第41話 ドワーフとの協定
洞窟の入口近くに全員が移動した。外の光が入る場所だった。
族長が石に腰を下ろした。杖を膝の上に置いた。他のドワーフたちは少し離れた場所に立っていた。
「名前を聞かせてほしい」と族長は言った。
「カルドです」
「私はガンダだ。この洞窟を守っている」族長は洞窟を見た。「何を相談したい」
話した。
この島に漂着したこと。ゴブリンたちと一緒に生きていること。精霊の試練を越えてきたこと。グレイヴ族が仲間になったこと。これから拠点を発展させていきたいこと。
ガンダは黙って聞いていた。口を挟まなかった。目が動いていた。情報を整理している目だった。
「何が必要だ」とガンダは言った。
「建物を増やしたい。設計者はいますが、建築の実働力が足りません。それから、魔鉱石の扱い方や薬草の研究ができる人手も欲しい」
「私たちに協力してほしい、ということか」
「はい。建築の協力と、研究の協力です。魔鉱石の採掘技術も教えていただけると助かります」
ガンダは少し考えた。杖を指で叩いた。リズムがあった。
「見返りは何だ」
「食料と住処を提供できます。今の拠点には農地の開拓を始めたばかりの場所があります。今のドワーフたちの状況はどうですか」
ガンダは少し沈黙した。
「良くはない」とガンダは言った。「岩喰いが増えている。昔はこの洞窟には入ってこなかったが、今は毎日のように来る。採掘が続けられなくなってきた。食料も枯渇気味だ」
「なぜ増えているのかは分かりますか」
「分からない。ただ、奥から来るのは確かだ」
シンが少し身を乗り出した。「地脈の乱れが原因かもしれません。岩喰いは魔力を含んだ岩を好む。地脈が活性化すると、魔力の濃い場所に集まります」
ガンダがシンを見た。「よく知っている」
「グレイヴ族は地脈を感じることができます。この洞窟の地脈は乱れています。安定させる方法があるかもしれませんが、今は分かりません」
「……調べる気があるか」
「あります」
ガンダはしばらく黙った。
クロが壁に背中を当てていた。会話に参加していなかった。ただ、ガンダの方を見ていた。ガンダもクロを時々見ていた。
「一つ聞いていいか」とガンダが言った。クロに向けた言葉だった。
クロが目を動かした。
「グレイヴ族がなぜ人間と一緒にいる。グレイヴ族は群れを作らないはずだ」
クロは少し間を置いた。「村が壊れた」
ガンダの表情が動いた。「なんと。グレイヴ族の村に手を出せるような魔物は、そうそういないはずだが」
「魔物じゃない。シルフという精霊の気まぐれだ」
ガンダは何も言わなかった。ただ頷いた。それだけで何かを理解した顔だった。
「……条件を出す」とガンダはカルドに向き直った。
「聞かせてください」
「一つ。この洞窟の採掘権はドワーフが持つ。あなたたちが採掘する場合は、必ずドワーフを通す」
「分かりました」
「二つ。地脈の安定を優先する。魔鉱石を取りすぎて地脈が弱まった場合は、採掘を止める権限をドワーフが持つ」
「それも了解します」
「三つ。研究の成果はドワーフと共有する。一方的に持ち去ることはしない」
「当然のことです」
ガンダは杖を一度地面に打ち付けた。音が洞窟に響いた。
「……条件を受け入れるなら、話に乗ろう」
「ありがとうございます」
「ただし」ガンダはカルドを見た。「まずは見に行く。あなたたちの拠点を見て、判断する。話はそれからだ」
「もちろんです。いつでも来てください」
ガンダは立ち上がった。他のドワーフたちと視線を交わした。全員が頷いた。
「今日行ってもいいか」
「構いません」
ガンダが歩き始めた。洞窟の入口へ向かった。他のドワーフたちがついて行った。五体だった。
*
外に出ると、森の光が戻ってきた。
クロが隣に来た。「うまくいったな」と小さく言った。
「クロのおかげです」
「俺は戦っただけだ」
「それが一番大事でした」
クロは何も言わなかった。少し先を見た。ガンダたちが歩いていた。
「ガンダは信用できる」とクロは言った。「目が正直だった」
「そう思いますか」
「ああ。嘘をつく目じゃない。計算はするが、誤魔化しはしない」
ガンダの背中を見た。杖をついて歩く姿は、急いでいなかった。周囲を見ながら歩いていた。森の様子を確かめるような動き方だった。
「シン」
シンが振り返った。
「地脈の安定、可能性はあると思いますか」
「分かりません」シンは正直に言った。「ただ、調べてみる価値はあります。地脈が安定すれば、岩喰いが減る。採掘もしやすくなる。ドワーフにとっても、私たちにとっても良いことです」
「一緒に調べましょう」
「はい」
ドナンが後ろから歩いてきた。「建築の話、詳しく聞いてみたい」
「ドワーフと一緒に建てたことがあるんですか」
「ない。ただ、ドワーフの石組みは独特だ。昔、見たことがある。あれが使えるなら、建物の強度が上がる」
「聞いてみます」
森を歩く。
拠点に近づくにつれて、木が薄くなっていった。光が増えた。遠くで、拠点の方からゴブリンの声が聞こえた。
ガンダが足を止めた。声の方を聞いていた。
「ゴブリンがいるのか」
「います。三十名ほどです」
「……珍しい」ガンダは言った。「ゴブリンと一緒に暮らす人間は見たことがなかった」
「そうかもしれませんね」
「悪いことではない」ガンダはまた歩き始めた。「ただ、珍しい」
拠点が見えてきた。
建物の輪郭が木の間から見えた。鍛冶場から煙が上がっていた。鉄の匂いがした。
ガンダはそれを見て、少し足を速めた。




