おはよぅ
僕は、この街の、この景色が大好きだ。
だからいつも、決まった時間になるとここに来る。
「おはよぅ」
小さな黄色い帽子と赤いランドセルを背負った女の子。元気な笑顔で僕に手を振り挨拶していく。
「おはよぅ」
僕はいつもそうしてるよう挨拶を返した。
僕にいつも意地悪してくる猫だけど最近見かけない。
今日はどこまで飛んでいけるかな。
海から吹き上げる波風に乗って、僕の大好きな街の風景が一気に眼下に広がっていく。
薄紅色に染まった大気に向かって、こうしてゆったり翼を広げている時間が大好きだった。
青い空と蒼い海。
緑に囲まれた山から注がれる川伝いに飛んでいくとやがて畑が見えてくる。
住宅街。
カラフルな屋根模様を逆手に飛んでくと、やがてベージュ色の屋根が見えてくる。
あの女の子の住んでるおうち。
「おはよぅ」
僕は空中からそう言ってみた。
でも、あの子の挨拶はもう聞けない。
解っていたけど僕はもう一度口ずさむよう言ってみた。
「おはよぅ」
あんまり飛んだからかな。
今日はなんだかいつもより息苦しい。
近くの牛舎の屋根、そのアンテナに止まり息を整えた。
「おはよぅ」
僕は牛さんの住んでるとこに向かいそう言ってみる。
いつもは、モゥ~て返ってくる返事が今日もしない。
あの日を境に誰も居なくなったのかな。
少しだけ形が変わってしまったけど、それでも僕はこの街の風景が好きだった。
今日もまた西の空が、目に見えない黒さで静かに澱んでいく。
それは、日を追うごとに濃くなっていく気が僕にはするんだ。
今はもう誰も住んでいない街。
毎日イタズラされるのは嫌だったけど、あの猫に会えなくなって、ホントは寂しいんだよ。
そう思い、牛舎の屋根から羽ばたいた。
どんどん、どんどん息が苦しくなっていったけど、僕はそれでも大きく翼を広げ、あの子の住んでるおうちを目指して飛んでいくんだ。
「おはよぅ」
いつか返ってくる日がくるよね。
きっと…
完
早い復興、心よりお祈り致します…