御神刀』 として奉納したり、刀匠が技術を誇示する為の美術品の側面が強かったりしたの。」


 久し振りの歴女ぶりが炸裂する。


「用途にしても、対人戦で使うんじゃなくて、馬の脚を薙ぎ払って騎馬武者を落馬させる目的で作られてるの、でね?」

 

 抜いた大太刀を振るいながら、サツキに “大太刀に纏わる話”を嬉々として語る義盛、引いてはイケナイ、トリガーを引いてしまったとゲンナリしているサツキとご愁傷様と云わんばかりに後ろで手を合わせるヘルメスとヴィシャス。(<死神>が合掌する絵面は余りにもシュールだが…)


 そんなやり取りをチラチラと観て義盛の動きの違和感に気付く元<シルバーソード>の2人。


「 龍くん、『彼』。あの狼牙族の<神祇官>」


「……動きはいいスね。でもなんか……股に何か挟まってる感じスね?」


 男性にしては酷く内股気味というか、股間に異物でもあるかのような妙な動きの義盛に関心を持つ2人。


「おいおい、男は皆股にアイデンティティがあるものだよ?」


「ス。アイ……アイ……アイアンメイデンスね!!」


「……おわぁ!!想像したら恐ろしいことに!?……でなく、惜しいなぁ…『彼』なら『理解』しそうなんだけど」


 股間だけ黒ひげ危機一髪ですか?と突っ込みを入れたくなるような龍之介会心の?素ボケを上手い事拾うユストゥス、ただ… “『彼』なら『理解』しそう ”という言葉が妙に引っ掛る。


「それはそれで困るんじゃないスか?」


「まぁねー、大勢がこの状態じゃ、期待しない方がいいか。 ……じゃ、次策だな。」


 この2人、ナニやら腹に一物在って<黒剣騎士団>の戦闘訓練教導を買って出たようだ・・・。


「…処で先輩、アレって<カンダ用水路>に出現しましたっけ?」


 龍之介はサツキ、ヘルメスの傍らに浮揚している<死神グリムリーパー>=ヴィシャスを指差す。


「いやぁ、<カンダ用水路(ここ)>に出現するような低レベルのモンスターじゃないよ?<死神グリムリーパー>は?あちらのお嬢さん方、何れかの従者じゃないの?」


「ンス。」


 サツキとヘルメスのステータスは見ていないが、プレイヤーに寄り添うように佇む<死神グリムリーパー>を観て単純にそう捉えたユストゥスの言葉に素直に頷く龍之介。


 そろそろお昼という事で本日の第1陣の戦闘訓練は終了、これからしばらくユストゥスの知己が指導に来るという約束をレザリックとの間で取り決めたらしい。

 余談ではあるが、この時アイザックに緊急の念話が入り急遽数人を連れて<海洋機構>ギルドキャッスルへと向かった。

 午後からも入れ代わり立ち代りで戦闘訓練を行って居たがやはりと云うべきか実戦に耐えられない者が出て来た…、所用で<海洋機構>に出向いたアイザック一行が訓練先に戻る途中、同ギルドの盗剣士キリーと合流しその惨状?を目の当りにする…怒り狂うアイザックを毒で行動不能しキリーの判断で本日の戦闘訓練は終了となり皆ギルドタワーへと撤収を開始する。


 <黒剣騎士団>撤収後、<カンダ用水路>付近でPKが行われたらしい…、この頃より徐々にではあるがアキバやシブヤ近辺でPKプレイヤーキルが横行するようになりアキバの街は一時殺伐とした雰囲気となる。



「クソ!!戦闘が怖い奴!ウチのやり方について来れねぇ奴はとっとと出て行きやがれ!!」


 昨日からの不当な?仕打ちや何やらでとうとう、怒りが爆発したアイザックの怒号がギルドタワー外まで響き渡る。

 本日の戦闘訓練で残って居た女性プレイヤー数人が脱退を希望、実質両手で事足りる程度の女性プレイヤーが残留、古参の男性陣にも少なからず脱退を希望するものが現れた為、アイザックの怒りはそれはそれは凄まじいモノがあった。


 女性脱退希望者の要望はやはり(・・・)<西風の旅団>への移籍。


 古参の脱退希望者の要望は元<黒剣騎士団>ウッドストック=Wがギルマスを勤める<グランデール>への移籍。


 女性陣は今朝の脱退希望者を合流させ、明日<西風の旅団>へ移籍する事に、なお引率は義盛、サツキ、朝右衛門の3人。男性陣で<第8商店街>移籍組の引率はヘルメス、エンクルマの2人。古参男性陣で<グランデール>移籍組の引率はヴィシャス、クニヒコ、キリーの3人が担当する事となった。



夕刻、~黒剣騎士団ギルドタワー内、大広間~


「ヨシ先輩ィ~、どうしたんです?戦闘訓練から帰ってからぐったりしてますけど…ヤッパリあれですか?先輩もモンスター倒すのに躊躇しちゃったんですか?」


 戦闘訓練第一陣として出て行った義盛は訓練終了後、ギルドタワーの隅っこに突っ伏して居る。

 <銀剣>嫌いで戦闘訓練そのものをボイコットしていた朝右衛門がそれを心配して気遣うように横に座る。


「ち~が~う~っ斬った張ったよりも……が当たって気持ち悪いのよ…。」


 ぐったりした義盛は朝右衛門と顔も会わさずに理由を答えるが肝心な処をボカシている。


「?食中りです?」


「違うよ~あんな味のしない段ボールじゃ食中りなんかしないよぅ……が内股に当たって気持ち悪いのよ……右に寄せたら右内腿に、左に寄せたら左内腿に当たってさぁ~気持ち悪いよ~。」


 どうにも会話が噛み合わないがなんとなく朝右衛門は察したらしく、ダイレクトに質問する。


「もしかして!チ○コですか?」


 ………………………。


「ヨシ先輩!もし良かっら後学の為にm……」


「見せるか~!!!!!何が後学の為よ!?朝ちゃんの痴的好奇心を満たす為になんで見せなきゃいけないのよ!」


 顔面を真っ赤に染め瞳孔が金色に変わり狼耳と幻尾を出し、本気で怒り怒鳴り散らかす義盛。

 そのやり取りを観ていた昨日のわんこ達、同期組が今朝の仕返しとばかりに義盛を取り押さえる。


「ぎゃ~!!何すんのよ!わんこ!あんたら止めなさい!いや~!スケベ~!!お嫁に行けない~!!」


「バカ!義盛、別に減るもんj……。」


 ……義盛を取り押さえ、袴を下ろして中身・・・を観た男性陣がその場で膝から崩れ落ち、朝右衛門は世にも恐ろしいモノでも観たかのように腰を抜かし、サツキ達に助けを求めて地を這う……。


「サツ……サ…ツキさん……、ァ…アナコンダが…アナコンダが生えてま…し…た…。」


  …パタッ……


 そのまま、フロアにうつ伏せに倒れ気を失う朝右衛門と死んだ魚のような眼して、『ガ○ラ』だ、『大○魔竜』だ、『ベノスネ○ク』だ『ヘ○獣人』だとブツブツ呟き、やはりフロアにうつ伏せに倒れるわんこ達、同期組と1人袴を直しさめざめと泣き崩れる義盛。


「う~…もうお嫁に逝けない~…。」


 流石にこの笑えない状況で誰1人として義盛に慰めの言葉を掛ける者は居ない。(否!掛ける言葉が見つからない。)そんな中!1人の勇者がギルドタワーに降臨する!エンクルマだ!


「義ィ~!そげん男の身体が耐えられんなら、女子おなごの身体に戻しゃよかろうもん!儂が<外観再決定ポーション>やるけん、どっか見えん処ば行って飲んできんしゃい!」


 そう云うとエンクルマは義盛に<外観再決定ポーション>を手渡し、サツキとヘルメスを同行させ奥へ引っ込めさせたのだった。


 数分後、涙で瞳を潤ませた身長185cm、バスト推定Gカップの…全てに於いてBIGサイズでプロポーションの良い女性…<外観再決定ポーション>にて現実のプロポーションに戻した義盛と半べそかいてむくれっ面して義盛のたわわな胸にビンタするサツキとそれを観ながら笑いを堪えるのに必死になっているヘルメスが帰って来た。

 

 昨日の夕刻と同じように、黒剣騎士団ギルドタワーは阿鼻叫喚地獄と化すのであった…。



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