システムとスキル
「まずはホーム登録して、本屋でスキル本見て、スキル説明受けて完了。うんうん、お使いクエストだな」
「ホーム登録は噴水で出来るみたいですね」
ふたりはログイン初日に街見学は済ませている。入って直ぐに街並みに感動していた竜人があちらこちらに行っては手当たり動かし遊び回り、匂い(だけは)良い屋台に誘われてしまったのが始まりだ。あの不味い料理にもんぐりうっている所をミルクレアに助けて貰ったのだ。竜人が曰く、天使種族来たー! そう、叫んで離れなかったらしい。
「なんというか、見ている方が恥ずかしかったので、つい」
なんとなくは分かる。私も初ログインがこの街だったら同じように受かれてしまうだろう。全てが本物のように動き、匂いも、味もするんだ。しかも、こんなに綺麗なエルフに話しかけられては。そう思うともしや——。
「竜人もリアルグラウンドが初めて?」
「いやあ、ゲームはやってたんだけどVRは高いし……って、『も』ってことは、ルアもか?」
二人の目が歓喜に輝きだした。同士がいた、と言うことがこれ程嬉しいとは。
「うんうん。高いな。私はこれの為に3か月時間外にアルバイトをしたんだ。なにしろ、ギアは高すぎて買えない。そうなるとスリーピングカプセルしかないだろう?」
「スリーピングカプセル?! あれってカプセルの中に液体入れる形だよな。確か、初期ダイブに出たやつ。体に負担が少なくてダイブにも入りやすいって。俺もそれ欲しかったんだけど売り切れでさ」
「ふふ、最後の一つはこの私だ」
「うわお、まじか? ルア、結構、運良い方だろう」
「悪運だがな」
「確かに。竜人に捕まった時点で中々のものですね」
ゲームの話をしながら噴水の前に付くと三人はホーム登録をするために台座に書かれてある一文に触れた。
「俺だとジャイアントの村かここにホーム登録出来るぜ」
「私も同じくエルフの村とここですね」
ルアもやって見るとこの世界の地図だろうも地図が展開され現在地が青く光っている。それにに注目すると淡い文字が浮かび上がった。『ホアサイル』という名の街だ。
「ホアサイルがこの街の名らしい」
「え? 地図で確認できんの?」
どうやら今までは地図展開しても青い表示が出るだけで地域名などは実際行ってみなければ分からなかったらしい。やり方を教えると二人とも驚きながら喜んでくれた。
「ジャイアントの村はガルシアってでるぜ。ミルクレアは?」
「ピアシスと出てきました。エルフの村は砂漠にあるのですね。地図にまでこんな仕掛けがあるなんて」
「私はホアサイル——」
登録出来る場所を確認しようとすると地図にもう一つ淡い光が現れた。山脈地帯に囲まれた盆地のようだ。そこに意識を集中すると『軍団うさぎの草原』の名が浮き上がった。なぜ、軍団うさぎが出てくる?
「うさぎ……」
「うさぎ?」
「いや、何でもない。それより登録してスキルクエストしてしまおう」
話を誤魔化しホーム登録をホアサイルに指定する。変えたい場合はホームにしたい街で同じ手順を踏めばいい。
クエストのスキルは初期スキルに限るが買うことが出来る。ミルクレアは行ったことがあるらしく案内され広場にある書店に入る。中には青い制服を来たNPCがいた。この世界の住人ではなくプレイヤーを助ける為に配置された謂わばヘルプの人形版だ。プレイヤーはお助けNPCと呼んでいる。
「実用書と魔法書を見せて欲しいのです」
「お好きな物をご覧ください」
お助けNPCが手を広げるとフレームが浮き上がる。中には様々な題名とそれを読むことによって取れるスキルが書かれてあった。
「凄いシステムだな」
「値段も凄いぜ」
安いものは500Gから高いものでは50万もする本があった。魔法書は高いものが多いが生活スキル関係は1000G近辺のものが多かった。
「これは?」
「この世界の物語です」
絵柄が綺麗だからという理由で手にとって見てみる。現代のお伽噺だろうか。1刊しか置いてないところを見ると運営の遊び心だろう。値段も10Gという安さだ。
その他に生活スキルでは、革細工、木工、調剤など初級編の本を買うことにした。本当は裁縫スキルが欲しいところだが1万Gするので買えなかった。
「1510Gになりますが、よろしいですか?」
頷くとポーチからチャリンという音と共に払う金額が消える。
「初めてのお客様のようですので、スキル説明をさせていただきます」
ースキルはAPがある限り幾つでも取得出来る。だが、取得するのに必要なポイントが足りない場合、表示が灰色となり予備スキルに保管されるのだ。この場合、取得するに必要なAPをメニューで確認出来ないのはもちろん、ランクupに必要なポイントが足りない時も同じ現象が起こる。ただし、この場合は予備スキルに保管されずスキル自体は使えるが修練値は加算されない状態になる。
そして、スキルの重要性はその便利制に留まらない。
まず、スキルによってステータスが強化されるのだ。例えば、殴るスキル。これは読んで字の通り"殴る"ことによって攻撃を与えるスキルだが、取得する際にstr(筋力)に+3される。更にランクアップ時にもそれ相応のステータスが加算される。
要は取るのは自由だが、計画的に取得しないと何時まで経っても強くならないから気をつけてね。と事らしい。
「最初に言ってくれよー」
聞き終えると同時に竜人が頭を抱えてしまった。どうやら、手当たり次第取ってしまい早くもAp不足に陥ってしまっているらしい。
「ミルクレアは?」
「私は現状で必要ないものは全て予備に補完しましたので、少しだけなら余っています」
「ミルクちゃん! 僕にAp恵んで!」
「お断りします」
「酷い!」
渡せるものではないでしょうと諭されるが依然として竜人が駄々を捏ねている。結局、クエスト報告したらAp貰えるからそれまで我慢しなさい。とミルクレアに言われてなんとか落ち着いたようだ。
「それでは、最初のお客様に限り『鑑定スキル』をプレゼントさせて頂いております。こちらは取得時Apを使いませんがランクアップには他のスキル同様Apが必要になりますので計画的にご利用下さい。また、スキル詳細はメニューからご確認下さい」
言葉と共に頭の中に鑑定のノウハウが流れ込んでくる。目眩に襲われる感覚が過ぎ去りメニューを確認すると鑑定が増えていた。
《鑑定
あらゆるものの価値や情報を見ることが出来る。人物のステータス確認もこれで出来る》
ステータスを見るが良く分からなかった。突出しているのはスタミナ位だろうか。他のステータスよりも10は高い。取り敢えずはLvが8に上がっていることが確認出来たのが嬉しい。キツネとウサギ狩りのおかげだろう。
スキルクエストを完了させるとミルクレアと竜人の元に天の試練が来たようだ。
「クエスト報告しに種族ホームに来いって。クエストで一瞬で行けるらしいし。いったん、行ってみる」
「私もです。エルフの村と言うとやはり大樹などがあるのでしょうか。綺麗な方も多いでしょうし。楽しみです」
「俺は……ガチムチ野郎ばっかりだよなあ。うう」
手を振ると同時に二人の姿が消える。ルアもクエスト報告でもするかと足を動かそうとする。が、問題が一つあった。
クエスト報告って何処でするんだ?
キョロキョロと周りを見回せば先程と同じ制服着たNPC発見した。初心者の服を着ている数名のプレイヤーが集まっているのを見ると間違いないだろう。少し時間を置いて人が少なくなってきた頃に疑問をぶつけてみる。
「クエスト報告は種族ホーム、または、中立ホームで行うことが出来ます」
どうやらやらこの情報はこの世界に降り立った瞬間に初心者クエストがくる前にアナウンスで知らせるらしい。ルアの場合は軍団うさぎとの戦闘が始まっただけだが。
「そのホームの権威者、または、それに関係する施設で行って下さい。ホアサイルでは領主館、または教会となります」
お助けNPCの言葉が終わると地図が展開される。ホアサイルの地域がクローズアップされ現在の広場から目的の場所まで点が続いている。
現代のナビケーションシステムと同じものか。
「べんりだな。便利だが……」
ルアは首を傾げる。
「これはこの世界では当たり前の事なのか?」
「いいえ。この世界にはこのような文明、エネルギーはありません。それに準じる魔法、錬金道具はありますがそれだけでは冒険に支障を来すため私達お助けNPCがプレイを補佐しております」
街並みを見ても中世の西欧を思わせる作りだけあって、ナビのようなシステムに違和感を感じていたがやはり、プレイヤーの救済措置だったか。
「広場に来れば何時でも聞けるんだな?」
「はい。ゲームの核心に触れる事以外はお答えします」
「そうか。じゃあ、このシステムを切る事も出来るか?」
「出来ます。ですが、この世界は広くプレイに支障をきたす事もあります。よろしいですか?」
「こう目的があるとそちらに直行したくなるたちなんだ。折角だからゆっくりとこの世界を楽しみたい。それに駄目だと思ったら戻ってくる。また、入れて貰うことも出来るんだろう?」
「もちろんです。では…………これで救済措置を切らせていただきました」
静電気のようなものが体をパチパチと巡り、勝手に上がった手がガッツポーズをしている。一瞬、吃驚したが痛みはないことを思うと切った時のエモーションのようだ。恥ずかしいから止めてください。
「お知らせ致します。ナビゲーション停止、飢餓状態への移行アナウンス停止、瀕死状態での保護時間停止、スキル以外でのシステム情報停止、ゲームシステム上のプレイヤー保護停止——よろしいですか?」
「ああ」
結構、色々あるな。飢餓状態云々に付いては最初からそうだったんだが、何かの不具合だったのだろう。どうせなら聞いてみるのもいいかな。不具合立った場合、後から入ってくるプレイヤーが可哀想だ。そう聞こうとしたルアが顔を上げた時だった。
「今から現実時間で1週間の間変更は出来ませんのでご了承下さい」
お助けNPCの言葉にルアの思考が止まった。
「それでは、1週間後」
にこり、と笑うお助けNPCの絵柄が徐々に透けていく。そして完全に消えた後、ルアは頭を抱えて呟いた。
「最初に言ってくれ」
奇しくも数十分前に聞いた言葉を今度は自分が吐くことになろうとは思いもしなかった。




