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金星・氷淵・明けない夢  作者:
第一章:嘆き・真実と嘘・愛憎の口付け
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第四円:いつ如何なるようにして二人の間に××が生まれたのか

内容:一人称俺。謎の魔族と落ちこぼれ魔術師。ジュデッカ。

 王宮お抱えの魔術師というのは、協会やフリーの魔術師とは別格の存在だ。

魔術師になるための機関を卒業する際の卒業試験で高得点をとり、かつその後の王宮魔術師見習い期間三年間に修行を積み、それなりの業績を残さなければ名誉ある宮廷魔術師の名は与えられない。

しかもその後にもランク付けがあったり、泥沼の権力争いがあるものだから、名誉があって貴族並の財産を所有できてもあまり羨ましさは感じられない。

それに俺の実力では、相手にもされない存在だ。

所詮、王宮と仲の良いと言えない協会に登録している俺には全く関係ない話なのだ。

 そのはずだった。

王宮から使者がやってくるまでは。

さて、そんなわけで俺は一生縁がなかったはずの王宮の大広間にいるわけだ。


「顔をあげろ」


 王座に座る男、つまりこの国の王様のリチャード様の命令に従い、顔を上げる。

先代が制御して、即位したのが去年のことだというのに、男の身にまとう風格は王者そのものだ。

27歳だと聞いていたが、おそらく俺が後5年経ってもこうはならない。


「水系C魔術師、セルヴィ・クレアトーラ。お前は先日、バエル討伐に単身向かい、成功したと聞いたが、それは真実であるか」


 俺の体は固まり、血の気が引いた。

一体、どこからその話が漏れたのだろう。

あの場には俺しか存在していなかったはずなのに。


「セルヴィ・クレアトーラ。答えよ」


 どう答えろと言うのか。

真実だと頷いたところでランクC、しかも水系魔術師がバエルを倒したなんて、子供でも嘘だとわかる。

そしておそらく王も嘘だと確信しているのだろう。

その上で俺に尋ねているということは、バエルを倒した本当の人物の存在を知りたいということだ。

だが、バエルの件に関しては第三者など存在しない。

だからこそ、厄介だった。


「答えられぬか」


 冷汗が垂れ、視線が自然に床に落ちる。


「あの…」

「何だ」

「質問に質問を返すようで恐縮なんですけど…その、その答えを聞いて、どうするおつもりですか?」


 王の眼光は鋭く俺をとらえた。

まるで嘘も誤魔化しも見透かしてしまうようなまっすぐな瞳。

知らず体が震える。


「知っての通り、バエルは我が国の命運をわける懸念事項であった。それを倒したというのなら、宮廷に招きたいと思うのは当然だろう。もちろん、それとは別に褒美も出す」

「…それはつまり、王宮魔術師に雇いたいというわけですか?」

「強制はしない。だが、悪い話ではないだろう。少なくとも協会よりは待遇も良い」


 強制はしないといいつつも、王の眼は俺に圧力をかけていた。

王宮魔術師として働くことは国民にとって栄誉あることだ。

協会でそれなりの地位を持っていれば別だが、ランクCの俺が王の誘いを断ったらどうなるか、嫌でも予想はつく。

かといって、俺は王宮魔術師などなりたくない。

まして、王の思惑がわかるからこそ、そんな厄介なことに首をつっこみたくないのだ。


「次はお前の番だ、セルヴィ・クレアトーラ。私の質問に答えよ」


 真実も嘘も俺の口からは何一つ言えそうになかった。

どちらを口にしたところで状況が好転するとは思えなかったからだ。

むしろ悪化の一途をたどるに違いない。

しかし、このまま黙秘を続けるのもまずい。

王に余計な勘繰りをされてしまう恐れがある。

うう、俺は一体どうすればいいんだ。


「答えられぬか?」

「…いえ、そんなことは」

「ならば、答えよ」

「いや、あの」

「だああああああ!!埒あかねえ!セルヴィ!もう言っちまえよ!」


 体が凍りつく。

俺は慌てて、横にいたベルを殴る。


「…何者だ」


 殺気を放ち、突然姿を現したベルを警戒する王。

それも当然。

何もない空間からいきなり人が現れたら誰だって驚く。

さすがは賢王と讃えられていることもあって、何時も冷静さを失わないその様子には感服しまくりである。


「えっと、っその、これは、あわわ」


 さすが、俺。

万年ランクCなだけはあって、すぐに取り乱す。


「おい、セルヴィ。俺様、腹減った。さっさと帰ろうぜ」


 誰のせいでここに呼ばれて、傍迷惑な事態に陥ってんのかわかってんのかこいつ。

いらつきながら、俺は王に何とか説明を試みようとした。

だが、これが間違いだった。

俺が口を開く前にベルの口をふさげばよかった。


「あーもう、仕方ねえな。俺様がセルヴィの代わりに答えてやるぜ。てめえの質問の答えには肯定。だけどセルヴィが王宮魔術師になるのは否定。そういうこと。じゃ、用は済んだな。セルヴィ、帰るぞ」


 王に向かって、「てめえ」呼ばわりか。

お前、一体どれだけ偉いつもりだ。いや、実際偉いのだが。

俺はベルに王が不敬罪だと怒りださないか、ビクビクしながら顔を伺う。

そして感嘆。

さすが王様。

王の表情には何の感情も浮かんでいなかった。

若くして政治の場に立ち、狸じじい共と互角にやり合っているだけはある。

若き王に少しの尊敬の念を持ちながら、見つめていると、不意に視線が俺に移る。

その何もかもを見透かす瞳に慣れない体がぴくりと揺れる。


「何者だ」

「あ、ううん、あの、俺の使い魔、です」

「セルヴィ!」

「頼むからちょっと黙ってて!」

「黙れるか!誰が使い魔だ!」

「いや、本当黙って!」

「これが黙ってられるか!……セルヴィ、あまり俺様を怒らすなよ」


 打って変って冷たい声音でそう言われると、もう何も言えない。

俺は顔を青ざめて、口を閉じる。

王の視線を頭上に感じるが、顔を上げられない。

何も言えなくなった俺に満足したのか、ベルが嬉々として王に話すのが聞こえた。


「ま、セルヴィは恥ずかしがり屋だもんな。いいか、てめえ、よく聞け。この可愛くて愛らしいセルヴィは俺様の伴侶だ!!」


 頭を抱えるが、ズキズキする頭痛は治まらない。


「ふふん。てめえはセルヴィを王宮魔術師にして、あわよくば夜な夜なセルヴィを愛でたいと思っているだろう。だがな、もうセルヴィは俺様のモノなんだよ!だから王宮魔術師にもてめえの正妻にもなんねえ!残念でした!お気の毒さま!ふははははは!」


 ベルの台詞に呆れて声も出せない。

思わず、目がうつろになる。

俺はおもむろに顔をあげ、未だに冷静な王を視界に収める。

その冷静さが無性に羨ましい。


「つまり、水系C魔術師でありながらバエルを倒したセルヴィ・クレアトーラは高位魔族と婚姻関係を結んでいたということか」


 何もかも否定したかった。

だが、今更ベルが人間であるとは言えなかった。

更に言えば婚姻も…。


「倒した?セルヴィは倒してねえよ」


 嫌な予感がした。

さっきから悪寒が止まらない。

俺はベルの口を塞ごうとするのをやめ、静かに横に移動する。

王はベルとの会話に夢中になっている。

チャンスだ。


「ほう。それはどういうことだ?バエルは消え失せたはずだが」

「何言ってんだ。消えてねえよ。てめえの目の前にいるだろうが」

「……説明を求める。セルヴィ・クレアトーラ」

「あ、はははははは…」


 俺は一気に横の窓を開いた。

そして体を外に投げ出す。


「ヴォラータ!!」


 風を操り、宙に体を浮かせる。


「すいません王様!そんなわけで俺は王宮魔術師になれません!それじゃ!」


 そう言って、素早く移動する。

王城一帯には魔力を抑える結界が張られているが、俺にとってはないも同然だった。


「ったく、まじで腹すいた」


 隣で並ぶように飛ぶベルに呆れた視線を送る。


「お前なあ…。わかったよ。帰ったら何でも作ってやる」

「よっしゃ!本当セルヴィはいい嫁だな!」


 それには答えず、俺はひたすら目的地を目指した。

昨日まで暮らしていた家にはもう帰れないことはわかっていた。

なぜなら、おそらく王は既に兵やら魔術師やらを俺の家に差し向けるよう命令しただろうことが想像できたからだ。

そういうわけで、俺はベルの家…というか城に住むことになったのである。

 これが、俺の『ドキドキ新婚生活~魔界でとんでもハプニング~』が始まることになった顛末である。

次回に続く!

追記:魔界編はやりません。

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