桜の木
桜に妖精が宿るというのなら、
なぜ悲しみを生む。
贄として、嘆きを好む。
美しく咲き誇る木に不相応の不吉に連れていかれた、故人。
生々しく、
赤黒い液体が吸われていく。
塗れた根本がむせ返るほどに芳しく死臭を放つ。
人の頬の紅潮を思わせる色合いの、ふんわりとした花びら。
知らず現実感が薄れていく。
過去に捕らわれず、
現在に留まれるのは愛しい人の痛み。
流す涙を止めることも出来ず、
感情か剥がれ落とされるのを見ているしかできない。
その無力が歯痒く、さらなる血を流す。
所詮は他人で干渉は厭われる。
この距離を隔てた遠い場所から見つめるしかない。
まるで祈るように、縋るようにその花弁見つめて、
君が何を思うのか。
俺にはわからない。
この景色を見続けることに、罪悪感や痛みを、猜疑を覚えても。
視線を逸らすことはできないから。
せめて、レンズ越しで。
また明日、会うときには偽りの笑顔の交差があることを知るから。
痛々しさに、俺の心が締め付けられる。
それでも、明日は俺も仮面を被るから。
偽りでいいから、その笑顔を俺にください。