表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金星・氷淵・明けない夢  作者:
第一章:嘆き・真実と嘘・愛憎の口付け
2/17

第一円:生贄勇者の転身

内容:一人称俺。勇者と魔王。カイーナ。

 俺は勇者だ。

決してゲームのやりすぎとか、頭の中が年中春とかではない。

一年前、そうどこかの神様から夢でお告げがあったのだ。

そこまでは妙な夢を見た、で終わる話だった。

だが俺はそれをうっかり家族に笑い話として話してしまった。

普通だったら、ただの夢として処理するところだが、俺の村の場合は違った。

『勇者の村』と自称していた村は大いに盛り上がった、俺の家族も含め。

俺こそが真の勇者と崇め、連日お祭り騒ぎ。

引くに引けなくなった。

そんなこんなで俺は勇者となってしまった。

 俺の村は田舎の田舎、ド田舎で、妙な風習があった。

それが『勇者』だ。

100年に一度、村の子供の中から力のある者を選び、世界の果てと言われる辺境の地にある魔王城に向かわせるといったもので、これによって村は100年の間は全ての災害から守られるらしい。

実際、俺の村は平和そのもので、魔物による被害というのが他の村と比べて、明らかに少ない。

一体どういう原理でなのかは知らない。

知らないが、勇者様のおかげだと村人たちは信じている。

だが喜べないことに、俺の前の勇者も前の前の勇者も、どれだけ前を遡っても勇者の生死がわからない。

冒険の始まりから、俺の行く末が既にわかっているなんて最悪である。

というかこれ生贄……と思っているのは俺だけではないのだろう。

その証拠に勇者に選ばれなかった子供を含めた人々の喜びようが半端じゃない。

しかも唯一悲しんでもよさそうなものを、薄情なことに俺の両親たちは他の兄弟たちから選ばれなかったことを喜んでいる。

 こんな村、滅んでしまえ。

そう思いながらも、こうして旅に出た俺、まじ勇者。


「魔王様、仕事してください」


 目の前の男はいわゆる高位魔族といわれる輩だ。

金色のサラサラヘアーに、均整のとれた体型、計算されつくしたような美しい顔立ち、それになんだそのバサバサいいそうな睫毛は。

見ているだけで、女である俺のなけなしのプライドがへこみまくる奴である。

救いは奴に胸がないことだ。

男性体だから当然のことだが、心の中で俺は密かに奴を『貧乳』と呼んでいる。

ざまあみr


「何か言いましたか?」


 聞く前に殴んないでェェェェ!

何?!おま、サトリ?!

魔族って思考よめんの?!

お前マジで勘弁しろよ!それ以上怖くなってどうなるわけ?!


「い、いえ、何もイッテマセン」

「そうですか」


 俺は視線を移して、机に積み上げられた書類を見つめる。

しかし、なんで俺はよりにもよって魔族と書類仕事に勤しんでるんだろう。

何度も言う。

俺は勇者なのだ。


「あの、前から思ってたんですけど」

「無駄口をたたかない」

「…はい」


 俺は書類に手をつけながら、思いだす。

あの夜、俺はいつも通り、勇者として魔王を倒すための旅をしていた。

途中まで共に旅をしていた男と別れ、もうすぐで世界の果てにつくというところまで来ていたのだ。

既に人の住むところはなく、俺は野宿をして、眠りについた。

そうして起きたら、見知らぬ豪華絢爛な部屋の中。

心臓が止まるかと思った。

寝てる間に奴隷商人に連れてかれて、どっかの変態じじいに買われたんじゃないかと恐怖したね。

そんな風に混乱している俺のもとに現れたのがこいつだ。

しかもどういうわけか俺を『魔王様』と呼ぶ始末。

何度自分を勇者と説明しようとしたが、無駄だった。

それどころか、奴の弁舌にのまれ、気付けば魔王として仕事をしていた。

 逃げようとしたこともあった。

だが、所詮は人間と魔族。

逃げられるわけがない。

その暇すらない。

奴はどういうわけか一日中俺につきまとっているのだ。

一人になるのはトイレと風呂くらいだ。

奴に言わせれば、これも魔王の補佐の仕事だと言う。

嘘だと思うが、奴の話を聞いているうちになんだかんだ説得されて、結局毎日同じベッドで寝ている。

このままだと風呂も一緒に入ることになるかもしれない、ナニそれ怖い。

 しかし、本物の魔王はどこにいったんだ。

嫌になる気持ちは物凄くわかるが、いなくなるならもっと方法を考えてほしい。

なんだって、勇者の俺が間違ってさらわれて、魔王をやらされるはめになったんだ。

というか、こいつもこいつだ。

勇者と魔王を間違うとかばk…いや、天才です、頭良すぎです、だから鳩尾を狙うのはやめて!


「ま、魔王様!」


 扉が突然開かれ、一人の魔族が執務室に入ってきた。

まるで戦いの後のような血だらけの格好を見て、俺は目を大きく開いた。

魔王兼勇者の俺は、殺戮と暴力の渦巻く魔界の平和に尽力してきたつもりだ。

だからか、最近では大きな内紛も起こらなくなっていた。

だが、この慌てように、物騒な格好から不安がよぎる。

俺は用を聞こうと口を開いた。

だが、その前に隣にいた男が言葉を紡いだ。


「許可もなく魔王様の執務室に入ってきた覚悟はできているのか?」


 ちょ、今それを言うの?!

確かに執務室に入るには、事前に許可を取る必要がある。

許可といっても、俺ではなく、この男からだが。

だけど、今はそんなことを言ってる暇じゃないだろ。

と言いたかったけど、殺気を放ち出した男を見て、小さく弱々しい声になる。

女の子だから仕方ないよね。

怖いものは怖い。


「あの…とりあえず、用件を…」

「そうですか?でしたら一応聞いておきましょう。何の用だ。くだらない内容だったら命の保障はない」

「F-6地区の中位魔族が暴動を…」

「魔王様の手を煩わせるものではない。兵を派遣しろ。そしてお前はその後処刑だ」

「いや…あの…すぐ殺すとか死刑とか良くないって」

「魔王様は口を挟まず、手を動かしてください」

「そそれが暴動は治まったのですが、それを起こした者が天界のものを攫っていたのです」

「状態は」

「重症です」

「暴動を起こした者たちは」

「殺さず捕えました」

「そのまま誰にも手を出させるな。私が自ら地獄を見せてやる」

「了解いたしました!すぐに命令を遂行させていただきます!」


 俺の意見を一言も聞かずに、魔族は部屋を出て行った。

俺は一人黙々と手を動かしながら、無表情の男の顔を伺った。

こいつは誰かをいたぶる時すごく楽しそうにする。

顔はいつもの無表情だけど、オーラが違うんだよな。

キラキラしてるっていうか、いきいきしてるっていうか。


「殺すなよ」


 分かっているだろうけど一応男に言っておくことにした。

人間界に戻せ以外のことなら、男は大抵俺の言うことに従う。

魔界の平和を目標に掲げて、人間界の者にも天界の者にも手を出させないと言った時には魔界の誰もが反対した。

この男以外は。

男は黙って俺に従い、そして男の手腕で見事に魔界は平定された。

本当のことを言うと、俺は全く役立たずだった。

見栄張った。

男はゆっくりと近づき、俺の頬に両手を置いた。

この男はよく俺に触るが、魔族ってスキンシップが好きなんだろうか。


「私があなたの命令を破ったときがありましたか?」


 俺はすぐに首を振った。

男は俺に従順だ。

確かに俺に暴力を振るうし、暴言も吐く。

でも男は俺との約束を反故することはしない。

だから俺は魔界でこうして生きていられるし、男を信用した。

そして、契約を結んだ。


「あなたが心配なさることは致しません」

「わかってる。言ってみただけだよ」

「そうですか」

「お前は俺の契約者なんだし、信用してないわけないだろ」


 そう言うと男は表情を一転させ、見惚れるほどの笑みを浮かべた。

魔族だと知っていても、惹かれずにはいられないほどの。


「魔王様、私はこれから少しでかけてきます。その間に書類を片付けておいてください」

「はいはいわかってるわかってる」

「私が戻ってきたら…ご褒美くれますか?」


 天使のような笑みを浮かべていても、中身は魔族だ。

男は『ご褒美』が俺にとって屈辱的な行為で、俺が容易に頷きたくないのを知っている。

だから俺の弱い笑顔をわざと利用するのだ。


「…うん」


 それを知っているにも関わらず頷いてしまうのは…神様、不甲斐ない勇者を許してください。


追記:勇者=生贄(餌)=名ばかりの魔王。神を騙る者=前魔王=殺害。美人魔族=勇者の旅の連れ=現魔王=契約者=変態腹黒ドSストーカー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ