第三円:お菓子の家の誘惑
内容:一人称ボク。昆虫系魔族とペット。トロメーア。
今日、ご主人さまのご友人のグリロ様がいらっしゃいました。
ボクはご主人さまの足もとに座り、ご主人さまの邪魔にならないように口を閉じています。
ご主人さまはいつもより何だか元気がないようです。
ボクはとても心配に思います。
「一体どうした?顔色が悪いぞ」
「…ああ」
「なんだ?この前俺がお前のところの領土を奪ったのをまだ怒ってんのか?」
「……」
「おいおい。本当にどうしたんだよ」
「…お前はこの子をどう思う」
「はあ?」
「いいから答えろ」
グリロ様が椅子の上からボクを見おろします。
ボクはその視線を受け止めながら、それでもご主人さまのお顔を伺います。
するとご主人さまはボクの心配がお分かりになったのでしょう。
安心させるようにボクの頭を撫で、微笑んでくださいました。
ボクも微笑み返しますが、やはりご主人さまが心配でなりません。
一体どうなされたんでしょう。
ボクは頭を絞って考えます。
「うーん、可愛いんじゃないか?お前が親バカみたいに可愛がる気持ちもわかると思うけど」
「可愛いと思うのか!」
「あ、ああ。まあ、この種類は体格も小柄だし、可愛いから人気が高いよな」
「………そうなんだ。可愛いんだ」
ご主人さまは大きくため息をつきました。
「可愛くて、可愛くて………………欲情するんだ」
派手な音がして、椅子が倒れました。
ボクが驚いて顔を上げると、グリロ様がその倍以上驚いた表情でご主人さまを見つめていらっしゃいました。
「よよよよくじょう?!」
「…ふ、ふふふ。はははは。やっぱり私は変態か。変態なのか。………死にたい」
「いやいや早まるな!落ち着いて考えてみろ!確か、お前こいつとは付き合いが長いんだよな?だから勘違いしてるんじゃないのか?生まれた頃から育ててたときいてるぞ」
「私の初めての誕生日パーティで両親から、まだ生後1か月のこいつを貰った頃からだから、もう18年か」
「そんなに長く育てるから、勘違いしたんだよ」
「勘違い………だったらいいな」
「おま、だって、人間だぞ?!この前立ち寄ったショーで、お前も気持ち悪いって言ってたじゃないか」
「上司に興味半分で無理矢理連れてかされたあれか。いい迷惑だった。でも、あれのせいで私は気付かされた」
「人姦に目覚めたってわけかよ?!おいおい」
「いや、他の人間にだと気持ち悪いんだとな」
「…純愛極まれりだな」
「実は、前々から兆候はあったんだ。私はこの子に服を着せてるだろう?」
「親バカだよな。ペットに服着せるとか」
「何を言ってるんだ!この子に服着せないと危ないんだ!人間は万年発情期なんだぞ!」
「落ち着けって!なんだよ。こいつ他の雄に発情すんのか?」
「違う!この子がそんな節操なしなわけがないだろう!私がこの子を育てたんだぞ!そうではなく、他の人間の雄がこの子に発情するんだ!この子の可愛さに雄どもが勝手にな!」
「いや、でもこの子まだ未成年だろ?」
「人間は見境なしなんだ!この子がどれだけ他の雄から口説かれそうになったか!その上、裸だと襲われそうにもなるんだぞ!だから私はこの子の周りに雄は近付けないようにさせてるし、常に側に置いているんだ」
「…まあ、賢明な判断なんじゃないか」
「…それがペット愛からしていたころであれば、よかったんだがな」
「あー…そういう…」
「しかも、最近結婚についても考え始めていて」
「いい女いたのか?」
「違うんだ。…この子と婚姻の儀を交わそうと思っているのだ」
「おまっ!それはまずいって!婚姻の儀って、あれは伴侶を選んだら絶対に変えられないんだぞ!」
「だがっ、あの儀をすれば、この子は永遠に私のモノで、同じ時を生きることができる上に、他の雄に奪われる心配をする必要もなくなる…」
「冷静になって考えろ!正気になれ!」
「私はもうだめだ!」
「……わかった。とりあえず、お前、こいつとヤってみろ」
「なんだと」
「本当にこいつに発情すんのか、やってみろって。抱いてみたら意外と気持ち悪くて、頭も冷えるかもしれないだろ」
「…ふん。それでドツボにはまったらどうするつもりだ」
「そうなったら諦めるしかないだろ。婚姻の儀でもなんでもしろよ。俺の手には負えない」
それからしばらくグリロ様とご主人さまはお話をなさっていました。
ご主人さまは少し元気を取り戻したようで、話の途中で笑い声ももらしました。
安心したのでボクはご主人さまのために紅茶をいれにお部屋を退室させていただきました。
紅茶をいれて、部屋に戻ろうとしたその途中でキヌイと出会いました。
キヌイはいつもボクをいやらしい目で見つめてくるので、ボクはキヌイが大嫌いです。
「げへへへ、むーちゃあん」
「話しかけんじゃねぇ下衆がっ!」
「うごふぅぅっ!!!」
キヌイにとびげりをして、すっきりしたボクは床に置いていたお盆を持って、部屋に戻ります。
ご主人さまとご友人に紅茶を差し上げ、ボクは再びご主人さまの横の床に座りました。
テーブルの上にはキレイな色や形をした様々なお菓子が並んでいました。
ボクは涎が出そうになるのをこらえました。
「それより、味はどうだ?」
「ああ、うまいぜ」
「そうか。…それはよかった」
追記:キヌイとむーちゃんがくっついてもおもしろそう。