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合成魔法

「めちゃくちゃだ!」


 少年は顔を真っ赤にして叫んだ。


「ナイフさばきに1週間、解体し続けて漸く捌きスキルが取得出来たんですよ。鞣し作業なんてどう頑張っても一週間はかかるんですよ。その前工程を5分も掛からずって僕の一ヶ月は何なんですか? 大体、合成魔法を軽々とやって抜けるなんて聞いたこともないですよ。しかも生産でって。なんですか、貴女。攻略組に喧嘩売ってるんですか? 今すぐ魔法組合に言って謝罪してください」


 鞣し液の交換する傍らぐちぐちと続けられる愚痴にルアは降参一歩手前だった。ひょっとしたらこのまま乾燥など出来るかなあと思ったがこの分だと余計なことは言わぬが花だ。


「魔法組合?」

「大手ギルドですよ。魔法を研究するギルドですね。攻略組にも力を貸してますが基本はまだ知らない魔法スキルを見つけ出すのが目的です。合成魔法なんて彼らが深夜研究しても見つけられなかったんですからね」


 随分と怒っているな。

 其ほど大きなギルド。しかも、ティルの怒りようでは堅実なギルドなのだろう。そうだな、努力し続けて上手くいかないことを新人の気紛れで成されたらいい気分ではない。

 余計な事をしてしまったか、とティルを見ていると、彼は片眉を上げて訝しげにルアを睨み付けてきた。

 

「なんですか。言いたいことがあるんならはっきり言えばいいんじゃないんですか」

「ごめん」

「は?」


 即座に頭を下げたルアを唖然としたまま見下ろしていたティルはそれが、合成魔法を披露した事に付いてだと気付くと、一段と声を荒げた。


「馬鹿にしてるんですか!」


 また、誤解させたかと慌てて顔をあげるが、時、既に遅し。

 ティルは猛然と喋りだした。


「革作りスキル開発に成功したんですよ。陰険軍団には思い付きもしない方法を魔法でやりとげたんですよ。それの感想が寄りによって、ごめん? こんなに喜んでる僕は何なんですか? バカですか?」

「喜んでたのか」

「見れば分かるでしょう!」


 いや、分からなかった。

 あまりの勢いに、若干、身を引きながら恐る恐る聞いてみる。


「そう、か。なら、後工程も試さないか」

「試さないわけない分けないでしょう!」


 興奮しているせいか、声が一段と大きくなっている。

 これも喜んでいるんだろうが、やはり、怒られている感は拭えないのだが。

 鞣し液につけて置く作業は時間経過が必要なため、捌いた皮は、一端、置いておくことにして他の皮で乾燥を試してみることにした。

 

「乾かしすぎてはダメですよ。あくまで半乾きです」


 見ていられると緊張する。

 チラリと振り返れば鬼気迫る迫力で此方を睨み付けていた。

 これは見ていて欲しくないと言うと怒るんだろうな。

 集中力を高めて皮へ魔力を送った瞬間、毛皮は青い炎に包まれた。ティルが魔法を詠唱する間もない。


「燃やしてどうするんですか! 鹿に恨みでもあるんですか! カチカチ山に放り投げますよ!」

「それはたぬーー」

「ご託を述べる暇があったら集中してください!」


 幾度か試した結果、魔力はほぼ使わずティルの詠唱に力を貸す感覚で良い事に気付いた。失敗の連続で不機嫌気味に見えたティルだったが残りの叩き伸ばす作業だけは誉められた。殴打の弱バージョンと考えたのが良かったのだろう。


「残りは薫製です」


 乾燥の段階で半分近くが消し炭と化してしまった皮を惜しみながら、スプレーを振りかけ残った皮を柔らかくしていく。


「熱と煙……土か木か」

「材料はあるんですから風の応用でいける気がしないでもないですが」


 二人で考え込むがどうにも上手く行く予感は降りてこなかった。


「切り裂くのは特異なんだが、此処までの工程を考えると」

「止めてください。泣けて来ます」


 素直に燻製にすることにした。

 合間に先程浸けた液を交換したり、ぐるぐる回して柔らかくしていく。これも魔法で出来る事は出来るが先程の合成魔法で二人の魔力は付き欠けていた為に人力作業に切り替えたのだ。

 今回は毛が短く種類も一種類だった為に作業も短時間で済んだが、皮は種類に置いて乾燥させる温度も時間も変わる。鞣す方法も何種類もあるために全部をこなすのは至難の技らしい。

 その分、光沢、風合い、柔らかさなど様々な種類を作れる事が楽しみでもある。


「着色も試したい所ですが着色料が薬剤調合でしか作れないんですし。Apの関係上これ以上取れないし」


 艷やかな色合いはここホアサイルの特産だ。ルアも此処まで手をかけたなら、折角だから試してみたい気持ちになっていた。


「薬剤調合ならば私は取ろうと思ってたから、出来たら渡すよ」

「本当にですか?!」


 嬉々として身を乗り出してくるティルにルアは頷いた。


「一週間は生産に力を入れようかと思ってたんだ。だが、作っても使い道がないのは悲しいじゃないか。どうせなら有効活用してくれるティルに渡したい」

「あ、でもそれは貴女に負担でしょう。戦闘もしているようですし。確かにそうして貰えると助かりますが——」


 決心が付かない様子に焦れったさが募る。苦労して鞣した革がどのような変貌を遂げるのか。見たいのはルアも同じなのだ。


「もちろん、直ぐにとは言えない。材料を集めないといけないし、道具調達資金も稼がなきゃいけない。それからで良かったらなんだが、見たいじゃないか。此処まで苦労した結果を」

「それは確かに」


 顎に指を充て考え込んでいたティルの口元がニヤリと緩む。


「陰険軍団の吠え面を心行くまで堪能できますね」


 魔法組合に何か恨みでもあるのだろうか。

 ワーフとは思えない邪悪な笑みを浮かべているティルを見ると怖くて聞けそうもない。






短いですが、出来たところまで

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