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7年後

 彼が光に吞まれてから、光の中で微睡んでいたのは、どれくらいだったのか。それは分からない。

 朝の光がアスファルトに照り付け始める。まだ強くはない。時刻は午前5時頃だった。

警察署の前で彼は倒れて横になっていた。それを一人の警官が見つけ、保護したのである。

しかし、その後の展開は彼にとっては最悪なものであった。

手元にあったガラケーはもはや使えない。持ち物の中にあった療育手帳を行政に確認しても、彼のデータは無くなっていたのである。

行方不明扱いにされていたのである。彼が警官に今は何年か聞いてみると、信じられない言葉が返ってきたのである。

今は2030年であるということ。それを聞いた彼はショックを隠しきれなかった。

彼の記憶は2023年で止まっていたのだから。そして、さらに追い打ちをかけるように告げられた。

7年間、行方不明だった人は、社会的には失踪、あるいは死者として扱われるということを。

 彼は縋る様に訊いた。死者として扱われた場合、住所やお金はどうすればいいのかを。

けれども、警官は彼に同情したのか、説明を始めた。

 住所はもう他人に使われているだろうと。お金も凍結されて使うことはできないだろうと。

区役所に行けば行政による手続きをすることができるけども、どうなるかは分からないと。

 それを聞いて、彼はショックで茫然としてしまった。今まで住んでいた所も、貯めていたお金も使えないのだと。さらには、ガラケーはもはや使われておらず、何もできないガラクタに成り果てていた。

 そして、彼は思い出す。勤めていた会社の社長に相談すればいいのかもしれない。しかし、警官は彼に同情しながら告げた。

行方不明者を待ち続ける会社はいないだろうと。来ても、驚かれるか忘れられているだけだと。

 彼は一体どうすればいいのかを訊いた。このままでは生活することはできないのだから。

とりあえず、身元不明者として扱われるだろうと伝えられた。また一から審査をやり直すことになるだろうと。

住まいに関しても、仮設住宅行きになるだろうと。

 それからの彼の生活は、かつてと比べると悲惨なものであった。行政に関しても警官が言っていた通りになった。

彼は行方不明者として扱われて、わずかな物資だけで生活する日々を過ごさなければならなくなったのである。

 彼は暇つぶしに蛍光灯を見上げながら呟いていた。どうしてこんなことになったのかと。

彼にとっては、地続きの感覚。昨日までは確かに2023年だったのだから。彼の感覚では。しかし、周囲は2030年となっている。あらゆるものがデジタル化している。彼は時代に取り残されてしまったのである。

 頼りにしていた人が皆、頼りにできなくなっていた。心が打ちのめされてしまっていた。夢であってほしかった。けれども、今は2030年である現実は変わらない。どんなに抗おうとも、全ては無駄なのだから。

社会的に死者として扱われる。なんて屈辱的だろうか。今まであった物は処分されてしまった。人間関係もリセットされてしまった。なんて理不尽なのだろうか。もしかしたら、まだあの空間にいるのではないだろうか。そう思い始めてしまう。あの理不尽な空間に。しかし、社長や大家さんは本物だった。では、こちらが現実なのだろう。残酷にも。

 蛍光灯の明かりの下で考える。これからの生活について。わずかな物資だけで食い繋いでいかなければならないのだから。

 ガラケーを握りしめる。もはや何の役にも立たないものを。療育手帳を見つめる。自分の支えであったものを。しかし、二つとも意味を成すことはできない。

 彼はもう社会的には死者も同然になってしまったのだからーー


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